転生したのでポケモン世界をのんびり旅します 作:AIは許される?許してよ
ポケモンセンターの外が騒がしい。
何やら人の叫び声が聞こえてくるし、遠くからはサイレンの音まで響いている。
……うん。
嫌な予感しかしない。
いや、正確には嫌な予感どころではない。
俺はこの後、何が起こるのかを知っている。
前世で見たアニメの記憶が正しければ、もうすぐこのポケモンセンターにロケット団がやってくる。
「なあ、リンヤ。外で何かあったのかな?」
「……さあねぇ」
「ちょっと見てくる!」
「いや、やめときなよ」
「え?なんで?」
「なんとなく」
「なんとなくってなんだよ!」
……ごもっとも。
しかし、俺だって説明に困るのだ。
「この後、ロケット団っていう悪の組織がポケモンセンターを襲撃してくるから、外に出ない方がいいよ」
なんて言えるわけがない。
いや、ロケット団の存在自体は有名だから、名前を出すことに問題はない。
問題なのは、なぜ襲撃されると分かるのかという部分だ。
未来予知でもできるのかと聞かれたら、説明に困る。
……前世でアニメを見ていたからです。
うん。
絶対に信じてもらえないね。
「とにかく、今はピカチュウのそばにいてあげなよ」
「……そうだな!」
サトシは素直に頷いた。
……よし。
これで少しは大人しくしてくれるだろう。
そう思った直後だった。
「ちょっとぉぉぉ!!」
…………。
…………。
あ。
別の意味で面倒なのが来た。
バンッ!
ポケモンセンターの自動ドアが開いた。
そこから飛び込んできたのは、オレンジ色の髪を横で結んだ少女だった。
黄色い服に短いズボン。
そして、怒りに満ちた表情。
……うん。
知ってる。
カスミだ。
ハナダジムのジムリーダーであり、サトシと一緒に旅をすることになる少女。
そして、今現在。
自転車を壊された被害者でもある。
「あんたぁぁぁ!!」
「うわっ!?」
カスミがサトシを指さした。
「やっと見つけたわよ!!」
「えっ!?お前、さっきの!?」
「さっきのじゃないわよ!ちゃんと名前があるの!カスミよ!」
「カスミ?」
「そう!カスミ!」
……うん。
元気だねぇ。
いや、怒っているんだけど。
「それより!あんた、あたしの自転車どうしてくれるのよ!」
「じ、自転車!?」
「そうよ!自転車!」
カスミが詰め寄る。
「あたしの大事な自転車、真っ黒焦げにしちゃって!」
「あ、あれは仕方なかったんだよ!」
「仕方ないで済むわけないでしょ!」
「だって、オニスズメに追いかけられてたんだ!」
「それと自転車を壊していいかは別問題よ!」
……うん。
正論。
完全に正論。
サトシにも事情はあった。
ピカチュウを助けるために必死だったのだから。
ただ、それと自転車の弁償は別問題である。
……まあ、俺は関係ないけど。
「……大変だねぇ」
俺はソファに座り直した。
そして、隣にいるソウブレイズへ話しかける。
「ソウブレイズ、あれが自転車を壊された人だよ」
「ソウ?」
「うん。サトシが借りた自転車が、ピカチュウの電撃で壊れちゃったんだって」
「ソウ……」
ソウブレイズがサトシを見た。
……なんだろう。
少し呆れているように見える。
「リンヤ!見てないで助けてくれよ!」
「いやぁ……」
俺は苦笑した。
「自転車を壊したのは事実なんでしょ?」
「うっ……」
「だったら、ちゃんと謝った方がいいんじゃない?」
「……そうだよな」
サトシが肩を落とした。
「ごめん、カスミ。自転車、壊しちゃって」
「……え?」
カスミが一瞬だけ驚いた表情になった。
どうやら、素直に謝られるとは思っていなかったらしい。
「で、でも!謝ったからって許すわけじゃないんだからね!」
「分かってるよ!でも、今はピカチュウが大変なんだ!」
「……ピカチュウ?」
カスミが首を傾げる。
「オニスズメに襲われて、今治療してもらってるんだ」
「……そうだったの」
カスミの表情が少しだけ和らいだ。
……うん。
この子、怒りっぽいけど根は優しいんだよなぁ。
「……まあ、ピカチュウが元気になるまでは待ってあげるわ」
「本当か!?」
「でも!自転車のことは忘れないでよね!」
「分かった!」
……うん。
ひとまず解決。
いや、全然解決してないけど。
少なくとも、今すぐ喧嘩になることはなさそうだ。
「……ところで」
カスミが俺の方を向いた。
「あんたは?」
「俺?リンヤだよ」
「リンヤ?」
「うん。サトシと同じマサラタウン出身」
「へぇ……」
カスミが俺を見つめる。
そして、その隣に立つソウブレイズへ視線を移した。
「……なに、そのポケモン?」
「ソウブレイズ」
「ソウブレイズ?」
「パルデア地方のポケモンだよ」
「へぇ!初めて見るわ!」
カスミが興味深そうに近づいてくる。
「すごく格好いいじゃない!」
「ソウ」
ソウブレイズが軽く頷いた。
……うん。
褒められて満更でもなさそうだ。
「あんたもポケモントレーナーなの?」
「そうだよ。今日から旅を始めたんだ」
「へぇ。じゃあ、この子が最初のポケモン?」
「うん。5年前から一緒にいるんだ」
「5年前!?」
カスミが驚いた。
「そんなに前から!?」
「まあ、色々あってねぇ」
……説明すると長くなるので省略。
「いいなぁ。すごく仲良さそう」
「まあね」
俺はソウブレイズの頭を撫でた。
「ソウ」
ソウブレイズが嬉しそうに目を細める。
……うん。
平和だ。
こういう時間が続いてくれればいいんだけど。
そう思った、その時だった。
『こちらはトキワシティ警察です!』
突然、ポケモンセンターのスピーカーから声が響いた。
「……ん?」
サトシが顔を上げる。
カスミも天井を見上げた。
俺はというと。
……ああ。
始まったか。
『現在、トキワシティ内で不審な人物が目撃されています!ポケモンを狙った窃盗事件が発生する可能性がありますので、十分に警戒してください!』
…………。
……うん。
知ってる。
ロケット団だね。
というか、今日の俺はロケット団と縁がありすぎる。
昼間はロケット団のボスと模擬戦。
夕方にはロケット団の部下たちが襲撃。
……なんなの?
ロケット団との交流イベントでも発生してるの?
俺、そんなルート選んだ覚えないんだけど。
「ポケモン泥棒!?」
サトシが叫んだ。
「許せないな!」
「そうね!」
カスミも頷く。
……うん。
2人とも正義感が強いねぇ。
俺もポケモン泥棒は許せないと思う。
ただし、できれば警察に任せたい。
……本当に。
それから少しして。
ポケモンセンターの入口付近で、何やら物音がした。
ガタンッ!
「……ん?」
サトシが振り返る。
カスミも同じ方向を見る。
俺はというと。
……あ。
来た。
「ソウブレイズ」
「ソウ」
俺が小さく声をかけると、ソウブレイズが俺の前へ出た。
その直後。
バァン!!
ポケモンセンターの扉が勢いよく開いた。
「な、なんだ!?」
サトシが驚く。
そして、入口から現れたのは――。
白い制服に赤いRの文字。
長い赤髪の女性。
青い髪の男性。
そして、2本足で立つニャース。
…………。
……はい。
知ってる。
めちゃくちゃ知ってる。
「なんだかんだと聞かれたら!」
「答えてあげるが世の情け!」
……ああ。
始まっちゃった。
「世界の破壊を防ぐため!」
「世界の平和を守るため!」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ラブリーチャーミーな敵役!」
「ムサシ!」
「コジロウ!」
「銀河をかけるロケット団の2人には!」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
「ニャーんてニャ!」
…………。
…………。
うん。
本物だ。
ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャース。
アニメで何度も見た、あの3人組である。
……いやぁ。
実際に目の前で口上を聞くと、なんというか。
すごいね。
敵の襲撃なのに、ちゃんと自己紹介してくれるんだ。
しかも、誰も頼んでいないのに。
「な、なんだお前ら!?」
サトシが叫んだ。
……いや、今名乗ってたじゃん。
「聞いてなかったの!?」
ムサシが怒鳴る。
「ロケット団よ!ロケット団!」
「我々は、このポケモンセンターにいるポケモンたちをいただきに来たのさ!」
コジロウが得意げに笑う。
「そういうことニャ!大人しくポケモンを渡すニャ!」
……うん。
犯罪宣言、いただきました。
それにしても。
この3人、なんでこんなに堂々としているんだろう。
普通、窃盗ってもっとこっそりやるものじゃない?
いや、悪の組織だからいいのか?
……よくないね。
「ふざけるな!ポケモンを渡すもんか!」
サトシが前へ出た。
「そうよ!あんたたちなんかに渡すわけないでしょ!」
カスミもサトシの隣に並ぶ。
……ああ。
やっぱりそうなるよね。
「なんなのよ、このジャリボーイとジャリガール!」
ムサシが眉をひそめる。
「僕たちに逆らうつもりかい?」
コジロウもモンスターボールを取り出した。
……あ。
これ、戦闘になるやつだ。
俺は静かにソウブレイズの後ろへ移動した。
「……リンヤ?」
サトシがこちらを見る。
「どうしたんだ?」
「いやぁ、ちょっと安全な場所に移動しようかなって」
「ええ!?一緒に戦ってくれないのか!?」
「……できれば戦いたくないなぁ」
「なんでだよ!」
……いや。
なんでと言われましても。
俺、今日だけで十分戦ったんだけど。
それに、相手は犯罪者だ。
ポケモンバトルで勝ったからといって、素直に引き下がってくれる保証はない。
むしろ、変な道具を使ってくる可能性だってある。
……というか、使ってくる。
前世の知識が正しければロケット団お手製のメカとか出てくるし。
「まあ、必要になったら戦うけどね」
「本当か!?」
「うん。必要になったら」
……できれば、その必要がないことを祈る。
しかし、そんな俺の願いは簡単に裏切られた。
「アーボ!出てきなさい!」
「ドガース、頼むよ!」
ムサシとコジロウがモンスターボールを投げた。
白い光が広がり、2匹のポケモンが現れる。
「シャァァ!」
「ドガァス!」
アーボとドガース。
……懐かしい。
いや、実物を見るのは初めてなんだけど。
アニメで何度も見たポケモンたちだ。
「さあ、ポケモンたちをいただくわよ!」
「抵抗しても無駄だよ!」
ムサシとコジロウが笑う。
……さて。
どうするかなぁ。
俺はソウブレイズを見た。
「ソウ?」
「……うん」
まあ、仕方ないか。
さすがに、目の前でポケモンが盗まれるのを黙って見ているわけにもいかない。
それに、ここには治療中のポケモンたちがいる。
サトシのピカチュウもその1匹だ。
……よし。
「ソウブレイズ」
「ソウ!」
「ちょっとだけ、お願いできる?」
「ソウブレイズ!」
ソウブレイズが前へ出た。
その姿を見て、ムサシが目を丸くする。
「……なによ、あのポケモン?」
「見たことないな」
コジロウも首を傾げた。
「ニャーも知らないニャ」
……まあ、そうだろうね。
カントー地方では珍しいポケモンだし。
「へぇ……なかなか格好いいじゃない」
ムサシがソウブレイズを見つめる。
「あれもいただいちゃいましょう!」
……あ。
やっぱりそうなる?
「いやぁ、遠慮してもらえると助かるんだけど」
「誰が遠慮なんかするもんですか!」
「そうだそうだ!」
「全部いただくニャ!」
……うん。
話が通じない。
さすがロケット団。
俺は小さくため息をついた。
「……ソウブレイズ」
「ソウ」
「じゃあ、かげうちで2匹を止めて」
「ソウ!」
ソウブレイズの足元から黒い影が伸びた。
そして。
バシッ!
「シャァ!?」
バシィッ!
「ドガァ!?」
アーボとドガースが、ほぼ同時に吹き飛ばされた。
…………。
…………。
「……え?」
ムサシが固まる。
「……は?」
コジロウも固まる。
「……ニャ?」
ニャースまで固まった。
……うん。
まあ、そうなるよね。
それに、サカキのサイドンと戦った後だから、余計に差を感じる。
俺は首を傾げた。
「もしかして、ちょっと強くなりすぎた?」
「ソウ!」
ソウブレイズが誇らしげに頷く。
……いや、嬉しいんだけど。
なんというか。
さっきまでの苦戦が嘘みたいだ。
「な、なによあれ!?」
ムサシが叫んだ。
「アーボが一瞬で!?」
「ドガースまで!?」
コジロウも驚いている。
「なんて強いポケモンニャ!?」
ニャースがソウブレイズを指さした。
……うん。
まあ、サカキのサイドンを倒したポケモンだからね。
君たちのボスのポケモンを。
……もちろん、言わないけど。
絶対に言わないけど。
「リンヤ!すっげぇな!」
サトシが目を輝かせた。
「ソウブレイズ、めちゃくちゃ強いじゃん!」
「まあ、結構頑張ってくれたからね」
「俺も早くピカチュウとバトルしたいな!」
「……今は治療中でしょ」
「あっ、そうだった!」
……本当に、この子は。
「……ちょっと、あんた」
カスミが俺に近づいてきた。
「ん?」
「そのソウブレイズ、すっごく強いじゃない!」
「まあねぇ」
「あんた、本当に今日から旅を始めたばかりなの?」
「そうだよ」
「……信じられない」
カスミが呆れたように呟いた。
……まあ、気持ちは分かる。
普通、旅立ち初日のトレーナーがこんなポケモンを連れているとは思わないだろう。
……うん。
改めて考えると、結構反則だね。
しかし。
「……ふふふ」
ムサシが不敵に笑った。
……ん?
「なかなかやるじゃない」
「でも、俺たちにはまだ奥の手があるのさ!」
コジロウも笑う。
……ああ。
そうだった。
この3人、普通のポケモンバトルだけで終わるわけがないんだった。
「ニャーたちの本当の恐ろしさを見せてやるニャ!」
ニャースが何やら装置を取り出した。
……うわぁ。
嫌な予感。
というか、嫌な予感しかしない。
「……ソウブレイズ」
「ソウ?」
「ちょっと警戒しておこうか」
「ソウ」
ソウブレイズが剣を構える。
その瞬間。
ポケモンセンターの照明が、不自然に明滅した。
……あ。
これ、まずいやつだ。
俺は天井を見上げた。
そして、心の中で呟く。
……やっぱり、今日のうちにトキワシティを出ておけばよかった。
本当に心の底からそう思った。
現在の手持ちポケモン
ソウブレイズ♀ Lv.20