神時代に現れた戦闘民族 作:SS4のビジュアルが一番好き
「……教えてもらうって言ったろ。さっさと教えろ」
ターメリクの言葉に、老人は満足そうに顎髭を撫でながら、ゆっくりと立ち上がった。
「ほっほ、威勢が良いな。……ではまず、お主が普段、無意識に肉体を強化するのに使っておるその『魔力』を、完全に抑え込むことから始めるぞ」
「魔力を抑え込む……? なんでそんな面倒なことをしなきゃならねぇんだ。力を抑えたら強く殴れねぇだろ」
怪訝そうに眉をひそめるターメリクに、老人は首を横に振って見せた。
「逆じゃよ。普段から垂れ流しておる魔力を意図的に抑え込み、そして必要な一瞬にだけ極限まで高められるようにするのじゃ。力を『抑える』術を知って初めて、己の限界を超えた爆発的な威力を引き出せるようになる。魔力を意図的にコントロールできるようになれば、自ずとサイヤ人の持つ高い戦闘センスはさらに研ぎ澄まされていくはずじゃ」
「力を抑えて……必要な一瞬に力を高めさせる……」
ターメリクは自分の拳を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ、面白い。やってやるよ」
◇◇◇
そうして老人による修行が始まってから、どれほどの月日が経っただろうか。
ターメリクの毎日は、地獄のような疲労と共にあった。
今まで無意識に行っていた魔力の制御を、体内の魔力を微細に感じ取りながら意識的に、かつ精密に操る。普段は魔力を極限まで抑え込み、瞬時に最大まで高めるその訓練は、肉体以上に精神を激しく消耗させた。
「……はぁっ、はぁっ、くそっ……!」
地面に膝をつき、滝のような汗を流して荒い息を吐くターメリク。
そこへ、小さな足音が近づいてくる。
「あ、あの……お兄ちゃん、お水……それにタオル……」
ビクビクと怯えた様子で差し出されたのは、冷たい水が入った木の器と、清潔な布だった。
白髪の子供、ベルだ。
最初はターメリクの荒々しい空気に怯えきっていたが、修行でボロボロになるターメリクの姿を見るうちに、こうして少しずつ甲斐甲斐しく世話を焼くようになっていた。
「……ちっ、物好きなガキだ」
ターメリクは悪態をつきながらも、それを受け取って水を一気に飲み干す。そして布で乱暴に汗を拭うと、ぽつりとこぼした。
「……ありがとよ」
「えへへ……!」
ぶっきらぼうなターメリクの言葉に、ベルは嬉しそうにふにゃりと笑う。その無垢な笑顔に調子を狂わされ、ターメリクはフンとそっぽを向いた。
◇◇◇
そんな奇妙な関係が築かれつつあった、ある日のこと。
「ちょっと野暮用で出かけてくる。わしが戻るまで、基礎の魔力操作を怠るでないぞ」
そう言い残し、老人が家を空けた時のことだった。
家の前の広場で目を閉じ、体内の魔力を練り上げる訓練をしていたターメリクの耳に、少し離れた森の方から悲鳴が届いた。
「――ッ!! 助けてぇっ!!」
ベルの声だ。
次の瞬間、ターメリクはカッと目を見開き、弾かれたように地面を蹴っていた。
一瞬で爆発的な速度を生み出し、木々をすり抜けて悲鳴の上がった場所へと急行する。
「ヒッ……あ、ああ……っ」
森の開けた場所。そこでは、ベルが尻餅をつき、恐怖に顔を引き攣らせていた。
その目の前には、醜悪な顔をした小鬼のモンスター――ゴブリンが、薄汚い爪を立てて今まさに飛びかかろうとしていた。
「やめっ――」
ベルがギュッと目を瞑った、その瞬間。
「――おい、そのガキに触んじゃねぇぞ」
頭上から響いた声と共に、ターメリクの身体が弾丸のように降ってきた。
ターメリクの重い蹴りがゴブリンの脳天に直撃し、強烈な衝撃波と共に、頭が西瓜のように弾け飛んだ。
ドサッ、と首を失った死体が地面に倒れ伏す。
「……ちっ、雑魚が」
血を振り払いながらターメリクが吐き捨てるように言うと、呆然としていたベルの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「お、お兄、ちゃん……っ」
「あ? 怪我はねぇか――うおっ!?」
言葉を終える前に、ベルがターメリクの腰に泣き叫びながらしがみついてきた。
「わぁぁぁん! 怖かった、怖かったよぉっ! 助けてくれて、ありがとう、お兄ちゃん……っ!!」
「おい、鼻水をこすりつけんな! 離れろ!」
わあわあと泣きじゃくるベルを引き剥がそうとするが、幼い子供のしがみつく力は存外に強く、ターメリクはため息をついて抵抗をやめた。
「……もう敵は死んだ。さっさと帰るぞ」
しばらくして泣き止んだベルにそう告げ、ターメリクは背を向けて歩き出す。
しかし、後ろからついてくるはずの足音が聞こえない。振り返ると、ベルは立ち上がろうとして何度も膝から崩れ落ちていた。
「ど、どうしよう……足に、力が入らなくて……」
恐怖のあまり、完全に腰を抜かしてしまっているのだ。涙目で申し訳なさそうに見上げてくるベルに、ターメリクは呆れたように舌打ちをした。
「ちっ……。男のくせに、情けねぇな」
冷たい言葉を投げかけながらも、ターメリクはスタスタとベルの元へ戻り――ひょいと、その小さな身体を抱え上げた。
「えっ……」
「暴れんなよ。落っことすぞ」
「……うんっ!」
乱暴な口調とは裏腹に、その腕はしっかりと落ちないようにベルを支えていた。
ターメリクの温もりと力強さに包まれながら、ベルはターメリクの首元に小さな腕を回す。
この日、間一髪で自分を助け出し抱え上げてくれたターメリクの姿は、ベルの心に最初の『英雄』として強く刻み込まれた。
いつか自分も、あんな風に強くなりたいと――。
恐怖の後に芽生えたその鮮烈な憧れは、幼いベルの中で確かな決意となっていくのだった。