処女作ゆえ拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
あらすじにもあります通り、「小説家になろう」にて同時掲載させていただいている作品となります。
今日の5限目の授業は生物。スカスカの生物教室でも楽しそうに教鞭を執る先生の声が響く中、数少ない生物選択者は、ウトウトする者や必死に授業を聞く者、内職に勤しむ者など様々だ。
かくいう俺も先生の授業などに耳は貸さず、関係の無い単元のページを暇潰しに先々読んでいた。その時、"アポトーシス"という語が目に留まる。
アポトーシスとは、簡単に纏めると『多細胞生物の体内の恒常性を維持するため不要な細胞が死ぬシステム』のことを言うらしい。
これを知った時、"あの現象"がアポトーシスと呼ばれていることにとても腑が落ちた。
あの現象とは…突然体に『異能』と『寿命』を表す"金色のタトゥー"が発現し"コーパス"と呼ばれるようになった人々が、互いに殺し合い寿命を奪うことでしか生き延びることができなくなる現象のことだ。
この現象を世界中の偉い学者達が研究した結果、導き出された結論は『増え過ぎた人類を間引くため発生した自然現象』。生物学的なアポトーシスと表現を揃えると、それは『世界の恒常性を維持するため不要な人間が死ぬシステム』と言える。
「だから"アポトーシス"か…」
思わず声に出してしまい、先生や同級生たちが怪訝そうにこちらを見つめてくる。
「今はその単元じゃないですからね。
「あ、すみません」
先生に窘められ、恥ずかしさで若干頬が熱くなる。だが、結局その後も俺が授業に集中するなんてことは無く、気付けば5限の終了を告げるチャイムが鳴っていた。
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「授業中に変な独り言言うなよ」
「ごめんごめん」
「急だったからビビったわ」
「それなー」
生物教室からHR教室へ、生物選択者の男子4人で移動している最中、何気ない会話が繰り広げられる。
「てかさ、
その4人の内の1人、
「ああ、別にいいよ」
俺は快く承諾する。
その後も4人はありふれた会話を続け、HR教室に戻り6限目の授業の準備をする。始まりのチャイムが鳴り、眠気と戦いながらノートをとっていると、気付いた頃には終わりのチャイムが鳴る。やっと暮会かと思えば、担任の無駄話で引き伸ばされる。
「最近、コーパス事案が増えてるから気を付けて下校するように」
解散間際、もう何度も聞いた忠告を聞き流し、俺と田中は教室を後にした。
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放課後、俺たちは近所の本屋に立ち寄る。
「欲しい参考書があってさ」
本棚に並んだ無数の参考書たちを、集中して物色する田中を傍目に、俺はふと入口付近へ視線をやった。
長髪の中年男性が、妙にソワソワと脇腹辺りを擦りながら、周囲に視線を散らしている。こちらに一瞬目が合ったが、彼はすぐに視線を外し、キョロキョロと目を動かしている。そんな男に、1人近付く筋肉質な坊主頭の男が居た。中年男はその男に気が付くと、その表情はより険しくなった。
「おい、なに見てんの?」
「ああごめん。別に。ぼーっとしてただけ」
田中が手に取った参考書を指差し、俺に薦めている時だった。
「お前だな!?」
店内に男の怒声が響いた。思わず振り返ると、中年男が坊主男の方へ腕を突き出し、牽制する様な姿勢で後退りしている。
2人の様子を眺めていると、ある違和感を覚えた。
周囲の景色…壁や本棚に切り取り線が浮かんで見える。それは段々と濃く、はっきり見えるようになっていく…。
「伏せろ!!」
後ろから叫ぶ田中の声に、思わず怯み身を屈める。
キンッ!!
耳を劈くような金属音と共に、立つのもやっとな程の強い風が入口方面から吹いてきた。その瞬間、店内の本棚が切り取り線に沿って切断され、吹き飛んでいった。
本棚の残骸や本の群れが、こちらにも襲いかかってくる。咄嗟に身を屈めて回避したが、俺と田中は本棚の下敷きになって、思うように身動きもとれない。体を押し潰される痛みに耐えながら顔を上げると、視線の先では顰め面の中年男が天井に向かって両手を広げていた。彼の手の先から、とてつもない風が生み出されているように見える。首を限界まで上げて天井を見やると、坊主男が背中を天井に張り付けていた。
否、強風で天井に押し付けられていると言う方が適切か。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
2人の男の雄叫びが、店内に響き渡る。風の轟音と共に、店内アナウンスさえも掻き消さんとする勢いだ。
『マタタビ図書1階にて、コーパス事案が発生しております。お客様の皆様は自分の身の安全を第一に避難してください。繰り返します…』
んなこと言われたって、こんな状況でどうしろって言うんだよ…。
生まれて初めてコーパス同士の争いに遭遇した上、身動きのとれない状況に俺は焦っていた。
無理矢理本棚と床に挟まれた体を引き抜こうとするが、ビクともしない。
このまま戦いに巻き込まれて死ぬのか?嫌だ、死にたくない。早く誰か助けに来てくれよ!
そう願うが、戦いはより一層激しさを増していった。
文房具コーナーの辺りで散らばったハサミが、独りでに動き出し、高速で中年男の元へ飛んで行った。ハサミが数本突き刺さった中年男は体勢を崩し、両手から繰り出す強風の方向が狂い俺たちの方へ。
刹那、俺たちは初めて生身で空を飛んだ。束の間の浮遊感の後に待っているのは、背面への鈍痛。2人は風に吹き飛ばされ、後方の壁に激突した。本棚に挟まれなかったのが不幸中の幸いか。
そのまま床に落ち、激痛が全身を襲う中この場からの逃走を図るが、思うようにはいかない。
コーパスたちは入口付近で争っているし、非常口はバラバラの本棚が塞いでいる。今はとにかく、遮蔽物に隠れ、吹き荒れる暴風とそれに飛ばされる本や本棚、それから何故か自立して飛んでくるハサミから身を守らねばならない。
2人で四つん這いになりながら、身を屈めて移動しようとしたその時。
キンッ!(グシャ…)
最初と同じ金属音と共に、嫌な生々しい音がした。視線を男たちに向けると、中年男の右腕が切り取り線に沿って切り落とされていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
中年男の絶叫と共に、再度金属音。無機質な音色と共に、今日一番の突風が吹いた。思わず左腕で顔を覆い、吹き飛ばされぬよう身を伏せる。
液体が飛び散るような音と、何か丸い物がゴロゴロと転がるような音が、俺の元へ近付いてきた。突風が収まり恐る恐る目を開けると、切断された中年男の頭部が、赤い血溜まりを作りながら転がる惨憺たる光景が広がっていた。
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目を覚ますと、見慣れない白い天井が広がっていた。全身の関節がズキっと痛むが、一応体を動かせないことはないらしい。
視界の外から見覚えのある顔が覗き込んでくる。
「礼!大丈夫!?」
姉ちゃんだ。その瞳には涙が浮かび、頬を伝い俺の顔まで落ちてくる。
「しょっぱ…」
口に入った姉ちゃんの涙は、少し塩辛かった。
痛みの残る箇所を庇いながら身を起こすと同時に、入口から医者が入ってくる。
「外傷による気絶というより、凄惨な現場を見たことによるショックで気を失っていたんでしょう。何はともあれ、目が覚めて安心しました」
それから、軽く怪我の状態の説明を受けた。
内蔵も無事で、運良く骨折も免れていた様だが、一応様子見で2日間だけ入院しなければいけないそうだ。
田中は俺よりも軽傷で、今回のコーパス事案の聞き取り調査を受けている最中らしい。目を覚ました俺の元にも、田中の聞き取りが終わり次第来るそうだ。
医者は連絡を終えると、病室から駆け足で出て行った。今回の事案の対応に忙しいのだろう。
「本当にあんたが無事で良かったよぉ」
「別に無事では無いけどな!痛いからどけて!?」
大袈裟に泣く姉ちゃんにのしかかられ、全身が痛む。その後も、延々と泣く姉ちゃんを宥めていると、ノックの音が病室に響いた。
「はい」
返事をするや否や、扉が開かれる。全身を黒いスーツで纏った女性が、スーツ姿の男数人を引き連れて入ってきた。
女性は真っ直ぐ俺に向かって歩いてくると、懐から手帳のような物を取り出し、俺に見せ付けてきた。
「
マリーシア…日本で運営されている、コーパス事案専門の公的機関だ。ドラマとかニュースでは見ることがあったけど、生で見るのはこれが初めてだ。
内心、少しワクワクする自分がいる。
三国さんは、その細い指で眼鏡の位置をクイっと直すと、当時の状況について幾つか質問をしてきた。
淡々と聞き取り調査は進み、日も完全に沈みかけた頃、彼女は荷物をまとめ、帰る準備を始めた。
「まだ体が痛むでしょうに、付き合わせてしまってごめんなさいね。お大事に」
「え?」
調査中の冷たい声色とは裏腹に、柔らかく温かい言葉を最後に投げかけられ、思わず声が漏れる。
「あ、はい。そちらこそ、お気を付けて…?」
その言葉が適切かどうかは分からなかったが、彼女は「ありがとう」と軽く頭を下げ、身を翻した。眼前を撫で切った、その黒く長い髪の残り香が、妙に印象深かった。
彼女たちが病室を後にした矢先、頭頂部をパチンと叩かれた。
「痛っ!何すんだよ!」
「あんた鼻の下伸びすぎ!確かに綺麗な
「それが怪我人に対する仕打ちかよ!」
その後も、俺と姉ちゃんの他愛のない会話は病室に響いていた。
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「やっと俺の獲物が見つかったのか?」
「ええ。あなたの寿命が今一番少ないですから、今回はあなたに狩って貰おうかと」
電話越しに、機嫌の悪そうなため息が聞こえてくる。
「何ヶ月待ったと思ってる?もう残り63日しかねぇのよ。能力を使うのにも使うと考えたら、結構ギリギリだぜ?」
「あなたの能力はそこまで消費しないでしょう。とにかく、あなたにとっては久しぶりの狩りになるので、しっかり準備して臨んでください」
ノイズ混じりの高笑いが、不快に耳を侵してくる。
「覚醒したてのヒヨっ子相手なんだ。そう簡単に死なねぇよ。いやぁ…腕が鳴るねぇ。日時と能力は?」
「3日後の月曜日、"
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俺は日曜日には退院し、痛み止めを飲みながらではあるが普通の日常に戻った。どうやら今日、月曜日からもう学校に行って良いらしい。俺としてはもっと入院して学校を休みたかったけど、そういう訳にもいかないようだ。
かなり凄惨な現場を目の当たりにして、精神的なショックも決して軽くはなかったけど、姉ちゃんやその友達、両親に心理カウンセラーさんと、手厚くサポートされたお陰ですぐに復帰できた。
少し憂鬱な月曜日だけれど、変わり映えない日常に感謝して今日も頑張ろう。
重い瞼を擦り、ふと姿見に映った自分に目をやる。
右二の腕に、"金色のタトゥー"。
『
そう刻まれていた。
「うそ…だろ…?」