転生したのでポケモン世界をのんびり旅します 作:AIは許される?許してよ
目の前にはサカキのサイドン。
こちらより明らかに格上で、しかもタイプ相性は最悪。
遠距離からひのこで牽制し、にらみつけるで防御力を下げ続けてきたものの、決定打には至っていない。
かげうちなら多少のダメージは与えられるが、接近すれば反撃を受ける危険がある。
そもそも、ソウブレイズは物理攻撃が得意なポケモンだ。
それなのに、相手の攻撃力が高すぎるせいで、その長所を十分に生かせていない。
……うん。
普通に考えれば、かなり厳しい状況だ。
ただし。
俺には、まだ使っていない切り札がある。
正確には、使いたくても使えなかったと言うべきか。
「……ソウブレイズ」
「ソウ?」
「ちょっと危ないことをするけど、いい?」
「ソウ!」
即答だった。
……いや、少しは考えてくれてもいいんだよ?
まあ、こいつが俺を信頼してくれているのは嬉しいけど。
「それじゃあ、次の攻撃は避けきらなくていい」
「ソウ?」
「ただし、まともに受けるのは絶対に駄目。かする程度に当たって、そのまま離れて」
ソウブレイズが俺を見つめた。
そして、少し考えるように首を傾げる。
……まあ、そうなるよね。
今まで散々、攻撃を受けないように指示してきたんだから。
それなのに、今度はわざと当たれと言っている。
普通なら意味が分からないだろう。
でも、俺には理由がある。
ソウブレイズの特性。
それが――。
くだけるよろい。
俺のソウブレイズが持っているのは、通常特性のもらいびではない。
夢特性のくだけるよろいだ。
その効果は、物理技を受けると防御ランクが1段階下がる代わりに、素早さランクが2段階上がるというもの。
つまり、物理攻撃を受けるたびに防御力を犠牲にして、速度を上げることができる。
……もちろん、リスクは大きい。
防御力が下がるということは、次に受ける物理攻撃のダメージが増えるということだ。
しかも、相手はサイドン。
まともに攻撃を受ければ、特性が発動する前に戦闘不能になりかねない。
だからこそ、今までは使わなかった。
しかし、現実のポケモンバトルはゲームとは違う。
ゲームなら攻撃が命中した時点で、基本的には決められたダメージを受ける。
だが、現実では違う。
同じ技でも、真正面から受けるのと、身体の端をかすめるのとでは、当然ながらダメージが異なる。
だったら。
攻撃をかすらせることで、ダメージを最小限に抑えながら特性を発動させられるのではないか。
……というのが、俺の考えだ。
ただし、これは机上の空論に近い。
実際に上手くいく保証はない。
そもそも、くだけるよろいがどの程度の接触で発動するのかも、完全には把握できていない。
……まあ、試すなら今しかないんだけど。
「……ふむ」
サカキがこちらを見ていた。
「何か考えがあるようだな」
「まあ、ちょっとだけ」
「よかろう。見せてもらおうか」
……いや、できれば見逃してほしいんだけど。
そんなことを考えていると、サカキが指示を出した。
「サイドン、いわなだれ!」
「サイドォォン!」
サイドンが両腕を持ち上げる。
上空に無数の岩が現れた。
……来た。
「ソウブレイズ、走って!」
「ソウ!」
ソウブレイズがフィールドを駆ける。
その後を追うように、巨大な岩が次々と落下した。
ドゴォン!
ドガァン!
岩が砕け、砂埃が舞う。
普通なら、ここで全力回避を指示するところだ。
しかし、今回は違う。
「ソウブレイズ!小さい破片だけ、腕の装甲でかすめて!」
「ソウ!」
ソウブレイズが落下する岩を避けながら、飛び散った破片へ腕を向けた。
カンッ!
小さな岩の破片が、腕の装甲をかすめる。
その瞬間。
パキンッ!
乾いた音が響いた。
ソウブレイズの装甲の表面に、細かな亀裂が走る。
そして――。
「ソウ!?」
ソウブレイズの身体が、一瞬だけ紫色の光を帯びた。
……よし!
発動した!
くだけるよろい。
装甲の一部が砕けることで防御力が低下する代わりに、身体の動きが軽くなる。
ゲームでは素早さランクが2段階上昇する効果。
現実でも、ソウブレイズの動きが明らかに変化した。
「……ほう?」
サカキが目を細める。
「今のは……」
「ソウブレイズ、止まらないで!」
「ソウ!」
ソウブレイズが再び走り出す。
先ほどよりも速い。
明らかに速い。
……なるほど。
これが、くだけるよろいの効果か。
ただし、まだ足りない。
俺が狙っているのは、さらに上だ。
「サイドン、もう1度いわなだれだ」
「サイドォォン!」
再び岩が降り注ぐ。
……ありがたい。
いや、普通なら全然ありがたくないんだけど。
今の俺たちにとっては、都合のいい攻撃だ。
「ソウブレイズ、さっきと同じ!」
「ソウ!」
ソウブレイズが落下する岩の隙間を縫うように走る。
そして、飛び散った破片を腕の装甲で受け流した。
カキンッ!
パキッ!
再び装甲が砕ける。
くだけるよろい、2回目。
素早さランクは合計4段階上昇。
その効果は、すぐに現れた。
「……おお」
思わず声が漏れる。
速い。
さっきまでとは比較にならない。
ソウブレイズが走るたびに、紫色の残像が残る。
……いや、ちょっと待って。
想像以上なんだけど。
「なるほど。くだけるよろいか」
サカキが呟いた。
……あ。
やっぱり気づいたか。
「物理攻撃を受けることで、速度を上げているのだな」
「……正解です」
「面白い。だが、防御力も下がっているはずだ」
「そうですね」
「次にまともな攻撃を受ければ、ひとたまりもないぞ」
「……でしょうねぇ」
分かっている。
だからこそ、まともには受けない。
「ソウブレイズ!もう1回いける?」
「ソウ!」
ソウブレイズが力強く頷いた。
……よし。
あと1回。
あと1回だけ、くだけるよろいを発動させたい。
ゲームにおける能力ランクの上限は6段階。
くだけるよろいは1回につき素早さが2段階上がる。
つまり、3回発動すれば最大まで上昇する。
その状態なら――。
「サイドン、ロックブラスト!」
「サイドォン!」
サイドンの周囲に複数の岩が浮かび上がった。
……おっと。
今度はロックブラストか。
いわタイプの連続攻撃技。
いわなだれと違い、狙った相手へ岩を次々と飛ばしてくる。
まともに受ければ危険だ。
しかし、今回の目的にはちょうどいい。
「ソウブレイズ、全部避けて!最後の1発だけかすめる!」
「ソウ!」
岩が飛んでくる。
ヒュンッ!
ソウブレイズが身体を傾ける。
1発目を回避。
続く2発目も、軽く横へ跳んで避ける。
3発目。
ソウブレイズが地面を滑るように移動し、岩の下を潜り抜けた。
……速い。
すでにサイドンの攻撃では、ソウブレイズを捉えきれなくなっている。
そして、最後の岩。
「今!」
「ソウ!」
ソウブレイズが腕を僅かに動かした。
ガキンッ!
岩が装甲の端をかすめる。
パキィンッ!
再び、装甲が砕けた。
その瞬間。
ソウブレイズの身体から、紫色の光が弾けるように広がった。
……来た。
素早さランク、6段階上昇。
ゲームなら、これで最大値だ。
現実でも、その変化は明らかだった。
ソウブレイズが1歩踏み出す。
次の瞬間には、数メートル先にいた。
……うわぁ。
速すぎる。
俺の目でも、動きを追うのが難しい。
「……見事だ」
サカキが感心したように呟いた。
「だが、そこまで防御力を下げてしまっては、1撃でも受ければ終わりだろう」
「……そうですね」
「ならば、どうする?」
……決まっている。
もう、攻撃を受けなければいい。
「ソウブレイズ!」
「ソウ!」
「ソーラーブレード!」
その指示を聞いた瞬間、ソウブレイズが両腕の剣を構えた。
そして、周囲の光が集まり始める。
ソーラーブレード。
くさタイプの物理技。
威力125。
ゲームでは、1ターン目に光を集め、2ターン目に攻撃する技だ。
だが、現実にはターンという概念がない。
つまり、光を集める時間さえ確保できれば、いつでも攻撃できる。
問題は、その溜め時間だ。
ソーラーブレードは強力な技だが、発動までに時間がかかる。
普通なら、その間に相手から攻撃される危険がある。
しかし。
今のソウブレイズなら。
「サイドン、いわなだれ!」
「サイドォォン!」
サイドンが岩を降らせる。
「ソウブレイズ、走り続けて!」
「ソウ!」
ソウブレイズが駆け出した。
速い。
とにかく速い。
落下する岩の間を、まるで踊るようにすり抜けていく。
その両腕には、太陽の光が集まり続けていた。
……よし。
できる。
ソーラーブレードの溜め動作は、必ずしもその場で静止する必要はない。
少なくとも、俺のソウブレイズは走りながらエネルギーを蓄積できる。
ただし、集中力は必要だ。
普通の速度なら、移動とエネルギーの蓄積を同時に行うのは難しい。
しかし、今は違う。
くだけるよろいによって、素早さが最大まで上昇している。
相手の攻撃を避ける余裕がある。
その余裕を、ソーラーブレードの準備に回せるのだ。
「……ほう」
サカキが目を細める。
「移動しながら技を溜めているのか」
「はい」
「なるほど。考えたな」
……いやぁ。
本当はもっと安全な方法で勝ちたかったんですけどね。
相手が強すぎるから、こんな無茶をする羽目になったんですよ。
もちろん、そんなことは言わない。
「サイドン、迎え撃て!」
「サイドォォン!」
サイドンが構える。
しかし、遅い。
ソウブレイズはすでに、サイドンの周囲を高速で移動していた。
右。
左。
背後。
そして、再び正面。
サイドンが身体を向けるたびに、ソウブレイズは別の位置へ移動する。
……うん。
完全に翻弄している。
ただし、ここで油断してはいけない。
サイドンは格上だ。
どれほど素早く動けても、攻撃を受ければ終わり。
だからこそ、慎重に。
そして、確実に。
「ソウブレイズ、まだ溜めて!」
「ソウ!」
両腕の剣が、眩しい緑色の光を放ち始めた。
……よし。
もう少し。
もう少しで完成する。
「サイドン、じならし!」
「サイドォォン!」
サイドンが足を持ち上げた。
……来たか。
範囲攻撃。
確かに、今のソウブレイズを捉えるなら、広範囲を攻撃するしかない。
しかし。
「ソウブレイズ、跳んで!」
「ソウ!」
ソウブレイズが地面を蹴る。
ドゴォォォン!!
直後、サイドンの足が地面を叩きつけた。
衝撃波がフィールド全体へ広がる。
だが、ソウブレイズはすでに空中。
そして、その両腕には――。
眩い緑色の光を纏った剣が形成されていた。
……完成だ。
「……なに?」
サカキが僅かに目を見開いた。
「まさか……」
「ソウブレイズ!」
「ソウ!」
俺は大きく息を吸った。
そして、指示を出す。
「ソーラーブレード!!」
「ソウブレイズ!!」
ソウブレイズが空中から急降下した。
緑色に輝く巨大な剣が、サイドンへ向かって振り下ろされる。
「サイドン、受け止めろ!」
「サイドォォン!」
サイドンが両腕を交差させた。
その瞬間。
ズバァァァン!!
眩い光が弾けた。
衝撃がフィールド全体へ広がる。
砂埃が舞い上がり、視界が白く染まった。
……うわぁ。
すごい威力だ。
ソーラーブレードは、くさタイプの物理技。
そして、サイドンはいわ・じめんタイプ。
くさタイプの攻撃は、どちらにも効果抜群。
つまり――。
4倍弱点。
しかも、今まで何度もにらみつけるで防御力を下げている。
さらに、ソウブレイズは物理攻撃が得意。
条件は揃っていた。
……あとは、通用するかどうか。
砂埃がゆっくりと晴れていく。
そこには――。
「……サイドン」
巨大なサイドンが、膝をついていた。
そして。
ドシィィン!!
そのまま、地面へ倒れ込んだ。
…………。
…………。
「……おお」
思わず声が漏れた。
倒した。
あのサイドンを。
格上で、タイプ相性も悪く、まともに戦えば勝ち目が薄かった相手を。
……倒せた。
「ソウ……!」
ソウブレイズがこちらを振り返った。
身体には疲労が見える。
装甲もところどころ欠けていた。
しかし、その表情はどこか誇らしげだった。
「……うん」
俺は小さく笑った。
「よく頑張ったね、ソウブレイズ」
「ソウ!」
ソウブレイズが嬉しそうに頷いた。
……いやぁ。
正直、勝てるとは思っていなかった。
でも、やってみるものだねぇ。
「……ふっ」
サカキが小さく笑った。
そして、倒れたサイドンへモンスターボールを向ける。
「戻れ、サイドン」
赤い光に包まれ、サイドンがボールへ戻っていった。
「……見事だ」
サカキがこちらを見た。
「まさか、あの状況から逆転するとはな」
「いやぁ……俺もびっくりしてます」
「ふっ。謙遜する必要はない」
サカキは腕を組んだ。
「くだけるよろいを利用した速度の強化。そして、にらみつけるによる防御力の低下。最後に、相手の弱点を突くソーラーブレード」
……全部見抜かれてる。
さすがジムリーダー。
「実に理にかなった戦術だった」
「ありがとうございます」
「だが、危険な賭けでもあったな」
「……そうですね」
それは否定できない。
くだけるよろいによって、防御力は3段階低下している。
もし最後の攻撃を受けていたら、間違いなく危なかった。
「今回は上手くいった。だが、次も同じように成功するとは限らん」
「はい」
「そのことは覚えておくといい」
……うん。
これは素直に受け取っておこう。
実際、かなり無茶な戦法だったし。
「しかし……」
サカキがソウブレイズへ視線を向けた。
「珍しいポケモンだとは思っていたが、これほどの力を秘めているとはな」
…………。
……あ。
まずい。
なんか、余計に興味を持たれた気がする。
「リンヤ君」
「……はい?」
「君は、なかなか面白いトレーナーだ」
「あはは……ありがとうございます」
……いや。
嬉しくない。
全然嬉しくない。
むしろ、嫌な予感しかしない。
「また機会があれば、ぜひ戦いたいものだ」
「……そうですねぇ」
……できれば、もう会いたくないです。
心の中でそう呟きながら、俺はソウブレイズの頭を軽く撫でた。
「ソウ」
ソウブレイズが満足そうに目を細める。
……まあ、いいか。
少なくとも、今回の模擬戦で得られたものは大きい。
格上相手でも、戦術次第では勝てる。
そして、ソウブレイズにはまだまだ可能性がある。
……ただし。
次からは、もう少し安全な相手と戦いたい。
本当に。
心の底から。
こうして、トキワジムでの模擬戦は終了した。
結果は、俺たちの勝利。
しかし、当然ながらグリーンバッジは貰えない。
正式なジム戦ではないからだ。
……まあ、それは別にいい。
問題はそこじゃない。
俺が気にしているのは、もっと別のことだ。
「……ソウブレイズ」
「ソウ?」
「俺たち、なんか変な人に目をつけられた気がするんだけど」
「ソウ」
「……気のせいだといいねぇ」
「ソウブレイズ」
……うん。
気のせいじゃない気がする。
俺は小さくため息をついた。
ポケモンの世界に転生して10年。
ようやく始まった、のんびりとした旅。
その初日から、ロケット団のボスとバトルすることになるとは思わなかった。
……いや、本当に。
俺、ただカフェでタルトを食べたかっただけなんだけどなぁ。
現在の手持ちポケモン
ソウブレイズ♀ Lv.15 → Lv.20