男女比1:30000の星間文明世界に放り込まれたギャル偽装パイロット ~男バレしたら即“部品”行きなので、旧式ロボで傭兵やってます~ 作:サイリウム
「あぁそうです。ギャルさんはこの星系の作法を知っていますか?」
「作法?」
「えぇ。客人を食事でもてなす際の、ちょっとした礼儀です。」
そう言いながら、彼女は手元にあったフォークを此方へと差し出してくる。
どういうことかとその視線を窺ってみれば、その先は私のフォーク。完全に無防備な胸部装甲が一瞬目に入りそうになったのを“ちょっとだけ長い瞬き”で回避しながら、視線の通りこちらの食器を手渡す。すると手慣れた手つきで、くるりとミミズを絡めとる船長。
曰く、互いの食器を取り換え、自分の皿から相手の口へと料理を運び合う。
毒を仕込んでいない、つまり害する意思が無いことを示すモノの様だ。まぁ人類が宇宙に飛び立ってから長い年月が経ってるらしいし、入植した星系ごとに独自の文化が成立するのは何もおかしな話ではない。むしろ“彼女なりの気遣い”が感じられてありがたいくらいなのだが……。
(みえッ!? みえッ!?)
船長が椅子から腰を浮かせた瞬間、視界に入ってしまうソレ。
食卓は決して小さなものじゃない。向かい合って座る相手の口元まで腕を届かせるには当然、身を乗り出す必要があるわけで。
そして身を乗り出すということは、身体が前へと傾くわけで。
糸しか乗っていない胸元が、重力に従ってこちらへと零れ落ち――
(近い近い近い近いッ!!!)
視界の下半分が、とんでもないことになっている。
金のアクセサリーがしゃらりと揺れ、白い肌の上を細い糸が滑っていく。隠す気など毛頭無いそれは、距離が縮まったことでより一層その“役割の放棄”っぷりを主張してくる。目を逸らそうにも、正面から差し出されるフォークを受け取るためには前を向くしかない。
前を向けば、どうしたって視界に入る。完全に詰んでいる。
「はい、どうぞ。」
「あ、あーん……?」
鈴を転がすような声に促され、半ば反射で口を開ける。
直後ゆっくりと押し込まれるのは、フォークの先で元気にうねる緑色のソレ。
舌の上でのたうつ感触。噛めばぷつりと弾けるような食感と共に、土を思わせる独特の香りが鼻へと抜けていく。甘いような苦いような、何とも形容しがたい後味がいつまでも口の中に居座り続ける。口内地獄、視界は天国。
いやまぁ“あーし”としては“何でもない”光景な訳だから顔には出せない訳だけど! 笑うしかないわけだけど! ナニコレ!?!?!?
そんな感情を余所に、張り付けた笑みのまま咀嚼し、ミミズを飲み込む。
「ん~! おいしー! やっぱ生は格が違うわ~!」
「お口に合ったようで何よりです。……では、頂けますか?」
にこりと微笑みながら、乗り出していた身体を戻して椅子に座り直す彼女。
そして、当然のように向けられる視線。
あぁうん、そうだよね。“運び合う”んだもんね。一方通行なわけないよね。
(落ち着け、落ち着け私。いやあーし!)
可能な限り静かに唾を飲み込み、船長のフォークを握り直しながら自分の皿へと向き直る。大盛りの緑の山から一匹を選び、フォークの先で絡め取る。そのまま腰を浮かせ、テーブル越しに腕を伸ばす。
そう、今度は此方が身を乗り出す番なのだ。
つまり、より近くで、真正面から、見下ろす形になるわけで。
(やっぱデカいなこの人……、じゃないッ!)
震えそうになる手首を意志の力でねじ伏せ、ワームを彼女の口元へと運ぶ。
小さく開かれた唇がフォークの先を咥え、ゆっくりと引き抜かれていく。たったそれだけの動作が、やけに長く感じられた。咀嚼する口元を見ているのも何だか落ち着かなくて、すぐに身体を引き、椅子へと座り直す。
あ、やばい変な汗出てる。か、顔に出て無いよね? 無いよね!?
「ふふ、ありがとうございます。とても美味しいです。」
内心慌てまくってる私を余所に、満足そうにそう言う彼女。
一瞬バレてないと思い安堵しそうになるが……。その瞬間、ほんの少しだけ緩められる口元。まるで何もかもお見通し、とでも言いたげな小さな微笑み。
どうやら先ほどから此方の視線が泳ぎまくっていたことには、とっくに気が付いているらしい。
(あ~~~、はい。……い、いやまだ大丈夫な奴!)
冷や汗が背中を伝うのを感じるが、ここでさらに動揺するのは論外だ。
この時代、女性同士の恋愛はごく当たり前のもの。つまり今の彼女から見れば、此方は『魅力的な相手につい目を奪われてしまった同性』にしか見えていないはずなのだ。不可抗力で起きている“下”の問題も、体型を誤魔化すための分厚い装甲がしっかり隠してくれている。
性別の違いにまで行きつくことは、まず無い。
(……無いよね?)
無いと信じたい。というか無いと困る。
……ともあれ、作法は済んだ。
ここから先は自分の食器で、自分の皿のワームを食べればいいらしい。量が量だし、食感も味も匂いも最悪。一刻も早く口をゆすぎたい。切実に。
そんなことを考えながら二匹目三匹目と笑顔のまま処理していると、船長が口を開く。
「私は、見ての通りまだ若輩者です。この船を継いでから日も浅く、航路の選定も、取引先との交渉も、船の維持も……。正直に言えば、整備長に助けられてばかりです。」
「えー、そんなことなくない? 船長めっちゃしっかりしてるじゃん!」
「ありがとうございます。ですが、自分の未熟さは自分が一番よく解っていますから。」
そう言って小さく笑う表情には、隠しきれない気負いが見え隠れしている。
クルーたちの生活に積み荷の責任、そして常に付きまとう宙賊の脅威。一隻の商船を背負うということはその全てをこの若い肩で受け止めるということなのだろう。体は色々と凄いが、確かまだ元の時代で言う所の高校を卒業してすぐ、みたいな年齢だったはず。
……大変そうだよねぇ。
「ただ、そんな私にも少しだけ自信があるモノがありまして。……前任の傭兵については“彼女”から聞きましたか?」
「ん? あ~、外にポイされたって奴。」
「えぇ。実に傭兵らしい方であったこともあり、次の護衛をどうするかは随分と悩みました。そして選んだのが……、貴女というわけです。」
「……成程ねぇ?」
ちょっとだけ思考を切り替えながら、言葉を返す。
自分には見る目があるはずだから期待外れになるようなことはしないでね、ってところだろう。ここに来るまで他のクルーとすれ違ったことで嫌でも理解できたが、自身がこの船に“受け入れられている”とは言い難い。
今後ともより良いお付き合いをするには、“お行儀よく活躍”する必要があるって所か。
「えぇ、そして貴女が活躍するほど、貴女を選んだ私の評価も上がります。まぁその分襲撃があるという事なので、船の主としては喜ばしいことではありませんが……。この辺りの宙域はあまり安全とは言えません。ぜひ、“その名”に恥じない働きをお願いいたします。」
“ギャル”の名に恥じない、ってところはちょっとよく解らないが……。言わんとすることは理解できる。
なら、此方の答えは一つしかない。
「おけまる! あーしに任せときなさ~い!」
親指を立て、“あーし”らしく満面の笑みで応える。
元より仕事は完璧にこなすつもりだったし、信用は稼げる時に稼いでおくに限る。待遇のいい雇い主を維持するためにも、期待に応えられるよう頑張るとしよう。
「頼もしい限りです。……さて、あまり引き留めてもいけませんね。何かあれば何時でもおいでください。商船の主たるもの、信頼できる貴女との交流は深めておいて損はありませんから。……あぁそうだ、整備長が貴女の機体の事で呼んでましたよ? 外の彼女は貴女の案内として使って構いませんので、顔を出すようにお願いします。」
「りょ! んじゃ、ごちそうさまでした~!」
皿に残っていた最後の一匹を気合で飲み込み、もう一度だけ笑顔を作って席を立つ。
背後で扉が閉まる音を聞いた瞬間、張り詰めていた何かが一気に緩んでいくのを感じた。とりあえず、男バレの危機は乗り越えた。かわりに私が船長に恋愛感情を持ってる、って勘違いされそうなヤラカシはあったわけだけど……。致命的では無い。
ともかくヨシ。
「あ、お疲れっすギャルさん! どうだったっすか?」
「ん~、ワームご馳走になっちゃった! しかも新鮮な奴♡」
「えぇ!? 生っすか!? いいなぁ~!」
そんなことを考えていると、ドアの傍で待っていたおチビちゃんが声を掛けてくれる。
うん、この時代的には御馳走なんだろうね、うん。
「んで、次は整備長のとこ行かなきゃなんだけどさ。」
「あ、じゃあ案内するっす! 船長からギャルさんの言うこと聞け~、って言われてましたし!」
「ま? ならお言葉に甘えて……。トイレ何処?」
たぶん私への監視も兼ねてるんだろうなぁって思いながら、速攻で移動開始。
整備長の所に行くのは確定だけど、それよりも先にこの口ゆすがせて……!
○ワーム
万能食料。緑色のうねうねした生き物。ミミズとギャルは表現しているが、全くの別種。
とある星系で発見された生命を遺伝子操作でイジイジした結果、人体が必要とするすべての栄養素をこの虫だけで補えるようになった。量産もしやすいため工場で飼育され、粉末状にすることでレーションにしたり、ドリンクに加工されたりする。この時代における主食。
無論各星系による“ブランド化”も進んでおり、今回船長が用意したモノは近くで採れる最高級のモノ。日本人の『生魚っておいしいよね!』のノリで、生で提供した。ギャルの口には合わなかったが、船長はもちろん他乗組員に食べさせれば絶賛されるレベルだったという。
ギャル
「いや生臭いし、口の中で動いてるし、噛めば噛むほど匂い広がるし、触感が変に肉々しいし……。」
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