神時代に現れた戦闘民族 作:SS4のビジュアルが一番好き
やっぱ便利ですね。
「じゃあ、まずはわしから聞かせてもらおうかの。お主、いったいどこから来た? 少なくともこの下界で、生きているサイヤ人の噂など聞いたこともないぞ。それに、あの森で何をしようとしておったんじゃ?」
老人はふざけた様子を消し、鋭い眼光をターメリクに向ける。その威圧感に一瞬気圧されそうになりながらも、ターメリクは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。
「……どこから来たかだと? 知るかよ。俺はさっきまで自分の家にいたんだ。飯を探しに家を出たら、突然目の前に現れた黒い穴に吸い込まれて気づけば、あの知らない森に飛ばされてたんだよ。何をしようとしてたかもクソもあるか。俺はただ、腹が減ったから朝飯の獲物を探してただけだ」
「黒い穴、じゃと……? 次元の壁に穴でも空いたか……」
老人は顎の髭をさすりながら、何事かを深く考え込むように目を細めた。ターメリクの言葉に嘘が無いことを見抜いたのだろう。老人の顔にニヤリとした笑みが戻る。
「なるほどな、合点がいったわい。よし、取引通り次はお主の番じゃ。何でも聞いてみるが良い」
縄を軋ませながら、ターメリクは老人を激しく睨みつけ、ずっと胸に引っかかっていた一番の疑問を真っ先にぶつけた。
「おい爺、さっきテメェ、俺のに何をした!? スピードじゃねぇ、俺はお前をちゃんと見てたんだ。なのに身体が勝手に宙を舞ってた。あの妙な力はなんだ!」
真っ先に聞いたのは己の敗北の理由。強さを渇望するサイヤ人として、それ以外の質問などあり得なかった。老人はニッと口角を上げて笑う。
「ほっほ、やはり戦いに関しては目ざとい小僧じゃ。あの時、わしが使ったのは妙な力などではない、
「
ターメリクとて、これまで完全に技術を軽視していたわけではない。だが、パワーやスピードに比べれば、その優先順位が低かったのもまた確かだった。それが、純粋な「技術」のみによって自分の力が完璧に無力化されていたという事実は、彼のプライドを激しく刺激した。……と同時に、新たな強さへの強烈な好奇心が胸を支配する。
「ほっほ、力比べだけが戦いではないということじゃ。……さて、これで一つ目の応酬は終わりじゃが、お主、さっき気絶する前に何か言いかけておったな?」
老人に促され、ターメリクは次に引っかかっていた疑問を口にする。
「……ああ、そうだ。テメェさっき『サイヤ人が滅んだ』って言ったな。どういうことだ? 」
「それを話すには、一つ言っておかねばならんことがある」
老人はふっと真剣な目つきになり、驚くべき事実を告げた。
「お主にとって、黒い穴に吸い込まれて、何処か別の場所に飛ばされたように思うかもしれん。じゃがな……ここは、お主が生きていた時代からはるか遠い『未来』の世界じゃよ」
「……あ? 未来、だと……!?」
ターメリクは目を剥き、絶句した。
見知らぬ森に飛ばされただけだと思っていたが、空間どころか時間さえも超えて見知らぬ未来へ連れて来られたと言う信じられない話に、ターメリクの胸に驚きと大きな動揺が走る。そんなターメリクの反応を面白そうに眺めながら、老人は言葉を続けた。
「……サイヤ人という種族はな、ダンジョンが現れるよりもはるか昔……飽くなき戦いを求め、同族同士で凄絶な殺し合いを続けた果てに自滅し、滅んだ伝説の種族じゃ。生き残りがいたとしても、とうの昔に寿命で絶滅している」
「…………は? 同族同士で、殺し合い……? 滅んだ……?」
老人の口から語られた言葉に、ターメリクは思考を止めた。
強い動揺が胸を突く。全世界最強と恐れられた戦闘民族サイヤ人の全滅だ。いったいどれほどの怪物、どれほどの強大な敵と戦って敗れ去ったのかと身構えていたにも拘わらず、まさか身内同士で潰し合って滅んだなど、予想すらしていなかった。
しかしターメリクはすぐに動揺を収める。……もとよりターメリクはサイヤ人、同族に対する強い仲間意識など存在しない。それに、その滅びの理由にあまりにも納得がいってしまったからだ。
「……そりゃそうか。納得だ。その『ダンジョン』だか何だかが現れるより前、俺たちの敵になる相手なんて、同じサイヤ人以外にいなかったんだからな」
「ほう?」
「俺の周りじゃ、みんな個人個人で好き勝手に戦って、勝手に死んでいってた。それが積み重なって種族ごと消えたって言われりゃ、そりゃそうだろうとしか思わねぇよ」
元より戦いの中にしか生きられない戦闘民族だ。他に力を向けるべき敵がいなければ、その飢えた牙が同族へと向くのは必然。自分も含め、目の前の強い奴と戦わずにはいられないのが、サイヤ人という生き物だ。
「俺たちから戦いを取ったら何も残らねぇ。敵がいなけりゃ身内同士で殺し合う……いかにも俺たちのやりそうなことだ」
自嘲気味に、だが妙にしっくりときた様子でターメリクは吐き捨てた。動揺は完全に消え、その瞳にはサイヤ人らしい冷徹な光が戻っている。老人は感心したように頷いた。
「ふむ、お主の時代では点であった殺し合いが、やがて線となり面となって種族を終わらせたというわけか……。これでお主の疑問は晴れたかの?」
「いや、まだだ。さっきからテメェの口から出る言葉はわけのわからないものばかりだ。さっきから言ってる『神々』だの『ダンジョン』だのってのは、いったい何のことだ? ここがどこなのか、もっと詳しく教えろ」
ターメリクはきつく縛られた縄の感触を忌々しげに睨みつけながら、老人に次の問いを重ねる。老人はその鋭い眼光を少しだけ和らげ、ゆっくりと語り始めた。
「まず『神々』についてじゃが……文字通り、天界からこの下界へと降りてきた
「……神が、わざわざ人間の味方をして力を与えてるってことか? 意味が分からん。そんなことをして何が楽しいんだ」
戦うこと、強くなることは、サイヤ人にとっては生きることそのものだ。それを誰かに「授けてもらう」という感覚も、他人の成長を後ろから眺めて楽しむという神の心理も、ターメリクにはまったく理解できなかった。
「ほっほ、神の娯楽というやつじゃよ。そしてもう一つの『ダンジョン』じゃが……。これは世界の中心、迷宮都市オラリオの真下に存在する、文字通りの巨大な地下迷宮のことじゃ。そこからは無限にモンスターが産み落とされ、下界を脅かし続けておる。神の恩恵を受けた冒険者たちは、そのダンジョンに挑み、己の限界を超えて『偉業』を成し遂げるために戦っておるのじゃ」
「無限に怪物が湧き出る地下迷宮……」
その言葉を聞いた瞬間、ターメリクの胸の奥で、サイヤ人の血がドクンと激しく脈打った。
同族が絶滅した退屈な世界に飛ばされたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
(底の知れない怪物の巣窟……。それに、そこの爺みたいに、今の俺では反応すらできないような『
縛られている身であることも忘れ、ターメリクの口角が自然と吊り上がる。動揺など一瞬で吹き飛び、ただ純粋な高揚感が全身を支配していく。
「面白いじゃねぇか……。爺、そのオラリオとやらには、強い奴がたくさんいるんだな?」
「おやおや、尻尾を握られて気絶させられたばかりだというのに、もう次の戦いの心配か? やはり恐ろしい戦闘民族じゃな」
老人はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、ターメリクの体と尻尾をきつく縛り付けていた縄に手をかけると、あっさりとそれを解いた。
「なっ……、いいのかよ。俺がまたお前に殴り掛かるかもしれないぞ。」
自由になった腕を回し、尻尾の感覚を確かめながら、ターメリクは怪訝そうに、しかし戦意を滲ませて老人を睨みつける。老人は首を振ってほっほ、と笑った。
「ほっほ、もう無駄な力比べはせんじゃろ? お主の敵はわしではない。それに、お主ほどの逸材をこんなところで縛り付けて腐らせておくのは、あまりにも勿体ないからのう」
老人は何か企むように言って、部屋の扉の方へと歩き出した。
「さあ、話は終わりじゃ。ベルが川で捕った魚の残りを焼いておるぞ。まずは腹ごしらえでもするが良い」
そう言い残して部屋を出ていく老人の背中を、ターメリクはただ黙って見つめていた。
力や速度を凌駕する圧倒的な「技術」の壁。そして無限の怪物が眠るダンジョン。思いがけない未来への転移は、彼にとって退屈な世界ではなく、さらなる強さを追い求める新たなる戦いの幕開けとなる場所だった。