「
呪術高専東京校のグラウンドに、轟音が響き渡った。
「大蛇!!」
伏黒の呼び声に応じ、巨大な蛇が地面から姿を現す。その巨体をうねらせながら、遊真へと襲いかかった。
「
遊真は足元に『弾』印を展開。地面を蹴るようにして、その場から一気に跳び上がった。
「
空中にゲートが開く。
そこから飛び出したのは、二体のハウンドだった。
「式神!?」
突如として現れた二体に、伏黒の動きが一瞬止まる。
すぐさま大蛇をハウンドの迎撃へと向かわせると、伏黒自身も遊真を追うように地面を蹴った。手には呪具。式神による牽制と自身の接近を組み合わせ、遊真へと迫る。
「
遊真は伏黒の攻撃が届く寸前、その進路上にシールドを展開した。
呪具の一撃がシールドに阻まれ、伏黒の腕が弾かれる。
「おっと」
攻撃を防いだ遊真は、その隙を逃さない。体勢を崩した伏黒へと踏み込み、鋭い蹴りを叩き込んだ。
「グゥッ!!」
蹴りを受けた伏黒の身体が吹き飛ぶ。地面を滑るようにして距離を取った伏黒は、すぐに体勢を立て直し、よろめきながらも立ち上がった。
「鵺ッ!!」
「はーい! そこまでー!!」
伏黒が鵺を召喚しようとした、そのとき。
校舎の方から五条の声が響き渡った。
その声を聞いた伏黒は式神の召喚を中断し、遊真もトリガーを解除する。
「いやあ、お疲れ、メグミ」
「ああ。オマエ、いつの間に式神なんて使えるようになったんだ?」
「メグミの式神を参考にして作ったんだ。玉犬ってやつに、ちょっと似てるだろ?」
「オマエ、術式のコピーみたいなことできんのかよ……。乙骨先輩みたいだな……」
「オッコツ?」
「二年の特級だよ。今は海外にいる」
「ほほう、強そうですな」
「実際強え」
二人はそんな会話を交わしながら、五条のもとへと歩み寄っていく。
ここ数日で二人の仲はかなり深まっていた。今ではこうして、楽しげに雑談を交わすことも珍しくない。
「うん、流石は入学当初から一級認定されただけあるね!」
「いえいえ、それほどでも」
「空閑は特級を祓ってスカウトされたんだよな? そりゃあ一級認定もされるか」
隣に並んだ伏黒が、遊真の頭をポンポンと叩く。
「……子ども扱いすんなよ、メグミ」
「いやぁ、仲が良いようで何より! 先生はうれしいよ……およよ……」
「ウザいですよ、五条先生」
それからというもの、遊真と伏黒は時間を見つけては模擬戦を繰り返すようになった。
最初こそ互いの手の内を探り合うような戦いが多かったが、回数を重ねるにつれて、二人の連携も洗練されていった。
一方、レプリカもハウンドの改良を進めていた。伏黒の式神を参考にしたことで得られたデータは多く、新たな機能の追加や性能の調整も順調に進んでいる。
そうして、呪術高専での日々は慌ただしくも穏やかに過ぎていった。
「宿儺の指?」
五条から告げられた言葉に、伏黒は訝しげに眉をひそめた。
「そ。宮城県のとある高校に保管されている特級呪物、宿儺の指を回収してきてね」
「高校に特級呪物って……。管理が杜撰すぎませんか」
「レプリカ、特級呪物って何だ?」
『術式や呪力、あるいは術者の生前の肉体などが宿った物体を呪物と呼ぶ。その中でも、特に強い呪力を持ち、危険性の高いものが特級呪物に分類される』
「なるほどね。んで、そのスクナのユビ?ってのを、おれ達で回収しに行けばいいのか?」
「うん。本当は僕が担当する任務だったんだけどね……。急遽、特級で特急の任務が入っちゃったから!」
「特級で特急……」
「空閑、そこに反応しなくていい」
「メグミ、おれは仙台に着いたら少しだけ別行動を取る。二日目から合流することになるな」
乗り込んだ新幹線の車内。
隣の席で弁当を食べていた伏黒に、遊真はそう告げた。
「は? なんでわざわざ別行動なんて……」
「ゴジョーさんから、ちょっと頼まれてたことがあってな。すぐに終わるから、先に例の高校の下見だけ頼む」
「……ならしょうがねぇな」
「助かる」
そう言うと、遊真は(≡3≡)といった顔をしながら、自分で買った菓子パンの袋を開けた。
「空閑は食べるのが好きだな」
美味しそうに菓子パンを頬張る遊真を見て、伏黒が微笑みながら話しかける。
「ああ。日本の食事はどれも美味しい」
「? オマエ、日本出身じゃねぇのか?」
伏黒の問いに、遊真の動きがぴたりと止まった。
自分の失言に気づき、顔から血の気が引いていく。
「……キカナカッタコトニシトイテクダサイ」
「お……おう……」
何やら気まずい空気が流れる。
しかし、新幹線はそんな二人の様子などお構いなしに、凄まじい速度で景色を置き去りにしていった。
「ないですよ」
『え?』
「百葉箱、空っぽです」
時は同じ日の夜。
回収対象の高校に到着した伏黒は、宿儺の指が封印されているという百葉箱を覗き込んでいた。
しかし、肝心の宿儺の指は見当たらない。
「……五条先生、どういうことですか」
伏黒は怒りを抑えきれない様子で、五条へと連絡を取っていた。
『あはは、夜のお散歩かな? ウケんね』
「引っ叩きますよ」
『それ回収するまで戻ってきちゃダメだから』
「空閑は何をしてんですか」
『遊真は僕のために、萩の◯を買いに行かせてるよ』
(今度本気で殴ろう……)
あまりにもあんまりな言いように、伏黒は決意した。
邪智暴虐の最強を除かねばならぬと。
夜は始まったばかり……。
意外と筆が進む…。