男女比1:30000の星間文明世界に放り込まれたギャル偽装パイロット ~男バレしたら即“部品”行きなので、旧式ロボで傭兵やってます~ 作:サイリウム
おチビちゃんの案内で通路を進むこと数分。
商船の中というのは、どこも似たような造りをしている。無骨な金属の壁に、足元を照らす誘導灯。多少の装飾の違いはあるけど、こういのも大量生産が基本だからね。どのあたりに何が配置されてるのかってのは『ドレッド乗り』としてある程度把握している。
ちなみに時折クルーたちとすれ違うんだけど、特に会釈されるってこともない。まぁなにせ、古語を話す“変人の傭兵”だもんね。まだ信用も稼げてないから仕方ないんだけど。
偶に敵意に近い視線を向けられると、うん……。
まぁありがたいことに先導するおチビちゃんはずっと楽しそうに話しかけてくれるんですけどね?
「そういやギャルさん。船長の部屋行くの初めてっすか?」
「んー、契約の時に一回だけ? あの時はマジ緊張しててさ~、あんま憶えてないんだよね。」
「へぇ~、ギャルさんでも緊張するんすね。意外っす!」
「するする、めっちゃするよ? あーしってばガラスのハートだし!」
そう言いながら、少しふざけた調子で言葉を返す。
まぁ実際緊張したのは、確かだ。出来る限り彼女の身体に視線を向けないように、契約書として渡されたデバイスをいい感じに持って、首から下を隠してたくらいだ。これまで基本傭兵らしいというか、荒くれ者が多い所で仕事してたせいで“あぁいう恰好”の人間と関わることはあまり無かったのだが……。
なんというか、うん。凄いのよ。
おそらく誰にも理解されないであろう思考を回していると、ようやくお目当ての区画。目的地である船長室のドアが見えてくる。
「ここっすね! じゃ、自分は外で待ってるんで!」
「おけ丸! 案内あんがとね~!」
ぺこりと頭を下げてドアの傍に立つ彼女を横目に、バレないよう小さく深呼吸。
壁の傍にあるパネルに手のひらを当てれば、認証が完了。軽い電子音と共に、扉が開く。
その先にあるのが、この船の船長である『アルティ』の部屋だ。
「あぁ、お待ちしていましたよ、ギャルさん。」
「お招き感謝! ありがとね船長!」
「ふふ、前も言いましたが名前でいいんですよ?」
この船の中では珍しく“無骨さ”が取り払われた場所。
壁には星図らしき装飾が掛けられ、執務用の机が置かれている。これだけならば何処にでもありそうな船長室なのだが……、“異彩”を放つ区画が幾つか。おそらくこの近くの星系文化を色濃く反映した装飾が施されており、簡易のキッチンと丁寧に整えられた食卓らしき場所が。
これを見る限り、どうやらご飯のお誘いだったみたいだね。
「ん~、それはもうちょっと親しくなってからで! んで、もしかしてご飯のお誘い?」
「えぇ、どうぞお掛けください。」
柔らかな声でそう言う彼女。
白髪赤眼の若い女性。節々に経験不足から来るであろう“幼さ”が見て取れるが、しっかりとした口調から解る様に、『商船』の長として不可欠な責任感が感じられる。何の系譜なのかは欠片も解らないが、所作の一つ一つにも気を使っている事が解る。おそらくこの時代に於ける“品”のある女性なのだろうが……。
服装が、ヤバい。
(あ、相変わらずの“ヒモ”!)
まさに“服”という概念に喧嘩を売る様な存在。
金糸が掛かる様な装飾、そしていたるところに散りばめられたアクセサリー。これ自体に問題は無いのだが、“これだけ”なのは問題しかない。
なにせ“糸を裸体に乗せる”だけで服と言い張る暴挙。
隠すべき部分を隠すという数千年かけて衣服が担ってきた役割を完全に放棄した、フルオープンな意匠。紐ビキニが裸足で逃げ出すレベル、といえばご理解いただけるだろうか。
ちなみにこれがこの時代、そしてこの星系文化における“礼服”である。私達の感覚でいう、ビシッとしたスーツに近しいもの。結構色々な場面で使えるそうで、契約の時もこれを着ていたのだが……。私という“客”をもてなすためにも着て来てくれたらしい。
……いやコレ“着る”というか“乗せる”だな。うん。
「にしても、良いよねその服! あーしも1着作っちゃおうかな……!」
「ふふ、ありがとうございます。でしたら今度良い店をご紹介させて頂きますね。」
「っと、ちょっとした社交辞令のつもりだったんだけど。」
あーしはこの服で十分、なんて言葉を口にしながら、全身の力を頭部に集める。
こっちだって、男なのだ。
そんな存在の前に、糸しか乗せてない女性。しかも遺伝子操作のせいか美女しかいないこの時代で、その中でも結構モテるだろうなっていうボディラインがしっかり出てる彼女が、前にいるのだ。し、視線がッ! 視線が“下”に吸い込まれるッ!
頑張れ私! いやあーし!
何が発端で性別バレるか解らないんだ! コレがこの世界における一般なら! 私も何でもない顔を維持するのが普通! ギャルとしての笑顔はそのまま! 何とか逃げ切る!!!
そんなことを考えながら。不可抗力で血が下に集まりつつあるのを感じながら、彼女に勧められた席に腰かける。
「して……。船には、もう慣れましたか?」
「もちのろん! 部屋も貰っちゃったし、みんな優しいし? 傭兵的には天国って感じ。こんな好待遇、あーしマジで初めてかも!」
これは、マジな話。
傭兵に個室を割り振ってくれる船なんてそうそうない。大抵は倉庫の隅か、酷い時には自分のドレッドのコックピットで寝泊まりするのが当たり前。それと比べれば、この船は文句なしの“当たり”だし、船長がわざわざ食事に誘ってくれるなんてとんでもない好待遇だ。
まぁ、船長の服装がコレじゃなきゃって前提だけど。
「……それは良かったです。では、お近づきの印に。」
にこやかにそう言いながら、彼女が手ずから皿の蓋を開ける。
どんなものが出てくるのか期待半分、恐怖半分でそちらに視線を向けると……。
中に収まっていたのは、うねうねと動く、細長くてぬめりを帯びた緑色の山。
(うん、大盛りミミズですね。はい。)
正確にはこの星系でよく食べられている“ワーム”と呼ばれる食料。
基本的に全部工場にぶち込んで、レーションとかにしたのを買うのが一般的なんだけど……。目の前にあるコレみたいに、生で食べることも出来たりする。そして現在非常にうねうねしている事からも、鮮度の良さが窺える。『めっちゃいい食料手に入ったから今後仲よくするためにも一緒に食べよ!』ということなのだろう。
まだこの辺りの知識は仕入れ中なので知らないことも多いが……。彼女の顔からも、これが“歓迎”を意味している事は、見て取れた。
(拒否とか……。あぁうん、出来ませんよね、うん。)
一応、食べられないこともない。無いのだが……。
この時代に来てから、生き延びるために色々なものを口にしてきた。合成食料に、名前も解らない惑星の果実に、得体の知れないペースト。勿論、このミミズを原料とした幾つかの食品も口にしている。騙されて毒入りのモノを食べさせられた過去を考えれば、こうやって歓待の意を示してくれて、彼女の皿にも同じものが乗っていて、なおかつ一定の安全性が確保されているのは大歓迎なのだが……。
山盛りの、ミミズ。
い、いや。雇われの身で、船長がわざわざ用意してくれたモノを拒否できる立場じゃないのは解ってるよ!? 新鮮な奴ほど高級で、生で食べる機会なんて滅多にないってことも! でも覚悟というモノが必要な訳でして! というかそもそも“周囲になじむ”ためにはここで顔を顰めるのすら論外な訳で!
あぁもうッ! 何とかしろ“あーし”! 喜べ!!!
「わ、ワームじゃん! しかも生! うっそ、めっちゃ高いやつでしょコレ。いいの?」
「えぇ、貴女のために取り寄せたものですから。」
「やば、テンション上がる~!」
体を無駄にくねらせながら、喜びの感情を発露する。
内心冷や汗というか、何とか食べないで済む方法というか、せめて加熱して欲しいという懇願が湧き出てくるが、意志の力で封殺。全力でギャルを遂行する。
そんな覚悟を決め、置かれていたフォークへと手を伸ばしかけた、その時。
「あぁそうです。ギャルさんはこの星系の作法を知っていますか?」
「作法?」
「えぇ。客人を食事でもてなす際の、ちょっとした礼儀です。」
○船長(アルティ)
歩く卑猥。ただこれは現代的価値観を持つギャル視点のものであり、この時代の一般的な視点から見れば『すこしお高めのスーツでバッチリ決めた人』という感じ。
まだ若く、実は近くの星系で最近高等教育を終わらせたばかり。本来の予定では卒業後にとある惑星の星間運航会社に勤め家業の“伝手”をつくる予定だったが、両親(両方女性)が急死したため商船を受け継ぐ形になっている。彼女が持つ船は1隻だけで小型だが、それでも数百人程度の乗組員を擁する組織。整備長などの要職持ちや一部の船員からは既に信頼を勝ち取れているが、大部分がまだ若い船長を“様子見”している感じ。この現状を解決する策の1つとしてギャルを雇った。ただ口調や服装は変だなとは思っている。
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