GATE 〜AVENGE IN ANOTHER WORLD〜 作:蓮太郎
「君がトニーが言ってたもう1人か」
キャプテンアメリカは盾を構えたまま、隣に並んだ銀髪の男を一瞥した。
銀色の髪に、どこか飄々とした軽さを纏った男。見た目は二十代前半といったところか。
そして超高速で移動する能力、ピエトロ・マキシモフことクイックシルバーだとすぐに当たりがついた。
「ああ、そうだ。悪いな時差ボケで寝過ごした」
「時差ボケで寝過ごすヒーローがいるか」
「悪かったって、日本には慣れてないんだよ」
クイックシルバーは肩をすくめてみせた。わざとなのか、その動作があまりにも速く、キャプテンアメリカの目には残像のように映る。
「それより、あんたがキャプテンアメリカか。本物の盾か、それ」
「ああ。トニーがくれた」
「へえ。じゃあ後で触らせてくれよ」
「戦いが終わったらな」
「約束だぞ」
その軽口の裏で、クイックシルバーの目はすでに戦場全体を走査していた。
ほんの一瞬、まばたきを数回する間に百を超える敵兵、その配置動き、地形。一瞬で把握したらしい。彼の体から、ふと力が抜けた。
「で、作戦は?」
「今から考える」
「おいおい」
「冗談だ。だが、君の速度なら逃げ遅れた市民の確認ができる。俺は前線で時間を稼ぐ。それで――」
「待った」
クイックシルバーは人差し指を立てた。
「俺は逃げ遅れた人を探すのはやぶさかじゃない。だが、あんたに指示される筋合いはない」
「……は?」
「俺は俺のやりたいようにやる。それが俺のヒーロー論だ」
キャプテンアメリカは一瞬、呆気に取られた顔をした。それから深く息を吐く。
「……自由な奴だな、君も」
「あんたの友達も大概だろ」
言いながら、クイックシルバーは残像だけを残して走り出していた。
次の瞬間には、彼は五十メートル先のゴブリンの集団の中にいて、一人ずつ軽く叩くようにして気絶させていた。
「速いな」
キャプテンアメリカが呟いた時だった。
空から轟音とともに何かが降ってきた。
赤と金の塊、アイアンマンだった。両手に何かを抱えて彼らの前に降り立った。
『待たせたな、キャップ』
「トニー、それは」
アイアンマンが地面に降り立ち、両手を広げてみせた。
彼の両手から落ちた者、異世界の兵士たちが――いや指揮官らしき鎧の男たちが三人、手を繋いだ状態でぶら下がっていた。
正確には、手を繋がされていた。アイアンマンの手から離れた途端にドサリとうめき声を上げながらうずくまる。
『指揮官連中だ。電気信号を流して離れないようにしておいた。便利だろ?』
「……お前は本当に」
『天才だろ?』
一度、盾で小突いてやろうかと思い、踏みとどまった。
アイアンマンは軽々と三人の指揮官を機動隊の面前に放り投げた。機動隊がすかさず「確保!」と叫び、隊員たちが一斉に駆け寄る。
指揮官たちはまだ電流の余韻で震えていたが、抵抗する力は残っていないようだった。
「これで指揮系統は崩壊した。門の制圧も近い」
アイアンマンはそう言って、初めてピエトロの方を見た。銀髪の男がゴブリンの山の上に立って手を振っている。
「よう。遅刻した」
「寝坊したんだってな」
「よく知ってるな」
『あれだけのコールに出ないんだ。誘った甲斐がある』
キャプテンアメリカは2人のやり取りを聞きながら、ふと妙な感慨に浸っていた。
転生して、この世界で出会って、こうして並び立つ。コスプレブースで偶然を装って待ち合わせた時には想像もしなかった光景だ。
「さて」
彼は盾を構え直した。前方では、指揮官を失った異世界の軍勢が最後の抵抗と言わんばかりになおも皇居前広場に押し寄せている。
数は依然として多い。だが、統制は明らかに乱れていた。
「三人揃った。ここからが本番だ」
「ああ」
「だな」
「指示を出せ、キャップ。俺たちは好きにやるが、方向性は合わせた方が効率がいい」
アイアンマンが言った。クイックシルバーも頷く。
キャプテンアメリカは一瞬考えてから、口を開いた。
「わかった。クイックシルバー、君には逃げ遅れた市民の確認を頼む。速度を活かして、この一帯を隈なく見てくれ。見つけたら俺か自衛隊に通報。可能なら彼らのところに連れて行ってくれ。無理に戦わなくていい」
「了解。俺の速度なら三分で終わる」
「トニー、君は空からの敵への対応を。ワイバーンがまだ残ってる、頼んだぞ」
「おいおい、キャップ、ここで戦う気か?」
「ああ。その方が早い」
「……本当に、あんたは」
アイアンマンが小さく笑った。それから、真面目な声で言った。
「わかった。だが、無茶はするなよ。俺たちはまだ、この世界でやりたいことが山ほどあるんだからな」
「ああ。わかってる」
キャプテンアメリカは頷いた。それから、前方を見据える。
異世界の軍勢が最後の突撃を開始しようとしていた。指揮官を失い統制を欠きながらも、彼らは突き進んでくる。数は二百を超えている。
「行くぞ!」
キャプテンアメリカが走り出した。星条旗の盾を構え、ただ一人で異世界の軍勢へと。
その背中を、赤と金の光が追いかけ銀色の残像が追い越していく。
三人のヒーローが、銀座の空の下で最後の戦いに挑んだ。
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