佐々木ささ美のお料理教室   作:kasyo

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和風冷やし中華

『皆さんごきげんよう、今日のお料理の時間です』

 

テレビから落ち着いた女性の声が聞こえる。

 

「またはじまった。よく二回目の放送できたな」

 

俺が昨日見た衝撃的なお料理番組の二回目が始まった。

衝撃を受けたのは俺だけではなかったらしく、SNSでは現在進行形でバズり散らかしている。

 

特に先生が最後に決めた「口を開けて舌を大きく出し、その舌を中指で指す」というポーズは世界中の人々の琴線に触れたらしく、たった一夜でネットの海を埋め尽くす勢いであった。

 

「今日は和風冷やし中華です!」

 

『ちょっと涼しい今にこそ食べたい料理ですね』

 

材料

 

タレ

・麵つゆ(4倍濃縮)

・調味酢

・おろしにんにく

・おろししょうが

・すりごま(白)

・レモン果汁

 

麺

・中華麺(つけめん用)

 

具

・きゅうり

・トマト

・ゆで卵

・ハム

 

『材料は以上となっております』

 

「簡単ですね!」

 

先生と助手さんが今日の料理の材料をまくしたてる。

 

「中華なのか和風なのかはっきりしろよ」

 

俺は恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。

 

「ガラスのボウルを用意してください!別に金属でもいいんですけどガラスの方がおいしそうでしょ?」

 

『ご家庭にある調理器具をご利用ください』

 

相変わらず料理以外の情報が多い先生である。

 

「まず、麺つゆをぽとぽとーと入れます!」

 

そして、分量についての説明はない。

助手の人も分量については一切触れない。

 

「料理番組とは?」

 

思わず俺はテレビに向かって話しかけてしまう。

先生は視聴者の疑問を置き去りにどんどんと調味料を手にとってはボウルに入れていく。

 

「カンタン酢は大体こんな感じですねー!そこに、ニンニクとショウガをちょいちょいっと!」

 

「すりごまはお好みでたっぷり入れちゃって!昨日買った人も多いんじゃないかな!」

 

先生は自信満々に胸を張る。

俺は昨日買ったすりごま小分けパックのことを思い出した。

 

「ちょっと味見をしてー……ん?甘いかな?酸味はレモン果汁で調整してね!それでこれを冷蔵庫で冷やします!」

 

先生は目分量でレモン果汁を放り込むとボウルを手に冷蔵庫に向かう。

画像から、やっぱり画面から消える。

 

あ!今日もビールあるじゃん!

 

画面の外から先生の声が響く。

どうやら今日も飲むらしい。

 

「それでは鍋にお湯を沸かします!今沸かしとくと丁度タイミング良くなるからね!」

 

空の鍋を手に戻ってきた先生は、再び画面の外へ消えると、水の入った鍋を持って現れ火にかけた。

 

「この行ったり来たりするのは何なんだよ。そして助手の人は手伝え」

 

俺はまた、恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。

せかせか動く先生に対して、助手の人は直立不動を保っていた。

 

「次は具材を食べられる大きさで切ってください!」

 

『お好みの大きさにお切りください』

 

先生は用意されたきゅうりを昨日の中華和えのように乱切りにすると、トマトを六等分に、ゆで卵は半分に切った。

ハムは少し悩んだ素振りを見せてから二つ折りにした。

 

「食べられる大きさ」

 

おおよそ料理番組から飛び出すことがないであろうワードが飛び出した。

まぁでもそうか。丸ごときゅうりじゃ困るけど自分の食べるもんなんだし食べられればいいか。

 

「そう言えば冷やし中華なら千切りの卵焼きみたいなやつじゃなかったっけ?」

 

俺は頭の中に冷やし中華のイメージを表示する。

うん、確かに黄色い奴がいる。

 

そんな疑問を見透かすように、先生は

 

「映えなら錦糸卵なんだけど、メンドイ!洗い物増えるし!ほんとなら麺をゆでる前にゆで卵を作っておくといいですよ!」

 

なるほど。

確かに薄い卵焼きを作るのは大変そうだし、まな板を出して包丁で切らないといけない。

 

「ちょくちょく生活のテクニックみたいなの挟んでくるな、この先生」

 

家族向けというより一人暮らし男性向けの料理番組なのか?

まぁ二話目を見ている俺もその思惑にまんまとはまっていると言えるんだろうが。

 

「それでは麵をゆでます!この太麺がいいのよ!」

 

『お好みの太さの麺をお使いください』

 

どっちだよ。

 

「いや絶対に太麺がいいって!タレの味に負けない小麦のパンチが……」

 

先生は時折り鍋の様子をうかがいながら助手の人をまくしたてる。

相変わらず直立不動のままだ。

 

「お笑いのコンビかなんかなのか?」

 

どう見てもコンビ芸である。

すると、アラームがピピピッとなった。

 

「はい、茹で上がりました!今日は五分茹でを六分茹でています!あっちい!」

 

先生は大騒ぎしながらシンクに置いたざるに麵をあけ冷水で洗っていく。

というか湯気でなんも見えていない。

 

「とにかく冷水で締めるのがポイント!夏は水がぬるいから出来れば冬がおすすめです!」

 

冷やし中華のアイデンティティーを全否定するような言葉が飛び出した。

 

「よーく水を切ってお皿に盛りつけます!」

 

「そして具材を並べてー最後にタレをかけて完成です!」

 

増して綺麗な飾りつけがされたテーブルに和風冷やし中華が並べられる。

いつの間に持ってきたのか、先生の手には銀色に輝く缶ビールが握られていた。

 

「またビール飲むんだろ」

 

俺はまたまた、恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。

 

「それではいただきます!」

 

カシュッ!

 

「ほらやっぱり飲んだ」

 

俺はそう確信する、しかし!

 

「ずるずる、はむはむ。しゃくしゃく……」

 

予想に反して先生は冷やし中華を頬張る。

 

そして無言で缶ビールに手を伸ばし。

 

ぐびぐび!

 

「うまい!」

 

先生はビールを美味しそうに飲み干した。

 

「結局どっちの感想だよ」

 

俺はまたまたまた、恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。

 

「ねぇ、みっちゃんも食べてみなよ!この前のよりおいしいかも!」

 

先生は助手の人を手招きで呼んで、自分の席に座らせた。

助手の人は眼鏡をそっと外すと、テーブルに置き箸を手に取った。

 

「え?同じ箸で同じ皿を?」

そんな料理番組ある?二人で食べるなら二つ出すのが当然だろうに。

どうなってんだ?

 

助手の人は俺の疑問を他所に麺を啜る。

すると。

 

『あ!ほんとだ!おねぇちゃん、この前作ってくれたのより美味しいよ!』

 

「でしょー!」

 

そう言って、先生は胸を張った。

いやいや、そんなことよりも。

 

「この二人、姉妹だったのかよ……。そんなキャスティングある?」

 

俺の心のモヤモヤを置き去りに、エンディングが流れると今日の料理は終わった。

 

「言われてみるとよく似てたな。テンション高めの声とかそっくりだったし」

 

俺は薄い座布団から立ち上がると、スマホと財布をポケットにしまった。

 

「冷やし中華とか随分食ってないな」

 

自転車はスーパーへ向けて走り出した。

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