転生したのでポケモン世界をのんびり旅します 作:AIは許される?許してよ
「いやぁ、疲れた」
「ソウ……」
トキワジムを出た俺は、ソウブレイズと並んでポケモンセンターへ向かっていた。
目的はもちろん、ソウブレイズの回復である。
サカキとの模擬戦。
結果だけを見れば俺たちの勝利だったが、内容はなかなかに危険なものだった。
相手は格上のサイドン。
しかも、ソウブレイズにとっては相性の悪いじめん・いわタイプ。
まともに戦えば勝ち目が薄かったので、ひのこで牽制しながらにらみつけるで防御力を下げ、最後はくだけるよろいで素早さを最大まで上げてソーラーブレードを叩き込んだ。
……我ながら、よく勝てたものだと思う。
「ソウブレイズ、大丈夫?」
「ソウ」
隣を歩くソウブレイズが頷いた。
しかし、その動きは普段よりも少し重い。
そりゃそうだ。
くだけるよろいを3回も発動させたのだから。
腕や肩の装甲には細かな欠けがあり、本人も相当疲れているはずだ。
「今日はもうバトル禁止ね」
「ソウ?」
「いや、そんな不満そうな顔されても。さすがに休ませたいんだけど」
「ソウ……」
……なんでちょっと残念そうなんだろう。
戦闘狂なのかな、この子。
まあ、5年間一緒に暮らしてきたけど、昔からバトルは好きだったし。
それにしても、今回の戦いでソウブレイズは随分と成長した。
レベル15から、一気にレベル20。
やっぱり格上のポケモンを倒した経験は大きかったらしい。
「……次はもっと楽な相手がいいねぇ」
「ソウブレイズ!」
「いや、そんな元気よく返事されても困るんだけど」
俺は苦笑しながら、ポケモンセンターの自動ドアをくぐった。
「いらっしゃいませ!ポケモンセンターへようこそ!」
カウンターの向こうから、ジョーイさんの明るい声が聞こえてきた。
……うん。
この声を聞くと、なんだか安心する。
「すみません。ソウブレイズの回復をお願いします」
「はい!……あら?」
ジョーイさんがソウブレイズを見て、少し驚いた表情になった。
「この子、さっきも来てくれたソウブレイズね?」
「はい。またお世話になります」
「ずいぶん激しいバトルをしたみたいね。装甲が少し欠けているわ」
「まあ、ちょっと格上のポケモンと戦いまして」
「そうだったの。じゃあ、しっかり診てもらいましょうね」
「お願いします」
ソウブレイズがジョーイさんに案内されて、奥の診察室へ向かっていく。
「ソウ」
「うん。ゆっくり休んでおいで」
俺が手を振ると、ソウブレイズも軽く手を振り返した。
……さて。
しばらく暇になったな。
俺は待合室のソファに腰を下ろした。
そして、天井を見上げる。
「……ふぅ」
本当に濃い1日だった。
マサラタウンを出発して、1番道路を歩いて、野生のポッポと戦って、トレーナーたちとバトルして。
トキワシティに到着したと思ったら、オーキド博士にポケモンを捕まえていないことを注意されて。
その後、カフェでのんびりしていたらサカキと相席になり、なぜかトキワジムで模擬戦をすることになった。
……うん。
普通の旅立ち初日じゃないね、これ。
「明日こそ、のんびりしたいなぁ」
そう呟きながら、俺はポケモンセンターの壁に掛けられた時計を見た。
夕方。
そろそろ日が傾き始める時間帯だ。
……ん?
夕方?
トキワシティ?
ポケモンセンター?
…………。
…………。
あれ?
なんか、ものすごく嫌な予感がする。
俺はソファから身体を起こした。
そして、頭の中で前世の記憶を探る。
サトシがマサラタウンを出発した日。
ピカチュウが言うことを聞かず、散々な目に遭いながら1番道路を進む。
途中でオニスズメの群れに追いかけられ、ピカチュウが雷を落として撃退する。
そして、傷ついたピカチュウを連れてトキワシティへ到着する。
その後の展開は――。
「…………あ」
思い出した。
アニポケ第2話『たいけつ!ポケモンセンター!』。
……今日じゃん。
いや、ちょっと待って。
今日って、あの日じゃん。
サトシがピカチュウを連れてポケモンセンターへ駆け込んできて、その後ロケット団が襲撃してくる日じゃん。
…………。
「……やっべ」
思わず声が漏れた。
……いやいやいや。
何をのんびりしていたんだ、俺。
サカキとバトルしている場合じゃなかっただろ。
さっさとトキワシティを出て、ニビシティへ向かえばよかったんだ。
そうすれば、ロケット団の騒動に巻き込まれることもなかったのに。
……いや、待て。
まだ間に合うんじゃないか?
サトシが到着する前に、ソウブレイズの回復を終わらせて出発すれば――。
バンッ!!
「すみませーん!!誰か助けてくださーい!!」
…………。
…………。
あ。
終わった。
ポケモンセンターの自動ドアが勢いよく開いた。
いや、正確には自動で開いたんだけど。
とにかく、ものすごい勢いで1人の少年が飛び込んできた。
赤と白の帽子。
青い上着。
そして、その腕には――。
「ピカチュウ!しっかりしろ!もうすぐ治してもらえるからな!」
ぐったりしたピカチュウ。
…………。
……はい。
知ってる。
めちゃくちゃ知ってる。
というか、見覚えしかない。
「誰か!ピカチュウを助けてください!!」
少年が必死に叫ぶ。
その声を聞いたジョーイさんが、慌ててカウンターから出てきた。
「どうしたの!?」
「ピカチュウが!オニスズメに襲われて、それで……!」
「分かったわ!すぐに診察するから、こちらへ!」
ジョーイさんがピカチュウを受け取る。
少年は心配そうに、その後を追いかけようとした。
……うん。
間違いない。
サトシだ。
マサラタウン出身。
10歳。
オーキド博士からピカチュウを受け取り、ポケモンマスターを目指して旅立った少年。
そして。
この世界の主人公。
……いやぁ。
本当にいるんだなぁ。
もちろん、マサラタウンに住んでいた頃から知ってはいたけど。
こうしてアニメの展開そのままの姿を見ると、なんだか妙な気分になる。
……いや、感心している場合じゃない。
これから大変なことになるんだった。
「ピカチュウ……」
サトシは診察室の扉を見つめながら、落ち着かない様子で立っていた。
俺は少し離れたソファから、その姿を眺めていた。
……さて。
どうしよう。
このまま知らないふりをしているのも変だよな。
同じマサラタウン出身だし。
というか、普通に顔見知りだし。
「……サトシ?」
俺が声をかけると、サトシが振り返った。
「えっ?……あっ!リンヤ!?」
「やっほー」
「なんでここにいるんだ!?」
「いや、俺も今日から旅に出たからね」
「そっか!そうだったな!」
サトシが驚いたように目を丸くする。
……うん。
相変わらず元気だねぇ。
いや、今は元気というより、かなり焦っているみたいだけど。
「ピカチュウ、大丈夫そう?」
「……分かんない」
サトシの表情が曇った。
「オニスズメの群れに襲われてさ。ピカチュウ、俺を助けようとして……」
「……そっか」
「すごい電撃を出して、オニスズメたちを追い払ってくれたんだ。でも、その後倒れちゃって……」
サトシが拳を握りしめる。
……ああ。
やっぱり、あの出来事があったんだな。
前世の記憶にあるアニメ第1話の終盤。
サトシとピカチュウが、ようやく心を通わせるきっかけになった出来事だ。
「……大丈夫だと思うよ」
「え?」
「ここはポケモンセンターだし。ジョーイさんもいる。きっと元気になるって」
「……うん!」
サトシが少しだけ笑った。
……うん。
これくらいしか言えないけど。
今はそれで十分だろう。
それにしても。
「……サトシ、ずいぶん大変だったんだね」
「ああ!本当に大変だったんだぞ!」
「へぇ」
「ピカチュウが全然言うこと聞いてくれなくてさ!最初なんて、俺に電撃を浴びせてきたんだ!」
「……あはは」
知ってる。
「それで、オニスズメに追いかけられて!」
「うんうん」
知ってる。
「途中で女の子から自転車を借りたんだけど、それも壊れちゃってさ!」
「……へぇ」
めちゃくちゃ知ってる。
……というか。
カスミの自転車、もう壊したんだ。
そりゃ後で追いかけられるわけだ。
「でもさ、ピカチュウ、すごかったんだ!」
サトシの表情が明るくなる。
「あんなに強い電撃、初めて見た!」
「……そっか」
「俺、絶対にピカチュウと一緒に強くなるんだ!」
……うん。
やっぱりサトシだ。
こういうところは、昔から変わらない。
どれだけ大変な目に遭っても、前向きで。
ポケモンのことになると、すぐに熱くなる。
……まあ、だからこそ主人公なんだろうけど。
しばらくすると、診察室の扉が開いた。
「お待たせしました」
ジョーイさんが出てきた。
「ピカチュウは今、治療を受けています。かなり疲労していますが、命に別状はありませんよ」
「本当ですか!?」
「ええ。しっかり休ませれば、元気になるでしょう」
「よかったぁ……!」
サトシが大きく息を吐いた。
……うん。
よかったねぇ。
俺も少し安心した。
前世の記憶では無事だったはずだけど、現実に目の前で起こっていることだからな。
絶対に同じ結果になるとは限らない。
「それと、リンヤ君」
「はい?」
ジョーイさんが俺の方を向いた。
「ソウブレイズの治療も終わりましたよ」
「あ、ありがとうございます」
奥からソウブレイズが歩いてきた。
欠けていた装甲も綺麗に戻っている。
「ソウ!」
「おかえり。調子はどう?」
「ソウブレイズ!」
「うん。元気そうで何より」
俺はソウブレイズの頭を撫でた。
すると、隣にいたサトシが目を輝かせた。
「うわっ!リンヤ、そのポケモンなんだ!?」
「ソウブレイズだよ」
「ソウブレイズ!?初めて見た!」
「パルデア地方のポケモンだからね」
「へぇー!すっげぇかっこいいな!」
サトシが興奮した様子でソウブレイズを見つめる。
……まあ、そうなるよね。
ソウブレイズは見た目がかなり格好いいし。
「なあなあ!強いのか!?」
「うん。結構強いよ」
「いいなぁ!俺も早くピカチュウとバトルしたい!」
「……まずは治療が終わってからね」
「あっ、そうだった!」
……おいおい。
本当に元気だなぁ。
俺は苦笑した。
そして、ふと思い出す。
……あれ?
そういえば。
アニメ第2話って、確かこの後――。
ロケット団がポケモンセンターを襲撃するんだったよな?
…………。
…………。
あ。
そうだった。
俺、完全に忘れてた。
いや、忘れてたというより、目の前のサトシに気を取られていた。
……まずい。
非常にまずい。
「……ねえ、サトシ」
「ん?なんだ?」
「今日って、ここに泊まる予定?」
「ああ!ピカチュウが元気になるまで、ここにいるつもりだ!」
「……そっか」
……ですよねぇ。
そりゃそうだ。
ピカチュウがあの状態なんだから、すぐに旅立てるわけがない。
となると。
俺はどうする?
ソウブレイズの治療は終わった。
今すぐ出発すれば、ロケット団の襲撃に巻き込まれずに済むかもしれない。
……いや、でも。
外はもう夕方だ。
これからニビシティへ向かうには、少し遅い。
しかも、途中にはトキワの森がある。
夜の森を歩くなんて、できれば避けたい。
……うーん。
困った。
本当に困った。
「……リンヤ?」
「ん?」
「どうしたんだ?なんか難しい顔してるぞ?」
「いやぁ……ちょっと考え事」
「ふーん?」
サトシが首を傾げる。
……ああ。
この子は知らないんだよな。
これから何が起こるのか。
もちろん、俺だって未来を完全に知っているわけじゃない。
でも、少なくともアニメの流れがそのままなら――。
このポケモンセンターは、もうすぐ大変なことになる。
……どうしよう。
俺は隣にいるソウブレイズを見た。
「ソウ?」
「……いやぁ、なんでもない」
「ソウ」
ソウブレイズが不思議そうに首を傾げる。
……うん。
なんでもないわけじゃないんだけどね。
俺は小さくため息をついた。
そして、ポケモンセンターの入口へ視線を向ける。
自動ドアの向こうには、夕暮れのトキワシティが広がっていた。
……まったく。
今日という日は、どうしてこうも面倒事ばかり起こるんだろう。
サカキとの模擬戦だけでも十分だったのに。
この後、ロケット団まで来るなんて。
……いや。
まだ来てないけど。
でも、来るんだよなぁ。
前世の記憶が正しければ。
「……はぁ」
俺は再びため息をついた。
やっぱり、さっさと旅立っておけばよかった。
そう思った、その時だった。
ポケモンセンターの外から、何やら騒がしい音が聞こえてきた。
……ん?
俺は入口へ視線を向けた。
サトシも同じ方向を見ている。
「なんだ?」
「……さあ?」
俺は曖昧に答えた。
……いや。
本当は、なんとなく分かっている。
分かっているからこそ、嫌なんだけど。
……頼む。
俺の記憶違いであってくれ。
そう願いながら、俺は自動ドアの向こうを見つめた。
現在の手持ちポケモン
ソウブレイズ♀ Lv.20