エースコンバット G&P〜The Another Sky〜   作:全智一皆

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STORY1 空賊参上

 

■  ■

「大洗ぃ? いったい何の冗談だ?」

 

 燦々と輝る太陽が実に鬱陶しい。時期としては、まだ長袖を通していたくなるくらいの気温の筈なのだが、しかし生憎と今日は普段よりも暖からしい。

 海の上でゆったりとしている空母の形をした巨大な艦には、本来なら艦載機が居る筈の甲板に都市がずらりと並べられている。これは学園艦と言って、この世界では別に珍しくもないモノだ。

 第一次世界大戦が終了した後に誕生した学園艦———未現(みげん)学園の敷地内にあるハンガーの中で、日課の様に自分の戦闘機———Su-33。通称フランカーM———に触れていた在籍者である少年、東條(とうじょう)翔(かける)———TACネーム「ルーラー」———は、小馬鹿にする様に言う。

 

「大洗っていうと、アレだろ? つい最近に廃校が決まったっていう」

 

 学園艦は確かに珍しいものではないが、しかしその設計上、莫大な資金が掛かる。なんせ艦だ。船ではなく、艦なのだ。

 空母の上に丸ごと町を作っているのだから、当然である。

 そもそも、まだ明確に敗北を喫してはいなかった日本の大戦時代から、駆逐艦も巡洋艦も潜水艦も空母も戦艦も莫大な資源を食い散らかしていた。それが現代ともなれば、尚のこと。

 県立大洗女(・)学(・)園(・)はつい最近、廃校が決まった学校、及び学園艦だ。歴史こそ古いのだが、如何せんこれといった実績を残していなかった事が災いしてしまったのだろう。

 可哀想な事だ、翔はふざける様に合掌した。

 対して、翔に話し掛けた男———早期空中警戒機(AWACS)コレクター———は、まぁ待てよと続ける。

 

「俺もその話で聞いてたんだけど、生徒会が相当粘ったらしくてね。ある約束を取り付ける事で、条件を達成すれば廃校の撤回する事に同意させたらしい」

「へぇー、そりゃご苦労な事で。生徒の身分でよくやるよ。それで? それとオルカ隊(俺ら)の雇用在籍(やとわれ)にどう結ばれるんだ? 疎開先に送り込まれるようなもんだぞ」

 

 鼻で笑う様な隊長機に、コレクターはつい苦笑する。

 未現学園は有名だ。第一次世界大戦後から存在するという長い歴史を持った学園艦だが、何もそれだけが未現を有名にさせている訳ではない。

 未現学園を有名たらしめる理由は、主に二つ。

 一つは戦闘機道(せんとうきどう)。未現学園とはどういう学校か? という質問を投げれば、内外問わず多くの人間が戦闘機道の学校だと答えるだろう。

 戦車道が地の武道であるならば、戦闘機道は空の武道だ。乙女の嗜みとされた戦車道とは異なり、『天翔ける者に分別無し』という共通理念を掲げ、人種・性別問わず多くの人々が打ち込んでいた。

 第二次世界大戦を経て廃れ切ってしまったものの、戦闘機の技術的進歩によって当時の様な危険性は限りなくゼロになりつつあるとして、未現学園が新入生へと戦闘機道を披露した事を切っ掛けに、20年程前に再び日の目を見る事となった。

 以来、未現学園は戦闘機道を完全に復活させるべく活動しており、その策の一つが二つ目の理由へと繋がる。

 最後の二つ目、それは———生(・)徒(・)の(・)貸(・)出(・)である。

 

「雇用在籍、か。改めて聞いても訳が分からない仕組みだよね、これ」

「何を今更。未現学園の起源は、戦闘機道履修者による戦闘機道履修者の為の戦闘機道履修者の学園だぞ? 戦闘機道を完全に復活させる為なら、ブラックすれすれのグレーゾーンを笑顔で渡り歩く様な連中が考えた仕組みが、俺たちみたいなガキに理解出来る訳ないだろ」

「ご尤もだ」

 

 戦闘機道を完全に現代へと復活させる。その為に未現が取った、戦闘機道が無い学校に戦闘機道を広める手段の一つ———それが、雇用在籍(こようざいせき)である。

 戦闘機道に興味がある、或いは戦闘機道を履修したい。しかしどうすればいいのか分からない、或いは設備や戦闘機の確保が難しいといった事情を持つ他校に対して、資金契約を行う事で一時的に未現学園の部隊を他校へと在籍させ、戦闘機道が普及されるまでの支援・出撃を行うというものだ。

 戦闘機道は人種、性別のあらゆる分別を持たない平等な武芸。故に一度広まれば例えそこが女の園であろうとも、必ず空へと憧れを抱く者が現れる……そういった理想論じみた目論見なのだろうが、しかし実際にそれが効果を表している。

 現に、かつては女学園としてあった学校が共学制になったり、分校として新しい校舎が作られたりといった成果が現れているのだから、バカには出来ない。

 

「で? なんで未現は大洗と雇用在籍の契約をしたんだ? 泥舟に貴重な戦闘機道履修者(ファイターパイロット)を送り込む程、連中の脳もふやけちゃいない筈だが」

「生徒会は二つの条件を取り付けたのさ。一つ、20年前に廃止された戦車道を復活させ、全国大会で優勝する。二つ、戦闘機道を取り入れ、こちらも全国大会で優勝する」

「おいおい……俺たちは沈没寸前の泥舟を救う為だけに、ろくな戦車や戦闘機はおろか、人材すら揃ってない奴等と連携しながら空の王者になりに行けってのか?」

 

 巫山戯た事言ってくれるじゃねぇか。東條は心からウンザリする様に、悪態と共に毒を吐き捨てた。

 コレクターとしても、これには同意せざるを得ない。なんせ自分も彼等の部隊を指揮する立場にあるのだ、敗北すれば同罪なのは必然である。

 目指すは全国大会優勝。なんとも超え難い壁だ、これならエベレストを装備無しで踏破してみせると意気込んだ方が、まだ笑って済ませられる。

 

「俺たちのメリットは? こんなにデカイ仕事なんだ、大洗と未現、両者からの相応の報酬が無きゃやる気も出てこない」

「この仕事を達成した場合、未現側はオルカ隊メンバーの卒業までの学費全免除、希望進路の優先的確保、ほぼ無出席でも卒業出来る特別単位の付与、エンダー・コア製の戦闘機の貸出許可……あと、ある程度の事は、学園側と会社側が色々と手を回して叶えてくれるんだって」

「大洗側は?」

「食堂の食券100枚、特別学生寮、遅刻見逃し200日、ついでにアイスクリーム食べ放題」

「未現と大洗は最高に相性が良いらしい。実にクソ喰らえだ、天に向かって巡航ミサイルを100発打ち込んでやりたい気分」

 

 大洗側は随分と必死らしい。あくまでも一時的な在籍生に対して、かなりの高待遇だ。これでは学園側の生徒から何らかの反感を買うのは必然だろうに……まさに、藁にも縋る思いという訳か。

 しかし、エンダー・コアまで乗り出すとは意外だな、とは思う。

 エンダー・コアは、未現学園と協力関係を築いている巨大企業だ。この学園艦に本社を設立し、日本だけでなく各国にも会社を持っており、戦闘機道専用の戦闘機の開発と販売を行っている。

 稀に実験機を作っては未現の生徒にテストパイロットを務めさせており、学園側と生徒側もそれを容認している。

 実験機は基本的に凄まじい性能を誇るものばかりだが、未現学園の特務飛行隊であるスローン隊が主にテストパイロットを任されているので、殆どスローン隊専用とさえ言われている。

 

 まぁ、閑話休題。

 

「ルーラーには関係無いかもだけど、大洗は女学園だ。つまり女の園、活躍すればハーレム間違いなしかもね」

「そういうのはシルバー(2番機)に言え。俺は興味無い」

「んー……じゃあこれは? 大洗にはかの西住流が転校してきたって話らしい」

「だから、そういう女の話題はシルバーに……あ? いや、待て。西住流?」

 

 つい先程まで悪態をついていた彼の表情は、呆気に取られた間抜けなものに変わっていた。

 しかしそれも束の間の事。気を取り戻した東條は、勢いを増す様に問い掛け出したのだ。

 

「待て、待て待て! なんで西住流の名前が出てくる!?」

「ぅえっ!? いや、なんでって聞かれても……知らないのか? つい最近、黒森峰が全国10連覇を逃しただろ? その原因とされる西住流の女の子が、黒森峰から大洗に転校したって……」

「———」

 

 愕然は、呆れへと変わった。文字通りの絶句、だ。

 間違いない。その西住流は、間違いなく自分が知っている人間だ。最後に顔を合わせたのは小学生の時で、あれからかなりの年月が経ってこそいるが、それでも彼女の本質は変わってはいないだろう。

 だからこそ、なのか。

 

「アレかっ…!」

 

 そう言われてようやく、最近の出来事を思い出す。つい1年前の事だ。

 戦車道で有名な黒森峰、全国大会10連覇ならず。そんな見出しだった様な気もするが、ニュースでは選手についてこれといった言及はなかったが、道行く生徒達の会話にはそれがあった。

 インターネットとは厄介だ。知りたくもなければ聞きたくもない暴言、陰口を漏らす人間がそこらじゅうに居る。

 バカバカしい…! アレを放置していれば、どんな事態に広まっていたのか考えられないのか!?

 

「じゃあ何か!? 仲間を見殺しにしてでも勝利が全てだってのか!?」

「ちょ、落ち着けルーラー! 分かった、俺の言い方が悪かった! 彼女の事を悪く言うつもりはなかったんだ!」

「……本当か?」

「……彼女の選択は、人として正しかった。結果としては黒森峰は敗北したけど、最悪の事態を防いだのは紛れなもく彼女だ。トロフィーなんかよりも仲間を優先するその人間性は、尊敬に値する」

「…わるい。頭に血が上った」

「いや、良いんだ……その、もしかして知り合いだったりするのか?」

「ん……まぁ、な」

 

 遊んだ時間は、大して長くはない。何をしていたのかだって、別に憶えている訳ではない。

 だが、少なくとも……彼女が、西住みほという人間が、どういう為人をしているのかは、憶えているつもりだった。

 

「……いいさ、やってやるよ。報酬がどうとかはもうこの際どうでもいい。兎に角腹が立つが、少なくともやる気は漲った。実にクソみたいな理由だがな、チクショウ。連中に伝えろ、オルカ隊はいつでも出立出来るってな」

「わ、分かった。なんというか、凄い気の入りようだな……」

「胸糞悪い事この上ない事情を聞いた、そしてそれに昔馴染みが関わってる。アイツは良い奴だ。それが謂れのないバッシングの末、泥舟の上で戦わせられるってのは我慢ならねぇんだよ———上等だ。サンダースも黒森峰も、全員纏めて叩き落として全国もぎ取ってやる」

 

 海のギャング(オルカ)は空へと上がる。大海よりも果てしない空でさえもが、己の縄張りだと挑発する様に。

 

 

◆

 

 

《今日はいつもよりも晴れやかな空だな、ルーラー!》

《無線越しなのに上機嫌なのがよく伝わってくるよ。頼むから黙っててくれないか、シルバー。耳鳴りがする》

 

 高度5000mの青空を飛ぶ二つの黒は、この天気だからこそ地上からでも目視が出来る。

 全体的に黒い塗装が施された2機のSu-33は、それぞれが左右片方の主翼と尾翼に対になる様に白が塗装されている。このカラーリングと尾翼のエンブレムを見れば、誰もがオルカ隊だと判別出来るだろう。

 

 それにしても、今日の風は随分と素直だ。雲ひとつない快晴というのも、パイロットとしては実に喜ばしい。いちいち雲による着氷に気にするのは、面倒でしかないというのがルーラーの本音だった。

 だが、それはそれとして自分の2番機が普段の数倍は喧しいのは、おそらくこの天気も関係しているのだろう。これなら曇天の方が落ち着いた気持ちになれたというのに、天は何処までもルーラーに味方をしてくれない。

 

《無茶言うなよ! 俺達が何処に向かってるのか分かってるのか? 大洗だぞ、大洗! 大洗女学園だ!》

 

 このやけに上機嫌な声を無線に乗っけているのが、無気力なルーラーの2番機を務める少年———オルカ2、TACネームを「シルバー」と言う。

 中等部の頃からの友人で、約5年の付き合いになる戦友なのだが、如何せん女に目がない男だ。彼の視線が追うのは敵機のケツか、女の尻かの二択である。

 

《ルーラーの言う通り、やっぱりシルバーの方が釣れたか。これならシルバーに最初に通した方が良かったかな?》

《楽しみだなー、可愛い子居るかな? 俺的にはやっぱボブカットが良いな!》

《誰もお前の好みなんざ聞いてねぇよ。しつこい奴は嫌われるぜ》

《冷めてんなー。1番やる気出してた癖に》

《煩悩まみれのお前とは違うんだよ、理由が》

《え? 女の為だろ?》

《まぁ、あながち間違いではないよね》

《誤射には気を付けろよテメェら》

《その場合、気を付けるべきはそっちじゃないかな!?》

 

 対地攻撃用のロケット砲がお前達を粉砕するぞ、と言わんばかりに主翼を振るルーラーに対して、コレクターはごめんごめんと丁寧に謝罪を送る。それが意味をなすかどうかは、降りてからのお楽しみだ。

 まぁ、今回は学園艦への着艦———滑走路があるので着陸とも言えなくはないが———がある為、爆装はしていないのだが。

 

《しっかし可哀想だよなー、その西住ちゃんは。人命救助は立派だぜ。俺が助けられた側なら間違いなく惚れてる》

《下手すれば溺れてただろうから、英断なのは間違いないんだけどね。学園の生徒としては、やっぱり10連覇が止まったのは悔しいんだろうさ。だからと言って、その人の安全を手放してまで得たそれが名誉となるか?って問われるとね》

《西住流は勝つ為なら多少の犠牲はやむなし、だ。アイツの性格からしてまず合わないんだよ。その癖、指揮能力においては間違いなく天才だ。1年で副隊長を務められる奴はそう居ない》

 

 過去の記録を見返してみれば、彼女はやはり天稟の持ち主だと言わざるを得ない。東條翔は戦車道に関しては素人だが、そんな素人ですらもが凄まじいと零す戦術を彼女は持ち得ていた。

 西住みほという少女自体は、特別優れた人間ではない。色々と抜けている所はあるが、ひたすらに優しく、綺麗で、多くの人に親しまれ、慕われる———そんな暖かな善良性の持ち主だ。

 だが、それに相反する様に、彼女には天賦の才があった。戦車道を征く乙女としての才覚があったのだ。

 西住流は、彼女に合う流派ではなかった。それ故に———彼女には、味方が居なかった。

 

《どうせあの堅物(家元)になんか言われたんだ。西住流の看板が大事なのか、それとも娘が大事なのか……まるで分かりゃしない。どこまで不器用貫くつもりだよ》

《人の親に言う台詞じゃないぜ、ルーラー……》

《お前も会えば分かるさ。俺は出来れば顔を合わせたくない。色んな意味で》

《あー、二人共。話し込んでる所悪いけど、そろそろだ》

《了解》

 

 澄み渡る空の下には、空よりも濃い青に覆われた世界。その真上を行くは、甲板に町を載せた巨大な艦———つまりは、学園艦・大洗である。

 

《こちら未現学園第6航空師団第22飛行隊オルカ、AWACSコレクター。学園艦・大洗、聴こえるか?》

《こちら学園艦・大洗。我が学園艦にようこそ、オルカ隊。歓迎するよ》

《これから世話になるよ、おふくろさん》

《おふくろさん……良い表現だね、気に入ったよオルカ1! こちらで着陸を誘導する。事故らない様に気をつけて》

《ご心配どーも。離着陸なんて手馴れたもんさ》

《着陸なのか着艦なのか判断に困るよな、学園艦》

《あはは、確かにね。曲りなりにも艦だし、着艦って事にしとこうか》

 

 速度を大幅に緩め、機体の高度を低下させる。

 通常の空母とは違い、この学園艦には町がそのまま載せられている。曲りなりにも艦なのだから、正しい表現としては着艦する、なのだろうが、この機体を降ろすのは滑走路だ。

 シルバーの軽口に、大洗の誘導係は親しむ様に笑って返してくれる。

 やっぱり良い所だぜ大洗は! そうはしゃぐシルバーを無視して、ルーラーは着艦態勢を整える。

 

《ギアダウンOK。重量異常無し。オルカ1、いつでも着艦可能だ》

《了解。速度、高度問題無し。着艦まで残り1500m……1000m……誘導限界を突破。オルカ1、目視で着艦せよ》

《了解。オルカ1、着艦する》

 

 機首を降ろし、滑走路へと機体を預ければ僅かに衝撃が身体を打つ。中等部の頃から与えられてきた衝撃だ。

 

《着艦成功。オルカ2、続けて着艦せよ》

《了解。オルカ2、着艦する。邪魔するぜ、おふくろさん》

《違うよ、オルカ2。今日からは、ただいま———でしょ?》

《やべぇよルーラー、コレクター! やっぱり大洗は最高だぜ! 俺ガチで大洗に移ろうかな!?》

《悪いな、此奴はこういう奴なんだ。調子よく使ってやってくれ》

《あはは、楽しい学園生活になりそうだね。地上誘導係の指示に従って、ハンガーへ向かって。機体の確認と整備が済んだら、大洗を案内するよ》

《ありがたい……ん?》

 

 地上誘導係の手信号に従いながら、機体をハンガーへと移動させている最中、キャノピー越しに柵の向こう側に何やら人集りが出来ているのが目に映った。

 大半は学生だ。白を貴重として、緑のラインが入った制服。おそらくアレが大洗の制服なのだろう。だが、中には大人や、親に抱かれている子供も居た。

 大洗にはかつて戦車道こそあれ、戦闘機道は無かった。実際にその目で戦闘機を見た事がある者が少ないのだろう。故に、好奇心に惹かれた者達が物見遊山でやってきたという訳か。

 

《大勢だな》

《他の学園艦に比べると小さいけど、実際に降りて見てみると、ちゃんと町なんだよ。皆、ここで生きてる。ここで育ったんだ、私もその一人》

《なるほど、責任重大って訳だ。……なに、今日から俺達も仲間なんだ。心配しなくたってしっかり働くさ》

《…うん。期待してるよ、オルカ隊》

 

 誘導路を走行し、機体をハンガーへと格納させてエンジンを停止させる。

 先んじて大洗に到着していた未現の整備員達が機体をチェックし、問題の有無を判断。ハンドサインはOK、つまりは問題無しだ。

 梯子を降ろし、ヘルメットを外せば、海風に乗って潮の匂いが鼻をくすぐる。地面へと足を付ければ、着慣れた重力が帰ってくる。

 さよなら空よ、ただいま地上。今日から此処がオルカの巣だ。

 

「遂に来たぞ、大洗ー! ここから俺の青春が幕を開けるんだ!」

「頼むからこれ以上恥を晒さないでくれ」

「フラグってやつだね、これは。っと」

 

 雑談に花を咲かせ始めた頃、遠目に小柄な少女が見えた。

 セミロングの茶髪を黒いリボンでポニーテールに纏めた小柄な少女———もとい、県立大洗女学園の現生徒会長、角谷(かどたに)杏(あん)その人である。

 

「やっほー、よく来てくれたね」

 

 と、親しげに手を振る彼女に対して、

 

「全員、敬礼」

「へ?」

 

 東條翔は敬礼を命じ、そしてシルバーとコレクターもそれに準ずる。

 

「未現学園第6航空師団第22飛行隊オルカ、現時刻を以て大洗へと到着しました。1番機の東條翔です」

「同じく未現学園第6航空師団第22飛行隊、2番機の越前(えちぜん)友也(ともや)です」

「同じく未現学園第6航空師団第22飛行隊AWACS、岡崎(おかざき)集次(しゅうじ)です」

「ちょちょ、堅いなー! さっきまでの無線のやり取りは何処行ったのさ」

「いや形式上。ぶっちゃけ早く休みたい」

「仮面取れるのはや!」

「未現学園の恒例でね。雇用在籍したら、必ずやらないといけないんだよ」

 

 ミリオタ気質故なのか、はたまた単にそういう趣味なのかはさておいて。

 

「休ませてあげたいのは山々なんだけど、まずは案内しないとでさ。ほら、学園の案内と一緒に寮も紹介出来るし?」

「まぁ、そりゃそうだよな……分かった、案内してくれ」

「りょーかい。じゃあ行こうか、大洗の校舎に!」

「よっしゃ行こうー!」

 

 先行する生徒会長にノリノリで追従する2番機を呆れながら、東條は策の方へと視線を移す。

 まだ人は多い。皆、戦闘機に夢中になっている。

 まぁ、カッコイイだろうな、とは思う。個人的には、戦車と比べると戦闘機の方が好きだと言える程度には。

 鋼鉄の鳥。空を飛ぶ機械。人間が生身では決してなし得ない事をなし得る為の兵器———それが、戦闘機だ。

 天翔ける者に分別無し。戦闘機道の共通理念であり、戦闘機道が如何なる道であるかを指し示す言葉。

 空に憧れを抱く者は、皆等しく仲間であり、共に頂を目指す同志である。そこに人種と性別などという差別が介在する余地は無く、故に我らはただ未知なる空へと翔かん。

 

「……自由に飛ぶさ。黒森峰に目にもの見せてやろうぜ、西住」

 

 まぁ、アイツはそんな事なんてこれっぽっちも考えちゃいないんだろうが。

 

「そもそもアイツが俺を憶えてるかも分からんが……そこはいいか。あ(・)の(・)時(・)の(・)恩(・)はきっちり返す、それだけだ」




・未現学園
1945年に建造され、現代まで続く長い歴史を持った由緒ある学校及び学園艦。外観モチーフは空母ケストレル。母港は東京都東京港。名前の元ネタはストレンジ(不可思議・奇妙な・未知)・リアル(現実)。
生徒を含めた人口は黒森峰に匹敵し、部活動においては特に戦闘機道に力を入れており、現代に戦闘機道が復活し始めた最たる要因。
学園としては非常に異質な『生徒の貸出』を行っており、これは学園側が『他の学園でも戦闘機道が少しでも流行るのならば』と意見を合致させ、全国戦闘機道連盟を設立させて迫真の勢いで押し込んで認めさせたもの。
戦闘機道を復活させる為ならば手段は問わず、ブラックでさえなければグレーゾーンまで平気で手を伸ばすかなり危険な思想が垣間見えるものの、長い歴史と実績を盾にひたすら戦闘機道の為に前進するかなり厄ネタ気質な学園である。

また、戦闘機道支援の為に、戦闘機道専用の戦闘機を開発・販売している巨大企業『エンダー・コア』の本社があるのもこの学園艦。未現とは完全な協力関係を築いており、エンダー・コア側は戦闘機を提供し、未現側はパイロットデータとテストパイロットの提供を行っている。

【戦闘機道】
第二次世界大戦を切っ掛けに廃れてしまった、戦車道とは対極に位置する『空の武道』。戦車道が乙女の嗜みとして親しまれているのとは正反対に、『天翔ける者に分別無し』という共通理念を掲げ、人種・性別を問わず多くの人々が打ち込み、かなりの人気を誇っていた。
廃れた理由は現代になっても完全に解明はされておらず、今の所は『大戦末期の戦闘機を用いた特攻により、戦闘機そのものが民衆にとって恐怖の対象となってしまった事が原因ではないか?』という説が有力だとされている。
しかし現代では脱出機構などの進歩もあり、未現学園が強く推し進めたのもあって20年程前から戦闘機道が再び日の目を浴び始めており、現在は他の学園艦でも戦闘機道が少しずつ普及しつつある。
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