GATE 〜AVENGE IN ANOTHER WORLD〜 作:蓮太郎
『キャプテン!ハハッ、ここじゃキャプテンアメリカと言えばいいかい?』
「そういうトニーはまんまアイアンマンじゃないか。よく作れたな」
『当然だとも、私は天才だからな』
夏、コミケのコスプレブースにてとある2人が邂逅していた。
1人は頭部以外をタイツで纏い、胸に星を携えたヒーロースーツを纏っている筋肉質な男と、赤と金をモチーフにしたロボットアーマーを纏う男。
どちらもコスプレにしか見えないが、ただのコスプレではなかった。
「まさか本当にスーツだけじゃなく、盾まで実物を揃えてくるとは…………もしかして、それも飛べたりする?」
『当然。私が用意した物だ、本当に敵が来ても戦えるようにしてある。流石にミサイルのような爆発物は積んでないが』
「ハハハ、流石に…………まて、レーザーは?」
『はっはっはっ』
「トニー?」
コスプレブースだからこそ馴染んではいるが、この2人は見た目だけのハリボテではない。
キャプテンアメリカ及びアイアンマンは別の世界から転生した存在である。
元々はかのヒーローのような存在でなくただの一般人であったが、転生という過程を経て超人と言えるほどの強靭な肉体、天才的頭脳を手に入れている。
それらを駆使して食い繋いだらしていたが、アイアンマンの方はガッツリ社長している、ネットを通じて奇跡的に知り合うことができ、アイアンマンの資金とコネをフル活用して今のところヴィランがいない世界にて2人のヒーローが誕生したのだ。
『ちなみにだが、もう1人が遅れてくるみたいでね。特別ゲストってやつだ』
「なんだって!?おいおい、それって誰なんだ?」
『寝坊してるみたいで返事が返ってこない。まあ、起きたらすぐ来るからその時のお楽しみということで』
「すみませーん、写真いいですかー?」
「クオリティ高いロボットですねぇ」
「ああ、いいとも」
『カッコよく撮ってくれよ?』
気さくに参加者からの撮影を許可して各々決めポーズをとりながらヒーローを演出する。
事実、その時が来たら2人はヒーローになるのだから。
『…………なんだ、今日は休みだというのに』
アイアンマンが急に煩わしそうな声で誰かに向けて呟き始めた。
何か急に機嫌を損ねたのかと周囲で撮影していた者たちは不審に思ったが、キャプテンアメリカの方は誰かと通話しているんだろうと予想した。
コスプレというのは基本的に魂の籠ったハリボテである。本物のヒーローのようにヘルメット内部に通信機能やレーダー等の超高度な技術を投じるわけがないのだ。
『何?銀座が?冗談は休み休みにしてくれ、貴重な休日を友人と過ごすことくらい、衛生写真?…………ああ、なるほど。夢でもみてるのか?』
鉄仮面越しに眉間を摘まむ様を見て会社でトラブルが発生したのかと思った。
本気で困っている様子を見るのは珍しいとキャプテンが考える中、重い口を開くかのようにアイアンマンが口を開く。
『キャップ、悪いニュースと悪いニュースがある』
「なんだ?どう転んでも悪い予感しかしないが…………」
『まずSNSを見てくれ』
「本当にニュースを頼る奴がいるか?」
『ここにいる。口で説明するよりも早い』
合理主義め、と内心で毒つくが合理だけでアイアンマンを作るような男ではないことも理解している。
言われた通りにスマホから何かトップニュースがないかと一目見た時だった。
数分前、銀座に謎の集団が出現し多くの人間を蹂躙し始めている映像が目に入る。
今の時代と比べたら明らかに時代遅れと言わざるを得ない相場ではあるが、よく見ると人間よりも数倍大きい怪物や空を飛ぶワイバーンも見受けられた。
「…………これは」
『現実だ、少なくともSNSで現在進行形で拡散されている』
「この謎の軍団の侵略行為が悪いニュースで、もう一つの悪いニュースは?」
『場所が銀座だからもう少ししたらこっちに来る』
「なるほど、悪いニュースだ」
普通なら能天気に疑う事で済む事態と思うだろう。
だが、少なくとも2人は違う。転生者と言う特異な存在、類い稀なる能力や特殊な力を持つ者であるからこそ何の疑いもなく受け入れることが出来たのだ。
『どうする?』
「どうするも何もない。みんな聞いてくれ!銀座が大変なことになってる!」
キャプテンアメリカは迷わず声を上げた。躊躇いなく自分のスマホを掲げて、ネットで確認できる範囲で何かが起こっていることを皆に知らしめる。
「落ち着いて聞いてくれ。銀座で、何かが起きている。テロかもしれないし、もっと別の何かかもしれない。いずれにせよ、あそこには今大勢の何かがいる」
注目を集めてはいたが、それも一定数だった。しかし、キャプテンアメリカの声はその場にいた皆に響き渡り、一瞬の静寂を作り出してからざわめきが波のように広がった。
「え、嘘でしょ……?」
「銀座って、ここからそんなに遠くないよね?」
「マジかよ、今日行く予定だったのに……」
パニックの予兆だった。誰かの悲鳴が上がりかけたその時、キャプテンアメリカは円盾を軽々と持ち上げ、地面にトンと一度だけ打ち付けた。
甲高い金属音が空気を裂き、ざわめきがぴたりと止まる。
「大丈夫だ。ここにいる誰も、危険な目には遭わせない」
その声には、奇妙なほどの確信があった。
コスプレイヤーの台詞とは思えない、腹の底に響くような重み。人々は思わず息を呑み、互いの顔を見合わせながらゆっくりと後退りを始めた。
「みんなは安全なところへ。警察と自衛隊の指示に従ってくれ。俺たちは――」
言いかけて、キャプテンアメリカは隣を見た。アイアンマンが静かに頷く。
『行くぞ、キャップ』
「ああ」
キャプテンアメリカは駆け出そうとした。その瞬間、鉄の腕が彼の肩をがっしりと掴んだ。
「トニー、一体何を」
『走るより速い』
アイアンマンの背中から甲高い駆動音とともに蒼白い光の翼が展開された。
コスプレの域を完全に超えた、本物のリパルサー・スラスターだ。
『掴まれ。落ちるなよ』
「おい、ちょっと待――」
抗議の声は、風に掻き消えた。
次の瞬間には二人は宙にいた。地上数十メートル、夏の夕暮れの空気がごうごうと耳元を流れていく。
キャプテンアメリカは思わずアイアンマンの腕にしがみつき、その筋肉質な体を硬直させた。
「…………事前に言ってくれないか、こういうのは」
『言ったら断るだろ』
「当たり前だ!」
眼下に街並みが流れていく。ビルの谷間、幹線道路信号待ちの車列。その先に、黒い煙が立ち上っているのが見えた。
今も襲われ続けている銀座だった。
『見えるか、キャップ』
「ああ…………見える」
煙の下、銀座の大通りを埋め尽くさんばかりの異形の軍勢がいた。鎧を纏った兵士たち、馬に跨る騎兵そして空を舞うワイバーン。
まるで中世ファンタジーの絵巻物が、現代の東京にそのまま貼り付けられたような光景。
「なんだ、あれは…………」
『さあな。だが、一つだけ確かなことがある』
アイアンマンのヘルメットの双眸が、太陽の光を反射してさらに輝く
「あの連中は、俺たちの街に攻め込んできた。それだけで十分だ」
キャプテンアメリカはぎゅっと盾を握り直した。風が、星条旗の模様をはためかせる。
「そうだな。行こう、トニー」
『ああ。ヒーローの出番だ』
二人は、燃える銀座へと降り立った。
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