憑依系玉狛の白い悪魔、呪術界を征く(おまえつまんないウソつくね) 作:緑茶美味しい
「いやあ……萩の◯を買い占めていたら、結構遅くなってしまいましたな」
『ああ。遊真にこんなおつかいをさせるとは、ゴジョウサトルは何を考えているのか私にもわからん』
いやマジでゴジョーさん、こんな大量の萩の◯を食べるの?
糖尿病になるぞ……。
さて、今は確か……伏黒が宿儺の指を持ち去ったと思われる生徒に接触するため、病院へ向かっているはずだ。
もし指がまだ学校に残っていたら厄介だな。
先に学校へ向かって、捜索しておくか。
その生徒が指を持っていればそれでよし。
見つからなければ、校舎の中を探せばいい。
「トリガー、
「……! やっぱり封印が解かれてるな」
校舎に足を踏み入れた瞬間、肌を突き刺す様な圧を感じた。
もう! なんで特級呪物なんて物の封印を解いちゃうかなぁ!!
『校舎内に生存している人間の反応が二つある。おそらく、その二人によって封印が解かれたのだろう』
「とりあえず、生存者の救出を最優先だ。レプリカ」
『承知した』
前世で見たアニメに登場したグラスホッパー。
あの軽やかな跳躍を再現するなら、空中に『弾』印を展開すればいい。
「
四つの印が空中に展開される。
地面を蹴り、一つ目の印を踏み抜いた。
途端に身体が宙へと弾かれる。間髪入れずに次の印へ足を伸ばし、さらに加速。空中に見えない階段でもあるかのように、校舎へ向かって跳ねていく。
そして、勢いを殺すことなく窓ガラスを突き破った。
砕けたガラス片が廊下へと散らばる。
着地と同時に、レプリカの示す生存者の反応を追った。
『遊真。前方に人間の反応がある』
「了解」
案内に従って廊下を進み、角を曲がると壁際に蹲っている女子生徒がいた。
『いまなんジですかあ……みぢかいはりはあ……ジュういちいぃ……』
女子生徒の視線は、廊下の先にいる異形の化け物へ釘付けになっている。逃げることもできず、ただ身を縮めているようだ。
「……! 誰!?」
「無事か?」
「子ど……も?」
子どもとは失礼な。
まあ、見た目だけならそう思われても仕方ないのかもしれないけど。
「コレでも15歳なんだケド」
『遊真、今はそれよりこの子の避難だ』
「そうだな」
女子生徒をひょいと担ぎ上げる。
「ちょお!?」
「む? ごめんな。少しだけ我慢してくれ。ちなみに、おまえの友達……? のイグチとやらは、もう避難させてる」
「……!」
お、反応が変わった。
どうやら友達の無事が気になっていたらしい。
「よかった……」
張り詰めていたものが切れたのか、女子生徒は安堵の息を漏らす。そのまま、こちらの肩に身体を預けてきた。
「あれ、寝ちゃった」
『むしろ好都合だな。今のうちに高専関係者のもとへ届けよう』
「おう。
足元に『弾』印を展開する。
それを蹴り込んだ瞬間、身体が勢いよく宙へ弾き出された。女子生徒を抱えたまま、再び校舎の外へと飛び出す。
女子生徒を高専関係者に預け、再び校舎へ戻ってきた。
『遊真。近くに呪力反応がある』
「呪霊か?」
『その可能性が高い。反応の中心に、先ほどの呪物と同じ波長が確認できる』
「なるほど。指を取り込んだ呪霊ってことか」
『そう考えるのが妥当だろう』
レプリカの示す方向へ進むと、やがて一つの教室に行き着いた。
そこにいたのは、異形の身体を持つ呪霊。その身から放たれる呪力量は、推定二級程度。そして、身体の一部には宿儺の指が取り込まれていた。
「呪霊ってこんなものを食べちゃうのか?」
呟いた直後、呪霊がこちらに気づいた。
異形の身体が大きくうねり、間髪入れずに襲いかかってくる。
「危ないから、さっさと終わらせようか」
「
強化された拳を叩き込む。
鈍い衝撃音とともに呪霊の巨体が大きく歪み、次の瞬間には肉体が弾けた。黒い残骸を撒き散らしながら、呪霊は崩れ落ちていく。
『呪霊の反応が消失した。指の方も無事だ』
「よし。これが例の指か」
残骸の中から宿儺の指を拾い上げる。
「……見た目は普通の指だな」
『それでも特級呪物だ。見た目で判断するべきではない』
「わかってる」
指を保管用の容器に収め、御札をぐるぐると巻きつける。
これでひとまず、指の回収は完了だ。
「メグミ」
校舎の外へ出ると、少し離れた場所にメグミと見知らぬ少年の姿があった。
「空閑!」
こちらに気づいたメグミが声を上げる。
「いやあ、遅くなってゴメン……。生徒の救助と指の回収をしてた」
「指を回収したのか?」
「ああ。呪霊が取り込んでたよ。さっき祓ってきた」
回収した容器を軽く掲げてみせる。
「これが宿儺の指か……」
メグミは容器に目を向け、封印の状態を確かめている。
「そういうこと。ところで、そっちの人は?」
「虎杖悠仁。今回の件に関係している生徒だ」
「へえ。おれ、空閑遊真。ヨロシクオネガイシマス」
頭を下げる。
「俺、虎杖悠仁。よろしく!」
「うん。よろしくな、ユウジ」
互いに簡単な自己紹介を済ませ、改めてユウジを眺める。
……ずいぶんと身体が鍛えられてるなぁ。
おれも筋トレとかするべきか?
「ん? 俺の顔になんかついてる?」
「いや、なんでもない」
どうやら見すぎていたらしい。
軽く笑って話を切り替える。
「それで、指を持ち出したのはユウジ?」
「ああ。その後、オカ研の友達が持ってったんだけど、気づいたらあんなことになっててさ」
「なるほどね」
ひとまず指は回収できたし、あとは高専に持ち帰るだけだな。
「空閑。指は俺が預かる」
メグミが手を差し出した。
「ああ。いいの?」
「俺が回収任務を受けている。特級呪物を持ち帰るのも任務のうちだ。それに、お前にはまだ校内の呪霊への対処を頼みたい」
メグミは容器に視線を向けたまま続ける。
「戦闘中に持ち歩くより、俺が預かっておいた方がいい」
なるほど。確かに、これを持ったまま戦うのは邪魔だな。
「わかった。じゃあ、頼んだ」
容器をメグミへ手渡す。
「さて、と。これで一件落着……とはいかないんだろうな」
「どういう意味だ?」
「いや、なんとなく」
そのときだった。
『遊真』
「ん?」
『異常を検知した。校舎内に複数の呪力反応が出現している』
「複数?」
『ああ。二級相当が一体。それとは別に、一級相当の反応が複数確認できる』
「……一級が複数?」
『反応の位置を表示する』
レプリカが空中に簡易的な立体映像を投影した。
校舎の見取り図に、赤い光点が次々と浮かび上がる。二級相当の反応が一つ。それとは別に、一級相当の反応がいくつも点在していた。
「これはまた……面倒なことになったな」
「呪霊が増えたのか?」
メグミが尋ねてくる。
「ああ。しかも一級が何体かいるみたいだ」
「一級……!」
メグミの声に驚きが滲む。無理もない。一級なんてそうそう出てこないしな。
「メグミ。二級の方は任せられるか?」
「問題ない。二級なら俺が祓う」
「了解。じゃあ、一級はおれが引き受けるよ」
校舎を見上げる。
「ユウジはメグミの近くにいて。危ないから、無理に前へ出ないこと」
「わかった!」
「じゃあ、行ってくる」
「
足元に展開した印を踏み抜き、勢いよく宙へ跳び上がる。
校舎内。
伏黒は玉犬を連れ、二級呪霊の反応がある場所へと向かっていた。
廊下の奥から、何かが這いずるような音が聞こえてくる。
「いたぞ!」
薄暗い廊下の先に、異形の呪霊が姿を現した。
「玉犬!」
呼び声に応じて二匹の式神が床を蹴った。左右から挟み込むように呪霊へと飛びかかる。
しかし、呪霊はその攻撃を受け止めると、力任せに玉犬を振り払った。
「……っ!」
伏黒はすぐに次の手を考える。
二級相当。自分一人でも祓える相手のはずだ。
だが、相手の動きが予想よりも速い。
「虎杖! 下がってろ!」
「わ、わかった!」
虎杖を背後に庇いながら、伏黒は呪霊との距離を測る。
本来なら、もっと大胆に式神を動かせる。だが、虎杖が近くにいる以上、攻撃の軌道まで考えなければならない。鵺等の放電も使えない。
そのわずかな制約が、戦いを難しくしていた。
その頃、別の場所では遊真が一級呪霊の群れと対峙していた。
「さてと……こっちはこっちで数が多いな」
『複数の反応が包囲しようとしているようだ』
「なるほど。逃がす気はないってことか」
一体が地面を蹴り、遊真へと飛びかかってきた。
「
「せーーのっ!!」
身をひねって攻撃をかわし、勢いを乗せた一撃を叩き込む。
鈍い衝撃音が響き、呪霊の身体が大きく弾けた。黒い霧となって消えていくその背後から、別の呪霊が間髪入れずに襲いかかってくる。
低く身を沈めて攻撃をくぐり抜け、そのまま相手の懐へ。拳を叩き込むと、そいつもまた黒い霧となって消えた。
一級呪霊が相手とはいえ、大きな脅威ではない。
だが、如何せん数が多い。
一体を祓ったところで、息をつく暇もない。黒い霧が消えきる前に次の呪霊が飛び込んでくる。攻撃をかわした先には、さらに別の一体が待ち構えていた。
『遊真。反応がまだ複数残っている』
「わかってる。こいつらを片付けたら、メグミのところへ戻るよ」
『……妙だな』
「どうした?」
『呪霊の動きに統一性がある。まるで、何者かに操られているようだ』
「操られてる?」
『断定はできない。しかし、自然発生した呪霊の群れにしては不自然な動きだ』
「ふーん……。誰かが裏で動かしてるってこと?」
『可能性はある』
「それなら、なおさら早く片付けないとな」
遊真は再び呪霊の群れへと踏み込んだ。
一方、伏黒は二級呪霊との戦闘を続けていた。
「くそっ……!」
玉犬の攻撃をかわした呪霊が、伏黒へと突進してくる。
伏黒は身をひねって避けるものの、完全にはかわしきれず、肩をかすめられた。
「伏黒!」
「下がってろ、虎杖!」
すぐに体勢を立て直し、伏黒は呪霊を睨みつける。
相手は二級。
決して勝てない相手ではない。
それでも、思うように攻めきれなかった。
虎杖を守りながら戦っていることに加え、呪霊の動きが予想以上に厄介なのだ。
伏黒が式神を動かすたび、呪霊はその隙を突くように位置を変える。まるでこちらの動きを読んでいるかのような立ち回りだった。
「……っ!」
伏黒は再び玉犬をけしかける。
だが、呪霊はそれを振り払い、今度は虎杖へと向かった。
「危ねえ!」
虎杖は咄嗟に身をかわす。
しかし、伸びてきた腕が身体をかすめ、壁へと叩きつけられた。
「虎杖!」
「いってぇ……!」
伏黒はすぐに呪霊の注意を引きつけようとする。
その間にも、遊真は一級呪霊の群れを祓い続けていた。
『遊真。伏黒の反応が不安定になっている』
「メグミの方か!」
『ああ。負傷している可能性がある』
「……」
すぐに伏黒のもとへ向かおうとしたが、残っていた呪霊が一斉に立ちはだかった。
「邪魔だ」
迫る一体を蹴り飛ばし、続けざまに別の一体を拳で打ち砕く。ようやく進路が開けたと思えば、今度は別の呪霊がその先を塞いだ。
伏黒のもとへ向かうには、残る呪霊を放置はできない。
『遊真。こちらの反応を優先するんだ。伏黒のもとへ向かうには、まだ時間がかかる』
「わかってる」
一刻も早く片付けて、合流しなければ。
「はぁ……はぁ……」
伏黒は荒い息を整えながら、目の前の呪霊を睨みつけていた。
玉犬は何度も攻撃を仕掛けているが、決定打には至っていない。
背後には虎杖がいる。
自分が倒れれば、次に狙われるのは虎杖だ。
「伏黒、大丈夫か!?」
「大丈夫だ。お前は下がってろ」
「でも!」
「いいから」
伏黒は再び呪霊へと向き直る。
そのとき、呪霊が大きく身体を揺らした。
「……!」
次の瞬間、巨体が伏黒へと迫る。
避けようとしたものの、反応がわずかに遅れた。
「伏黒!!」
虎杖の声が響く。
伏黒の身体が宙を舞い、そのまま壁へと叩きつけられた。
「がっ……!」
「おい! 伏黒!」
虎杖が駆け寄ろうとする。
しかし、呪霊はそれを許さない。巨大な腕が虎杖へと伸びてくる。
「くそっ!」
虎杖は咄嗟に身をかわした。
その拍子に、伏黒が持っていた宿儺の指の容器が床へと落ちる。
硬い音を立てて転がる容器。衝撃で蓋が外れ、中から一本の指が床へと転がり出た。
「……!」
虎杖の視線が、そこに釘付けになる。
「虎杖! それに触るな!」
伏黒が声を張り上げた。
「それは特級呪物だ! 近づくな!」
「でも……!」
虎杖は伏黒を見る。
このままでは、伏黒が危ない。
遊真は別の場所で戦っている。
伏黒も限界が近い。
自分に何ができるのか。
床に転がった指を見つめ、虎杖は決断する。
「……伏黒を助ける方法が、これしかないなら」
「やめろ!!」
伏黒の制止も間に合わなかった。
虎杖は宿儺の指を口に運び、飲み込んだ。
その瞬間、虎杖の身体から膨大な呪力が溢れ出す。
「……っ!?」
伏黒は目を見開いた。
虎杖の身体に、異様な紋様が浮かび上がる。
そして、伏黒が戦っていた呪霊を一方的に消し飛ばした。
『ケヒッ! ケヒヒッ!』
虎杖の身体を乗っ取った宿儺が、醜悪な笑みを浮かべた。
『ああ! やはり光は生で感じるに限るな!! 呪霊の肉などつまらん!! 人は! 女はどこだ!!』
『良い時代になったものだなぁ……。女も子供も蛆の様に湧いている……』
『素晴らしい!! 鏖殺だ!!』
歓喜する宿儺。
しかし、その腕が唐突に自身の首を押さえ込んだ。
『あ゛?』
自分の意思とは関係なく動く肉体に、宿儺の笑みが消える。
「人の体で何してんだよ、返せ」
『オマエ……何故動ける……?』
「いや……俺の体だし」
虎杖は宿儺の意識を押さえ込み、再び身体の主導権を取り戻した。
(抑え込まれる……!?)
「よう、メグミ。遅れて悪い。状況は?」
頭上から聞き慣れた声が降ってきた。
遊真だ。
一級呪霊の群れを祓い終え、ようやく伏黒たちのもとへ戻ってきたらしい。
「空閑……!」
伏黒は警戒を解かないまま、遊真へと視線を向ける。
「宿儺が受肉した」
「……宿儺が?」
遊真の視線が虎杖へと向く。
先ほどまで普通の高校生だった少年から、異様な気配が漂っている。
「さっきまで普通に話してたのに……。何があった?」
「指を食べたんだ」
伏黒が短く答えた。
「え、アレを?」
宿儺の受肉。
そして、受肉した本人がその意識を抑え込んでいる。
一体どういうことなのか。
少なくとも、遊真の知っている知識では説明がつかない。
「ユウジ。聞こえてる?」
「ああ。大丈夫」
「うん。『ウソ』じゃないね」
『遊真。先ほどの呪霊の群れについても、気になる点がある』
「それもあとで聞くよ。まずはこっちだ」
虎杖と伏黒の様子を確かめる。
「メグミ、怪我は?」
「大したことはない」
「そっか。ならよかった」
ひとまず、二人とも無事ではあるらしい。
宿儺の受肉という予想外の事態が起きた。
そして、その裏では何者かが動いている。
遊真たちがそれを知るのは、もう少し先のことだった。