「さて…どうしたものか」
どうも俺です。異世界転移してなんか変なうさぎを倒したと思ったら次は牙狼とか言う狼達に囲まれています…最悪です。
──告。戦闘で死亡する確率70%、逃走成功率10%。
「言われなくてもわかっているよ!そんな事!」
俺がそうしていると唸り声を出したながら牙狼達が茂みから出てくる。リーダーと思う個体は周りの奴らより少し大きい。
「やるしかないか…」
2度目の人生でまさかのバッドエンド目前なんて理不尽すぎる。すると、頭の中で声がする
──提案。ユニークスキル『賭博師』を使用しますか?
【賭け内容】
勝利条件:敵の殲滅もしくは逃走。
チップ:魔素30%
報酬:身体能力大幅上昇
敗北:魔素30%消失
YES/No
こんな時に賭けなんてしてる場合か!でもどうせ死ぬ可能性があるなら…やけくそだ!
「YESだ!」
そうすると身体から何かが抜けるような感覚がしてその後身体の内側から力が溢れてくる。
「力が…これなら!」
俺は木の棒を構える。すると痺れを切らした牙狼達が襲いかかって来る。1匹が前足でひっかくように攻撃をするがそれを俺は後ろに飛んで回避した後にすぐに前方に踏み出してその牙狼の体に木の棒を叩きつける。身体能力が上がったおかげで力が増しており、そのまま牙狼1匹を木に向かって吹き飛ばす。
残りの牙狼達が一斉にこちらへ視線を向ける。
「グルルルル……!」
「お、おいおい……今のを見てまだ来るのかよ!」
どうやら仲間が倒されたことで、警戒するどころか敵意を強めたらしい。
牙狼達は互いに目配せをすると、左右に分かれて俺を挟み込むように動き始めた。
「連携まで取れるのかよ!」
一匹が正面から飛びかかってくる。
俺は木の棒を構えて迎え撃とうとしたが、直前でその牙狼が身体をひねった。
「なっ!?」
狙いは俺ではない。
その牙狼の攻撃に気を取られた隙に、別の一匹が横から飛び込んでくる。
「しまっ――!」
咄嗟に腕を上げて防御する。
衝撃で身体が後ろに押し戻された。
「ぐっ……!」
痛みはある。
だが、以前の身体なら今ので倒れていたか
もしれない。
──告。身体能力上昇により、通常時よりも高い耐久性を確認
「ありがたいけど、説明は後にしてくれ!」
俺はすぐに体勢を立て直す。
そして、目の前の牙狼に木の棒を振り下ろした。
しかし、牙狼は素早く横へ跳び、攻撃を避ける。
「くそっ、当たらない!」
身体能力は上がっている。
それでも、相手は野生の魔物だ。動きが速く、攻撃も単調ではない。
しかも相手は一匹ではない。
俺が一匹に集中している間にも、他の牙狼達がじわじわと距離を詰めてくる。
「このままじゃ……!」
その時、俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
「そうだ……!」
俺は周囲を見渡す。
近くには大きな木が何本も生えている。足元には木の根や石が転がっていた。
正面から戦って勝てないなら、地形を利用するしかない。
「来いよ……!」
俺はわざと隙を見せるように、ゆっくりと後退した。
牙狼達はそれを好機と見たのか、一斉に飛びかかってくる。
「今だ!」
俺は横へ飛び退いた。
勢い余った牙狼達のうち二匹が、足元に張り出していた木の根につまずく。
そこへ俺は木の棒を振り抜いた。
「これでもくらえ!」
一匹が地面に倒れ、もう一匹も体勢を崩す。
続けて、倒れた牙狼に木の棒を叩きつけた。
──告。敵個体二体の戦闘不能を確認
「よしっ!」
これで残りは――。
「……まだ六匹もいるのかよ」
しかも、リーダーらしき大きな牙狼はまだ動いていない。
群れの後方から、じっと俺を観察している。
まるで、俺の動きを見定めているようだった。
「お前が指示を出しているのか……?」
その瞬間、大きな牙狼が低く唸った。
すると、残りの牙狼達が一斉に動き出した。
「うわっ!?」
さっきまでとは違う。
今度は一匹が正面から飛び込み、もう一匹が背後に回る。さらに左右からも牙狼が迫ってくる。完全に連携している。
「ちょっと待て! それは反則だろ!」
俺は必死に身体を動かす。
一匹の攻撃を避け、もう一匹を木の棒で牽制する。
だが、すべてを防ぐことはできない。
「ぐっ!」
背中に衝撃が走る。
「痛ってぇ……!」
なんとか踏みとどまるが、手に持っていた木の棒が折れてしまった。
「嘘だろ……」
残されたのは、半分ほどの長さになった木の棒。
そして、目の前には牙狼の群れ。
──告。身体能力上昇の効果が低下しています
「え?」
──魔素消費による強化状態を維持できる時間が残りわずかです
「おいおいおい! 聞いてないぞ!」
──告。賭けの条件に時間制限は設定されていません
「そういう問題じゃない!」
どうやら、強化状態にも限界があるらしい。
俺は息を切らしながら、牙狼達を見つめた。
もう一度《賭博師》を使うべきか?
いや、今の状態でさらに魔素を消費するのは危険だ。
そもそも、次の賭けに勝てる保証もない。
「くそっ……どうすれば……」
その時だった。
「いやぁ、随分と賑やかやな!」
突然、場違いなほど陽気な声が響いた。
「……は?」
声のした方向を見る。
そこには、一本の木の枝に腰掛けている男がいた。
派手な服装に、片方の目だけが見えるピエロの仮面を被った怪しい人物がそこにいた
男は俺と目が合うと、楽しそうに手を振った。
「やあやあ! こんにちは!」
「こ、こんにちは……?」
いや、今そんな挨拶をしている場合じゃないだろ!
「ピエロ! そこにいると危ないぞ!」
俺が叫ぶと、男はきょとんとした顔をした。
「ん? ワイのことかい?」
「そうだよ! 早く逃げろ!」
「ははは! これはご親切にどうも!」
男は笑いながら枝から飛び降りた。
その動きを見た牙狼達が、一斉に男へと視線を向ける。
「おや? 今度はワイが相手か?」
男は首を傾げた。
そして、牙狼達が唸り声を上げながら飛びかかる。
「おっと!」
男は軽く身体をひねる。
牙狼の攻撃は空を切り、その勢いのまま男の横を通り過ぎた。
「はい、残念!」
男が指を鳴らす。
次の瞬間、牙狼の身体が地面に倒れた。
「……え?」
何が起きた?
俺にはまったく見えなかった。
男はそのまま別の牙狼へ近づく。
「君もお疲れ様!」
軽く手を振ると、また一匹が倒れた。
まるで遊びでもしているかのような動きだった。
残った牙狼達は明らかに動揺している。
そして、リーダーと思われる大きな牙狼が前に出た。
「おっ! 君が親玉?」
男は嬉しそうに笑った。
大きな牙狼は低く唸り、男に向かって勢いよく飛びかかる。
だが――。
「はい、おしまい!」
一瞬だった。
男が軽く腕を動かしただけで、大きな牙狼は地面に倒れた。
静寂が訪れる。
先ほどまで俺を取り囲んでいた牙狼達は、全員が地面に倒れていた。
「…………」
俺はただ、その光景を眺めていた。
「ふぅ! これでおしまいっと!」
男は服についた土を払いながら、こちらへ振り返った。
「いやぁ、危ないところだったな!」
「……あんた、何者なんだ?」
思わずそう尋ねていた。
男は飄々とした軽い態度で俺を見る
「おやおや? 助けてもらったのに、最初の質問がそれかい?」
「いや、だって……」
「ははは! まぁいいさ!」
男は俺の目の前まで歩いてくる。
そして、折れた木の棒を見て、感心したように声を上げた。
「それにしても、君。なかなか面白い戦い方をするな」
「面白い?」
「そうや! 身体能力を上げて、地形を利用して、格上の魔物に立ち向かう。いやぁ、見ていて飽きなかったわ!」
「見ていたのかよ……」
「最初からね!」
「助けてくれてもよかっただろ!」
「いやぁ、君がどうするのか気になっちゃってねぇ!」
悪びれる様子もなく笑う男。
なんだこの人……。
助けてもらったことには感謝しているが、どうにも信用できない。
すると、男はふと俺の顔を覗き込んできた。
「ところでさぁ」
「……何だ?」
「君、普通の人間じゃないやろ?」
「っ!?」
心臓が跳ねた。
「どういう意味だ?」
「いやいや、そんなに警戒しなくてもいいじゃないか!」
男は両手を広げる。
「自己紹介がまだやったな。ワイは旅人のラプラスて言うもんや」
「それで少しになることがあるから質問するが君、さっきから誰かと会話しているようだったしねぇ」
「……!」
見られていたのか。
「なんのことか分からないな〜」
「君…さすがにそのすっとぼけは出来んやろ。まぁ〜初対面で教えてくれるとは思ってへんけどな。でも命の恩人なんだし、少しぐらいは教えてくれても罰は当たらんやろ?」
くぅ…確かに胡散臭いとはあれ助けて貰ったのは事実だ。どうしよう…
俺がそう考えていると頭の中で声が響く。
──告。先程の賭けに勝ちました。報酬の身体能力大幅上昇します。
そう言うと身体の内側から力が湧いてきて体がさらに軽くなり、五感が研ぎ澄まされる感覚がした。
「確かにあんたは命の恩人だ。だけど信用するかどうかは別の話て言いたい…けどまぁ〜この世界の事知らないから情報交換て言うなら少しは教えてもいいかな」
「なるほど!わかった!それで構わへんで」
「ほな、まずは何から話そか?」
ラプラスは近くにあった倒木に腰掛けると、俺にも座るように促してきた。
「そうだな……まずは、この世界について教えてほしい」
「この世界について?」
「ああ。俺は元々この世界の人間じゃないんだ。だから、常識すら分からない」
「なるほどなぁ。異世界から来たっちゅうわけか!」
ラプラスは面白そうに頷いた。
「ほな、基本的なところから説明したろか。この世界には人間だけやなく、魔物や魔人、エルフやドワーフなんかもおる。種族は色々やな」
「魔物に魔人……」
「せや。魔物は基本的に魔素を持っとる生き物のことや。知能や強さは個体によって様々やけどな。さっきの牙狼も魔物の一種やで」
「やっぱりあいつらも魔物だったのか」
「ちなみに、この世界では魔素が重要な役割を持っとる。魔素は生き物の身体や能力にも関係しとるんや。魔法を使うにも必要になることが多いな」
「魔法! 本当にあるんだな……」
思わず声が弾んでしまった。
異世界といえば魔法。
まさか本当に存在するとは思わなかった。
「おっ? 魔法に興味あるんか?」
「そりゃあな! 元の世界にはなかったから、一度くらい使ってみたいと思ってたんだ」
「ははは! ええやんええやん! 夢があって!」
ラプラスは楽しそうに笑う。
「せやけど、魔法を使うには知識や適性も必要やで。魔素があれば誰でもすぐ使えるっちゅうわけやない」
「なるほど……」
「それと、この世界には国もぎょうさんある。人間の国もあれば、魔物が治める国もある。地域によって文化も常識も違うから、そこらへんは気をつけた方がええな」
「魔物が国を作っているのか?」
「せやで。強い魔物が仲間を集めて集落を作ったり、国を築いたりすることもあるんや」
「へぇ……」
想像していたよりもずっと複雑な世界らしい。
ただ魔物を倒して冒険するだけの世界ではないということか。
「ちなみに、ここはどの辺りなんだ?」
「ここか? ジュラの大森林や」
「ジュラの大森林……」
「せや。かなり広い森やからな。慣れてへん人間が一人で歩き回るには危険な場所やで」
「それは身をもって理解したよ……」
俺は倒れている牙狼達に視線を向ける。
あんなのが普通にいる森を一人で歩いていたのだから、今考えると恐ろしい。
「ところで、君はどんなスキルを持っとるん?」
「さっき話した三つだよ。《開拓者》《健康体》《賭博師》の三つだ」
「その三つについて、もうちょい詳しく聞かせてくれへん?」
ラプラスは興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
俺は少し考えてから、分かっている範囲で説明することにした。
「まず《開拓者》だけど、これはまだよく分かっていない。新しい可能性を切り開く能力らしいんだ。今のところ、具体的に何ができるのかは不明」
「ふむふむ。名前からして、成長の余地がありそうなスキルやなぁ」
「次に《健康体》。これは身体や精神、魂の異常を感知して、健康な状態に戻そうとする能力らしい。さっきも身体能力が上がった時に、身体の状態を確認してくれていた」
「なるほどな。自分の状態を管理してくれるっちゅうことか」
「そういうこと。そして最後が《賭博師》」
俺は先ほどの戦闘を思い出す。
「これは何かを賭けて、条件を達成すれば報酬がもらえる能力みたいだ。今回は魔素を三十パーセント賭けて、勝利したら身体能力が大幅に上がるって内容だった」
「へぇ……」
ラプラスは顎に手を当てる。
「つまり、リスクとリターンを設定して勝負する能力っちゅうわけやな」
「たぶんね。ただ、賭けに負けたら魔素を失うことになるから、使いどころは考えないといけない」
「ははっ! そらそうやろなぁ! 何でもかんでも賭けてたら、いつか痛い目を見るで!」
「本当にそう思うよ……」
俺は苦笑いした。
しかし、ラプラスはどこか楽しそうだった。
「いやぁ、それにしても面白いスキルばっかりやな! 特に《賭博師》はワイ好みやわ!」
「そうなのか?」
「せや! 人生なんて賭けの連続みたいなもんやからな!」
そう言ってラプラスは大きく笑った。
……この人、妙に賭け事が好きそうだな。
「ところで、君はこの先どうするつもりなん?」
「どうするって?」
「この森を出た後や。行く場所とか、やりたいこととかあるんか?」
「うーん……」
俺は少し考え込む。
正直、何も決まっていない。
元の世界に戻れるのかも分からないし、この世界についても知らないことだらけだ。
「とりあえず、この世界を見て回りたいかな。せっかく異世界に来たんだし、色々な場所を見てみたい」
「おお! ええやんええやん!」
ラプラスは楽しそうに手を叩いた。
「ほな、まずはこの森を抜けなあかんな!」
「そうだな。ところで、ラプラスはどこに向かうつもりなんだ?」
「ワイか? ワイはまぁ、色々と用事があってなぁ」
「用事?」
「せやせや! 旅人には旅人の事情っちゅうもんがあるんよ!」
そう言って、ラプラスはまた笑った。
やっぱりこの人、何か隠している気がする。
まあ、俺だって相手に全部話しているわけじゃない。
お互い様ということにしておこう。
「そういえば……」
俺はふと思い出したように口を開いた。
「まだ自己紹介してなかったな」
「おっ! せやな! そういえば名前を聞いてへんかったわ!」
ラプラスは待ってましたと言わんばかりにこちらを見る。
「俺の名前は――」
……あれ?
「…………」
「ん? どないしたん?」
「……あれ?」
おかしい。
確かに自分の名前を言おうとした。
なのに、出てこない。
名前だけじゃない。
元の世界での住所や学校、家族のことも、思い出そうとすると霧がかかったように曖昧になっていく。
「……俺の名前って、何だっけ?」
「…………」
ラプラスは黙って俺を見つめている。
「いや、待てよ。そんなわけないだろ……」
もう一度思い出そうとする。
けれど、どうしても分からない。
自分が誰だったのか。
何という名前だったのか。
それすら思い出せない。
「……おいおい、マジかよ」
思わず頭を抱える。
異世界に転移した影響なのか?
それとも、死んだ時に記憶の一部を失ったのか?
──告。記憶領域に異常は確認されません
「じゃあ、なんで名前が出てこないんだよ……」
──回答不能。原因の特定には追加情報が必要です
「そんなぁ……」
どうやらスキルにも分からないらしい。
俺が困り果てていると、ラプラスが突然笑い出した。
「ぷっ……あはははは!」
「笑い事じゃないだろ!」
「いやいや、すまんすまん! まさか自分の名前を忘れてしまうとは思わんかったわ!」
「俺だって思ってないよ!」
ラプラスは目元を拭うような仕草をした後、少し考え込む。
「せやなぁ……名前がないままっちゅうのも不便やろ」
「まあ、それはそうだけど」
「ほな、ワイが名前を考えたろか?」
「え?」
思わず顔を上げる。
「いや、そんな簡単に決めていいものなのか?」
「ええやん! 名前なんて呼びやすかったら何でもええんや!」
「いや、もうちょっと大事に考えようよ……」
「ははは! 細かいことは気にせんと!」
ラプラスは俺の顔をじっと眺め始めた。
「うーん……そうやなぁ……」
腕を組み、首を傾げる。
「新しい世界に来て、これから自分の道を切り開いていく……」
「……?」
「それに、三つも面白いスキルを持っとる。特に《開拓者》なんて、ぴったりやないか!」
ラプラスは何かを思いついたように指を鳴らした。
「よし! 君の名前は――」
少しの間を置いて、ラプラスは笑顔で告げた。
「イブキ。イブキっちゅうのはどうや?」
「イブキ……?」
「せや! 新しい世界で、新しい人生授かった。新しい自分として生きて根付く。そんな意味を込めてな!」
シンプルな名前だった。
だけど、不思議としっくりくる。
まるで、ずっと前から自分の名前だったかのように。
「……イブキ、か」
俺はその名前を何度か口にしてみた。
「うん。悪くないな」
「おっ! 気に入ってくれたか!」
「ああ。ありがとう、ラプラス」
「なぁに、ええってええって!」
ラプラスは満足そうに笑った。
こうして俺は、ラプラスから新しい名前をもらった。
イブキ。
それが、これからこの世界で生きていく俺の名前だ。
「さて、名前も決まったことやし、そろそろ移動しよか!」
「そうだな。ところで、森の出口まではどれくらいなんだ?」
「んー、そうやなぁ。歩いて行けばそれなりにかかるで!」
「それなりって……」
「まぁまぁ! 焦らんでもええやろ!」
ラプラスは俺の肩を軽く叩く。
「これからよろしくな、シン!」
「ああ。よろしく、ラプラス」
こうして俺は、笑顔の道化師と共に森を歩き始めた。
まだ知らないことばかりの世界。
そして、自分が何者だったのかさえ分からなくなった新しい人生。
だけど、不思議と不安だけではなかった。
隣を歩くこの男が、何を考えているのかは分からない。
それでも今は、この出会いを信じてみようと思う。
――もっとも、この時の俺はまだ知らなかった。
この道化師との出会いが、どれほど面倒で、騒がしく、そして奇妙な縁になるのかを。