第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦。
宇宙を埋め尽くす閃光が、戦場の様相を一変させていた。
地球連合軍の艦隊は壊滅的な損害を受けていた。
その原因となったのは、ザフトが建造した巨大な戦略兵器である。
一度放たれた光は、連合軍の艦隊をまとめて飲み込み、数え切れないほどの艦艇を一瞬で消し去った。
生き残った艦艇は散り散りになりながらも、どうにか戦線を維持しようとしている。
だが、誰もが理解していた。
あの巨大兵器が再び撃たれれば、今度こそ地球そのものが危機に晒される。
「敵の巨大兵器は、まだ再発射できないのか!」
ドミニオンの艦橋で、アズラエルが声を荒らげた。
「現時点では、連続発射は不可能と判断されています。ただし、再発射までに必要な時間は不明です」
ナタルが答える。
「つまり、撃てないうちに破壊しろということですね!」
「そうなります」
「簡単に言ってくれますねえ!」
アズラエルは苛立たしげにモニターを睨みつけた。
敵の巨大兵器を破壊する。
それができなければ、地球連合軍に勝利はない。
しかし、その巨大兵器へ至る道を塞ぐように、ザフトの新型モビルスーツが立ちはだかっていた。
プロヴィデンス。
その機体から放たれる無数の遠隔兵器は、戦場を自在に駆け巡り、連合軍のモビルスーツを次々と撃墜していく。
そして、その前に立ちはだかっていたのがフリーダムだった。
「くっ……!」
キラ・ヤマトは操縦桿を握りしめる。
四方八方から襲い来るビーム。
避けた先にも、さらに別のビームが待ち構えている。
フリーダムの機動力をもってしても、すべてを回避することはできなかった。
シールドが削られ、装甲が焼け、機体の各所から警告音が鳴り響く。
「まだ……!」
キラは機体を旋回させ、反撃に転じようとした。
しかし、照準を合わせる前に別方向からビームが飛来する。
「うわああっ!」
フリーダムの機体が大きく揺れた。
プロヴィデンスの遠隔兵器は、単純な数だけではない。
それぞれが独立して動き、キラの行動を先読みするかのように攻撃を組み立ててくる。
一つを避ければ、別の一つが逃げ道を塞ぐ。
撃ち落とそうとしても、次の攻撃が迫る。
「このままじゃ……!」
その時だった。
「オラオラオラァッ!!」
突然、別方向から猛烈な攻撃が叩き込まれた。
プロヴィデンスの周囲にビームが走り、遠隔兵器の軌道が乱れる。
「なんだ!?」
キラが驚く。
三機のモビルスーツが、戦場へと飛び込んできていた。
カラミティ、フォビドゥン、レイダー。
ブーステッドマンの三機だった。
「撃滅! 撃滅! 撃滅ぅ!」
クロトが叫びながら攻撃を続ける。
「……邪魔」
シャニは興味なさげに呟き、プロヴィデンスへ砲撃を放った。
「ハッ、面白くなってきたじゃねえか!」
オルガもまた、次々と攻撃を浴びせていく。
三機の攻撃は、連携というよりも、それぞれが好き勝手に暴れているようなものだった。
だが、それで十分だった。
プロヴィデンスの攻撃が一瞬だけ分散する。
その隙を見逃さず、キラはフリーダムを後退させた。
「助かった……!」
しかし、安堵する暇はない。
プロヴィデンスはすぐさま体勢を立て直し、無数の遠隔兵器を展開した。
三機のモビルスーツも、その攻撃に巻き込まれていく。
「何だよ、こいつ!」
オルガが叫ぶ。
「撃滅! 撃滅ぅ!」
クロトはなおも攻撃を続けた。
シャニは舌打ちしながら機体を動かす。
三機はプロヴィデンスの正体も、搭乗者も知らない。
ただ、目の前にいる敵を倒そうとしているだけだった。
その間にも、フリーダムの損傷は深刻化していた。
「……もう、限界か」
キラは計器を見つめる。
機体の各所に異常が出ていた。
これ以上戦闘を続ければ、フリーダムそのものが持たない。
その時、通信が入った。
『こちらドミニオン。キラ・ヤマト、応答しろ』
聞き覚えのある声だった。
「この声……」
『キラ・ヤマト、聞こえているか』
「バジルール中尉……?」
『そうだ。現在、こちらは敵の巨大兵器を破壊するための作戦を進めている』
「敵の巨大兵器を……?」
『あれを破壊しなければ、地球が危ない。だが、現状の戦力では突破が難しい』
ナタルの声は硬かった。
『フリーダムの損傷状況はこちらでも確認している。これ以上の戦闘は困難だろう』
「それは……そうですけど」
『ドミニオンへ来い。別の機体を用意してある』
「別の機体?」
『詳しい説明は艦内で行う。今は生き残ることを優先しろ』
キラは一瞬だけ迷った。
だが、フリーダムはすでに限界に近い。
「分かりました。ドミニオンへ向かいます」
『了解した。誘導する』
通信が切れる。
キラはフリーダムを反転させ、戦場から離脱した。
その背後では、三機のモビルスーツとプロヴィデンスの戦闘が続いている。
そして、その戦闘を見つめる一人の男がいた。
クルーゼである。
「ふむ……」
仮面の奥の視線が、戦場を捉えていた。
フリーダムは離脱した。
代わりに現れた三機のモビルスーツは、統制の取れない攻撃を繰り返している。
「さて、どうなることか」
クルーゼは静かに笑った。
---
ドミニオンの格納庫。
フリーダムを降りたキラは、整備員たちに案内され、一機のモビルスーツの前へと連れてこられた。
「これが……?」
そこにあったのは、ストライクだった。
ただし、キラがかつて搭乗していた機体とは大きく異なっている。
背部には巨大な追加装備が接続され、そこから六基の砲撃ユニットが展開されていた。
それぞれのユニットは独立して飛行するための構造を備え、砲身の先端には見覚えのある形状があった。
「アグニ……?」
「そうです!!」
勢いよく声を上げたのは、技術主任だった。
「これこそ、我々の技術の粋を集めた夢の装備! インフェルノストライカーです!!」
「インフェルノストライカー……」
「ご覧ください! この背部ユニットから展開する六基のアグニ! それぞれが独立して飛行し、目標を捕捉し、砲撃を行うことが可能なのです!」
技術主任は興奮を隠そうともせず、機体の周囲を歩き回る。
「本体の機動と六基の遠隔砲撃を同時に制御することで、敵に逃げ場を与えません! まさに火力の暴力! 圧倒的な砲撃能力! これぞインフェルノ!!」
キラは六基のアグニを見上げた。
「六基を同時に操作するんですか?」
「もちろんです!」
「かなり難しそうですね……」
「はっはっは! もちろんです!!」
技術主任は胸を張った。
「だからこそ面白いのです!!」
「面白いって……」
「まだまだ改良の余地はあります! 将来的には遠隔ユニットの数を増やし、制御能力も火力もさらに高める構想があるのです! いやあ、夢が広がりますなあ!」
「それは、まだ構想段階ですよね?」
「ええ! 現時点ではこの六基が完成形です!」
技術主任は満面の笑みを浮かべた。
その様子を少し離れた場所から見ていたナタルは、険しい表情を崩さなかった。
「しかし、あれは欠陥だらけの装備です! まともに動く保証すらありません!」
「そんなことは分かっていますよ!!」
アズラエルが声を荒らげた。
「ですが、今は選んでいられる状況ではないでしょう!」
「あの機体の制御負荷は、通常のストライクとは比較になりません。パイロットへの負担も大きすぎます!」
「あんなもの、ただのゴミです! 武装を無節操に詰め込んだだけの、どうしようもないガラクタですよ!!」
「ならば、なぜキラ・ヤマトに使わせるのです!」
「ほかに何があるっていうんですかあああ!!」
アズラエルは両手を広げた。
「敵の新型機はフリーダムを大破させた! しかも、敵にはまだ巨大兵器が残っている! このままでは、こちらが押し切られる! もう選んでいられる状況ではありません!」
「ですが!」
「ええい、もういいです! ゴミでもガラクタでも、今は使うしかないでしょうがああああ!!」
格納庫にアズラエルの声が響いた。
キラは二人のやり取りを見つめていた。
「……僕が乗るんですね」
ナタルはキラを見た。
「キラ・ヤマト。君に頼むしかない」
「分かりました」
「ただし、無理はするな。機体の制御に問題があれば、すぐに撤退しろ」
「はい」
「敵の巨大兵器を破壊できなければ、地球が危ない。君の力が必要だ」
キラは静かに頷いた。
「やってみます」
技術主任が勢いよく前に出る。
「では、さっそく起動試験を――」
「今は試験をしている時間はありません!」
ナタルが遮った。
「ええっ!?」
「実戦投入です。すぐに発進準備を!」
「そんな! まだ最終調整が!」
「時間がないと言っている!」
技術主任は口を開きかけたが、やがて悔しそうに機体を見上げた。
「……インフェルノストライカーの初陣が、いきなり本番とは」
キラはコクピットへと向かった。
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ストライクがドミニオンから発進する。
背部のインフェルノストライカーが展開し、六基のアグニが機体の周囲に浮かび上がった。
「こちらキラ・ヤマト。発進しました」
『ドミニオン、了解した』
ナタルの声が届く。
「機体の制御系は?」
『現時点では正常だ。だが、無理はするな』
「分かっています」
キラは操縦桿を握り直した。
六基のアグニが、それぞれ異なる方向へと動く。
一基を右へ。
一基を左へ。
残る四基を上下と前後へ。
それぞれの動きを同時に把握しなければならない。
「これは……!」
キラの額に汗が浮かぶ。
通常のモビルスーツとは違う。
機体本体を動かしながら、六基の遠隔ユニットを別々に操作する。
一つに意識を向ければ、別の一つが遅れる。
六つすべてを制御しようとすれば、今度は本体の操縦がおろそかになる。
「なるほど……簡単じゃないな」
それでも、キラは機体を前進させた。
敵の巨大兵器を破壊するためには、まず戦場を突破しなければならない。
そして、その先にはプロヴィデンスがいる。
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「来たか」
クルーゼは接近するストライクを見つめた。
フリーダムではない。
背部に巨大な装備を背負った、見覚えのある機体。
「ストライク……?」
かつてヘリオポリスで開発された機体。
その姿を、クルーゼは覚えていた。
「なるほど。まだ動くか」
プロヴィデンスが向きを変える。
無数の遠隔兵器が展開された。
キラはその光景を見て、操縦桿を握りしめた。
「やっぱり、あなたが……!」
プロヴィデンスの攻撃が始まる。
四方から飛来するビーム。
キラは機体を急旋回させ、六基のアグニを散開させた。
「行けっ!」
六基がそれぞれ別の方向へ飛ぶ。
そのうち二基が敵の遠隔兵器を狙い、残る四基がプロヴィデンス本体へと照準を合わせた。
六方向から放たれたビームが、戦場を貫く。
プロヴィデンスは機体を傾け、攻撃を回避した。
しかし、すべてを避けきることはできない。
装甲の一部が焼け、火花が散った。
「ほう……」
クルーゼの声に、わずかな興味が混じる。
「面白い装備を持ち出してきたものだ」
プロヴィデンスは反撃する。
無数の遠隔兵器が六基のアグニへと向かっていった。
「くっ!」
キラはアグニを動かす。
一基を後退させ、別の一基を横へ逃がす。
同時に本体を旋回させ、迫るビームを回避する。
一基のアグニの装甲をビームがかすめた。
「危ない!」
だが、機能は失われていない。
キラはすぐに軌道を修正し、六基すべてを再配置した。
「六つとも動かせる……!」
まだ制御は不安定だ。
しかし、少しずつ感覚がつかめてきている。
プロヴィデンスは攻撃を続ける。
その圧倒的な手数は、インフェルノストライカーの六基をもってしても容易には覆せない。
だが、六基のアグニは一発ごとの火力が違う。
一基の砲撃を避けても、別の一基が追いすがる。
複数の方向から同時に狙われれば、プロヴィデンスといえども回避に専念せざるを得なかった。
「この火力……!」
キラは六基の位置を調整する。
一基を囮にして敵の遠隔兵器を誘導し、その隙に別の一基を回り込ませる。
残る四基はプロヴィデンス本体の退路を塞ぐ。
「そこだ!」
六基のアグニが一斉に砲撃した。
プロヴィデンスは機体を大きく傾け、かろうじて攻撃をかわす。
しかし、完全には逃げ切れない。
装甲の一部が吹き飛んだ。
「やるな、キラ・ヤマト」
クルーゼは静かに呟いた。
「だが、まだ足りん」
プロヴィデンスの遠隔兵器が、再び広範囲へと散開する。
戦場を覆うような無数の光。
キラは六基のアグニを引き戻した。
「このままじゃ、敵の巨大兵器までたどり着けない……!」
その時、通信が入った。
『キラ・ヤマト! こちらドミニオン!』
「バジルール中尉!」
『敵の巨大兵器は、まだ再発射できない。しかし、いつまでも時間があるわけではない!』
「分かっています!」
『こちらも残存戦力で敵を引きつける。君は巨大兵器の破壊を優先しろ!』
「ですが、プロヴィデンスが!」
『それでもだ! 巨大兵器を破壊しなければ、我々に未来はない!』
キラは前を見た。
プロヴィデンスは、まだそこにいる。
その向こうには、ジェネシスがあった。
「……分かりました」
キラは機体を前進させる。
プロヴィデンスの遠隔兵器が追いすがる。
六基のアグニがそれぞれ迎撃し、ビームの雨を押し返していく。
だが、プロヴィデンスもまた、キラを逃がすつもりはなかった。
「逃がさんよ、キラ・ヤマト」
クルーゼの声は、誰にも届かない。
「君には、最後まで見届けてもらわねばならん」
プロヴィデンスはストライクを追った。
---
ジェネシス。
その巨大な構造物は、宇宙に浮かぶ巨大な砲そのものだった。
すでに一度、その威力を見せつけている。
地球連合軍の艦隊を壊滅させた光。
そして次の照射が行われれば、今度は地球そのものが標的となる。
キラはジェネシスへと接近していた。
「大きい……」
モニターいっぱいに広がる巨大な構造物。
これを破壊しなければならない。
六基のアグニが展開する。
「まずは外側から……!」
キラは照準を合わせた。
六基の砲口が、巨大な構造物へ向けられる。
「いっけええええっ!!」
六方向から放たれたビームが、巨大な構造物へと突き刺さった。
爆発が広がる。
外装の一部が砕け、破片が宇宙へと散った。
しかし、ジェネシスはまだ健在だった。
「そんな……!」
表面を破壊しただけでは足りない。
内部の中枢まで届かなければ、止めることはできない。
「もう一度!」
キラが再び照準を合わせた、その時だった。
「待っていたよ、キラ・ヤマト」
背後から、プロヴィデンスが現れた。
クルーゼの機体は、ジェネシスを背にしてストライクの進路を塞ぐ。
「やはり、君はここへ来る」
キラは操縦桿を握りしめた。
「邪魔をしないでください!」
「邪魔? 違うな。私は君に見せてやりたいのだよ」
プロヴィデンスの周囲に、無数の遠隔兵器が展開する。
クルーゼは、ジェネシスを見た。
人類が作り上げた巨大兵器。
その存在は、人が抱く願望と恐怖、そして他者を凌駕しようとする欲望の結晶だった。
「これが人の夢! 人の望み! 人の業!」
クルーゼの声が、コクピットの中に響く。
「他者より強く、他者より先へ! 他者より上へ! 競い、妬み、憎んで、その身を喰い合う!!」
その言葉とともに、プロヴィデンスが動いた。
「人は力を求める。自らの欲望を満たすために、他者を踏みにじり、争い、殺し合う!」
無数のビームが放たれる。
キラは機体を旋回させ、六基のアグニを迎撃に回した。
「それが人間だというのなら!」
クルーゼの声が続く。
「ならば、君もその業から逃れられはしない!」
「違う!」
キラは叫んだ。
「僕は、そんなものを望んでいない!」
「ならば、なぜ戦う!」
「守りたいものがあるからです!」
「守るために戦い、戦うために力を求める。結局は同じことだ!」
プロヴィデンスの遠隔兵器が、ストライクを包囲する。
キラは六基のアグニを動かした。
一基が敵の攻撃を受け止め、別の一基が反撃する。
さらに二基が左右へ展開し、残る二基がプロヴィデンスの進路を狙う。
「それでも……!」
キラの声が強くなる。
「僕は、何もしないまま奪われるのを見ているだけなんて嫌だ!」
六基のアグニが砲撃する。
プロヴィデンスは機体を傾け、攻撃を回避した。
だが、ジェネシスを背負ったこの場所では、自由に動ける範囲にも限界がある。
クルーゼはそのことを理解していた。
「ならば、最後まで抗ってみせろ!」
プロヴィデンスが突進する。
ストライクの装甲が削られ、背部ユニットが揺れた。
「くっ……!」
キラは六基を分散させる。
プロヴィデンスの遠隔兵器が一基を追う。
その隙に、別のアグニが敵の側面へ回り込んだ。
「そこだ!」
砲撃が命中する。
プロヴィデンスの装甲が爆ぜた。
しかし、クルーゼは止まらない。
残る遠隔兵器がストライクへと襲いかかる。
「まだだ!」
キラは機体を急旋回させた。
一基のアグニがビームを受け、装甲表面に焼け跡が走る。
それでも六基すべてが動いている。
「これで……!」
キラは六基の位置を組み替えた。
プロヴィデンスの正面、左右、上下、そして背後。
六方向から、逃げ場を塞ぐように配置する。
「終わらせる!」
六基のアグニが一斉に火を噴いた。
プロヴィデンスは回避しようとした。
しかし、すべての攻撃を避けることはできない。
機体の装甲が次々と破壊され、遠隔兵器の動きが乱れる。
「ぐっ……!」
クルーゼの機体が揺れた。
それでも、プロヴィデンスはジェネシスの前から退かない。
「まだだ……!」
キラは前を見た。
プロヴィデンスを倒すだけでは足りない。
その背後にあるジェネシスを破壊しなければ、すべてが終わらない。
「クルーゼ!」
キラの声が戦場に響く。
「もうやめてください!」
「やめる?」
クルーゼは笑った。
「何を今さら。人は止まらんよ。欲望も、憎しみも、争いもな!」
プロヴィデンスが再び攻撃を仕掛ける。
キラは六基のアグニを引き戻し、機体をジェネシスへ向けた。
「僕は……止める!」
---
ドミニオンの艦橋では、キラの機体が巨大兵器へ接近している映像が映し出されていた。
「通常出力では、外装を破壊するのが限界か……」
ナタルが呟く。
「しかし、あれ以上の出力を出せば、機体が持ちません!」
技術主任の声が通信に割り込んだ。
「インフェルノストライカーは、六基のアグニを同時に最大出力で運用するようには設計されていません! 出力制限を解除すれば、制御系にも機体にも過大な負荷がかかります!」
「つまり?」
アズラエルが問い返す。
「つまり、まともに動く保証はありません! いや、そもそも動作を維持できるかどうかも分からないのです!」
「そんなことは分かっていますよ!」
アズラエルはモニターを睨みつけた。
「ですが、あれを破壊できなければ、こちらが終わりなんでしょうが!」
ナタルは通信回線を開いた。
『キラ・ヤマト! 聞こえるか!』
「はい、バジルール中尉!」
『敵の巨大兵器は通常出力では破壊できない! 機体の負荷も限界に近い! 無理をするな!』
キラは目の前のジェネシスを見た。
その前には、なおもプロヴィデンスが立ちはだかっている。
「……通常出力じゃ、足りない」
キラの視線がコクピット内の制御画面へ移る。
インフェルノストライカーの出力制限。
それは、六基のアグニを安全に運用するための制御プログラムによって管理されていた。
制限を解除すれば、六基すべてをさらに高出力で稼働させられる。
だが、その先に何が起こるかは分からない。
『キラ・ヤマト! 聞いているのか!』
ナタルの声が響く。
キラは返事をしなかった。
代わりに、操縦桿から片手を離す。
そして、制御端末へ指を走らせた。
「何を……?」
ドミニオンの艦橋で、技術主任が画面を見つめる。
キラが機体の制御プログラムにアクセスしている。
しかも、その操作速度は異常だった。
「ま、まさか……!」
技術主任の顔色が変わる。
「やめてください! そこは出力制限の管理領域です!」
キラの指は止まらない。
画面上に並ぶ制御プログラムが、次々と書き換えられていく。
通常ならば慎重に確認しながら行うべき作業を、キラは戦闘中のわずかな時間で進めていた。
制御の優先順位を変更し、出力制限に関わる設定を書き換え、機体側の安全制御を強制的に上書きする。
『キラ・ヤマト! 何をしている!』
ナタルの声が一段と大きくなる。
「出力制限を……解除するつもりです!」
技術主任が叫んだ。
「そんなことをすれば、機体が持ちません! 制御系が耐えられない! 六基すべてを最大出力で動かせば、本体にも負荷が集中するんです!」
『キラ・ヤマト! ただちに操作を中止しろ!』
しかし、キラの手は止まらなかった。
「このままじゃ、ジェネシスを破壊できない」
「何を言っているんですか! そんなことをしたら――!」
「それでも、やるしかないんです!」
最後の入力が完了する。
画面に表示されていた出力制限の項目が切り替わった。
リミッター解除。
同時に、六基のアグニが一斉に光を放つ。
機体が激しく震えた。
「出力が……!」
技術主任が声を失う。
六基の砲口へ、通常時とは比較にならないエネルギーが集まっていく。
「キラ・ヤマト……!」
ナタルの声が通信回線に響く。
だが、もう解除された制限を元に戻す余裕はない。
キラは操縦桿を握り直した。
「これで……!」
---
クルーゼは、ストライクの変化を見ていた。
「ほう……」
六基のアグニが、通常とは明らかに異なる輝きを放っている。
「自ら制限を外したか」
プロヴィデンスの遠隔兵器が展開する。
その動きは、先ほどまでとは違っていた。
キラの機体に、もはや余裕はない。
インフェルノストライカーの制御系は限界を超えつつある。
それでも、六基のアグニはジェネシスへ向けられていた。
「見せてもらおう。君が最後に何を選ぶのかを!」
プロヴィデンスが突進する。
無数のビームがストライクへと殺到した。
キラは六基を動かす。
一基が敵の攻撃を受け止め、二基が遠隔兵器を撃ち落とす。
残る三基がプロヴィデンスへと照準を合わせた。
「まだ邪魔をするか!」
キラは機体を旋回させる。
プロヴィデンスの攻撃が装甲を削り、背部ユニットが大きく揺れた。
警告音が鳴り響く。
制御系の負荷は限界を超えていた。
それでも、六基のアグニはすべて動いている。
クルーゼは、ジェネシスを背にしたままストライクを見据えた。
「これが人の業だ。君もまた、その中で生きている!」
「違う!」
キラは叫んだ。
「僕は、そんなもののために戦っているんじゃない!」
「ならば、何のために戦う!」
「守るためです!」
「誰を守る? 何を守る? 人はその答えを求めるたびに、また別の誰かを傷つける!」
「それでも!」
キラは六基の照準を合わせた。
「だからって、何もしないわけにはいかない!」
六基のアグニが、ジェネシスへと向けられる。
プロヴィデンスは、その正面に立ちはだかった。
「ならば、君の望みごと、このジェネシスの光に呑まれるがいい!」
クルーゼの声とともに、プロヴィデンスが最後の攻撃を放つ。
キラは機体を前進させた。
六基のアグニがそれぞれ別の方向へ動き、迫る遠隔兵器を迎撃する。
一基がビームを受ける。
二基が敵の遠隔兵器を撃ち落とす。
残る三基がプロヴィデンスの進路を塞ぐ。
その一瞬、プロヴィデンスの動きが止まった。
「今だ!」
キラは六基すべての照準をジェネシスへと向けた。
「これで……終わらせる!」
六基のアグニが、最大出力の光を放つ。
「あたれええええ!!!」
六条の光が、ジェネシスへと突き進んだ。
プロヴィデンスはその正面に立ち、最後の攻撃を放とうとする。
だが、すでに遅かった。
最大出力のビームが、プロヴィデンスを貫く。
そのままジェネシスへと到達した光が、巨大な構造物の内部を撃ち抜いた。
次の瞬間。
ジェネシスの内部で、巨大な爆発が起こった。
光が広がる。
構造物が砕け、無数の破片が宇宙へと飛び散った。
その爆発は、プロヴィデンスをも飲み込んでいく。
クルーゼの機体が、ジェネシスとともに光の中へ消えていった。
「これが……人の……!」
その声も、爆発の光に呑まれた。
ジェネシスは崩壊した。
プロヴィデンスもまた、その爆発の中で破壊された。
だが、インフェルノストライカーも限界だった。
最大出力を維持していた六基のアグニが、次々と制御を失う。
本体の装甲が裂け、内部から火花が散った。
「機体が……!」
技術主任の声が通信に響く。
「そんな! そんな馬鹿な! インフェルノストライカーが!」
ストライクの機体が大きく揺れた。
そして、インフェルノストライカーは爆発した。
巨大な光が戦場を覆い尽くす。
ジェネシスも、プロヴィデンスも、インフェルノストライカーも。
すべてが、光の中へと消えていった。
---
ドミニオンの艦橋に、沈黙が広がった。
モニターには、ジェネシスの崩壊を示す映像が映し出されている。
敵の巨大兵器は破壊された。
同時に、プロヴィデンスの反応も消失していた。
そして、インフェルノストライカーの反応もまた、完全に途絶えていた。
「……目標の破壊を確認」
オペレーターが報告する。
格納庫では、技術主任が立ち尽くしていた。
「私の……インフェルノストライカーが……」
声が震える。
「六基のアグニが……あの美しい機体が……」
技術主任の身体から、みるみる生気が失われていく。
「そんな……そんなことが……」
次の瞬間。
技術主任は灰になった。
床には白衣の袖だけが残されていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
インフェルノストライカーの物語は、これにて完結です。
六基のアグニを搭載した、無茶苦茶な火力と無茶苦茶な制御負荷を持つ機体。その最後の出番は、ジェネシスとプロヴィデンスをまとめて破壊するという、まさにインフェルノにふさわしいものとなりました。
そして、技術主任の夢もまた、宇宙の彼方へ……。