佐々木ささ美のお料理教室   作:kasyo

3 / 3
鶏ハツのそのまま炒め

『皆さんごきげんよう、今日のお料理の時間です』

 

テレビから落ち着いた女性の声が聞こえる。

 

「おっ、始まったな」

 

なんだかんだでこの料理番組にはまってしまった俺は、始まる前からテレビの前に座り待機していた。

 

「今日は鶏ハツのそのまま炒めです!」

 

『お酒のおつまみにぴったりですね』

 

材料

 

・鶏ハツ

・酒

・塩

・コショウ

 

『材料は以上となっております』

 

「今日はめっちゃ簡単ですよ!」

 

用意された食材はたった四つ。

しかもそのうち三つは調味料で、実質的には鶏ハツだけだ。

 

「今日はえらく簡単そうだな。鶏がらスープもすりごまも無しか」

 

せっかく買った鶏がらスープの素もすりごまも必要ないらしい。

 

「こんな感じの片手鍋をご用意ください!」

 

先生は両手に片手鍋を持って現れ、まるで団扇を振るようにぶんぶん振り回すと、一つを妹さんに手渡す。

妹さん、もとい助手さんは画面からはけていき、つぎに現れた時にはその手に鍋は無かった。

 

「二つ持ってきた意味」

 

もうすっかり慣れてしまったやり取り。先生の鉄板ネタである。

 

「お鍋の中に鶏ハツを入れます!そしてお酒をちょっぴりかけます!」

 

その光景を見て俺は思わず「え?」と言ってしまった。

料理に疎い俺でも何となくは知っている。

 

「下処理は?臭いけしとか」

 

先生は下処理もせずそのまま鍋にぶち込んだのだ。

 

「これでお酒がなくなるまで強火で炒めます!お酒がなくなったら弱火で!」

 

俺の疑問が解消することなく料理は進む。

 

「お酒がなくなったので弱火にします!あとはハツの油でじっくり焼いてね!」

 

先生は菜箸で鍋の中のハツを転がしながらジュージューと焼いていく。

 

「ここでしっかり火を通してね!中の血にも火が入って美味しくなるから!パワーがつくよ!」

 

「それに鶏の下処理は飛び散った細菌が怖いからねー!舐めてるとひどい目にあうよ!」

 

あぁ、なるほど。

よく考えてみれば料理名そのままであるともいえる。

 

「たまに生焼けの鶏肉で食中毒とか聞くもんな。調理器具とか洗うのめんどくさいし」

 

確かに合理的とも言えそうだ。

それに味も良くて片付けも簡単ならこちらとしても大歓迎だな。

 

「ハツの油がパチパチ言ってるでしょ!こうなったら塩コショウして完成!」

 

先生は塩と胡椒をガリガリとふると、手早くお皿に盛りつけた。

 

「本当に簡単だったな」

 

本当にそのまま炒めただけだ。

見た目もそのまま炒めたハツそのものだな。

 

そこで俺ははたと気づいた。

 

「そう言えば助手さんがいないな」

 

お鍋を片付けた時には確かにいたはずの助手さんがいない。

俺が画面の中を探していると。

 

「お姉ちゃん、こっちも出来たよー!」

 

「出来た?」

 

画面の外から助手さんの声が聞こえる。

 

「オッケー持んできてー!」

 

綺麗な飾りつけがされたテーブルに鶏ハツのそのまま炒めが並べられる。

もちろんビールも。しかも二缶。

 

それから、

 

「きゅうりのピリ辛和えです!」

 

いつの間にか一品増えていた。

 

『お姉ちゃん早く飲もうよ!』

 

「そうだね!それではいただきます!」

 

カシュッ!

 

ぐびぐび!

 

「『うまい!』」

 

姉妹の声が揃う。

 

「もはや晩酌じゃねーか」

 

俺は、恐らく視聴者のすべてが思っているであろうことを呟く。

 

「鶏ハツ美味しー!」

 

「みっちゃんのピリ辛も美味しいよー!」

 

姉妹は仲良くツマミを頬張り、ビールをぐいぐい飲み干していく。

そこまできて、先生ははっと、何かに気づいた表情をした。

 

「この前の胡麻和えに山椒ラー油入れるとこれができるから試してみてね!」

 

「『それじゃあ皆さん、レッツクッキング!』」

 

姉妹の飲み会からカメラが引いていき、エンディングが流れると今日の料理は終わった。

 

「俺は一体何を見せられていたんだ」

 

俺は薄い座布団から立ち上がるとスマホと財布をポケットに入れた。

 

「鶏ハツか。駅前の肉屋さんに行ってみようかな」

 

「山椒ラー油。また調味料が増えるな」

 

俺は駅前の商店街へ向け自転車をこぎだした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。