アークエンジェルがユーラシア連邦本部を出港してから、数日が経過していた。
かつてG計画の機体が並んでいた施設では、技術者たちによる新たな開発計画が進められていた。
その中心にあるのは、六基のアグニ級ビーム砲を搭載した新型ストライカーパック。
インフェルノストライカーである。
「それでは、本日の開発会議を始めよう」
技術主任が立ち上がる。
その手には、一枚の資料が握られていた。
「本日は、我々の計画を大きく前進させる可能性を秘めた技術について説明する」
「可能性、ですか?」
「そうだ。これを見てくれ」
技術主任が資料を掲げる。
そこに記されていたのは、ある特殊な動力技術についての情報だった。
「Nジャマーキャンセラー……」
技術者の一人が、その名称を読み上げた。
「これがあれば、核動力を利用できる」
「つまり、出力不足の問題を解決できるということですか?」
「そういうことだ!」
技術主任は満面の笑みを浮かべた。
「六門のアグニを同時に稼働させるための動力源。これを利用しない手はない!」
「素晴らしい!」
「これなら六門同時発射も夢ではありませんね!」
「待ってください。核動力を搭載するとなると、機体側の構造も見直す必要があります」
「当然だ!」
技術主任は即答した。
「動力が増えるなら、それを受け止める機体も強化すればいい!」
「装甲も厚くしましょう!」
「推進器も大型化すべきです!」
「冷却機構も強化しなければ!」
「では冷却装置を増設しましょう!」
「増設するなら、整備性も考慮してユニット化した方がいいですね!」
「ユニット化するなら交換式にしましょう!」
「交換式なら予備パーツも必要ですね!」
会議室の空気が熱を帯びていく。
誰も止めない。
誰も止めようとしない。
「遠隔砲台の制御についても改善が必要です。六基すべてを操縦者が個別に操作するのは負担が大きすぎます」
「自動照準補助を組み込みましょう!」
「敵機の位置情報を共有すれば、各砲台が独立して照準を合わせられます!」
「ならば射撃管制システムも大型化しましょう!」
「待ってください。大型化するなら、砲台そのものを増やす余地も確保しておくべきでは?」
「……なるほど!」
技術主任が机を叩いた。
「八基型、十二基型も視野に入れて設計しよう!」
「全周囲砲撃型も面白そうですね!」
「重装甲型も必要です!」
「高機動型も捨てがたい!」
「長距離狙撃型も研究しましょう!」
「全部やりましょう!」
誰かが叫んだ。
「そうだ! 全部だ!」
技術主任も叫んだ。
その場にいた技術者たちは、もはや当初の目的を忘れかけていた。
彼らがまず完成させなければならないのは、六基の砲台を搭載したインフェルノストライカーである。
しかし、彼らの頭の中ではすでに、その先の機体が何種類も飛び交っていた。
「まずは六基型を完成させましょう!」
「もちろんです!」
「八基型の設計図も並行して!」
「十二基型も!」
「全周囲型も!」
「よし、設計班を増員しよう!」
誰も止めなかった。
いや、止める者がいなかった。
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数週間後。
インフェルノストライカーの試験機は、ついに完成した。
六基の遠隔砲台。
それぞれに搭載された高出力ビーム砲。
そして、Nジャマーキャンセラーによって実現した核動力。
かつて問題となっていた出力不足は、理論上解決されている。
もちろん、それだけで完成とは言えない。
実際に動かし、問題がないかを確認する必要があった。
「試験開始!」
技術者たちが管制室から見守る中、ストライクがゆっくりと試験場へ進み出る。
背部には、六基の砲台が展開されていた。
「動力系、正常!」
「各砲台へのエネルギー供給、安定!」
「冷却機構、正常!」
「制御系、問題ありません!」
「よし! 六門同時発射試験を開始する!」
試験担当者が指示を出す。
六基の砲台が一斉に照準を合わせた。
「発射!」
次の瞬間。
六条の光が試験場を貫いた。
凄まじい閃光。
遅れて轟く爆音。
標的として設置された大型装甲板は、跡形もなく消し飛んでいた。
「やった!」
「成功だ!」
「六門同時発射、成功しました!」
「出力も安定しています!」
管制室が歓声に包まれる。
「見たか! これが我々の成果だ!」
技術主任が興奮気味に叫んだ。
「素晴らしい! 素晴らしいぞ!」
しかし、その時だった。
「……あれ?」
整備担当者の一人が、モニターを見つめた。
「どうした?」
「冷却系の数値が……」
「何?」
「ちょっと待ってください。排熱処理が追いついていません!」
「冷却機構は正常だったはずだ!」
「通常稼働では問題ありません! ですが、六門同時発射直後の熱量が想定を超えています!」
「つまり?」
「冷却系の負荷が限界を超えています!」
その瞬間、試験場のストライクから警告音が鳴り響いた。
「緊急停止!」
「制御系が応答しません!」
「砲台の冷却装置が過熱しています!」
「動力系統を切り離せ!」
「駄目です! 切り離しが間に合いません!」
「試験機を退避させろ!」
「無理です! 今からでは間に合いません!」
技術主任はモニターを凝視した。
「……まさか」
次の瞬間。
試験場が白い光に包まれた。
轟音。
爆風。
そして、凄まじい衝撃。
試験設備の一角が、盛大に吹き飛んだ。
管制室の照明が消える。
警報音が鳴り響く。
モニターは次々とブラックアウトしていった。
数秒後。
煙の向こうに、無残な試験場が姿を現した。
「…………」
「…………」
「……試験結果は?」
技術主任が、静かに尋ねた。
「六門同時発射は成功しました」
「そうか」
「ただし、試験場は全損です」
「…………そうか」
「試験機も損傷しています」
「…………」
「それと、冷却系の改善が必要です」
技術主任は、ゆっくりと顔を上げた。
「……よし」
「はい?」
「次は冷却機構を強化しよう!」
「そうですね!」
「排熱容量を倍にしましょう!」
「いや、三倍です!」
「ならば冷却装置そのものを大型化しましょう!」
「試験場も拡張しなければなりませんね!」
「そうだ! 次はもっと大きな試験場を用意しよう!」
誰も反省していなかった。
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数日後。
ブルーコスモス盟主、ムルタ・アズラエルのもとに、インフェルノストライカーの試験結果が報告された。
「……で?」
アズラエルは報告書を手に、担当者を見つめた。
「六基のアグニ級ビーム砲による同時発射試験は成功しました」
「それは素晴らしいですね」
「核動力によるエネルギー供給も安定しており、出力面では十分な成果が得られています」
「なるほど。では、問題は?」
担当者は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……冷却系統に課題が見つかりました」
「冷却系統?」
「はい。六門同時発射による排熱が想定を上回りまして……」
「それで?」
「試験場の設備が爆発しました」
「…………は?」
アズラエルの表情が固まった。
「試験場が?」
「はい」
「爆発?」
「はい」
「……機体は?」
「損傷しましたが、修復可能です」
「試験場は?」
「全損です」
アズラエルは報告書を机に置いた。
そして、こめかみを押さえた。
「……あのですね」
「はい」
「私は、六基の砲台を同時に使えるストライカーパックを作れと言ったのであって、試験施設を吹き飛ばせとは言っていませんよ?」
「申し訳ありません」
「いえ、六門同時発射が成功したこと自体は評価します。そこは素晴らしい成果です」
アズラエルは報告書をめくる。
「ただ、冷却機構の問題を解決しないまま、次の試験に進むのは許可できません。まずは安全性を確認してください」
「承知しました」
「それと、今後の改良案についてですが……」
担当者が別の資料を差し出した。
そこには、八基型、十二基型、全周囲砲撃型、重装甲型、高機動型、長距離狙撃型など、さまざまな派生案が並んでいた。
アズラエルはそれを眺めた。
「……これは?」
「今後の発展案です」
「まだ六基型の試験も終わっていませんよね?」
「はい」
「なのに、どうしてこんなに種類があるんです?」
「技術者たちが、可能性を検討した結果です」
「可能性を検討した結果、試験場が吹き飛んだんですか?」
「いえ、それは別件でして……」
「別件?」
アズラエルは深く息を吐いた。
「……分かりました。派生案の研究そのものは禁止しません。ただし、実機の製造は六基型の安全性と運用評価が終わってからです。いいですね?」
「承知しました」
「あと、次の試験場は十分な安全対策を施してください」
「はい!」
担当者が退室する。
アズラエルは一人、机に残された報告書を見つめた。
「六門同時発射に成功したと思ったら、今度は試験場を吹き飛ばすとは……」
彼は再びこめかみを押さえた。
「まったく……技術者というのは、どうしてこうも加減を知らないんですかね」
その頃、技術開発部門ではすでに次の会議が始まっていた。
「冷却機構の強化案ですが!」
「はい!」
「排熱ダクトを大型化するだけでは足りません!」
「では、砲台ごとに独立した冷却ユニットを設けましょう!」
「それなら予備ユニットも必要ですね!」
「交換式にしましょう!」
「予備の砲台も用意しておきましょう!」
「ついでに八基型の設計も進めましょう!」
「十二基型も忘れずに!」
「よし、次の試験場はもっと広くしよう!」
技術者たちの暴走は、まだまだ止まりそうになかった。
感想をくださった皆様、ありがとうございます!
皆様のアイデアのおかげで、技術者たちの暴走が止まらなくなってきました(笑)