ブルーアーカイブ -Unwelcome Aggressor-   作:谷風 大和

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ES エクステンド・スレイブの略。→エクステンド・スレイブ

エクステンド・スレイブ 日本語名は主従身体拡張作業機。一対以上の脚部と腕部をもつ重機の総称。軍事兵器としての運用も2019年のロシア・ウクライナ戦争から行われている。

広辞苑 第8版より


第零話 キヴォトス戦線異状なし

A.D.2033 Feb,13th アビドス砂没地区D-3

しくじったな、と思う。

砂交じりの風。砂に沈んだ町の自販機によりかかり、間抜けな自分を呪う。

銃弾がはじいた砂が頬を叩く。風の流す砂は太陽を途切れ途切れに遮る。

 

見上げたカーブミラーに自分の顔が映る。大きく膨らんだ胸もだ。

皆が離れてから、どれだけの時間がたっただろう。

1か月、1週間、それとも一年?とにかく長い時間だ。

 

思うのは後輩の事。桃色の髪をざんばらに短く切りそろえたボーイッシュな少女、小鳥遊ホシノ。

彼女に残せるのはこんなものか。そう思いながら目を閉じる。

「先輩、ユメ先輩!先輩ってば!」

ごめんね。ホシノ…ちゃ…ん……。

 


 

 

 

先週からの北方、シベリア寒気団の流入が作り出した曇り空。砂漠の上空を、大きな輸送ヘリ(MH-53 ベイブロウⅢ)が飛び抜けていく。ES輸送モデルであったが、鉄の巨人たる主従身体拡張作業機(エクステンドスレイブ)を抱いてはいなかった。なぜなら、前線で戦っているESを迎えに行かなくてはならなかったからだ。

 

アメリカと中国、そして日本の「西東京学園都市」による超技術開発競争が、ウクライナ継続戦争の終戦とロシアの再編を皮切りに代理戦争となった2030年。それから3年が経った今、ついに代理の文字は吹き飛び、米中の直接衝突となっていた。

世界中で人間を管理し発展を強行しようとする米中の戦争の奔流が暴れ、普通にのんびり暮らしていた第三者を巻き込む、最悪の戦況。

それは決して巻き込んではならなかった学園都市キヴォトスの、アビドス地域さえも戦場にしていた。

 

 

 

「こちらアビドスFC(前線指揮所)、ウルズチーム、生き残っている機は応答せよ!」

「こちらウルズ4、ウルズ5はやられました!コクピットロスト、おそらく即死です!ウルズ6とウルズ7は脚部を損傷、回収班に回収されましたよ!」

中三だってのに、と無意識のうちに独りごちた。耐加重服がごつくて嫌になる。

俺の名は安室ヤマト、日本自衛隊外人部隊第502対戦車機動分隊の1等陸曹だ。一応学徒志願兵、つまり学生である。

主従身体拡張作業機、エクステンド・スレイブ。それが俺の乗る鉄の巨人につけられた分類。まあこの機体の名は「ES-M/03 士恩号」というのだが。……どうやら、ガンパレード・マーチをやり過ぎた男が開発チームにいたらしい。

そんな機体のマスターコントローラーを両手に握りながら、電磁伸縮樹脂でできた士魂号の筋肉に命令を出す。

「良かった、ついさっきキヴォトスHQ(司令本部)から通信があった。どうやら砂没地区を捨てるしか無くなったらしい!お前もすぐに撤退しろ!」

撤退しろ、の声。だけどそうそう上手く行くものでもない。

周りは中華の追従機兵やらカイザーPMCのポンコツESでいっぱいで、オートマタなんて面倒なやつもいる。

持ってきたヘビーマシンガン(AGS-04 30mm突撃機関砲)とマルチミサイル(ブリザードⅣ 7連装多目的ミサイル)の残弾も心許ない。唯一背負った76mmレールガンの残弾が十分なのが救いか。

しけた品揃えのウェポンモニター(兵装残弾表示パネル)から顔を上げ、レーダーディスプレイ(短波レーダースクリーン)とメインディスプレイに目を向ければ、凹レンズみたいな陣形で俺の士魂号を包囲しようとするカイザーと中華のESが見える。数は4、対処できないわけではないが、砂没した住宅街のここでは危なっかしい賭けだ。

悪罵を吐く以外に、できそうなことが見つからなかった。

 

 

 

数瞬後のこと……だと思う。

士魂号のアイサイト(レーザー・カメラ複合測距観測システム)が一人の少女を捉えた。

翠色の髪を腰まで伸ばし、ハンドボールくらいの豊満な胸を湛えた安産型の美少女、そう巨乳美少女だ!

今の俺の任務は押し寄せる中国軍が学園都市キヴォトスに突っ込まないように迎撃することだが、戦場に少女が残っている以上は助けねばならないだろう。おまけにあの少女の頭上にあるヘイローは、淡く消えかけている。あれが消えたら死ぬ、と言う噂が本物ならばすぐさまに助けねばなるまい。

運良く俺はOS-1、医療用経口補水液を持ってきている。つまりこいつを飲ませてここを脱出すれば、彼女も助かるだろう。

だが敵のESはどうする?その答えも俺の頭脳は弾き出した。

 


 

 

 

砂漠色の鉄の巨人が、砂に没した住宅街を駆け回る。さっき見た少女のいた角から離れる向きで、広くストライド(歩幅)を取り全力で駆ける。

僚機を失い一人ぼっちとなった安室の士魂号を追いかけ、AT-STの脚をゴツくしたような中国軍ESと、カイザーPMCのゴリアテが二機づつ走っていく。……だが、それこそが彼の狙いだった!

 

踏み出した右脚の踵についたダッシュローラーを回し、右向きに165度を急速旋回。右手に握ったHOTASスティック(マスターコントローラ)を目一杯押し込み、慣性に身を任せる。

脚に引きづられ崩してしまうはずの姿勢は、士魂号の機体各所に装備された外気導入型プラズマスラスターと左脚のダッシュローラーで制御。身体中のスラスターから噴き出る閃光が、崩れゆく姿勢を無理やり支えた。

 

まずあり得ないスピードで旋回した安室機はゴリアテパイロットの度肝を抜く。安室がその甘えを許すはずもなく、逡巡をついて背負い式76mmレールガンを発射!

突き抜くような爆音と共に超音速で投射された36ミリ侵徹体はゴリアテの装甲を食い潰し、エンジンをぶち抜き炎を上げたっ!

 

その撃破に驚いた間抜けなAT-STもどきの二機にはマルチミサイル(ブリザードⅣ 7連装マルチミサイル)を1発づつプレゼント。飛翔する700ミリペットボトルサイズのミサイルは見事AT-STもどきの股間にぶち当たり、爆炎で花を咲かせた。

その小ささでも詰められた電子励起爆薬は容易に脚を食いちぎることができたのだ。

 

最後、一人ぼっちとなったゴリアテには、コクピットにヘビーマシンガン(AGS-04 30mm突撃機関砲)の連射をお見舞い。……どうなったかということが気になったのなら、ホールトマトの缶を買ってきて、どんなお宅にもあるポテトマッシャーで潰してみるといいだろう。それが最後まで生き残った、ゴリアテのパイロットの最期だ。

 


 

 

 

口に流し込まれる何かの感覚と共に、私は目を覚ました。

視界に映ったのは、パイロットスーツを着たヘイローのない少年の姿。どうやら私に何かを飲ませてくれたらしい。

「君……名前は?っていうかヘイローは!?」

「え〜と……名前は安室ヤマト。外の人間なんでヘイローはない。」

どうやら外の世界の住人らしい。でも、どうしてアビドスに?

「外の世界の人なら……どうしてアビドスにいるの?」

 

「ちと外の世界で世界大戦が起きててね。」

 

その衝撃の事実が、私の度肝を抜いた。




次 回 予 告

新年度が始まった学園都市キヴォトス!
学生たちにとっては古きに別れを告げ、新たを迎えるこの4月にやってきたのは、なんとあまりに希少な男子高校生!

急増するESの絡んだトラブルを解決するプロフェッショナルとしてやってきた彼は、各校風紀委員会に対ES戦を教える先生(生徒だってのに)!

ああ、幸せな青春はどこに行った!剣林弾雨の果てに何を求めろというのだ!

次回、" I just feel my wind "

学園生活、始まります!
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