僕のヒーローアカデミア プロフェッショナル change the World,change the Hero   作:クリアウォーター

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№1

 №1 私服のヒーロー

 

 

「あっ、いけね」

 

 逸身(へんみ)和親(かずちか)が自分のうっかりに気付いたのは、今日一日を働き終えて夜になってのことだった。

 昼過ぎに吸ったタバコが最後の一本だったことを忘れていたのだ。ストックはもうない。

 別に一日に数本ふかすだけのライトスモーカー、無いなら無いで耐えられないわけではないが、いざ吸おうとした時に手元にないのは話が違う。これは飯時に食べようと決めていたものを食べそびれた時の、如何ともしがたい口惜しさ、もどかしさに近い感覚かもしれない。

 

「しくったー……ストック切れてたの頭から抜けてたな。しゃーねぇ、買いに行くかぁーあーあ~~……っと」

 

 もう二十二時を回った今から外出するのは面倒だが、代わりに誰かが買いに行ってくれるわけもなし。和親は伸びをしながら大あくびをすると、上着に袖を通しながらサンダルを履き、自室の外へ出た。

 部屋の外は業務机一式に、テーブルを挟んで自分用と来客用のソファーのある、自室より大きな部屋。そこを素通りして、建物内の通路に出た和親は扉の鍵を閉める。

 扉の入口には、事務所名が書かれた簡素な表札が貼ってあった。

 ここは駅にほど近い雑居ビルのワンフロアに構えた、和親の事務所兼住居。

 和親は職業としてその活動を公に認められた、“プロヒーロー”であった。そして今はタバコ二箱のために夜の街に繰り出す、今年で三十一歳になる成人男性であった。

 

 

 

 四月でも夜はまだまだ肌寒い。和親は安物のジャンパーのポケットに両手を突っ込み、自宅から徒歩五分の場所にあるコンビニへと向かう。

 ここは神奈川県の横浜市は華不和(けふわ)区。明日も平日だというのに、飲食店が軒を連ねる通りには、それなりに人で賑わっていた。

 サラリーマンらしきスーツ姿の男性が、ふわふわの毛をした猫の頭で、その猫耳に携帯を当てて何やら話し込んでいる。

 両目だけでなく額にも目があり、その三つ目用の眼鏡をかけている女性が、一緒に歩く友人らと楽しそうにお喋りをしながら歩いていた。

 これらの光景は今や全世界の人間に“個性”が発現するようになってから、すでに一世紀半が過ぎた現代の“超常社会”において、なんら珍しいことではない。

 ちなみに和親の外見は、超常以前の一般的な人間として、さして変わったところはない。地毛が濃淡のある斑点が混じる、灰色の頭髪であることくらいか。実に平凡。もっとも、その身に宿した個性を除けばの話だが。

 世界総人口の八割の人間は、何かしらの“個性因子”が発現している。身体機能の延長程度のものから、それまでコミック等の空想(フィクション)の中でしか存在しなかった超能力めいたものまで、その種類は個性を宿した人の数だけあると言っても過言ではない。

 だからこそ、持て余した個性が引き金になる揉め事は今日まで後を絶たない。それが強力な個性であればあるほど、警察機関だけでは人手も力も足りない。

 だからこそ超常社会は、個性犯罪から人々とその暮らしを守る“ヒーロー”を必要としているのだが――

 ――あーあ、コスチューム着てなけりゃ、昼にパパっと買えんだけどなぁ。世知辛ぇ……。

 胸中で文句を垂れる和親。ヒーロー活動で外に出たついでに済ませられたら、わざわざ出かける必要もなかった。

 しかし、そのヒーローのキャラクター性にもよるが、活動中に買い物をするのは一部の世間の目が厳しい。ましてや買うのがタバコとなると、『子供の憧れを壊すな』と、いい顔をしない人間はかなり多い。

 ほどなくして和親の前に、全国展開する業界大手№1のコンビニ、“Jストア”の看板が見えたその直後。

 コンビニの自動扉のガラスが派手な音を立てて割れると同時に、人影が飛び出してきた。近くにいた通行人がどよめき、騒ぎ出す。

 飛び出してきたのは、首から下がコマのように高速回転している男。その後ろには、まだ春先なのにタンクトップを着た、もう一人の男が続く。どちらも二十代ぐらいか。

 

「行け! 行け!」

 

 後ろの男が怒鳴り声でコマ男に指示を飛ばす。見るからに強盗の二人組は和親と目が合うと、回れ右をして反対方向へ逃げ出した。それだけで、大して綿密な計画を立てた上での行動でないと見て取れる。

 一方の和親はコンビニの扉が壊されたのを確認してすぐに、サンダルを脱いでいた。個性を使うのに履物は邪魔になる。

 

「運のねえこった」

 

 ズボンのポケットに右手を突っ込みながら、和親は落ち着いた声で呟くと同時にその場で跳躍、アスファルトの地面を思いきり踏みつけた。

 すると――和親は人間の足裏ではあり得ない反動、斜め前方へ凄まじい速度で幅跳びのような動きで跳躍していた。

 人の頭を超える程度の低い放物線を描く、和親の着地点にはコマ男。回転の速度こそ、つむじ風そのものに変じたような速さだが、移動速度自体は常人が走るのとほぼ変わらない。

 

「ストップだ馬鹿野郎」

「ぐはっ!?」

 

 すっ飛んできた和親に、後頭部へ蹴りを入れられたコマ男は前方に倒れ込む。回していた腕が地面にぶつかった反動で、転げて地面に体のあちこちを打った末、電柱に激突して動かなくなった。

 和親はすっかり伸びているコマ男から、跳んできた自分に驚くもう一人の男に目をやる。

 

「今時コンビニ強盗か? すぐヒーローが来てお縄だぞ。今みたいに」

「は? お、お前ヒーローなのかよ」

「今日はもう営業終了だったんだよ、つい何十秒か前まで。ほら大人しく捕まっとけ」

 

 疑った様子で和親をじろじろ見ていた男は舌打ちし、腰を落として両腕を構えた。

 

「捕まるわけねえだろ顔も知らねえマイナーヒーローによ!」

 

 そう言った男の両腕から、いくつもの黒い棘が生え出した。更にはヴィジュアル系バンドにでもいそうなアシンメトリーな髪型が、四方八方に伸びる黒い棘へと変わる。タンクトップ姿だったのは、棘が服を突き破ってしまうからか。

 棘の長さは、両腕は大体二十センチ、髪は倍の四十センチほどで一本一本は細く、鋭そうだ。その頭はまるで――

 

「ウニ? 体毛が伸びてウニの棘みたいになる個性か? パンクだなぁ……あ、最近見たぞ、そんな形のやつ。確かガニ……いやガゼ……」

「ガンガゼだ!」

 

 ウニ男は緊張感のない和親の回答を待つことなく、棘を生やした体で突進してきた。

 ――確か毒があるんだったか。しかも刺さると返しがあって、抜けにくい上に折れやすいんだとか。

 この男の個性がどこまでガンガゼの生態と近しいかは知らないが、自分が凶器を振り回している自覚はあるようだ。このまま攻撃するつもりか、距離を取らせてそのまま相方を見捨てて逃走するのか。

 いずれにせよこちらが様子見すると思っているなら大間違い。和親は再び右手をズボンのポケットに入れながら、ウニ男に向かって走り出した。

 

「どけええええええ!!」

「…………」

 

 ウニ男が棘だらけの腕を突き出す。

 和親もポケットから抜いた右手を突き出した。人の手など簡単に貫通しそうな、鋭く伸びる棘の群れに対して、和親の右手は――金属めいた光沢を放っていた。

 

 ガギャリンッ! 

 

 鈍い音を立て、鋭利な棘をものともしない和親の拳が、クロスカウンター気味にウニ男の頬を捉える。拳どころか、和親の服に当たった長い棘も同様に、服から下の体に刺さることなく終わった。

 ぶん殴られたウニ男は、たまらず半回転して正面から地面に倒れ込む。

 

「い、移動系の個性じゃ……」

「ハズレー。尖るのは十代までにしとけ」

 

 先の移動速度を見てそう判断したのだろう、ウニ男の推測を雑に否定し、元の肌の色に戻った和親は、地面に突っ伏したままのコマ男が背負っている黒いリュックを剥ぎ取った。

 丁度その時、遠巻きに和親達を眺めていた通行人や野次馬を押し退けて、一人の警官が現れる。

 

「おっ、早い。いいタイミン――」

「はい動かないで。通報があった。あなたが個性の使用者?」

「あー……」

 

 あからさまに警戒の色を宿した目で警官に訊ねられ、和親は面倒臭そうに呻いた。

 どうやら通報者はコンビニ強盗に触れずに、往来で大立ち回りをしている者がいると警察に通報したようだ。そのせいでどうも個性を使った一般人同士のいざこざと勘違いされている。

 そもそもこの区を管轄にしている和親も、この警官に見覚えがない。顔つきと真新しい制服からして、今年配属されたばかりの新人と見るのが妥当だろう。

 

「そっちとこっちで倒れてんのは強盗。そこのコンビニ、扉壊されてるだろ? で、俺はヒーロー。出先で偶然居合わせた。OK?」

 

 和親は簡潔に事のあらましを説明していく。新人警官はそれでも疑いが晴れないようなので、和親はポケットから財布を取り出し、中から一枚のカードを見せた。

 

「これ免許(ライセンス)ね。コスチューム着てないから、分からないのも無理ないか。犯人二人は見ておくから応援呼んで。警察署に俺も同行するから。チラさんがいるなら俺から話した方が早いんだが……この時間だともういないかな」

「ヒーローネームはメ、メタモーフォル……?」

「“メタモルフォース”」

 

 受け取った免許証のヒーロー名を読み上げようとする警官に、和親は訂正する。ヒーロー免許証のヒーロー名は英語、和親のそれは造語なので、初見で読めない人も多い。

 

「“チェンジヒーロー メタモルフォース”だ。今後ともよろしく」

 

 その名を聞いても、『誰?』という表情を顔に浮かべる若い警官を見て、和親は嘆息した。

 この後、駆け付けた警察の応援と共に和親は警察署へ。諸々の対応を終えて自宅へ戻る頃には日を跨いでいた。

 そしてその時になって、出かけた目的であるタバコを買いそびれたことにやっと気付く。今更買いに行く気も起きず、和親はふて寝気味に床に就くのだった。

 

 

 

人物紹介

逸身 和親 ヒーロー名:チェンジヒーロー メタモルフォース

年齢:31歳 身長:181㎝ 好きなもの:勤務後の喫煙 割引商品

神奈川県横浜市は華不和区の一部地域を管轄に活動するプロヒーロー。

人を雇わず(正確には雇う余裕がなく)、雑居ビルのテナントとして個人ヒーロー事務所を構えて細々と活動中。事務所の経営状態は繁盛しているとは言い難い。

吸っているタバコの銘柄は【キャラメル】。

現在のヒーロービルボードチャートJPでは圏外。

 

 

強盗二人組

短期バイト先で知り合い意気投合。互いに金に困っていたことから強盗に手を染める。

 

加瀬(かせ) 岩雄(いわお)

基本的に服は半袖。冬でも上着の下は半袖。

 

個性:【ガンガゼ】

全身から棘を生やせる。棘はウニの一種、ガンガゼの特徴を有し、棘は比較的折れやすく、返しがついていて引き抜きにくい。限度はあるが、折れてもすぐに生やせる。棘には人間が致命傷に至らない程度の弱い毒が含まれている。

 

 

独楽塚(こまづか) 周斗(しゅうと)

個性に反し、独楽を回したことはこれまでの人生で一度もない。

 

個性:【独楽】

首から下を独楽のように回転できる。ただし長時間回転しすぎると首の筋を痛める。逆に首から上だけを回転させることも可能。周囲360°を見渡せる。

 

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