GATE 〜AVENGE IN ANOTHER WORLD〜 作:蓮太郎
「ああっ!」
「おかーさーん!」
惨状となった銀座、人々は異世界から来た軍隊から逃げ惑い、パニックを起こす。
辛うじて最初の侵略をやり過ごした母子だったが、母親が転んでしまい足を痛めてしまう。
娘が声をあげてしまい、その声で異世界の兵士が居場所に気づいてしまう。
「お母さん、いやだ! いやだ!」
少女は母親の腕にしがみついて離れなかった。母親の足首は既に腫れ上がり、立ち上がることすらままならない。
異世界の兵士が、ぎらつく鎧を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。兜の奥の目は、獲物を品定めするように冷たく光っていた。
「お願いだから……お願いだから逃げて……!」
母親は娘を抱きしめた。背中で盾にするように。これ以上できることがないことを、自分自身が一番よくわかっていた。
せめてこの子だけは、と祈るように目を閉じた。
兵士が槍を振り上げ――ドン、とふいに空から何かが落ちてきた。
アスファルトがひび割れる音がした。粉塵が舞い上がり、兵士の動きが止まる。
槍を振り上げたまま、兜の奥の目が見開かれた。
粉塵の中から、一人の男が立ち上がった。
星条旗の盾を左手に、タイツに包まれた筋肉質な体を伸ばすようにして。
「間に合った、か」
キャプテンアメリカは顔を上げた。その目は穏やかで、しかしどこまでも揺るぎなかった。
兵士が反射的に槍を突き出そうとする。キャプテンアメリカは半歩だけ体をずらし、盾を軽く掲げた。甲高い金属音とともに、槍の穂先が弾かれる。兵士がよろめいたところに、彼は踏み込むように前へ出て盾の縁を兵士の兜に叩きつけた。ごん、という鈍い音とともに鎧の男が崩れ落ちる。
仲間がやられたことに異世界の言語で叫びながら複数で襲いかかろうと兵士たちが剣を抜いて襲いかかる。
だが、キャプテンアメリカには盾があった。
体を捻り、思い切り投擲する。まず1人の兵士の胸に盾が当たり、まるで意志を持つかのように盾が次々と兵士達を弾くように薙ぎ倒す。
盾に意思はない。全てキャプテンアメリカが計算した通りに投げた軌道である。
あっという間に兵士たちを倒し、なおかつ盾が手元に戻り、死を覚悟していた母親は呆然としていた。
「大丈夫ですか」
キャプテンアメリカは振り返って、母子に手を差し伸べた。その声は静かで、まるで日常の会話をするかのような落ち着きがあった。
「あ、あなたは……」
「今は説明している時間がありません。お子さんを抱えて、あの建物の影まで走れますか」
「でも、足が……」
「わかりました」
キャプテンアメリカは盾を背中に回すと、母親を片腕で少女を反対の腕で軽々と抱え上げた。二人の体重など感じさせない自然な動作だった。
「ちょ、ちょっと!」
「すぐ終わります」
そう言って彼は走り出した。
弾丸のような速度で、しかし揺れないように細心の注意を払いながら。
異世界の兵士たちが何人か気づいて追いかけてきたが、キャプテンアメリカは建物の角を曲がり、路地に入りあっという間に追手を撒いてみせた。
「ここなら安全です。警察が来るまで動かないでください」
母子を建物の陰に降ろすと、彼は少女の頭をぽんと軽く叩いた。
「お母さんを守ろうとするなんて、君は勇敢だな。だけど、無茶はお母さんを心配させるから気をつけるように」
「…………うん!」
少女は目を丸くして、それから小さく頷いた。
母親の方は年甲斐もなくお姫様抱っこされるというサプライズに顔を真っ赤にしていたものの、絞り出すような声で彼に問う。
「あなたは…………誰なの?」
キャプテンアメリカは立ち上がり、盾を構え直した。
「ただの通りすがりの、コスプレイヤーです」
そして再び、戦場へと駆け戻っていった。
「トニー!思ったより逃げ遅れている人がいる!そっちはどうだ!?」
『ああ、しっちゃかめっちゃかだ。そこら中に奴らがいる』
キャプテンアメリカの耳には飛行中に渡されたインカムが付けてあり、空中で戦うアイアンマンと通信をとる。
『で、ヒーロー着地はどうだった?』
「膝にくる!じゃなくて、避難が遅れてるところは!?」
『北に進めキャップ、そこが大通りになっていて敵の侵入路になっている』
「分かった!引きつける!」
『待て、私がそこに立つ。まだ路地で逃げ惑ってる人々を誘導してくれ』
「大丈夫なのか?」
確かに彼はアイアンマンだ。たが完全に無敵というわけではない。
異世界の軍団は文明は低くとも数は整っており、何らかの力が存在するかもしれない。
その心配をキャプテンアメリカはしていたが、彼は自信に満ちた声で言った。
『私はアイアンマンだ』
アイアンマンは飛んでくる矢やワイバーンをいなしながら大通りの中央に降り立った。片膝をつき、片手を地面に触れさせる計算された着地。
アスファルトが放射状にひび割れ、衝撃波が異世界の兵士たちの足を止めた。
『…………キャップの言う通りだな。スーツ越しでも膝に悪い』
そんな愚痴を吐くが、通信は切っているのでキャプテンアメリカには届いていない。
『さて』
彼はゆっくりと立ち上がり両腕を広げてみせた。赤と金の装甲が、夕暮れの光を受けて鈍く輝く。
『諸君、ここは私達の街だ。観光なら他を当たってくれ』
異世界の兵士たちは一瞬たじろいだ。空から降ってきた鉄人。
彼らの世界に神が存在していても、普通ならありえない光景。
しかし指揮官らしき大男が異世界の言葉で怒号を飛ばすと、兵士たちは雄叫びを上げて一斉に襲いかかってきた。
「残念、話し合いの余地はなし、か」
アイアンマンは右手を掲げた。掌のリパルサーが蒼白く輝く。
「なら、決裂だな」
ドン、と。
掌から放たれた光の奔流が先頭を走っていた騎兵を騎馬ごと吹き飛ばした。
鎧も盾も関係ない、光条はそのまま後方の兵士たちをなぎ倒し、一列に並んでいた部隊がまるでボウリングのピンのように弾け飛ぶ。
『これでどうだ?』
返事の代わりに、ワイバーンが頭上から急降下してきた。鋭い爪が彼の装甲を狙う。
『おっと』
アイアンマンはスラスターを噴かして横にスライド、ワイバーンの爪が空を切る。
すかさず背中のスラスターを全開にし、空中で反転。ワイバーンの背後を取ると、両手のリパルサーを同時に放った。
二条の光が交差し、ワイバーンは悲鳴を上げて建物の屋上へと叩きつけられた。
『悪くない動きだ。だが、私の方が速い』
着地と同時に彼は周囲を見渡した。まだ数十体の兵士が残っている。それに、あのワイバーンがもう三頭上空を旋回している。
『キャップ、状況は?』
『避難誘導はだいたい終わった。そっちは?』
『今、片付けているところだ。もう少し時間をくれ』
『了解。こっちはこっちで、奴らの出所が分かった』
『出所?』
『ああ。あの軍団の後ろに、門みたいなものがある。あれが奴らの入口だ』
アイアンマンの目が細められた。
ヘルメット内部のディスプレイが、大通りの奥――あの黒い煙の源を自動で拡大表示する。
確かにあった。石造りの巨大な門、異世界とこの世界を繋ぐ、異常な構造物が。
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