転生したのでポケモン世界をのんびり旅します 作:AIは許される?許してよ
人生というものは、何が起こるか分からない。
前世で普通の日本人として暮らしていた俺が、ポケモンの世界に転生したこともそうだ。
生まれたばかりのカルボウが、父さんの置き忘れたノロイノヨロイに触れてソウブレイズに進化したこともそう。
そして今。
「ところで、リンヤ君。よければ私とバトルをしてみないかね?」
「…………はい?」
目の前に座っている男から、とんでもない提案をされた。
男の名前はサカキ。
トキワジムのジムリーダーにして、悪の組織ロケット団のボス。
……いや、後者は俺が前世の知識で勝手に知っているだけなんだけど。
そんな人物が、なぜか俺にポケモンバトルを申し込んできた。
…………。
なんで?
「……バトル、ですか?」
「ああ。君のソウブレイズを見ていると、なかなか面白い戦いができそうだと思ってね」
「はぁ……」
「それに、君は今日から旅を始めたのだろう?」
「そうですけど……」
「ならば、いい経験になるはずだ」
サカキは落ち着いた様子でコーヒーを口に運んだ。
その隣ではペルシアンが優雅に毛づくろいをしている。
……なんだ、この光景。
犯罪組織のボスがカフェでコーヒーを飲みながら、10歳の子供をポケモンバトルに誘っている。
事情を知らない人が見れば、単なる親切なおじさんだろう。
しかし、俺は知っている。
この男がどれほど危険な人物なのかを。
だからこそ、できれば関わりたくない。
「いやぁ、でも俺、まだ旅立ったばかりですし……」
「それならば、なおさらだ」
……あ。
これ、断るの難しいやつだ。
「実は、まだ名乗っていなかったな」
サカキがカップを置いた。
そして、俺をまっすぐ見据える。
「私はサカキ。トキワジムのジムリーダーを務めている」
…………。
…………。
知ってる。
めちゃくちゃ知ってる。
なんなら、あんたが裏で何をやってるのかまで知ってる。
でも、当然そんなことは口に出せない。
「……えっ!?ジムリーダーだったんですか!?」
俺は驚いた表情を作った。
……我ながら、なかなかの演技力だと思う。
「ふっ。そう驚くことでもない」
いや、驚くことだよ。
別の意味で。
「先ほど、トキワジムへの挑戦は見送ると言っていたな」
「はい……」
「ならば、正式なジム戦ではなく、模擬戦という形でどうだろう?」
「模擬戦……」
「勝敗によってバッジが授与されることはない。あくまで経験を積むためのものだ」
なるほど。
つまり、ジムリーダーとの練習試合ということか。
……いや、だからなんで俺なんだよ。
「ジムバトルの雰囲気だけでも味わっていくといい。これから各地のジムを巡るのなら、決して無駄にはならんだろう」
「……なるほど」
「もちろん、君が望むならば、だがね」
…………。
…………。
何企んでるんだ、この野郎。
いや、口には出さないよ?
出したら大変なことになるから。
でも、絶対に何かあるだろう。
珍しいポケモンを連れた新人トレーナーに興味を持った?
単純に暇だった?
それとも、ソウブレイズの実力を確かめたい?
……どれもありそうで困る。
しかも、サカキの言い方が絶妙に断りづらい。
ジムリーダーが新人トレーナーのために、わざわざ模擬戦を提案してくれているのだ。
普通なら喜んで受ける場面だろう。
ここで妙に拒否すれば、逆に不審がられる可能性もある。
……くそぅ。
「……分かりました。せっかくですし、お願いします」
「ふっ。よい返事だ」
サカキが満足そうに頷いた。
……ああ。
俺の平穏なカフェタイムが。
カフェを出た俺たちは、トキワジムへと向かっていた。
……なんでこうなった。
ついさっきまで、俺はトキワジムに近づかないと決めていたはずだ。
それなのに、今はジムリーダー本人に案内されている。
人生、何が起こるか分からないとは言ったけど。
これは予想外すぎる。
「ソウブレイズ」
「ソウ?」
「……なんか、とんでもないことになっちゃったね」
「ソウ」
ソウブレイズは特に動揺していない。
むしろ、これからバトルができることを楽しみにしているようにも見える。
……頼もしいなぁ。
俺もそれくらい気楽に考えられたらいいんだけど。
「君のソウブレイズは、ずいぶん落ち着いているな」
前を歩いていたサカキが振り返った。
「そうですね。昔からこんな感じです」
「ほう。戦い慣れているのかね?」
「そこまででもないですよ。今日も何回かバトルしましたけど」
「結果は?」
「全部勝ちました」
「……ほう」
サカキの目が細くなった。
……しまった。
余計なことを言ったか?
「それは楽しみだ」
「あはは……」
……笑うしかない。
トキワジム。
ゲームで何度も訪れた場所。
そして、できれば現実では近づきたくなかった場所。
その扉が、今まさに俺の目の前にある。
「入りたまえ」
「……お邪魔します」
サカキに促され、俺はジムの中へ足を踏み入れた。
内部は想像していた以上に広かった。
高い天井。
重厚な柱。
そして、中央に設けられたバトルフィールド。
床は土と岩で構成されており、じめんタイプのポケモンが戦いやすそうな造りになっている。
……なるほど。
ゲームでは単なるマップだったけど、実際に見ると迫力が違う。
「ここがトキワジムのバトルフィールドだ」
「すごいですねぇ」
「気に入ったかね?」
「はい。立派な設備だと思います」
これは本心だ。
ジムの造りそのものは素晴らしい。
……運営している人物に問題があるだけで。
「では、準備をしよう」
サカキはフィールドの反対側へ歩いていった。
俺も指定された位置へ移動する。
ソウブレイズは俺の隣に立ち、静かに相手を見つめていた。
「今回の模擬戦は1対1とする」
「分かりました」
「正式なジム戦ではないからな。バッジも賞金も出ないが、それで構わないかね?」
「はい。問題ありません」
……賞金が出ないのは少し残念だけど。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
相手はサカキだ。
ジムリーダーとしての実力は間違いなく本物。
前世の知識がどこまで役に立つか分からない以上、油断はできない。
「それでは、始めようか」
サカキがモンスターボールを取り出した。
……さて。
何を出してくる?
ニドキング?
ニドクイン?
ダグトリオ?
それとも――。
「行け、サイドン」
ボールが投げられ、白い光がフィールドへ広がった。
そして現れたのは、巨大な灰色のポケモン。
「サイドォォン!」
重々しい咆哮がジム内に響き渡る。
太い尻尾。
岩のように硬そうな皮膚。
額から伸びた巨大な角。
じめん・いわタイプのポケモン、サイドン。
…………。
「……うわぁ」
思わず声が漏れた。
でかい。
ゲームで見たことはある。
アニメでも見たことがある。
でも、実際に目の前にすると迫力が段違いだ。
身長は約2メートル。
体重は100キロを軽く超える。
そんな巨体が、目の前で地面を踏みしめている。
ズシンッ!
……いや、足音だけで威圧感がすごい。
「どうした?怖気づいたかね?」
「いやぁ……思ったより大きいなって」
「ふっ。そうか」
サカキが小さく笑った。
俺は改めてサイドンを観察する。
そして、すぐに気づいた。
……あ。
これ、強いやつだ。
ただ大きいだけではない。
立ち姿に無駄がない。
重そうな身体を支える足はしっかりと地面を捉え、こちらの動きを見逃さないように視線を向けている。
何より、漂ってくる威圧感が違う。
レベルというものが、この世界でどこまで正確に数値化できるのかは分からない。
しかし、長年ポケモンと暮らしていれば、ある程度の実力差は感じ取れる。
そして今、俺が感じているのは――。
明らかな格上。
恐らく、ソウブレイズよりもレベルが高い。
それも、少し高い程度ではない。
……いやいや。
ちょっと待ってくれ。
模擬戦だよね?
新人トレーナーにジムバトルの雰囲気を味わわせるための試合だよね?
なんでそんな強そうなポケモンを出してくるんだよ。
もっとこう、手加減用のポケモンとかいないの?
「……サカキさん」
「なんだね?」
「そのサイドン、結構強いですよね?」
「ああ。私の手持ちの中でも、よく鍛えられたポケモンだ」
…………。
認めちゃったよ。
「……新人相手に、それを出すんですか?」
「君のソウブレイズなら、相手になると思ってね」
……いやいやいや。
どういう評価をしてるんだ、この人。
俺のソウブレイズ、まだレベル15なんだけど?
確かに最終進化している。
普通の新人トレーナーが連れているポケモンよりは強いだろう。
でも、相手はジムリーダーのサイドンだぞ?
経験値が違いすぎる。
「……なるほど」
俺は小さく息を吐いた。
どうやら、簡単には終わらせてくれないらしい。
……まあ、いいか。
どうせここまで来てしまったんだ。
だったら、できることをやってみよう。
「ソウブレイズ」
「ソウ」
俺が声をかけると、ソウブレイズがこちらを振り返った。
「相手はかなり強いよ」
「ソウ」
「しかも、タイプ相性も悪い」
サイドンはじめん・いわタイプ。
ソウブレイズはほのお・ゴーストタイプ。
じめんタイプの攻撃は、ほのおタイプに効果抜群。
いわタイプの攻撃も同様だ。
つまり、サイドンが得意とする攻撃は、どちらもソウブレイズにとって危険なものになる。
……最悪だな。
ただし、こちらにも勝機がないわけではない。
ソウブレイズは素早い。
サイドンの巨体を考えれば、機動力ではこちらが有利だろう。
そして、ゴーストタイプの技はサイドンに等倍で通る。
何より、現実のバトルはゲームと違う。
タイプ相性が悪いからといって、必ず負けるわけではない。
地形。
距離。
相手の動き。
技を出すタイミング。
それらを上手く利用すれば、格上相手でも戦える可能性はある。
……まあ、勝てるとは言ってないけどね。
「……よし」
俺はソウブレイズの肩に手を置いた。
「無理はしなくていいからね」
「ソウ」
「危なくなったらすぐに戻す。そこだけは覚えておいて」
「ソウブレイズ!」
ソウブレイズが力強く頷いた。
……うん。
頼もしい。
俺はフィールドの向こう側にいるサカキへ視線を向けた。
「お待たせしました。準備できました」
「ふっ。よかろう」
サカキが腕を組む。
その表情には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
……何を考えているのか分からない。
ただ、1つだけ確かなことがある。
この男は、俺たちの実力を確かめようとしている。
それも、かなり本気で。
……まったく。
のんびり旅をするつもりだったのに、どうしてこうなるんだか。
「では、始めよう」
サカキの声が響いた。
「サイドン、構えろ」
「サイドォォン!」
サイドンが地面を踏みしめる。
対するソウブレイズも、両腕から紫色の炎の剣を形成した。
「ソウブレイズ!」
その姿を見て、俺は小さく笑った。
……ああ。
やる気満々だねぇ。
なら、俺も頑張らないと。
「それじゃあ、行こうか」
俺はサイドンの動きを観察しながら、頭の中で戦術を組み立て始めた。
真正面からの力比べは論外。
相手の攻撃を避けながら、隙を突く。
問題は、どこまで通用するかだ。
そして――。
「サイドン、じならし!」
サカキが先に指示を出した。
「サイドォォン!」
サイドンが巨大な足を持ち上げる。
……おいおい。
開幕から範囲攻撃かよ。
俺は思わず苦笑した。
「ソウブレイズ、跳んで!」
「ソウ!」
ソウブレイズが地面を蹴る。
直後。
ドゴォォォン!!
サイドンの足が地面を叩きつけ、凄まじい衝撃がフィールド全体へ広がった。
……うわぁ。
これはまともに受けたらまずい。
空中へ跳び上がったソウブレイズは、なんとか衝撃を回避した。
しかし、サカキは落ち着いた様子でこちらを見ている。
「ほう。よい判断だ」
……いや。
褒められても困るんだけど。
だって、これ。
絶対に普通の新人向け模擬戦じゃないだろ!?
俺は心の中で盛大に叫びながら、次の指示を考えた。
こうして、ロケット団のボスとの模擬戦が始まってしまったのである。
現在の手持ちポケモン
ソウブレイズ♀ Lv.15