ヒロインたちは俺を死ぬ運命から絶対に救いたいらしいけど、俺は何も知らないので日常を過ごすことにした。だけど、ヒロインたちの所為で目立ってしまうので付きまとうのは止めて欲しい 作:主義
俺の名前は山本《やまもと》晃英《あきひで》。
俺は別に特別な人間ではない。別に特段変わった趣味もなければ、性格も特出したものはないと思っている。
そんな俺は今日から高校生になる。
家から通える範囲の高校であり、それなりの学力が高く、親が納得してくれる高校こと永覚《えかく》高等学校に進学した。
いつも通りの時間に起きて、お母さんが作ってくれた朝食を食べ、顔を洗ったり、歯磨きをしたり、身支度を整えて家を出る。
今日の持ち物はカバンぐらいで、それ以外は何も持つ必要がない。
よく高校デビューとか耳にするけど、僕はそういう感じの人間でもない。目立たないし、クラスの中心にいるようなタイプの人間でもない。それは僕の短い十五年の生活でちゃんと理解できている。
だから、女子からたくさん好かれたいとか、友人をたくさん作りたいとか、身の丈の合わないような望みは持たない。俺は俺が普通に学校生活を送れれば、それ以上のことは望まないと決めている。
だからこれからの学校生活も大きな問題や争いに巻き込まれずにいたい。
――――――――
永覚《えかく》高等学校までは徒歩十分程度だ。
小学校や中学校と違って電車通学で来る生徒がいることを考えれば、僕はとても近い部類に入るのだろう。
あっという間に校門まで着いてしまう。
俺と同じように永覚《えかく》高等学校に入学するであろう人たちがたくさんいた。両親に入学記念の写真を撮っている者もいたが、俺はそんなこと気にせずに体育館の方へと足を進めた。
体育館に入る前に上履きに着替える。そして体育館の中にクラス分けがちゃんと張り出されていたため、それを見て自分のクラス・出席番号を知る。知れたお陰でどの座席に座るべきなのかがはっきりした。
体育館にはそれぞれ何組の何番の子はここに座る、と決められているのだ。
俺はその指定された席へと足を進めようとしたタイミングで後ろから誰かに名前を呼ばれた。
「あ…山本くん…だよ、ね?」
振り返るとそこには黒髪ロングの女子生徒が立っていた。少なくとも僕に見覚えがないため、初対面ではあるはずだ。
俺に話しかけているのは間違っていないため、何か返答した方がよさそうだ。
「…ああ、山本だけど、なんか用か?」
「う、ううん。なんでもないの…っ……」
なぜか目の前の黒髪女性は急に目に涙を溜めて、静かに泣きだしたのだ。急すぎる展開に僕の脳が追い付かない。
別に子供の用に泣き叫んでいるわけではないが、両手で顔を覆い、泣いているのだ。
周りの生徒たちも何かあったのか…という視線を俺と黒髪女性に向けてきている。入学初日で女子を泣かせることになる…なんて。
「お、俺がなんかしちゃったか…。悪いことしたなら謝るよ」
このまま泣き続けられると、入学早々変な噂が学校中に広まってしまう。何で泣いているのか、理由も分からないため、僕が何をすればいいのかまるで分からない。
黒髪女性は両手で顔を覆うことを止めたことで、顔が露わになる。そしてそこには本当に泣きはらしている顔があった。
嘘泣きだと思っていたわけではないけど、ちょっと疑っている部分があった。
こっちは面識がなくて、あちらは名前も知っている。なんで知っているのかも分からないため、多少警戒心は強くなっていた。
でも、彼女の泣きはらした姿を見るとさすがにウソだと思えなかった。
俺は何かを口にすることも出来なかった。今の彼女に対してどんな言葉を掛けるのが正しいのか、全く分からなかったのだ。
俺と彼女の間は沈黙が続き、彼女は踵を返して走り去っていってしまった。
そんな彼女の背中を眺めることしかできなかった。
それからしばらくして入学式は始まった。
入学式は、校長や生徒会長、新入生代表の言葉などなど。別に聞き流していたとしても問題がないようなことばかり。
それが終われば、俺たちはそれぞれの教室へと向かう。今日は入学式ということもあり、一度教室に集まって担任から色々と説明がある。説明が終われば、今日はそのまま終わり。
俺は一年C組の四十番。山本ということもあって、俺はどうやら一番後ろのようだ。最初の座席は出席番号通りになるため、窓側の一番後ろの特等席になる。
「この苗字で有難いのは…これぐらいだ」
割り当てられた座席に付き、俺はカバンを席の上に置く。
しばらく窓から見える校庭の様子を観察していた。どうやら陸上部が活動しているようで多くの生徒が校庭にはいた。
その様子を見ると頭をよぎるのは部活についてだ。
「部活か…」
どこかの部活に所属したいという気持ちは全くないと言ってもいい。だが、頑なに入りたくないというわけでもないのが面倒くさいところだ。
「まずは…どんな部活があるのか、調べるところから初めて見るか」
しっかりと吟味をした上で部活に所属するべきなのかを決めればいい。
そんなことを考えつつ、窓から外の風景を眺めているとなんか視線を感じて、クラスの中を見渡すと視線の正体はすぐに分かった。
俺の隣に座っている女子生徒がずっとこっちを見ているのだ。
「…なにか用?」
「い、いえ…そ、そういうわけではなくてですね…」
僕が視線を向けると彼女はなぜか、しどろもどろになりだした。それでも彼女は僕から視線を逸らすことはなく、ずっとこっちを見てきているのだ。さすがに、ここまで視線を受けると何もないってことはないだろう。
何かあるからこそ、こっちを見てきているんだろうと。
「そこまで見られるとこっちも落ち着かない。何かあるんだったら言ってくれた方がいいんだが」
「…な、なんでもありません……ごめんなさい!」
謝って欲しくて聞いたわけではないんだが、なんで僕のことを見ていたのかを聞いているんだけど。
彼女は申し訳なさそうに何度か頭を下げて来るので、さすがにこれ以上聞くのは止めた方がいいと判断した。
端から見ると女性に謝らせている男子という構図が出来てしまい、そう見られてしまう危険性がある。入学初日でそんなイメージを持たれたら払拭するまで、それなりに時間が掛かる。
「…別に謝らなくていい。次から注意してくれれば」
そして僕は視線を彼女から校庭の方に移す。
少しして、担任の教師らしき人がやってきた。黒縁メガネの二十代後半ぐらいの男性。顔立ちも整っていることもあって、女性生徒を中心に黄色い声援が巻き起こっている。それに対して男子生徒は嫉妬深い視線を担任教師に向けていた。
その後、担任教師はこれからの日程や明日持って来るものなどの説明が行われた。なぜか、その間も隣の女子はずっとこっちに視線を向けていて、僕としては本当に居心地が悪かった。
担任教師が喋っている間に注意すると、逆に注目を集めてしまうかもしれない。そう考えると僕は何か言うことも出来ず、ただ視線に耐えるしかなかった。
担任教師の話が終わると、僕は荷物をまとめて一目散に教室を出た。
あの視線から逃れるように帰路に付くため、下駄箱で上履きと靴を履き替えたところでまた誰かに声を掛けられた。
「…やまくん?」
声のした方向に視線を向けると赤髪ロングの女子生徒が立っていたのだ。
「…だれ?」
僕はこんな女子を今まで一度も見たことがない。それなのに、今日は一度も見たことがない相手から話し掛けられたり、見られたりすることが多いから何か僕の方に問題があるんじゃないかと少し思ってしまう。
「や、やまくん…っ…」
そして次の瞬間に赤髪ロングの彼女は僕に抱き着いてきた。
「え…」
まさか見知らぬ女子生徒から抱き着かれるなんて。もちろん、そんな経験は今までしたことがない。
「やまくんのにおいだぁ~」
なんか抱きしめてきた奴は変態みたいなことを言っているし、これからどうするべきか判断できずにしばらくフリーズ状態になってしまった。その間も抱きしめてきた張本人はまるで今の状況を楽しんでいる。
「やまくん、ちゃんと食べてる?ちょっと細くて心配になっちゃう、今度ぼくがご飯作りに行ってもいいかな!?」
なんかまくしたてるように色々と言って来ているが、僕としてはそれに返答ができるほど、状況を整理できていない。
この状況がしばらく続いたところで、「優希《ゆうき》」という声が聞こえてきた。また視線をそちらに向けると、青髪の140ぐらいの女子生徒がこちらに近付いて来ていた。
「優希、あんた、人様に迷惑掛けるんじゃない」
その言葉にさっきまで何も考えずに抱きしめてきた赤髪の女子生徒の動きが止まり、恐る恐るという形で視線を青髪の生徒の方に向けていく。
「…奈菜…」
「優希、わたしも同じ気持ちを共有するあなたのことを痛めつけたくはない」
「…ち、ちょっとぼくの話をきいて!」
「聞かない。今のあなたは目的も忘れて、その方を抱きしめている。言葉よりも行動が全てを物語っている」
「こ、これはち、ちがくて…」
そう言いつつ、やっと赤髪の女子生徒は僕を抱きしめるのを止めてくれた。
「もうどんな言い訳をしたとしても、あなたにお仕置きをすることは既に決まっていること。もう大人しく受け入れるべき」
「…や、やだ…お仕置きだけはどうか勘弁を…」
「無理。わたしも何度目か分からない、あなたにお仕置きをしなくてはならない。約束を守れないあなたには」
青髪の女子生徒の方が身長は明らかに小さいのに、赤髪の女子生徒はずっと震えている。
その後、青髪の女子生徒は赤髪の生徒に首根っこを捕まえれて、どこかに連れていかれた。
去っていく時に青髪の女子生徒は礼儀正しく、僕に対して一礼をしてから去っていった。
なんかおかしなことに巻き込まれてしまったが、僕は少し逃げるように学校から帰路に付くのであった。
――――――
青髪の女子生徒は赤髪の女性の首根っこを掴みつつ、空き教室へと入っていく。
そして青髪の女性生徒は扉を閉めて、視線を赤髪の女子へと向ける。
「なんであなたはあんなことをしたの?」
「…あ、会えたのがうれしくて…」
「それはあなただけではなく、他の皆様も同じです。彼に会えて心臓の鼓動が早まり、今すぐにでも彼を抱きしめたいという欲望を必死に抑えている。それはあなたも分かっているはず」
「わ、わかってるよ。ぼくも最初は絶対に我慢しようと思っていたんだけど、姿を見ちゃったらもう抑えられなくなっちゃって…」
「…そうですか」
「ご、ごめんなさい…」
「いえ、もうやってしまったことは仕方がありません。どんなことをしたとしても取り返すことができないのですから」
「…ゆるして…」
「わたしもあなたのお尻を叩くのはもう勘弁したいのですが、仕方ありません」
そんなやり取りが空き教室で行われていた。