人生周回中ネフェルピトーの軌道修正が間に合わないーー世界がボクを殺しに来る件ーー 作:周回中NFLPT
ーーここから数日は、カデシュブムという規格外のバケモノに色んな意味で怯えながらも、ボクは師団長として大人しくし、四周目の自分に出来る事を模索していた。
ここで目立って目をつけられでもしたら、あの
だがそうしている間にも、巣の状況は目まぐるしく変わっていく。
例えば、ボクの知る護衛軍の誕生。
となればやはり、あの良く分からないゲロキモ色ボケニチャリ熊がボクの代わりのポジション…
正直クッソ不快だにゃあ…
【円】でさえマトモに使えない、治療も出来ない、操り人形も出せない、タダの強化系能力者がボクの代わりなんて出来る訳ないじゃない。
パワー系ならユピーだけで充分だニャ。
等とネチネチ脳内で愚痴を垂れていると、
「ピトーここに居たか。探したぞ」
分厚い本を小脇に抱えたペンギン型の蟻、ペギーが、困ったようにボクを見上げていた。
彼の事は、一周目で彼の持っていた本が、色々と役に立ったからよく覚えている。
今回はボクが部下を持たない風来坊じみた師団長であるにもかかわらず、いつも気にかけてくれる、真面目で優しいヤツだった。
「ペギー…何か用事かニャ?」
「何か用事か、ではないぞ。今すぐ女王様の部屋へ向かうのだ。遂に王が産まれるらしい」
「ニャ!? 王が…!」
そっか、ようやくメルエム様が産まれるんだにゃあ。
今度は
「分かったニャ! ペギー、教えてくれてありがとニャ〜!」
ボクは一転して脳内が晴れ渡ったかのような心地になり、ペギーを追い抜いて、急ぎ女王の元へと走り出した。
だが、女王の部屋に辿り着いたボクは、間近でメルエム様の誕生を見ることは出来そうになかった。
護衛軍らが、女王の周りを固めている。
ボクらは一歩引いた位置から眺めるしかない。
「ああ、王! 我が至高の王が…間もなく!」
まだ出て来てさえいない王に向かってバイオリンをかき鳴らしながら、ボタボタ涙を流すプフ。
「ケッ、うるせぇ野郎だ。まあ分からんでもないがな…王様の為ならこの命、いつでも投げ出せる」
不器用ながら、忠誠心を滾らせているユピー。
(どんなバチクソツヨツヨ王なんだろ。楽しみだニャ!)
などと、ボクも楽しみだニャ的な事を言うんだろうなシミュレーションを行うボク。
だというのに、ゲロキモ色ボケニチャリ熊は、ニチャニチャと吐き気を催すゲロキモニチャリ顔をしているだけだ。
そこは二人の会話の流れを受けて何か言うところだろうが、使えない
(…っていうか、すっごく居心地が悪いニャ)
一週目のボクなら、プフたちと共に王の誕生に狂喜乱舞していただろう。
けれど今のボクは、彼ら護衛軍の輪から外れ、コルトやペギー、ヂートゥたち普通の師団長の側に立っている。
護衛軍と同列ではないのもあるが…沸き立つ彼らのオーラは師団長が近付くには、禍々し過ぎる。
(こんなめでたい時くらい、少しはオーラを抑えて欲しいものだにゃあ…制御くらい簡単でしょ)
『おいピトー、漏れているぞ…滅多な事を
心配そうに
あ、ヤバい、念話に出てた!?
うーん、元護衛軍だから扱い慣れてないせいか、油断したらすぐに念話がオープンチャンネルで出てしまうにゃあ…
幸いだったのは護衛軍が、女王やボクたちみたいに念話が使えない事だった。
『あーあ、言っちゃった言っちゃった。こりゃ不敬罪確定だわ〜』
『ヂートゥ!? いや、さっきのはついうっかり…』
『なんつってな。オレだってアイツら好きじゃねーし。別に陰口くらい良いって』
『くっくっく、だけどなぁ、念話使いに裏切り者が居れば、陰口言ってるヤツら全員処刑だぞ?』
『やめないかお前達。女王様の御前だぞ』
そして、ついにその時が訪れた。
凄まじい地響きと女王様の絶叫。
彼女の腹を無理やり引き裂き、キメラアントの王…メルエム様がこの世に降臨なされた。
その場にいた全員が、本能的な恐怖で平伏する。
ボクもまた、かつて狂信したその絶対的なオーラに圧倒され、頭を垂れた。
「…腹が減ったな」
冷酷無比な声が無音の空間に響く。
メルエム様は瀕死の女王様を一顧だにせず、跪く護衛軍らの間をすり抜け、ボクらを見回した。
「おい、そこの。食事の用意をせよ」
王が放った言葉に、真っ先に動いたのはペギーだった。
「は、はい! ただいま準備を――」
ボクは反射的に顔を上げた。
(あ、ま、待つニャペギー!)
直後、王の尻尾が生き物のように、しなった。
一週目の記憶を持つボクには、その尻尾の行き先がハッキリと分かっている。
体が勝手に動こうとした。
けれど、今のボクの師団長の肉体では、王の放つオーラに圧倒され、指の一本も動かせなかった。
グシャッ。
鈍い音が響き、ペギーの頭部が消し飛んだ。
彼は本を抱えたまま、物言わぬ肉塊となって床に倒れ込んでゆく。
「下郎。貴様に言ったのではない」
あっ…と、声が漏れた。
皆、一瞬何が起きたのか分からなかった。
「ペ、ペギー…!」
我に還ったカメ型キメラアント、ダートンがたまらず駆け寄った。
だが…王の無慈悲な二撃目が、ダートンを甲羅ごと、肉体を粉砕した。
「王、馳走はあちらに用意しております。アレらは下級兵にございますから、これからは我々護衛軍が、貴方様の手となり足となりますので、用件の際はお申し付け下さい」
「ふむ、そういう事か」
王は二匹の死体を一切顧みることなく、護衛軍と共に歩き去っていった。
静まり返った産室で、ボクの握られた拳は震えていた。
けれどそれは、王の圧倒的な強さに対する恐怖の震えでは断じてなかった。
(なんなのニャ、あれ…)
視界が真っ赤に染まり、胸の奥からドロドロとした、真っ黒な感情が溢れ出ていた。
(ペギーは…ダートンは、ただただ王や女王、仲間のために尽くそうとしていただけなのに…!)
それは、明確な王への激しい憎悪だった。
一週目も、二週目も、三週目であろうとも、ボクにとってメルエム様は絶対の存在だった。
王のためなら世界を滅ぼしてもいいと本気で思っていた。
それなのに四週目で、師団長として彼らと過ごしてしまったボクは、王の暴虐を許すことができなくなっていた。
「ッッ!? 王を、憎む…? そんなの、ありえない、有り得ないニャ…」
自分の内側に芽生えた感情に戸惑いを覚えたボクは、己の小さな手を強く握りしめるしかなかった。
ダートン→原作では名前の無い亀型キメラアント