AIのサポートも受けてどれほどできるのかテスト的な意味合いもあります。
たまにでもいいので見てくれると嬉しいです。
人生というものは、なかなか思いどおりにいかない。
仕事、人間関係、お金、時間。
大人になれば自由になれると思っていたのに、実際は自由に使える時間が減るばかりだった。
好きなゲームの新作は迷走することが増えるわ、続編は出なくなるわ、TCGのデッキを作ろうにも金が湯水のように溶ける…環境デッキに4投必須のカードが1枚9000円くらいするとか頭にシロアリでも湧いてるんじゃないかと思うレベルだ。
1番メインでやっているMMORPGはしっかり続いているのが不幸中の幸いと言うべきか。
その上趣味のコスプレの衣装をオーダーしようにも、金欠に悩む日々。
コスプレだけでなく、他に趣味としてやっているダンスや動画投稿に配信についてももっとクオリティを上げたかった。
やりたいことは山ほどあるはずなのに結局どれも中途半端だった気がする。
だからなのだろうか。もし人生をもう一度やり直せるならと考えるようになったのは。
今度はもっと好きなことをして生きてみたい、と。
……いや。
だからって、本当にやり直させてくれとは言ってないんだけどな。
しかも、性別まで変えて。
◇◆◇
「……んぅ」
目が覚めた。
最初に感じたのは、妙に柔らかい布団の感触だった。
鼻をくすぐる洗濯洗剤の匂いに妙な懐かしさを感じた。
子どもの頃、実家で使っていた洗剤の匂いに似ている。
「……ちょっとまて?」
寝起きの声が出たが、なんだか妙に高い。
「……あー、あー?」
もう一度疑問を抱きながらも声を出すが、結果は何も変わらない。
やっぱり高い。というか、幼い。
妙に舌足らずな、子どもの声だった。
「…………」
寝ぼけているのだろうか。
昨日は確か、いつもどおり仕事から帰ってきて、夕飯を食べて、それから少しだけゲームをして……。
高難度レイドの固定活動をしていて日付が変わるまで起きていたんだった。固定メンバーからの「誕生日おめでとう」という言葉もしっかり覚えている。
となると必然的に日付もわかる。
今日は三月五日。俺の誕生日だ。
本来なら三十歳になる、記念すべき日。
……魔法使いになっちまったんだなといやでも痛感させられる。こんな状況になっているのもそれをより加速させている。
だからといって何か特別な予定があったわけでもない。
せいぜい、仕事帰りにメロンでも買おうかと思っていたくらいだ。
それなのに。
「……ここ、どこだよ?」
目の前に広がっていたのは、見覚えのある天井だった。
白い天井。部屋の中央には、新築の住宅らしい真新しい照明。
そして壁際には、小さなぬいぐるみが並んだ棚。
どう見ても、俺が昨日寝た部屋ではない。
それどころか。
「……実家?」
しかも、昔の。
俺は布団から起き上がった。
その瞬間、何かがおかしいことに気づく。
視線が低い……というより低いなんてものじゃない。
部屋全体がやたら大きく見える。
枕も、布団も、棚も。
まるで子供が小人にでもなってしまったかのような状況だ。
「……は?」
思わず両手を見たが、昨晩までの記憶にある手と比べると小さい。というかめちゃくちゃ小さい。
しかも、指が細くて、肌がすべすべしている。
間違いなく俺の手じゃない。
「え、ちょ……」
慌てて布団をめくる。
そこにあったのは、淡いピンク色のパジャマだった。
胸元には小さなウサギの刺繍。袖にはフリルまでついている。明らかに元の自分には似合わないであろう代物。
「…………」
何これ。いや、本当に何これ。思わず某王様が友人Jのデッキを見た時の声が出そうになった。
とりあえず素数を数えて落ち着こう。
こういうときこそ冷静な状況判断が大切だ。
「2、3、5、7、11、13……というか可愛い声だな。」
可愛くなった自分の声に対してツッコミを入れつつも、状況を整理する。
まず、俺は昨日まで二十九歳の男だった。
これは間違いない。
会社にも行ったし、夕飯も食べたし、ゲームの固定活動もした。
そして、三十歳の誕生日を迎えて魔法使いの仲間入りをするはずだった。
それが今は、どう見ても小さな子どもになっている。
「わけがわからないよ……」
どこぞのインキュベーターがほざきそうなセリフを吐きつつも、さらに状況を整理する。
「……とりあえずかがみ」
そう呟いた瞬間、自然と部屋の隅に視線が向いた。
そこには、小さな姿見が置かれていた。
なぜか、そこに鏡があることを知っていた。
その事を自分でも不思議に思いながら、ベッドから降りる。
足が床につくが……短い!歩幅が、あまりにも短い!
たった数歩の距離が、妙に遠く感じた。
それと同時にプレイしていたMMORPGの小柄な種族はこんな気持ちだったのか…などと謎の想いを抱いた。
そして、鏡の前に立つ。
「…………は?」
そこに映っていたのは、一人の女の子だった。
肩より少し長い茶色の髪。
前髪は眉のあたりで切り揃えられていて、大きな瞳は少し眠たそうに垂れている。
丸みのある頬。小さな鼻と口。
そして、ピンク色のウサギのパジャマ。
どこからどう見ても、30際の成人男性には見えない。良くて5歳くらいの女の子だ。
「…………なぁにこれぇ?」
とうとう我慢していた本心が漏れた。それと同時に鏡の中の女の子も、同じように口を開けた。
試しに右手を上げると、女の子も右手を上げた。
首を傾げると、同様に女の子も首を傾げた。
夢じゃないのかと思いながら頬をつねる。
「いひゃっ!?」
結構痛かった。どうやら夢ではないらしい。
いや、夢であってくれ。お願いだから。
「……うそでしょ」
鏡の前で固まること、およそ一分。
俺はようやく、一つの結論にたどり着いた。
どうやら俺は女の子になってしまったらしい。
◇◆◇
さて、ここで、もう一つ重大な問題がある。
俺は今、自分が誰なのか分かっている。
いや、正確には、二人分の自分を覚えている。
田村やよい。
今日で五歳になる女の子。
父と母、三つ年上の姉、四つ年下の弟がいる。
好きな食べ物はオムライスで苦手な食べ物はピーマン。
幼稚園では、友達から「やよちゃん」と呼ばれている。
最近のお気に入りは、母が買ってくれた国民的収集対戦RPGに出てくる黄色いネズミのぬいぐるみ。
……全部、知っている。それも、他人のプロフィールを読んだような感覚ではない。
全て、本当に自分が体験した記憶として残っている。
母に抱っこされたこと。姉と喧嘩したこと。弟が生まれた日のこと。
仕事で忙しい父が珍しく公園で遊んでくれたこと。
そういう小さな思い出が、当たり前のように頭の中に存在していた。
だけど、それと同時に。
俺には、もう一つの人生の記憶がある。
二十九歳まで、男として生きてきた人生。大学まで学校に通って、働いて、趣味にお金を使って。
ゲームをして、コスプレをして、たまに動画を投稿して。
オンラインでは「Lae」という名前でそれなりに名前の売れたヒーラーとして活動していた。
それが、昨日までの俺だった。
「……どういうことなの、これ」
思わず頭を抱える。
記憶が混ざっている、というわけではない。
どちらもはっきりしている。男だった俺の人生も。「やよい」として生きてきた五年間も。
どちらも、自分自身のものだと感じる。
ただ、考え方や性格の中心にあるのは、やっぱり二十九歳まで生きてきた俺の方だった。
……とはいえだ。
「……やよい、かぁ」
自分の名前を口にしてみる。
不思議な感覚だった。
初めて名乗った名前ではないはずなのに、どこか新鮮だ。そして同時に、ひどく馴染んでいる。
どうやら、この世界の俺は最初から女の子として生まれてきたらしい。
つまり、単純に昔へ戻ったというだけではない。
歴史そのものが違っている。
「……並行世界、ってやつか?」
ゲームやアニメではよく見る設定だが、まさか自分が体験することになるとは思わなかった。
しかも、性別まで変わっている。
普通、こういうのって、もっと説明があってもよくないか?
神様が現れるとか、謎の声が聞こえるとか。
ステータス画面が表示されるとか。
「……ステータス」
何も起こらない。
「……オープン」
もちろん、何も起こらない。
「…………」
どうやら現実はそんなに甘くないらしい。
◇◆◇
「やよいー? 起きてるー?」
突然、扉の向こうから声が聞こえた。
母さんの声だ電話ではほぼ毎日話しているが、直接聞くという意味では少し懐かしい。
いや、違う。昨日まで聞いていた声より、ずっと若い。
「……おきてるー!」
反射的に返事をした。
すると、扉が開く。
「おはよう、やよい」
そこに立っていたのは、若い頃の母さんだった。記憶の中にあるよりも遥かに若い。
思わず見つめてしまう。
「……?」
「どうしたの? そんなにじーっと見て」
「……なんでもない」
「ふふ、変な子ね」
母さんは笑いながら、俺の頭を撫でた。
その手が、妙に大きい。
当たり前だ、今の俺は五歳なのだから。
「今日はやよいのお誕生日でしょう? お昼からみんなでお祝いするからね」
「……うん」
「五歳になったんだから、もうお姉ちゃんね」
そう言われて、思わず苦笑しそうになった。
いや、精神的には三十歳なんですけど。
……とは、さすがに言えそうにない。
「ほら、着替えておいで。朝ごはんできてるから」
「はーい」
元気よく返事をすると、母さんは満足そうに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
「…………」
さて、どうしたものか。
今の会話で分かったことが一つある。
母さんは、俺を完全に五歳の娘として扱っている。
まあ当然だ、この世界では最初からそうだったのだから。
たぶん親父も、姉貴も、弟も同じだろう。
男だった俺のことなんて、誰も知らない。
少なくとも、今は。
「……まあ、いっか」
とりあえず、朝ごはんを食べよう。
考えるのはそれからだ。
◇◆◇
リビングへ行くと、すでに家族が揃っていた。
「やよい、おはよう!」
最初に声をかけてきたのは姉だった。
三つ年上だから、今年で八歳。
まだまだ小学生らしい、元気いっぱいの姿だ。
「おはよ、おねえちゃん」
「今日お誕生日じゃん! おめでと!」
「ありがと」
そう答えると、姉は嬉しそうに笑った。
……ああ。何だか、不思議だ。前の人生でも姉は姉だった……当時はこんな性格だったっけ。昨日までの使いっ走りにしてくる姉の印象が強すぎて違和感がすごい。
だが、俺のことは弟としてしっかりと見てくれていた。
それが、今は妹として扱われている。
同じ姉なのに、関係性が少し違う。
そんな些細な違いが、妙に面白かった。
「やよい、おはよう」
新聞を読んでいた父さんが声をかけてくる。
「おはよ、おとうさん」
「五歳の誕生日、おめでとう」
「ありがと!」
「今日は何が食べたいんだ?」
「……オムライス!」
即答だった。
いや、正確には、体が勝手に答えた。
「やよい」としての記憶が、自然にそうさせたのかもしれない。
「やっぱりか」
父さんは笑った。母さんも台所から顔を出す。
「もう、お昼はオムライスにするって昨日言ったでしょう?」
「そうだったな」
「おとうさん、わすれんぼー」
「はは、言われちゃったな」
そんなやり取りに、姉が笑う。
弟は子ども用の椅子に座って、意味も分からず手を叩いている。
賑やかで。穏やかで。何でもない家族の朝。
「…………」
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
前の人生では、こうして家族全員で朝食を食べる機会なんて、いつの間にか減っていた。
仕事の時間も、生活のリズムも違う。
大人になるにつれて、それぞれの生活ができていく。それは当たり前のことだ。
でも。こうしてもう一度、家族と同じ食卓を囲めるのは悪くない。
「やよい?」
「……ん?」
「ぼーっとして、どうしたの?」
姉に顔を覗き込まれた。
「なんでもないよ」
「ほんとー?」
「ほんと!」
「変なのー」
姉は笑いながら、パンを口に運んだ。
俺も椅子によじ登り、朝食に手を伸ばす。
……うん。まずは、この生活を楽しんでみよう。
◇◆◇
朝食を終えたあと、俺は自分の部屋に戻り、小さな机の前に座っていた。
目の前には、自由帳と色鉛筆という感じでいかにも五歳児らしい机の上だ。
だが、今からやろうとしていることは、あまり五歳児らしくない。
「……さて、と」
まずは、状況を整理しよう。
現在は二〇〇六年三月五日。俺は五歳。
そして、元の人生の記憶は二〇三一年三月五日まである。
つまり、二十五年分の未来を知っていることになる。
もちろん、すべてを正確に覚えているわけではない。
いつ何が起きたのか、細かい日付までは曖昧だ。
それでも、大きなニュースや、流行したゲーム、動画サイトの発展、企業の成長などはある程度覚えている。
……これは。
「……結構、すごいのでは?」
思わず呟いた。
いや、待て。
調子に乗るのは早い。
まず、ここが元の世界と完全に同じ歴史をたどる保証はない。
何しろ、俺自身が女の子として生まれているのだ。
それだけでも、すでに大きな違いがある。
そのため、未来の知識を使ったところで、全部が思いどおりになるとは限らない。
それに、今の俺は五歳だ。銀行口座を自由に開設できるわけでもないし、株を買えるわけでもない。
そもそも、自分のお金なんてあったとしてもお年玉くらいしかない。
「……現実とはかくも世知辛いものである。」
五歳児の姿で、人生の厳しさを噛み締める。
傍から見れば何とも妙な光景だ。
だが、悪いことばかりでもない。
時間ならある。それこそ、山ほど。
今から少しずつ準備すればいい。
将来のための勉強も、お金のことも、趣味のことも、全部。
俺は自由帳を開いた。
まだ少しぎこちない、小さな手で鉛筆を握る。
そして、最初のページに文字を書いた。
『これからやりたいこと』
少し曲がった文字だったが、まあ仕方ない。
今の体は五歳なのだから。
その下に、一つずつ書き足していく。
『ゲームのレイドレースでワールドファーストをとる』
『ダンスをがんばる』
『どうがをつくる』
『コスプレのクオリティをあげる』
『おかねをためる』
『すきなことを、あきらめない』
「……よし」
書き終えて、満足げに頷いた。
何だか、小学生の夏休みの目標みたいになってしまったけれど。
まあ、いいだろう。そもそも、二度目の人生なのだ。
今さら格好つけても仕方ない。
前の人生では、色々なことを諦めてきた。
お金がないから。時間がないから。仕事が忙しいから。もう若くないから。下手くそだから。
そんな理由を並べて、やりたいことを後回しにしていた。
もちろん、すべてが無駄だったわけではない。
楽しいことだって、たくさんあった。
大切な友人もできた。
好きな作品にも出会えた。
それでも、やっぱり思う。
もっと色々なことに挑戦しておけばよかった、と。
「……今度は、ちゃんとやろう」
窓の外を見る。
柔らかな春の日差しが、庭を照らしていた。
二〇〇六年。
スマートフォンはまだ当たり前ではなく、動画投稿文化もこれから大きく変わっていく時代。
俺が好きだったゲームも、まだ発売されていないものがたくさんある。
あの頃夢中になった作品を、もう一度遊べる。
あの頃会った友人たちと、また知り合えるかもしれない。
それに、今度は、最初から女の子だ。
……これはこれで、色々と楽しめることがあるのでは?
「…………」
例えば、かわいい服を着てみるとか。
女の子のキャラクターのコスプレを、今までとは違う形で楽しむとか。
……待て待て俺、何を真剣に考えているんだ。
「……まあ、いっか」
思わず笑ってしまった。
どうせ、元の人生には戻れないかもしれない。
だったら、今の自分を、わざわざ否定する必要もないだろう。
男だった俺も。
「田村やよい」として生きてきた五年間も。
どちらも自分自身なのだから。
◇◆◇
「やよいー!」
階下から母さんの声が聞こえた。
「そろそろケーキ買いに行くわよー!」
「はーい!」
俺は自由帳を閉じ、椅子から飛び降りて部屋の出口へ向かった。
その途中で、ふと足を止めた。
鏡の中には、朝と同じ女の子が映っている。
茶色の髪。少し垂れた目。まだ幼い、小さな体。
これが、これからの俺。田村やよい。
「……よろしくね、やよい」
鏡の中の自分に、小さく笑いかけた。
すると、鏡の向こうの女の子も、同じように微笑んだ。
……さて、せっかく人生をもう一度やり直せるのだ。
今度こそ、好きなことを思いっきり楽しんでやろう。
ゲームも。ダンスも。動画投稿も。コスプレも。家族や友人との時間も。
全部、大切にしていこう。
もちろん、まずは今日の誕生日ケーキからだ。
「やよいー! 早くしないと置いてくわよー!」
「いまいくー!」
俺は小さな足で廊下を駆け出した。
こうして、三十歳になるはずだった元男性の俺は。
二〇〇六年三月五日、五歳の女の子として。
二度目の人生を始めることになった。
――今度は、もっと好きに生きてみよう。