元ゲマトリアとちょっとアングラな自由生活。   作:らんかん

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依頼1-油画輸送護衛

「今日はよろしくお願い致します」

「ああ、どうもよろしく」

 

 ワイルドハントの依頼を受けて、展示会用の油画輸送を護衛する仕事を受けた。

 

 今回はベアトリーチェとカゲカツの二人での護衛になるのだが、絵面自体は地味極まる。

 

 車に乗り込んだ少女達は、依頼のトラック出発を待っているようだ。

 

「今日はえらく真面目なんじゃねーの? タバコ吸わないなんてさ」

「生徒達の努力の結晶に大人の匂いなど無粋だとは思わんのか」

「アリウスの奴らが聞いたらどう思うだろうなそれ」

「あれは”私の”結晶だ」

 

 隣の元ゲマトリアにとっては研究対象であり、奴隷であり、愛玩でもある。

 

 その認識から変わっていないからこんな発言をするのであるが、それだけアリウスという学園が如何に特殊な立ち位置に居たかが理解出来るやもしれない。

 

 トラックが動き出したことによってこちらも発進、運転手はカゲカツ。

 

 見劣りしないように、というわけではないが今回彼女達が乗り回しているのは大きめの高級車。それも軍用可能で知られている要人警護用のリムジンだ、乗せているのは武器ばかり。

 

「今回接敵する可能性は?」

「あって10%じゃないか。例えば、カイザーは今回の件で襲っては来ないからだいぶ下がる。そして、不良どもは絵を普通に確保して運べないし自発的に動いたとしても絵の売り方が分からんやつらが奪うとも思えないからな」

「10%はなんだ」

「今回の展示をする生徒もしくはクラスに深い恨みを持ってる奴による妨害さ、だがオレらがいて喧嘩しかけてくる奴らもいないだろうよ。俺らの知名度はともかく、今回明らかに違和感ある車が並走してて喧嘩売ってくる方がおかしいまである」

「そうだな、だが周りは見ておけよ」

「安全運転で行こう」

 

 周囲を見渡しているものの、今のところは誰も怪しい奴がいない。

 

 そもそもが足はやで仕事に向かっているやつか、学校に遅れて行くタイプの奴らしか見当たらず、挙動不審な奴が一人もいない。

 

「うーん、平和そうだ。これだったら今日はワイルドハントの少女達に憂いごとなしでおさらばできるんじゃないか?」

「今の時期に下手に襲撃かけようなんて思う連中はいないんじゃないか」

 

 道ゆく戦車は色々な自治区のところから右往左往していて、さながら終末か、何かしらの世界大戦を予感させるように見えかねないが、実のところそういった危機を先日ゲヘナで回避して、先生はさらに色々な場所で活動してる彼の活発さに各界の政治が上手いこと活動圏を広げている。

 

 つまり悪(・)事(・)を(・)す(・)れ(・)ば(・)強(・)い(・)軍(・)隊(・)に(・)必(・)ず(・)ぶ(・)ち(・)当(・)た(・)る(・)のが今だ。

 

「行動に戦車なんて気が気じゃない、ってのは映画の言い草だな。まあ、トリニティの戦車が見えるのも、ちょっと変には思えるが」

「今回の展示には割と色々な学生がくる、という話だったではないか。トリニティも例に漏れず、審美眼を鍛えるという意味でやってくるとも聞いた」

「審美眼? 消費者のくせに?」

 

 何もわかってねえなこいつ、という顔のベアトリーチェ。白いメッシュに普段隠れてるメカクレの奥に、少し黒い瞳が揺れる。

 

「審美眼というのは必ずしも値踏みと侮辱のためにあるわけではない、目の前にあるものの長所と短所を把握して、自分に必要なものかどうかを選択できる決断力を養うことだ」

「何の役に立つんだよそれ」

「芸術そのものは必ずしも同じものが量産されるわけではない、絵画彫刻パフォーマンス、絵に限定しても水彩画油画、さらに人物画や風景画と分かれていくだろう。それらは何かしらの意思があって生み出されたもので、共感であったりとか威光であったりとか、大聖堂などに至ってはシンボルとして必要とされることがある」

 

 アリウスはそういったものとはあまり縁のないものであったが、それでもトリニティが元である以上ある程度は勉強していた彼女は、カゲカツに丁寧な説明を続けた。

 

「そういった”目的”に合致した芸術は、必ず影響を生む。綺麗な美術館に萌えイラストは無い様に、あるテーマに沿って描かれたものが、自分達が欲する感情の薬かどうかを鑑定するかどうかを見極める力が必要だ。で、なければ……常(・)に(・)理(・)屈(・)の(・)通(・)じ(・)な(・)い(・)愚(・)集(・)を操る力量は生まれない」

「おいおい随分な言い方じゃないか、彩りってそんなに大事なのか?」

「どの行動においてもテーマに一貫性を持たせることは、まとまりがない場所や行動を生み出すよりもストレートに響きやすい。なぜならば人は欲求の生き物、自分の思惑に合致すると思えないなら目の前の雑多はスルーされて当然だ」

 

 カゲカツは、隣の助手席で講釈をする女性に内心舌を巻いている。

 

 元々が大人で研究者気質だったのだからその頭脳には大きな期待やワクワクがあると思っていたが、話してみるとそれ以上に知性と気品を感じる蘊蓄と説明をしてくれるのだ。

 

「あとこれは私の持論だが……古来から人間達の宣う一貫性というのは純(・)潔(・)の(・)象(・)徴(・)だと思っている節がある」

「一貫性ってのはそんなに価値のあるものか?」

「あるのだろうな、私はそうではないが。

 基本的に人類は宗教から脱却できてない生物で、その根幹にある神や宣教者は基本的に”善くあれ”と言う、そして同時に”悪に飲まれるな”とも言う。それはつまり善くあり続けることが何よりも最高の人生であり、逆の道を行くのであれば最悪の人生だと言える」

 

 純潔を維持し続けることがどれだけ大変かは、生きていれば誰しもが当たってしまう壁だ。

 

 本来生物にとっての唯一正解の生き方とは”寿命まで生きること”のみで、それは人間に限らずどの生命でも同じことが言える。

 

 しかし人類は知恵によって他の生物を下して頂点に立ち、この星で一番影響を与える生命体となった。宗教の発生に関しては未だ完璧なメカニズムを解けてはないとするが、他の哺乳類と違い共同体という枠組みの進化や、その中で自然発生した”コミュニケーションで成り立つルール”の基礎が宗教の起源とされるらしい。

 

 道具を作り、あるもので生活するまではできるが、その動きがどの生命体よりも早く、危険察知やコミュニケーション能力の強化で文明まで作れた人類が他人や他の生命体と明確なライン引きと平和的解決ができるルールを制定、他の生命体と違いフェアで明確な処罰と礼儀を持っているからこそ唯一ここまで進化できた”生命体のアイデンティティ”として宗教を溺愛しているとベアトリーチェは考えた。

 

「つまり一貫性というのは、生存本能さえも律して進化できたアイデンティティとして遺伝子、いや文化遺伝子(ミーム)という形で人類に埋め込まれたある種の潔白と私は思っている。それが出来なければ獣と同じだという、強迫観念で進(・)化(・)共(・)同(・)体(・)と(・)し(・)て(・)の(・)特(・)別(・)性(・)を皆がうっすら共有しているのではないかと」

「なるほど……ということは、芸術も”進化した文明のアイコン”としての側面を持っていて、自分達の生きてきた証と意志に合った作品を飾っておくことでその他の生物とは違う進化に誇りを持つ人間が、生き方や目的に合致した芸術を取得して誇示、種族の特別性を人間一人単位にスケールダウンすると個(・)性(・)を(・)持(・)つ(・)こ(・)と(・)こ(・)そ(・)が(・)人(・)間(・)と(・)し(・)て(・)の(・)特(・)別(・)性(・)に(・)繋(・)が(・)る(・)から感性や知性を絵一枚彫刻一つで表現出来るものこそが強い人間であると言えるっつーことね」

「最初の話に戻すと、審美眼を鍛える目的は?」

「”人間”として最重要教育の一つ、というわけだ」

 

 よくわかってるじゃないか、なんて笑うベアトリーチェはかつての美しい体躯は失っているものの、前よりも人間らしく、そして可愛くなった表情を見せた。

 

 カゲカツそのものはモブに等しい、いや少しばかり険しいのが常であったが、この時は友人と話し合う様に笑っている。

 

「あ、着いたぞ」

 

 大きな市民会館に、何事もなく到着した。

 

「今回は何もなかったな、依頼主が金を払わないなんてトラブルがなければだが」

「払わなかったらどうする?」

「素直に訴えればいいさ、燃やすなんて不埒な真似はしない」

 

 二人は駐車場に停めた車を降りて、トラックの方へ向かう。

 

 トラックから降りてきた生徒は、何事もなかったことに胸を撫で下ろして学校が用意してくれた護衛役に挨拶に来た。

 

「ここまでありがとうございました、今回は何事もなく到着できて嬉しく思います」

「こちらこそ何もなくてよかった、輸送の固定が甘かったりすればそれこそ作品に傷がつきかねないのでね」

「私も何もなくて安堵している。まあ、作品に問題がなければ全て些事だが」

 

 トラックからゆっくり運ばれてる絵には、ワイルドハントのワンシーンが列を成して自分達のステージへと消えていく。

 

「お金の件に関しては経費で学校の方から支払う形になっています、後日輸送にかかった費用と報酬の方をご連絡させていただきますので、もう少しお待ちください」

「ええ、お手数をおかけします」

「それにしても綺麗なお姉さん達で良かった、最初強面のブルドッグとか来たらどうしようかと仲間内で話題にしてたので」

「頼れる大人とかになると動物しかいないからな、まあ我々も別に親しみやすい見た目でもないが」

「何言ってるんですか! こんな綺麗なのに!」

 

 手を握ってブンブンしているワイルドハントの学生に、ちょっと引いているベアトリーチェ。

 

「はは……また何かあれば、喜んで受けよう。尤もヌードで題材になるのはあまり好みではないので、それ以外で」

「あれは本当に大丈夫そうな人しか頼みませんから、また何かあれば是非頼らせてください」

「そろそろお暇しようか」

「ああ」

 

 互いに礼をして、手を振り、学生は設営に向かい、二人は車に戻ってくる。

 

「今回の仕事みたいなのがずっと続けばいいのだがな」

「そうもいくまいさ、だから高級取りでもあるんだし」

「……ああ」

「よし、じゃあ二人で飯でも食いに行こう。サボってるやつはまだ起きてないしな!」

「乗った」

 

 カゲカツは車のアクセルを踏み、クラッチを噛み合わせて発進。

 

 冬が近づいてくる頃だが車内は暖かいし、風もまだぬるさを残している秋の時分に食欲を煽られた少女達は時間をかけて食指が動く方へと車道を流れていった。

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