「今日はきゅうりの中華風胡麻和えです!」
『夜ごはんのおかずにぴったりですね』
材料
・きゅうり(一人前一本)
・調味酢
・醤油
・鶏がらスープの素
・すりごま(白)
・ゴマ油
『材料は以上となっております』
「簡単ですね!」
先生と助手の掛け合いが始まった。
「へー、最初はどんなことになるのかと思ったが案外フツーにやるんだな」
最初のインパクトは何処へやら、テンプレ通りのお料理番組が始まった。
「まずはこれくらいのビニール袋を用意して、ちょうどよい感じのボウルに被せます!」
『25センチ×35センチほどの袋をご用意ください』
前言撤回。
先生は手で顔の前に輪っかを作り必死に袋の大きさについて説明してゆく。
「やっぱなんか変だぞ?この番組。別に袋なんてその辺にあるやつでいいだろ」
俺は恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。
その間も先生は袋について力説している。
ちょっとかわいいけど早く料理しろよ。
「きゅうりの皮をむきます!皮のあるところを少し残すと風味がいいですよ!」
やっと料理がはじまった。
先生は器用にピーラーできゅうりの皮をむくと白と緑のストライプきゅうりが出来上がる。
「それを乱切りです!クルっ!とん!クルっ!とん!三角!とん!三角!とん!」
先生はクルクル三角三角と呟きながらきゅうりを包丁で切っていく。
まな板の上に乱切りされたきゅうりが積みあがった。
「一人一本だと物足りないので二本ぐらい行っちゃいましょう!」
分量とは何だったのだろうか。
まな板の上にさらにきゅうりが追加された。
「切ったきゅうりをさっき用意したビニール袋に入れます!ほら良い感じ!やっぱり大きさが……」
先生はまたビニール袋について熱く語りだす。
なるほど確かにきゅうり(追加含む)を入れると丁度良い感じになっている。
今んとこ、料理:ビニール袋が2:8だな。
「まな板と包丁はもう使わないので、手を洗うついでに洗っちゃいます!」
そう言って先生は画面から消えた。
手洗いは大事ですよ~!画面の外から先生の声が聞こえる。
「テキトーそうだけどその辺はしっかりしてるのか。というか助手の人しか映ってない料理番組って何なの?」
俺はまた、恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。
「では味付けです!」
先生が画面に戻って来た。
「まずはカンタン酢!これをとぽとぽって感じに入れます!よく見ててね!」
『調味酢を加えます』
先生は手に持った調味酢をビニール袋のきゅうりにか流していく。
商品名を言ってしまって、せっかくラベルを剥がした意味が台無しになっている。
「次は醤油です!ちょい!ちょい!って感じです!」
今度は醤油だ。
先ほどの調味酢より控えめに入れてゆく。
「次は鶏ガラスープです!私はユウキ食品の鶏がらスープの素が好きですが、今日はスポンサー様の関係で味の素の鶏がらスープの素です!鶏がらスープには粉末と顆粒があるのですが、絶対に顆粒がオススメ!粉末は全然ダメ!湿気ですぐにくっつくし使いにくいの!それから減塩タイプは出汁のライブ感が足りないからフツーのやつがいいよ!ユウキの130グラムボトルに詰め替えながら使うのが使いやすくていいかも!」
『鶏がらスープの素を加えます』
熱く鶏がらスープのもとについて語る先生のドアップが画面に映し出される。
今んとこ、料理:ビニール袋:鶏がらスープが1:2:7だな。
「次はすりごま!ちゃんとあたってもいいけど、すりごまになってるやつで大丈夫!」
『すりごまを加えます』
先生は小分けになったすりごまパックを加えていく。
「あんな商品があるのか。少し使うには便利そうだな」
男の一人暮らしに、すりごまなんてものは滅多に登場しない。
一回使って冷蔵庫の肥やしになるのは目に見えているのでこんな商品を教えてくれるのは嬉しい。
「これで優しく揉みます!もみもみ~!」
『味を馴染ませます』
先生はきゅうりと調味料が入った袋の口を左手で掴み、右手で優しくもんでいく。
そこまで見て俺は気づいた。
「分量は?」
そう、ここまで一切分量の説明が無いのだ。
とぽとぽとちょいちょいでどうやって作るんだよ、これ。
「ここで味見します!ちょっとしょっぱい!OK!ごま油を入れます!」
「ごま油をお好みで加えてください」
しょっぱいのかよ。
「分量は?」という疑問を置き去りにして料理は進んでいく。
「これを冷蔵庫で30分くらい冷やして完成です!」
「もう冷えてるのあるんだよね?おっけー!食べよう!」
先生がスタッフの人に話しかけてる。
視線が明らかにテレビの横を向いていた。
「出来上がったものがこちら、ってわけか。最後は料理番組っぽいな」
俺は結局最後までこのおかしな料理番組を見てしまった。
薄い座布団にすわったケツが痛い。
「これはおつまみにもピッタリなんですよ!ビールによく合います!」
そう言いながら先生は料理と缶ビールを手に戻って来た。
綺麗な飾りつけがされたテーブルにきゅうりの中華風胡麻和えが並べられた。
「それではいただきます!」
カシュッ!
ぐびぐび!
「うまい!」
先生はビールを美味しそうに飲み干した。
「いや、それビールの感想だろ」
俺はまたまた、恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。
「それでは、きゅうりもいただいてみますね!」
カリ!
ポリ!
コリ!
やたらと美味しそうなきゅうりの音が響く。
「え!これ私が作ったのより美味しい!」
先生が作ったやつじゃないのかよ。
さっきもしょっぱいけどそのまま行ったしな。やっぱり分量が大事なんだと思うよ、俺は。
『本日の料理の材料はこちらです』
助手の人がフリップを掲げる。
相変わらず分量については空欄のままだ。
『先生、分量の目安はどのくらいでしょうか?』
助手の人が視聴者が最も聞きたいところを聞いてくれた。
すると、急に雰囲気が変わる。
さっきまであんなに陽気だった先生は硬い表情になり、静かに箸をおいた。
そしてゆっくりとカメラに近づく。
テレビには先生のドアップが映る。
「料理ってのはさぁ人が作って人が食べんのよ」
「味なんてお前が決めろ」
「お前のこれは飾りか?」
そう言って先生はカメラを掴み見下すような視線を送る。
そして、口を開けて舌を大きく出し、その舌を中指で指した。
すぐに映像が切り替わり、物撮りされた料理が映し出される。そのままエンディングが流れ、お料理番組は終わった。
俺はリモコンのボタンを押してテレビを消した。
「何だったんだ?あの番組」
余韻に浸るどころか暴風に巻き込まれたような気分だった。
しかし。
「あのきゅうりの奴はうまそうだな。つくってみるか」
それと、
「あの先生、エロ可愛いな」
俺は財布とスマホをポケットにしまうと、スーパーに向かって自転車をこぎだした。