神時代に現れた戦闘民族 作:SS4のビジュアルが一番好き
ゴブリンに襲われたあの日を境に、ベルの行動に明らかな変化が現れた。
ターメリクの修行が終わるのを待っていたベルが、意を決したように老人の前に進み出たのは、それから間もないある日のことだ。
「おじいちゃん! 僕に剣を教えて!」
「ほう?」
老人は意外そうに目を丸くし、それから意地悪く目を細めた。
「珍しいこともあるものじゃ。お前は剣を振るより、英雄譚を聞くほうが好きじゃなかったかの?」
「英雄譚も大好きだけど……僕、強くなりたいんだ!お兄ちゃんみたいに、物語に出てくる本物の英雄みたいになりたい!」
ベルはギュッと拳を握りしめ、必死な眼差しで老人を見上げる。その姿を少し離れた場所で木に背をもたせながら眺めていたターメリクは、鼻で笑った。
「ハッ、口で言うのは簡単だぜ、ガキ」
「お、お兄ちゃん……! 僕、本気だよ! 追いつけないかもしれないけど……少しでもお兄ちゃんに近づきたいんだ!」
まっすぐに自分を見つめてくるベルの瞳に、ターメリクはわずかに言葉を詰まらせ、フンとそっぽを向いた。
「勝手にしろ。途中で音上げるんじゃねぇぞ」
「ほっほ! 良い覚悟じゃ、ベル。ならば明日からお主にもみっちり剣の振るい方を仕込んでやろう!」
老人は嬉しそうに髭を撫で、小さく微笑むのだった。
◇◇◇
――それから、数年の月息が流れた。
ターメリクは十二歳になり、その体つきは一回り大きくなり、全身から強者の風格を漂わせていた。
ある日の夕暮れ時、解体した獲物の肉を片手で軽々と持ち帰ってきたターメリクに、老人が静かに声をかけた。
「小僧。魔力のコントロールもすっかり身についたようじゃな」
「……ちっ、魔力制御の練習台にしてた森の雑魚どもじゃ、何の確認にもならねぇよ。どいつもこいつも一撃で弾け飛んじまって、ちっとも血が滾らねぇ」
元より地上にいる程度のモンスターなどサイヤ人であるターメリクの敵ではなかったが、魔力を意識的にコントロールする感覚を掴むための練習相手として重宝していた。しかし、その制御を完全にモノにした今となっては、もはや実戦の確認にすらならなくなっていた。
退屈そうに吐き捨てるターメリクを見上げ、老人はニッと口角を上げた。
「ならば、そろそろ潮時じゃな。ここを出て、世界を旅してみるが良い」
「……あ? なんで旅なんだよ。強ぇ奴が集まってんのは、世界の中心だかって言ってた『オラリオ』なんだろ。いきなりオラリオに行けば手っ取り早いじゃねぇか」
元々オラリオを目指すつもりだったターメリクは、解せぬといった顔で眉をひそめる。そんな彼に対し、老人はどこか諭すような眼差しを向けた。
「お主……自分がサイヤ人であることを、隠して生きる気はあるまい?」
「あ? なんで俺がそんなこと隠さなきゃならねぇんだ。サイヤ人であることを隠す理由なんざねぇよ」
心底くだらないと言いたげに吐き捨てるターメリクに、老人は首を振った。
「そうじゃろうな。じゃがな、はるか昔に絶滅したはずの伝説の種族……その生き残りがおると知れば、お主を狙う不埒な輩が山ほど湧いて出ることになる」
「ハッ、返り討ちにしてやるまでの話だ」
「今のお主の強さでか?」
老人の鋭い一言に、ターメリクはぐっと言葉を詰まらせた。
「自惚れるなよ、小僧。オラリオには神々の恩恵を受け、偉業をなし己を鍛え上げた冒険者が山ほどおる。お主がサイヤ人だと知られ、いまのお主では逆立ちしても勝てんような化け物や、同等の強者に束になって襲われれば、ひとたまりもないぞ」
「……ッ」
「己を隠せぬ性分ならば、まずは地力を底上げするのが先決じゃ。なにも強者がおるのはオラリオだけではない。この広い世界の果てには、今のお主と同等か、それ以上のモンスターや、独自の発展を遂げた神の眷属どもがいくらでもおるじゃろう」
老人は立ち上がり、ターメリクの肩をぽんと叩いた。
「外の世界を巡り、多様な強者と死線をくぐり抜けてこい。それが、お主がオラリオという巨大な戦場へ殴り込むための最高の準備となるはずじゃ」
自分の未熟さを突きつけられた悔しさに歯を食いしばるターメリクだったが、老人の言葉を反芻するうちに、胸の奥でサイヤ人の血が激しく湧き立つのを感じていた。
「……へっ、言ってくれるじゃねぇか。いいぜ、まずはその『外の世界』の強ぇ奴らを全員叩きのめして、オラリオの冒険者どもをブッ飛ばせるだけの力をつけてやる」
不敵に口角を吊り上げるターメリク。その頼もしくも激しい姿を、九歳になったベルは羨望と少しの寂しさを混じらせた瞳で見つめていた。