幼馴染によってトラウマを植え付けられた俺は、元アイドルの超絶美少女に救われる~発症トリガーの幼馴染と、克服トリガーの元アイドル~   作:かかのすけ

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第10話 マママ、マリーがウチに来てる!

 水無瀬が転校してきた日の昼休み。

 俺は校舎脇の非常階段にいた。

 

 校舎の脇で外壁に沿うように設けられた非常階段。

 ここを通る生徒はめったにいないので一人で過ごすにはうってつけの場所だ。

 

 四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、弁当を持ってここに来る。

 ――これが、教室に居場所がない俺の日課になっている。

 

 教室にいるとなんか息苦しいんだよな。

 

 (それに、あいつらの顔を見なくて済むし……)

 

 ぼっち飯は仕方ないと自分に言い聞かせながら、弁当箱を開く。

 

「おっ今日はミートボール多めだ。これ好きなんだよな……あむッ」

 

 ミートボールを頬張る。

 

「この卵焼きも甘めでおいしい、茜の料理マジでうめえ……!」

 

 妹が作った弁当を食べているこの瞬間だけが学校で唯一の幸せだ。

 まさか、こんな高校生活になるとは思ってなかったけど。

 

 ……俺なにもしてないよな?

 

 みんな悪魔かよ。

 

 あ、いや伊藤さんは違うか。

 『ストーカー野郎』の俺と話していると彼女に迷惑をかけるからあえて避けてるけど……。

 

「てか水無瀬だっけ? あいつはなんなんだ……?」

 

 ……さっきのアレ、距離感バグりすぎじゃね。

 

 誰にでもあんな感じなのかな。

 でも『迎えに来た』とか言ってたよな……。

 

 ……あんな美少女の知り合いなんていないんだけど。

 

「じゃあ、やっぱり……」

 

 夢で会ったあの子なの?

 いや……でもあの子はもっと小さい女の子だった。

 

 わけ分かんねえ。

 俺は考えることをやめて弁当をかきこむ。

 

「ごちそうさま」

 

 弁当を完食した俺は、茜の中学の方角に向かって手を合わせる。

 もう茜さえいれば後はどうでもいいや。

 

 ……変に人を好きになってもロクなことにならないってことは分かったしな。

 

 こんなクソみたいな経験はこれっきりにしてくれ。

 

 

 

 ◇

 

「さて、そろそろ戻るか」

 

 昼休みが終わる10分前になったので非常階段から教室へ戻る。

 

 (五時間目は数学だったっけ……そういや来週からテストなんだよな)

 

 『全然勉強できてないな~』なんて考えながら教室に足を踏み入れると……。

 

 ――教室中の視線が俺に集まるのを感じた。

 

 (え……? また俺が何かやったことになってんの?)

 

 ゴクリと固唾を飲み、何にも知りませんというオーラを全開にして自分の席に戻る。

 ……本当に何も知らないんだから当然だ。

 

 俺が席に戻ってからも多くの視線をばんばん感じる。

 

 (いやまじで……! 俺が何したっていうんだよ)

 

 あいつはいない……伊藤さんもいないな。

 

 と、その時――

 

「あ! いた!」

 

 妙に人を惹きつけそうなあの声が聞こえてきた。

 

 (……無視だ。こんなのにかまったら、また変な噂を流されてしまう)

 

 俺は机に突っ伏し、完全防御態勢に入る。

 

 ――しかし、思わぬ形で防御は破られた。

 

「ねえってば。無視しないでよ、あーくん」

 

 その声と同時に、俺の後頭部に柔らかいモノがムニュっと当たった。

 ……それは柔らかすぎず、かといって固くもない。

 

 程よい弾力の……。

 

「……ってなんでやねん!!」

 

 思わず大きな声でツッコんでしまった。

 周りからの怪訝な視線が痛い。

 後ろに振り返ると、水無瀬が口元に手を当ててニシシと笑っている。

 

 ……くそッ、こいつわざとか。

 

 俺は呆れたように口を開いた。

 

「こういうのやめた方がいいよ。勘違いする人もいるし」

 

 すると、次は小悪魔な笑みに変わり、俺の耳元で囁いてくる。

 

「あーくんになら勘違いされてもいいよ♡ それに、こんなこと他の人にはしないから♡」

 

 耳元で囁かれる艶やかな声、独占欲を刺激するセリフ、肌が触れそうな程近くにある整いすぎた顔、ふわっと香るシャンプーの匂い。

 

 普通の男子高校生なら秒で勘違いするだろう。

 だが、俺は違う。

 

 俺はこの手の勘違いで高校生活を棒に振った人間だ。

 何もときめかない。

 

 むしろ、こういうグイグイくる肉食系みたいな女は苦手だ。

 

 俺は『はぁ』と一息つき、心底呆れたように言った。

 

「もう構わないでくれる?」

 

 俺の冷たい言葉を聞いても、水無瀬は相変わらず『ふふふ♪』みたいな顔で微笑んでいる。

 

「それはむり♪」

 

 ……うぜえええ。

 

 俺は無視してそのまま机に突っ伏した。

 

 

 ――そんな蒼を、水無瀬は笑顔だがどこか切ない表情で見つめていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 放課後。

 帰りのホームルームが終わり、俺は帰宅する為に通学路を歩いていた。

 

「ね、ねえ蒼……」

 

 急に後ろから名前を呼ばれる。

 だが聞こえてきた声の主は……トラウマを誘発するものだった。

 

 俺は顔を見ないように前を向いたまま答える。

 

「ごめん、ちょっと急いでるから」

 

 後ろにいる凛から離れる為に歩くスピードを上げた――その時。

 

「待って!」

 

 ガシッと腕を掴まれてしまった。

 

 (……どうしよう、どうすればいい)

 

 俺は凛の顔を見ないように前を向いたまま、どうやって切り抜けようか必死に考えていた。

 しかし、凛はそんなこととはつゆ知らず、言葉を続ける。

 

「なんで私のこと避けるの……? 今まで何があってもずっと一緒だったじゃん……」

 

 ……今はそんな問いに答えてる場合じゃない。

 

 俺の呼吸は少し荒くなっていた。

 凛はそんなことはお構いなしに自分の思いをぶつけてくる。

 

「蒼……? また前みたいに――」

 

 凛が話している途中、俺の腕を白くて華奢な手が掴んだ。

 俺はパッと掴まれた方を見る。

 

「兄さん? 遅いから来たよ。ほら帰るよ。……あ、凛ちゃん久しぶり。ちょっと今急いでるからごめんね~」

 

「あ、ああ……」

 

 (……まじで助かった)

 

「ちょっと! 蒼!」

 

 凛は納得がいかない様子で俺の名前を呼ぶが、俺たちはそれを無視して歩き出した。

 

 ぽつんと立ち尽くす凛。

 

 

 ――その光景を、少し離れた物陰から見つめる白髪の美少女がいた。

 

 

 

 

 ◇

 

 学校から家までの道中。

 隣を歩く茜は普段と何も変わらない様子だ。

 

「その、ありがとう……」

 

 今回はまじで助かった。

 まるでいじめっ子から弟を守る姉御じゃん。

 ……俺、情けな。

 

「いいのいいの。茜は何があっても兄さんの味方だから」

 

 澄まし顔の茜が、さも当たり前かのようにそんなことを口にする。

 

 ……まじで神。

 

 このままだと茜に依存してしまいそうだ。

 気を付けなければ。

 

 

 

 帰宅した俺は夕飯を終え、そのままソファでくつろいでいた。

 茜もリビングでスマホをいじっている。

 

「……兄さん、凛ちゃんのことだけど……」

 

 ふと、茜が凛について話し始めた。

 

 そういえば、茜には俺が学校でどういう状況なのか言ってないんだった。

 でも、早い段階でおおよそのことは知ってたっぽいんだよな。

 

 (朝、凛がここに訪ねてきて俺が倒れた後の態度的に多分知ってる……)

 

 まあいいか。

 心配かけたくないから言わなかったけどバレたなら仕方ない。

 てか、そもそも茜の前でみっともなくぶっ倒れたしな。

 

「凛がどうした?」

「実は葉月ちゃんに話は聞いててね……凛ちゃんと何かあったんでしょ?」

 

 ……伊藤さんに聞いたのか。

 

 そりゃそうだよな。 

 伊藤さんが黙ってる方がおかしい。

 

「まあね。いま俺学校でやばくてさ……。伊藤さんに迷惑かけたくないからできるだけ一人でいるようにしてるんだ」

 

 気にしてませんという顔で、俺は伊藤さんを避けている理由を説明した。

 

 すると、茜は目尻を少し下げて言った。

 

「それ兄さんの思い込みだよ? 葉月ちゃんは兄さんと前みたいに話したいって言ってたし。意味も分からず避けられるのは兄さんも嫌でしょ?」

 

 その言葉を聞いた俺はハッとする。

 

 確かに。

 俺も凛に遠ざけられた理由が分からずに嫌な気持ちになっていたしな。

 

「それで話を戻すけど、今日凛ちゃんに詰め寄られてたじゃん。ああいうのはよくある?」

 

「いや、ないな。今までは人前で俺を避けてたし……」

 

「そうなんだ……でもこれからないとも言い切れないよね」

 

「……まあね」

 

 確かにないとは言い切れない。

 

「だからね? 葉月ちゃんに兄さんの護衛みたいな事をお願いしようかなと」

 

「なるほど……助かるっちゃあ助かるけど、伊藤さんはこの話を知ってるのか?」

 

「今さっき本人に提案してみたんだけど、兄さんが良ければ協力するってさ」

 

「まじ? ならお願いしようかな」

 

 自嘲気味に笑いながら伊藤さんにお願いする旨を伝えた。

 

 情けない話だが、学校で凛を俺から遠ざけてくれるのは助かる。

 今日のようにしつこく来られるとやばい。

 

 ……って待てよ? 

 

 ここでふと、一つの疑問が浮かび上がる。

 凛はなぜ人目を気にせず普通に話しかけてきたんだ?

 

 精神的に余裕がなかったから違和感に気が付かなかったが、凛が俺に話しかけてきた場所は校門からそんなに離れておらず、同じ高校の生徒もちらほら歩いていたはずだ。それに俺は、凛のストーカーということになっている。

 

 (あの日、俺の家に凛が訪ねて来たっけ。時間的に……神宮寺たちとは結局遊ばなかったのか)

 

 じゃあなんで?

 もしかして……謝りたいのか?

 

 必要ないんだけどな。 

 謝罪なんか貰ったって何も変わらない。

 

 俺の望みは――凛が視界に入らないこと。

 ただそれだけだ。

 

 ……茜に頼んで凛に伝えてもらっておくか。

 

「それとさ、茜ってまだ凛と連絡先繋がってる?」

「うん? 繋がってるけど……切ってほしいの?」

 

 不思議そうな顔でこちらをみる茜。

 

「いや、凛に伝えてほしいことがあって……」

「……なに?」

「えっと……『俺に謝らなくていいからそっとしておいて』って伝えてほしい」

「ん、分かった」

 

 これで明日からの学校生活が楽になると良いな。

 

 ……あとはアイツか。

 

 水無瀬……あれはやばい。

 距離感がバグりすぎて訳が分からなくなっている。

 

 今の俺が最も近づいてはいけない女だ。

 

 (一応、今日強めに突き放したつもりだが……まるで手応えが無かった)

 

 どうしたもんか。

 まあ、すぐに飽きて近づいてこなくなるだろ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 翌朝。

 俺は茜に体を揺さぶられて起きた。

 

「ににににに兄さん!? お、起きて!」

「……ん? どした?」

 

 眠い目を擦りながら茜の顔を見ると、あわあわとした表情で焦り散らかしているではないか。

 

「マママ、マリーがウチに来てる!!」

 

 次から次へと……もうわけ分かんねえよ。

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