人生周回中ネフェルピトーの軌道修正が間に合わないーー世界がボクを殺しに来る件ーー 作:周回中NFLPT
三章 あらすじ
三周目はある意味幸せの絶頂の中、絶命したネフェルピトー。だが世界は彼女を解放しなかった。四周目はキメラアントの師団長として気ままに生きるピトーであったが、ある日、遂に王直属護衛軍と遭遇…しかもソイツは全然知らないヤツだった。
護衛軍としてのプライドを掛けた、四周目の戦いが今、始まる。
ボクの知らない護衛軍
『おお、お前は言葉が分かるのか!』
キメラアント女王様は、産まれたばかりの名もないボクを見て、そう言った。
ボクは深く頭を垂れ「はい、女王様」と答える。
「ならば早速、お前を師団長とする。軍団を指揮し私の餌を…上質な餌を集めて欲しいのだ」
「承知いたしました。是非ともボクにお任せください」
そうしてボクは女王様に仰せつかった任務を、忠実にこなしていった。
その過程で気がついたのだけれど、どうやらボクはチームを率いるよりも、単独で動いた方が遥かに効率が良いらしい。
「おお、これは美味い! それに栄養に満ち溢れている。よくぞこの餌を見つけてくれた!」
「ははっ、ありがたきお言葉です」
良かった。
女王様はボクの持ってきた餌を気に入ってくれたニャ!
よし、じゃあこのニンゲンっていう餌を、もっと、もっと集めてくるニャ!!
ーー二週間後。
「おい、聞いているのかピトー!」
「ん〜〜? 聞いてないよ、コルト。お昼寝の邪魔をしないでほしいにゃあ」
ボクは大きく伸びをし、目を擦りながら、同じくキメラアント師団長であるコルトの叱責をいつものように受け流していた。
日に日に、女王様からの餌ノルマ、ひいては餌ニンゲンノルマは厳しくなる一方だった。
けれど幸いなことに、ボクはちょっと強い。
たった一匹で、規定数を遥かに超える人間を狩り集め、兵隊蟻たちに運ばせていた。
ノルマ達成後は、合間にこうして昼寝をするのが日課なのに、この真面目すぎるアント、コルトときたらすぐにボクに小言を言ってくる。
「まあまあ、別にいいじゃん。俺だって昼寝はよくするぜ? なあピトー?」
その点、チーター型のアント、ヂートゥは同じ猫系だからか、ボクの性質をよく分かってくれている。
「ヂートゥは話が早くて助かるニャ。こうしてしっかり休むのも、次の狩りのための仕事の内ニャ」
「まあ、確かに一理はあるな」
分厚い本を片手に、傍らのペンギン型キメラアント、ペギーが言った。
「しかし、師団長ともあろう者がこれでは、下の者に示しがつかないだろう!」
相変わらず眉間に深いシワを寄せているコルト。
「だったらボクにはカンケーないニャ。下の者、居ないもん」
「ハッ、だからって仕留めた人間を運ぶのに、俺たちの部隊員を割いてやってんだぜ? いい加減お前も師団長らしく部下を統率したらどうだ?」
ライオン型のキメラアント、ハギャがニヤニヤと恩着せがましく首を鳴らした。
「ボクは敢えてキミたちの部下に手柄を譲ってあげてるんだよ。それに、部下なんて面倒くさくてお断りだニャ」
「まったく、お前という奴は…」
なおも説教を続けようとするコルトの背後から、カツカツと高い足音が近づいてきた。
現れたのは、サソリの尾を持つキメラアント、ザザンだ。
「相変わらず景気が悪そうね。でも皆ちょっと聞いてくれない? 面白い噂を聞いたわよ」
ザザンは唇を妖しく釣り上げ、ここに居るメンツ…特にボクの顔を覗き込んできた。
(ん〜? ま、興味ないニャ)
と、ボクが昼寝を再開しようとした時だった。
「この近くの森に、今までとは比べ物にならない、強い生命力を持った『レアモノ』の人間が迷い込んでいるらしいの。特上の餌になるらしいわね…ピトーちゃん、あんた好きでしょ、こういうの」
「…へぇ…にゃるほど、確かに興味あるね」
ボクの猫耳がピクリと跳ねる。
強い生命力を持った人間。
それを女王様に捧げれば、きっともっと喜んでくれるに違いない。
「何でも、生命力のオーラが身体から溢れ出して、光っているみたいよ。ただし、ちょっぴり強いみたいだけど」
「おもしろそうだニャ。ボク、ちょっと外回りに行ってくるよ」
コルトが「おい、待てピトー!」と呼び止めるのも聞かず、ボクは巣を飛び出した。
だが…レアモノ求めて森をパトロールしていたとき、ボクは奇妙な光景を目にした。
(うん? アイツは確か…)
コルトの部下である、兵隊蟻ラモットが、ボロボロになって倒れていたのだ。
でも、問題はそこじゃない。
ラモットは全身から、湯気のようなものが立ち昇っている。
「おーいラモット? どうしたのニャその格好」
ボクは木から飛び降り声を掛けた。
遅れて追いかけてきたコルトも、その有様に息を呑んでいた。
「ラモット、何があった!? その体から出ているものは何だ!?」
「ハァ…ハァ…コルトに…ピトーかよ…見てくれよコイツを…ハハハ…!」
ラモットは血走った眼球を、ギョロリとボクたちに向け狂ったように笑い出した。
「見ろよアアああぁぁぁん!? ガキどもにブン殴られてよォ、俺ン中で何かが変わってんだろォ! みなぎる…力が、みなぎるぞおオオ!! サイッコーの気分だぜェェ!」
ラモットが咆哮した瞬間、その肉体から圧倒的なプレッシャーが放たれた。
それは念能力の覚醒。
けれど、今のボクたちには、それが何なのか分からない。
ただ、本能が得体の知れないヤバい力が発現したのだと告げていた。
「ラモット、落ち着いて説明をーー」
「うるせえええ! 上からモノを言うんじゃねえ、ムカつくんだよお前らァァ!!」
次の瞬間、狂乱したラモットが、凄まじい速度で拳を突き出してきた。
あまりの速さに、ボクもコルトも避けることができない。
凄まじい衝撃波とともに、ボクとコルトは並んで吹き飛ばされ、木々をなぎ倒した。
(な、んで、ボクまで…)
痛い。信じられないほどの激痛が全身を走る。
それと同時に、ラモットの拳に込められていたオーラが、ボクの体内の精孔を、強引に、容赦なくぶち開けた。
――パキィン、と頭の中で、何かが割れる音がした。
(…あ、あれ? ボク何やってるんだっけ?)
念能力の、覚醒。
ボクの身体をめぐる念オーラ、それと共に…濁流のような情報が、ボクの脳内に直接流れ込んでくる。
それは、ボクがこれまで駆け抜けてきた、三回分の人生の記憶だった。
一周目は…産まれながらに圧倒的な念を持っていて、王のためにすべてを捧げ戦ったが、
二週目が…前世の反省を活かして色々頑張ったものの、王がゴリエムでバカスカ侵攻したせいで人間がマジギレし【ミニチュアローズ・クラスターミサイル】のバチクソ超火力で無慈悲に灼き尽くされた。
三週目に至っては、なぜかボク自身がキメラアントの王♂として産まれて、なぜか♀護衛軍三匹に夜な夜な激しく求められ、そのまま壮絶な死を遂げていた。
「…あ」
全ての記憶が、完全に繋がる。
そうだ、そうだよ!
「ボク…四週目だニャ!!!」
ガバッと跳ね起き、自分の手を凝視する。
体からは、一週目の頃とは比べ物にならないほど微弱だけど、でも確かに、念オーラが溢れ出ていた。
(ボクは、元王直属護衛軍のネフェルピトー!! そうか、うん、にゃるほど!)
身体に力がみなぎってくる。
ラモットが言う様に、念の力は素晴らしいものだ。
ま、それはそれとして。
「ラモット、えらく調子に乗ってくれたにゃあ?」
ボクがオーラを放出するや、ラモットの顔は見る見る青ざめ、冷や汗をダラダラと流し始めた。
「え、あ、お、おい、それ…」
取り敢えずボクは跳躍、刹那で肉薄すると、ラモットの首筋に爪を突き付けた。
「これはねラモット、念っていう力なんだニャ」
ボクの爪が、彼を三枚下ろしにする、まさに直前だった。
「楽しそうな事をしているわね?」
ボクのオーラが、一瞬で呑み込まれた。
肉体をも圧殺せんばかりの禍々しいオーラが、濁流の如く吹き出して来たのだ。
ラモットはもうボクではなく、肩越しに声の主を見ていた。
彼はすぐに腰砕けになり、ガタガタと震えている。
先ほどまでの威勢は消し飛び、恐怖のあまり失禁せんばかりに森の奥を凝視していた。
「おい…ピトー、何が…?」
ようやく意識を取り戻したコルトが、即座にそれを感じ取ったのだろう。
「な、何だこの…どす黒いプレッシャーは!?」
コルトがガチガチと歯を鳴らす。
ボクの全身の毛という毛も、一瞬で逆立っていた。
(これは…一週目のボクのオーラにも匹敵する…まさか護衛軍かニャ!?)
暗闇の奥から、ザスッ、ザスッ、と肉球とも爪ともつかない足音が響く。
やがて姿を現したのは、ボクの知らない…けれど間違いなく王直属護衛軍として産み落とされた蟻だった。
「あら、続けないの? せっかく面白くなりそうだったのにねぇ」
とろけるような、妖艶で甘い声が響く。
ウェーブがかった美しい髪、魅惑的なプロポーション、そして頭部にはふんわりとした、丸くて愛らしいクマの耳。
臀部には丸い尻尾が生え、あたかもマスコットの様な体を成しているが…背後に渦巻くオーラは、触れた者すべてを精神崩壊させかねないほど凶悪だった。
「ッ!!」
ボクが思わず声を漏らすと、そのクマ耳の蟻は、トパーズのような瞳を妖しく光らせ、ボクを見つめて来た。
「ウフフ、あなたがピトーよね? 話には聞いていたわ。大層な働き者…お外でおせっせと女王様に沢山お肉を集めてくれていた、ヌフ…可愛い可愛い子猫さんってね」
これが師団長クラスが、護衛軍と相対した時の、絶望感か。
まるで勝てる気がしない。
そして、一言でも誤れば即座に肉塊と変わり果てるのが、本能で解る。
「は、はい。ありがとう…ございます」
「ヌゥフ…よろしくねピトー。私は護衛軍の【カデシュブム】よ。これからは私達が女王様の身辺を警護するから…貴方達はより一層、働いて頂戴ね」
カデシュブムはふくよかな胸元に手を当て、ボクを上から下までの全てを、ねっとりとした視線で見つめながら露骨な舌舐めずりしてきた。
(うわコイツ…ヤバいニャ)
ボクは生まれて初めて、底知れない恐怖のあまり一歩も動けなかった。
護衛軍カデシュブム命名法則
カデシュ→エジプト神話における愛・美・豊饒の女神
ブム→カロリーヌとゆかいな8ひき、くまの男の子のキャラクター、ブム