男女比1:30000の星間文明世界に放り込まれたギャル偽装パイロット ~男バレしたら即“部品”行きなので、旧式ロボで傭兵やってます~ 作:サイリウム
そこから先は、あっという間だった。
味方を一撃で斬り落とされたことで、残る2機の動きは目に見えて鈍った。照準はブレるし、回避も大雑把。何より向けられてくる殺意にさっきまでの余裕が欠片も残っていない。
アレだね、実力の差が解って怯えちゃった子犬のような状態。広域通信で活きの良い言葉は叫んでるけど、実際はただのチワワちゃん。
こうなればもう後は作業だ。
散開して挟み撃ちにしようとした1機の懐に潜り込み、同様に両断。ついでに切断面を少し工夫して、爆風の位置を調整。ちょうど背後で敵機が爆発四散するようにしながら、爆風と同時にブースターを起動。相手が残り1人になって呆気にとられ、思考に“逃走”が出た瞬間……。
二重の加速で突貫し、コックピットにブレードを押し込む。
【ァ、がッ!】
「う~ん! やっぱこれだけは慣れない!」
“あーし”の口調で明るく振る舞いながら、相手の通信を遮断。
一瞬だけ聞こえた悲鳴を何とか振り払いながら、パイロットごと敵機を焼き切る。
……残念なことにこの時代に於ける人類は、少々余り気味だ。男がいないのは確かだが、遺伝子関連技術の向上によって格段に増やしやすくなっている。早い話、犯罪者を捕まえて更生させる意味合いが薄いのだ。悪即殺、良い子ちゃんに教育し直すぐらいなら、適当に新しい人間作った方が早いっていうね?
(う~ん、倫理の崩壊。)
まぁそんなわけで。再発防止の意味合いもあって、賊は殺す以外の選択肢は無かったりする。
……いや、最初は私も見逃してましたよ? でも逆恨みで再度襲撃されてからは、うん。もういいかな、って。価値観も昔と違い過ぎて色々ヤバいので、何とか“この時代に合わせてる”って感じですね。
そんなことを考えながら、ブレードのスイッチを切り、綺麗に残った最後の残骸を手に取る。
(さっきの2つは爆散したけど、これは綺麗にコックピットだけを貫けた。……いけるかな?)
ゾーンリーパー、軍でも現役の第11世代機。
コックピットがあった胸部周辺は綺麗にくりぬかれちゃってるが……。それ以外のパーツは十分に再利用可能だろう。軍用品の可能性が高いので一般の市場には流せないが、闇市なら多分OK。こっちの身元を隠す手間は有るが、それなりの額にはなるはず。
こちとら万年金欠の傭兵なのだ。お金は落ちてるうちに拾っておくに限る。
【……敵機、全機の無力化を確認しました。】
思考を回していると、通信から響くセイレーンちゃんの声。
相変わらずの冷たい声だけど……。なんだかちょっとだけ温度があるような気がする。もしかしてデレ期? さっき私が敵を両断した時もなんか可愛い声出してたし、そういう二面性ある感じ? とするとセイレーンちゃんって結構カワイ子ちゃんだったり……!
【ギャル、黙りなさい。】
「はいはーい! お口チャックね!」
【……当船への被弾、ゼロ。貴機への損傷もほぼゼロ。見事な戦闘でした。残骸収集用の小型艇の準備は整っています。送りますか?】
「ん~、要らないかな? こっちで引っ張ってくよ。あとも~っと褒めてくれてもいいんだゾ?」
【黙れ。】
うん、ブレない。というか声が一気に絶対零度になっちゃった。
けれどそれが良い……!
なんて馬鹿なことを考えながら、彼女の声の奥。回線の向こう側にいるであろう他乗組員たちの声に耳を澄ませる。確かさっきまでは『あの傭兵頭おかしいんじゃないの』とか、『自殺志願者』とか、『クソギャル帰ったら脳天から叩き割る』みたいな物騒な声が聞こえてたんだけど……。
それが一気に掌ドリル。
【……え、嘘でしょ。リーパー3機、ほんとに全部?】
【あのオンボロで? しかも剣1本で?】
【いやいやいや、最初からなんか只者じゃないって思ってたよ私は!】
【アンタさっき「狂人」って言ってたじゃん!】
【言ってない!】
うんうん。ほんと綺麗な掌返し。
前任者のせいか、元々傭兵へのヘイトが高めなのかな、って思ってたけどえらい変わり様だ。まぁおそらく、整備長こと長っちが率先して私をボコボコにしようとして、暴言とか吐きまくってくれてたから“ガス抜き”になって。その後の受け入れられやすさに関与してたんだろうけど……。
ま、仲良くしてくれるのならそれでいい。
(たぶん急激に距離詰めて来る奴もいるだろうし、一層“偽装”には気をつけないとなぁ。)
そんなことを考えながら、母艦へと帰還するのだった。
◇◆◇◆◇
格納庫に機体を滑り込ませ、固定具が噛み合う音を確認してからハッチを開ける。
その瞬間、耳に飛び込んできたのは歓声だった。
「ギャルさーん!!!」
「すっごい! ほんとに勝っちゃった!」
「しかもリーパー引っ張って帰ってきてるし! なにこれ!?」
整備員の子たちが、わらわらと愛機の足元に集まってくる。その中には、ぴょんぴょん跳ねながら手を振ってるおチビちゃんの姿も。
いやー、行きは手信号送っても事務的に動いてくれるだけだったのにね。帰ってきたらこの騒ぎ。他の船だったら『傭兵如きがアタシらより目立つんじゃねぇよ』とか言われながら唾吐かれるとか、そもそもの乗船を拒否されることだってあるのに。……アレかな? 上がしっかりしてると下もそれに倣う、的な?
ともかくちょっとむずがゆいのは確かだね。
「えへー! どうよギャルちゃんの腕は! 大勝利~!」
そんなことを叫びながら、コックピットから身を乗り出して“この時代の”ピースサイン。
すると、面白いぐらいに上がる歓声。うんうん、これはこれで。承認欲求がガンガン満たされていきますなぁ。しかも全員可愛い子ちゃんってのがまた凄くいい。遺伝子操作様々ですよ。……あ、でも男消し飛ばした研究者、お前は絶対に許さん。
なんて浮かれたことを考えながら、機体から降りようとした時……。
「……おい、ギャル。」
人垣が、すっと割れる。
その奥から現れたのは、2m越えの巨体。言わずもがな、整備長である。腕を組みながらゆっくり歩いてくるその顔は……。あ、うん。笑ってないですね、ハイ。特にお目々が。
「テメェ……、アタシが整備してやった機体で何やらかしやがった?」
「え、えっと? 勝ったけど……?」
「んなこたぁ見りゃ解るッ!!! 関節! スラスター! あんな無茶な機動させやがって、摩耗が尋常じゃねぇんだよッ! そも手足振り回して姿勢制御するなんざ何してんだッ!? その分負荷が倍増するだろうがッ! アタシらが何時間かけて調整したと思ってやがるッ!!!」
ずかずかと距離を詰めてくる整備長。
もう感覚で解る、結構ガチでキレてらっしゃる。
あぁうん。まぁ確かにドレッドは人型兵器ではあるけど、使えば使うほど摩耗するからね。んで私は関節と細かい動きで慣性を制御して、姿勢制御するからその分消耗が激しい。んでそれを直すのが彼女達整備班なんだけど、関節っていう大事で複雑なところだから、その分整備が難しいっていう。
う~ん、キレても仕方ない奴。
ぶん殴られることも覚悟し、せめて変声機だけは守ろうと反射的に首元を庇いながら身構えるが……。
「――だがよくやったッ!!!」
視界が、真っ黒に染まる。
そして遅れてやって来る、エグイ衝撃。これでようやく、万力の力で抱きしめられていることを察する。……胸筋ヤバ。鉄板でも仕込んでる?
「んぐっ!?」
「リーパー3機をあのオンボロでだぞ!? しかも船には傷一つ付けずにッ! アタシの整備が無駄にならなかったってこったッ! はははッ、最高だなテメェ! ぶっ殺すッ!!!」
「どっちッ!?」
いつもの“あーし”の口調で返すが、なかなかヤバい。
ミシミシと何か聞こえちゃいけない音が宇宙服の内側から鳴っている。いや待って、これ本気でヤバい。物理的に締め殺される。っていうかそれ以上に、体型誤魔化してる装甲が歪んだらどうすんの!? 密着しすぎ! この距離で何か違和感持たれたら終わる!
死ぬ! 二重の意味で死ぬ!!!
「ちょ、ちょちょちょ長っち! ギブ! ギブギブ!!! 中身出ちゃう!!!!!」
「おっと、悪ぃ悪ぃ。」
背中を全力でタップし続けて、ようやく解放。
膝から崩れ落ちそうになるのを何とか堪えて、出来る限り何気ない動きで、胸元と首元を確認する。装甲よし。変声機よし。うん、セーフ。ほんとにギリッギリでセーフ。マジでよかった。……敵機3機と殺り合ってた時より今の数秒の方がよっぽど命の危険を感じたんですけど。
「関節とスラスターは後で全部見てやる。……だが覚悟しとけよ?」
「は、は~い……。」
ガハハと豪快に笑う整備長に乾いた笑いで返す。
……でもまぁこれで彼女に認めてもらえたってことなら、それでいい。精密機器の塊だからね、ドレッドって。ちょっと勉強したから自分でも少しは何とかなるけど、限界がある。本職、それにこっちに好意的で腕のある人と関係を結べたのは……。本当にプラスだ。
「あ、船長!」
そんなことを考えていると、おそらくおチビちゃんの声。
そちらの方に視線を向けてみれば……。白い髪に赤い瞳の若い女性。船長ちゃんがそこにいた。
○ギャルの宇宙服
2000年代に作られたものを現地改修した存在。一応宇宙服としての能力は保っているが、実質“性別偽装”服。胸部及び腰部付近の内側に装甲を追加することで何とか女性らしい外見を作っている感じ。そもそもの作りが全身を包み込むタイプの設計だった為、成立している。
また変声機も追加されており、彼の口から出る裏声をより女性らしく変化させている。(裏声はこの時代に流れ着いてから死に物狂いで何とか習得した。両生類。)
他にも幾つかの武装や機能が追加されているが、細々としたもののみ。体型を誤魔化すことに全部振している。
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