男女比1:30000の星間文明世界に放り込まれたギャル偽装パイロット ~男バレしたら即“部品”行きなので、旧式ロボで傭兵やってます~ 作:サイリウム
ヘルメットのバイザーを下ろし、シートに身体を沈める。
我が愛機である“マルちゃん”のコックピットは狭い。骨董品の機体に相応しく、周囲を囲むモニターどころか計器類すらもオンボロだ。21世紀で過ごした私からすればそれでも酷くハイテクな感じがするのだが……。
最新鋭の機体に乗るパイロット、軍属の人間から見れば博物館か何かと勘違いするだろう。
けど私からすればこの場所こそが、唯一“自分を偽らなくていい”場所。
(ちょうどいい狭さも相まって、何か落ち着くんだよねぇ。)
少しだけリラックスしそうな意識を振り払いながら、いつも通り確認を行っていく。
変声機の電源はそのまま、体型を誤魔化す宇宙服にも異常なし。自身の状態を調べ終えた後は、愛機の確認へ。主電源へのボタンに手を伸ばし、押し込みながら捻ることで起動。
鈍い唸り声と共に、機体へと火が灯っていく。
(……お?)
操縦桿を軽く倒した瞬間、違和感。
いや違和感というよりこれは“手応え”。
昨日までどこか一拍遅れていたマルちゃんの反応が、指先の動きにすんなりと付いてくるような気がする。感覚的なものになってしまうが、マジでレスポンスが早い。機体自体の状態が向上したのもそうだが、内側で動いているであろうプログラムも最適化されたかのような気がする。
整備長が言っていた“前よりは動けるように”というのは、どうやら控えめな表現だったみたいだね。やっぱりいい職人さんだったようだ。……口と手癖は悪いけど。
「ありがとね整備長っち……。いや長いから“長っち”か? ともかくマルちゃん! いっくよー!」
機体を動かし軽く手信号を送れば、近くにいた整備員の子たちが動き、格納庫のハッチを開けてくれる。
その先に有るのは、視界一杯に広がる漆黒の宇宙。
吸い込まれそうなソレにほんの少しだけの恐怖を抱くが……、この緊張感がちょうどいい。
(……行こうか。)
整備員の子の合図に合わせ、固定具をパージ。ブースターを吹かせば、一気にGが私に襲い掛かる。
それに合わせ、寸胴の身体が押し出されるように外へ。各種チェックを走らせながらソラに飛び込み、姿勢を整えながら、広域センサーに視線を向けた瞬間。通信が繋がる。
【こちら管制、“セイレーン”です。以降の戦闘支援を担当します。こちらの声は聞こえていますか?】
「お! セイレーンちゃん!」
耳に届くのは、氷のように冷たい女性の声。あの商船のオペレーターちゃんだ。
あの船って結構広いから、実際に顔を合わせたことは無いんだけど……。抑揚がほとんどなく、必要な情報だけを淡々と並べるような話し方をする子だ。あまりにも感情というか温度感が無かったから最初はAIかと間違えるレベルなんだよねぇ。
「ん~! 今日もクールでイケてる声してんね!」
【私語は慎むように。敵情報を共有します。】
「あ、はい。」
うん、やっぱりばっさり。容赦がないね。
……けれどまぁ、嫌われていないのは、ありがたいといえるだろう。この前少し例のおチビちゃんから聞いたのだが、誰に対しても冷たい話し方をするのが“セイレーン”ちゃんらしい。というか前回の“宇宙にポイ捨てされた傭兵”とは碌に通信してなかったって話だし、少なくともこっちを同じ人間として評価してくれているのだろう。
じゃないと情報の共有なんかしてくれないもんね。
【当船のセンサーが捕捉した所属不明艦は1。全長300m級、軍用フリゲート艦と推定。また、ドレッドのものと思われる動力炉反応を3つ確認しています。】
「おぉ、けっこう。」
【かなり余裕のある宙賊のようです。……先行する3機の識別信号の照合完了しました。機種は……、ゼノグマ・テクノロジー社製、第11世代宙域攻撃機“ゾーンリーパー”。】
一瞬だけ、彼女の声が硬くなる。
何事かと思い、マルちゃんに備え付けているデータベースを起動。ドレッドの情報を調べ、画面に表示してみるが……。
(お~、豪華。羨まし。)
ゾーンリーパー。
正規軍でも現役で採用されている攻撃型ドレッド。高速で敵へと接近し、高火力をもって撃滅することに特化した設計。1機あれば新人でも駆逐艦を落とせると言われる名機であり、それが3機。
ただの商船にとっては、死神が群れでやって来たようなものだろう。
(普通なら軍か何かと思うけど、軍の機体ならあっちの母艦が“所属不明”になるのはおかしい。となると、宙賊か何かが奪ったり買ったりして持ってきた奴ってことか。)
それに対してこっちは、第8世代の旧式が1機。
普通に考えれば、絶望的な戦力差といえるだろう。
「えっと。アレがこうなってあぁだから……。」
モニターに表示された敵の配置図を眺めながら、思考を口に出す。
速度と火力に振り切った機体。つまり、装甲はそこまで。数の利はあっちにあるが、宙賊ということは連携の練度はそこまで高くないはず。何より、こちらに向かってくる“気配”に、軍人特有の張り詰めたものがない。
感じるのは慢心と、獲物を前にした下卑た高揚感だけ。
うん、いける。
そう結論付けた瞬間……
【おいギャルッ!!! テメェ何考えてやがるッ!!!】
「んひぃ!? な、何何何!?!?!?」
繋げてあった管制の回線から響く、脳を震わす怒号。
こっちで表示されてる声の名前は依然として“セイレーン”だけど……。確認しなくても解る。
「あ、長っち! 機体めっちゃいい感じだよ~! マジ感謝!」
【誰が長っちだボケッ! それよりお前! その装備は何だ!? ブレード1本しか持ってってねぇじゃねぇか!!!】
「え? うん。そうだけど?」
そう答えながら、画面越しにマルちゃんの手に視線を向ける。
剣の柄だけが握られたお手手に、その柄の先に見える発射口。そう、SF民垂涎のエネルギーブレードちゃんだ。ドレッドの炉心からエネルギー吸い出して起動するタイプだから、刃の長さとか自由に変えられる優れものなんだよねぇ。
【銃は!?】
「無いよ?」
【はァ!?!?!?】
「いやだってさぁ、弾代ヤバいじゃん? ビーム砲はエネルギーパックの交換代かかるし、実弾なんて撃つたびにお金が飛んでくんだよ? 剣ならエネルギー食うだけだし、超エコ!」
そうなんだよねぇ。
さっきも考えていたが、ただでさえ私は金がかかる。日用品でも、ドレッド関係でもだ。だから節約術を駆使するのは必須だったし、出来るだけコストを下げる戦い方の構築は急務だったわけだ。……というかちょっと前までは単なる鉄の棒振り回してただけだったし、それに比べたら格段に上等装備じゃない?
【自殺志願者かお前ッ!? 相手は3機、しかも格上だぞ!? 近づく前にハチの巣にされて終わりだろうがッ!!!】
【……整備長の指摘は妥当です。】
怒鳴り散らす整備長の声に、セイレーンの冷静な声が重なる。
……雑音的に多分さっきまでマイク取られてた奴だな? あとその間に彼女たちがいるブリッジ? にいる他の人の声も聞こえちゃった。やっぱり傭兵ってことだけあって、頭のおかしい狂人扱いされてるっぽいねぇ。ま、仕方ないけど。
そんなことを考えていると、私の奇行に動じた様子を見せない彼女が、口を開く。
【ギャル、直ちに帰投し、射撃兵装を受領してください。敵との接触予想時刻まで、まだ……】
そこで、彼女の言葉が途切れる。
瞬間、電子音と共に画面に映る影。こちらに向かって急速に距離を詰めて来る存在をこちらでも察知する。流石は軍用機、こちらが悠長に会話している間に、もう射程圏内へと滑り込んできていた様だ。……これ以上近づかれると船に張り付かれる恐れがある。こっちも距離を詰めないと。
【……間に合いません。接触まで、残り30秒。】
淡々とした声の奥に、隠しきれない何かが滲む。
商船へのダメージを避けるには、ドレッドには船から離れた場所で戦って貰う方がいい。けれどここまで近づかれてしまえば、今からでは射撃武器を取りに行く時間はない。取りに行けば距離が足りず、船に取り付かれてしまう。
けれど近接1本しかない旧型の機体を突っ込ませても、肉盾すら果たせない。少しでも船の生存の可能性を高めるなら、私を下げて船の機銃と一緒に“ゾーンリーパー”の相手をさせる方がいい。
おそらく彼女は、そう考えたのだろう。
けれど。
【ギャル、すぐに反転を。護衛として……】
「問題ナッシング! セイレーンちゃんは、そのままモニター見ててね?」
確かにちょっと面倒だが、勝てない相手じゃない。
紡ごうとしたそんな言葉を遮るように……、広域通信が開かれる。
相手からだ。
【オイオイオイオイッ! アイツ、スクラップで出て来やがったぞッ!】
【しかも見ろよ、丸腰だぜ!? ギャハハ! 健気だねェ!】
【こりゃ今日もたんまり稼がせて貰えそうだなァ? ボスも喜んでくれるだろうよォ!】
聞こえてくるのは、予想通りの下品な笑い声。
前の時代の感覚からすると、こういう台詞はおっさんの声で再生されるものなのだが……。全部若い女性の声なのがいつまで経っても慣れない。あと遺伝子操作のおかげで種族全体が向上してるのか、みんな声綺麗。これで男に人権あったら素敵だったんだけどなぁ……。
「あは~、ガラ悪。マジ萎えるね。」
そんなことを小さく呟きながら、操縦桿を握り直す。
相手に合わせてこちらもブースターを吹かしたことで、相手の姿が光点から機影へと素早く変化していく。どうやら相手は結構しっかりとした補給を受けられるようで……。背面に複数のスラスターを備えた、鋭い刃物を思わせる“データそのまま”黒い機体が、視界に映る。
そして一斉に向けられる、彼女らの砲口。
(ッ!)
瞬間、肌が粟立つような感覚。
向けられた悪意を感じ、予測を立てる。どこを狙い、いつ撃つのか。言葉にするのは難しいが、この時代にやって来てからずっと付き合ってきた、妙に鋭すぎる“勘”。そしてソレに逆らわぬ様に、機体を動かしていく。
【死ねぇ、このクソアマッ!】
【ッ! ギャル、回避を!!!】
オペレーターの悲鳴と共に放たれる、幾本もの光の柱。
この時代のビームは、ほぼ必殺。ドレッドに乗せる小型核融合炉の性能向上と、ビーム砲の小型化。その技術が時代と共に向上し続けた結果、どんな装甲を用意しようとも一撃で葬り去るものとなってしまった。船のように巨大なビームシールドを張れれば話は別だが……。少なくともドレッドサイズで実用化されたという話は聞かない。
だから、避ける。
推進剤を一瞬だけ吹かし、残りは姿勢制御で。機体を僅かに傾ける。
そして定めた位置に機体を置いた瞬間……、光の柱が機体のすぐ傍を通り過ぎていく。
続けざまに飛んでくる2射目、3射目。
足の関節を曲げ、腕を振り、その反動で機体の向きを変える。昔の時代に覚えた、宇宙空間での手足を使った姿勢制御。そのドレッド版だ。推進剤もほとんど使わないし、とってもエコ。
【はぇ!?】
味方の通信から聞こえる、可愛らしい声。
……今の通信、セイレーンちゃん?
【な、何で当たらねぇ!?】
【囲め! “鳥かご”だ! 逃げ場を無くしちまえ!】
苛立った宙賊たちが散開し、此方を包囲するように展開していく。
四方八方から降り注ぐビームの雨。その全てを最低限の動きで躱しながら、機体の位置を少しずつずらしていく。右へ、上へ、また右へ。追い詰められているように見せかけて、実際にはこちらが相手の動きを“選んで”いる。
包囲の一角。そこだけ、わざと射線を薄くしておいた。
あとは、誘い込むだけでいい。
対象の1機だけに、秘匿通信をぶち込む。
「このノーコン♡ どれだけ外せば気が済むのかな♡」
【ッ! ぶっ殺すッ!!!】
急加速。苛立ちに任せた突撃。
その動きも、向けられた殺意の流れも、全部見えていた。
彼女が自分の意志で“選んだ”瞬間、残りの2機が射撃を行っている。既にソレも調整済みで、突撃した彼女からすれば下手に動けない“道”に。たとえ途中で気が付き減速しようにも、この速度では間に合わない。科学が進んだこの時代でも慣性という基本法則は変わらないのだ。
あとは、合わせればいい。
【あ――】
握っていた柄のスイッチを入れ、エネルギーブレードを起動。
出力を限界まで上げ、本来なら斬れない装甲まで、焼き落とせるほどの大火力に。
相手が焦りのままに撃ち込んでくるビームの合間をすり抜けながら、全力で振り抜く。
「そこッ!」
すれ違いざま、一閃。
黒い機体が上下に分かたれ、慣性のまま背後へと流れていく。動力炉もコックピットも貫いている。悲鳴すら上げられないまま、爆散。真っ黒な宇宙に新しい光が生まれた。
【…………え?】
広域から響く、間の抜けた敵の声。
先ほどまでの下品な笑い声は、もうどこからも聞こえてこない。
ブレードを軽く振り、光刃の残滓を払いながら、残る2機へと向き直る。
さて。
「次は誰が来るのかな?」
○カシェン重工社製 第9世代ドレッド武装 汎用近接武器『彪刀』
KUI-G9B-2291
中央政府の存在するユーラシア大陸、そのとある区域にルーツを持つ大陸系企業の子会社が開発したエネルギーブレード。暗器としての性質も持っており、非起動時は柄の部分しか存在せず有視界戦闘時でも“単なる握りこぶし”にしか見えないという特徴を持っている。しかしスイッチ1つで起動でき、一気にドレッドの体長に近い20m級の刃を生成することが可能。アンブッシュも出来るし、斬り合いも出来るし、そもそもの出力も当時としては破格。消費電力も少なかったため開発チームは意気揚々と本武器を発売した。
ただ“柄”しかない弊害から上下反対で起動して、コックピットに向かってブレードが生成されてしまう事故が多発。多数の死者を積み上げてしまい、責任問題で会社は爆発四散した。遺作。
ギャルが使っているのはその改修型。事故を防ぐために防止プログラムが追加されており、刀身を自由に操作できるパッチも入っている。世代という“規格が違う”武器だが、消費電力の少なさと、マルテン側の幾つかの改修によって使える様になっている。
ギャル
「扱いが難しい癖武器、って感じかな? でも刀身の長さ弄ったり、斬り合いの時に刀身を消したりするとすっごく相手が動揺してくれるんだよね。なので個人的には大好きです……!」
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