僕のヒーローアカデミア プロフェッショナル change the World,change the Hero 作:クリアウォーター
№2 ヒーローの仕事
ヒーローとは、この超常社会に欠かせない存在である。
個性の発生は人間社会に混乱をもたらし、それまでの枠組みを破壊してしまった。
世界は混乱を極め、個性を用いた犯罪が横行する中で、それらを良しとせず立ち上がったのが“
彼らの活動を国家が後押しすることで、公的に個性の使用を許可された者達がヒーローの原型とされている。
そんなヒーロー達だが、現代の世はヒーロー飽和社会。都市部になるほど何人ものヒーローが常駐し、その誰もが脚光を浴びられるとは限らない。
しかし、多くの人に名を知られた大企業のみで社会が形成されてはいないように、メジャーヒーローの陰には、その何倍もの数のマイナーヒーローが存在している。
そこに貴賤はない。彼らもまた、人と社会を守る立派なヒーローなのだ。
四月も末になり、もう少しすれば世間がゴールデンウィークを迎える頃。メタモルフォースこと和親は、今日もヒーロー活動に邁進していた。
和親のコスチュームは、ネイビーのシンプルな全身タイツタイプに、カーキ色のグローブとブーツ。腰のベルト上に複数装備したアイテムパックと武器、それに頭全体をすっぽりとマスクで覆った、古き良きヒーロースタイルだ。
ただし和親のファッションスキルとセンスは皆無に近く、デザインは申し訳程度に黄色のラインを走らせ、マスクにはヒーローネームの頭文字の“M”とでかでかと書かれたものである。
そんなヒーローコスチュームで励む今日の仕事は、河原における美化活動。つまりゴミ拾いである。一応
――
和親は空のペットボトルを長いトングで拾って、隣の籠付き台車に複数用意した、ゴミ袋の一つに突っ込む。
青空の下で何故に和親がこんなことに勤しんでいるのか。それは少し前に起きた出来事が原因だった。
今年の年度末、静岡県にある“
そこは地形によって一部の沿岸にゴミ等の漂流物が流れ込み、それに着け込むような不法投棄がまかり通っていたのだが、これらの廃棄物が何者かによって一掃されたのだ。
それに触発されたのか、ここ華不和区の区長だか上役だかの誰かが、『自分達の住む街は自分達で綺麗にしよう』と小学生じみたスローガンを掲げ、今回の美化活動ボランティアを企画した。
しかし悲しいかな、昨今では役所の企画したボランティア活動に、積極的に参加してくれる市民は少ない。
そこで客寄せパンダならぬ、客寄せヒーローとして、管轄のヒーロー達に参加の打診がされたのだ。あいにく今回の活動に応じたヒーローは和親だけだったが。
何でも、他のヒーローにはスケジュールの都合なり何なりで体よく断られたらしい。ヒーローが職業となったこの現代において、それは無理もないことであった。
ヒーローの実務は基本的に犯罪の取り締まり。それぞれに割り振られた担当地区で、事件発生時には警察からの応援要請があり、逮捕協力や人命救助等の貢献度を申告、専門の調査機関を経た後に報酬が支給される。
曰く、『ヒーローとは元来、奉仕活動である』。というのがヒーローの成り立ちの一説にあるように、そう考える者がいるのは和親とて分からなくはない。分からなくはないが――人間、生活するにはそれだけでは食っていけないのだ。
――結局は行政の怠慢、怠慢だよ。もっと言えば、そもそも皆がてめえの出したゴミくらいてめえで処分してりゃこんなこと……。
和親は企画者や投棄者への文句が内心止まらない。マスクを着けていてよかった、しかめ面を市民に見られずに済む。
「メタモー。こんなにゴミあったー」
「ねー、メタモーこんなにひろったー」
そんな和親の元へ、軍手を着けた手にそれぞれゴミ袋を持った子供達がわらわら寄って来た。参加賞として貰える菓子を目当てに参加した(と和親は見ている)子供らだ。
今回はヒーローがいることもアピールポイントにしているため、数名の区の職員もいるが、保護者同伴も含め、ほとんどの子供は和親と一緒にゴミ拾いを行っている。
「はいよ、じゃあ分別タイムね。そっちは燃えるゴミ。こっちも。それはプラ……いや不燃だから、燃えないやつ。あとメタモーじゃなくてメタモルフォースな」
「えー、メタモーでいいよ」
「じゃあせめてメタモルは?」
「メタモ……メタモユ……。いいにくいからやっぱりメタモーがいいー」
「えぇ……?」
和親は子供らにどれをどの袋に入れるか指示しながら、自分のヒーローネームを訂正する。最初に自己紹介をした時に「覚えにくい」と言われ、誰かが言い出した“メタモー”で定着してしまった。もっとも、普段のように“メタなんとか”や“Mマスクの人”と呼ばれるよりかはいくらかましかと、半ば諦めているが。
和親の場合、日々の街のパトロールでその姿を見知られてはいても、住民らのほとんどには名前まで記憶されていないことが多い。
この街で事務所(雑居ビルの一角だが)を構え、ヒーロー活動をしてかれこれ六年近いというのに名前がほぼ認識されていないのは、ヒーローとして特段目立った功績を挙げていないことも一つの理由だった。毎年新たなヒーローが雨後の筍のようにデビューしていく中で、インパクトを残せないヒーローの知名度が低いのは、当然と言えば当然でもある。
「ねーねー、メタモーあれやってぇ。すごくジャンプするやつ」
「えーちがうよー? メタモーはカチカチになる個性なんだよ」
「やってやってー」
一人の子供の質問に、何人かが続く。始まって一時間を少し過ぎたところで、飽きてきた子も出てきたらしい。退屈な作業に十五分くらいで飽きる子がいても不思議ではないと思えば、相当に集中できていた方だ。ヒーローと一緒に動くという非日常的なイベントは、それなりに効果があったのかもしれない。
「んー、じゃあちょっとだけな。分かりやすい方がいいか……」
少し考えてから和親は右手のグローブを外し、台車の金属部分に触れる。すると、右手の肌が質感も含めて金属部分と同様の鉄色に変わっていく。
「街で見たことある人もいるだろうけど、俺の個性は【変化】。集中すると体に触れている物と同じ物になれる。手だけじゃないぞ、ほら」
和親は金属化した右手で左腕のタイツ部分を軽く小突くと、コンコンと硬いもの同士が当たる音がした。両手を突き出してやると、子供らがぺしぺしと叩き、「かたーい」と感心したような声を出す。
「金属だけじゃない。このコスチュームには変化できる物を仕込んである。その中の一つで例えば……」
和親が意識を集中させると、今度は右手が少しツヤのある青緑色に変わった。右腕を掲げて振り回すと、青緑色の腕はそれまでより明らかに伸びて頭上を投げ縄のようにたわんで回る。
そんな中で一度右腕を振り回すのを止め、左手に外していた右手のグローブを持ち、頭上に向けて放り投げた。
「あらよっ」
今度は変化した右腕を勢いづけて回してから頭上へ振り上げると、伸びた右腕は指の先端が先に投げていたグローブに命中した。
先ほどより子供達が歓声を上げる中、和親が腕を引き戻すと、広げたままの右手にグローブがくっついている。
「これは右腕だけを、持っている粘着ゲルに変化させたわけだ」
そう言ってから個性を解除すると、粘着ゲルから元の手に戻ったために離れるグローブをキャッチして、和親はまたグローブを右手にはめた。
ちなみに使い勝手のいい高反発ゴムと合金は、ヒーローとして非活動時でも持ち歩いており、以前コンビニ強盗を制圧した時には、これらを触媒に変化したのだ。
「何にでも体を変化させる。だからチェンジヒーロー、メタモルフォース。覚えて帰ってな。あとお父さんお母さんにも話してくれると――」
「じゃあ火はー!? ぼく火だせるんだよ!」
「あたしの羽さわったら羽でるの? 飛べる?」
「木になれる? リンゴだせる?」
「ねージャンプはー? やってよぉ」
軽いパフォーマンスのつもりが、子供たちは自分の個性を出したり、拾った小枝を出して、和親に変化するのをせがみ始めた。
「いやその、火は物質じゃなくて厳密には現象だから無理で……。あと別の生き物とかになれるわけじゃないから……。木も植物で生き物だから、それにそれリンゴの枝でもないし――ああ待て待て! そんなもん拾わんでいい、土に還らせとけばいいから! ストップストーップ!!」
野良猫か何かのフンらしきものをトングで挟み、はしゃいで近付いて来る少年を和親は慌てて制止する。
ゴミ拾いに加えて、託児所めいた子供の相手。やはり割に合わない仕事だと、和親は感じざるを得なかった。
逸身和親 メタモルフォース 個性①
個性:【変化】
触れた物体の性質(密度、色、温度等を含む)に体の一部、または全身を変化できる。単純に物体そのものになるのではなく、人体に物体の性質が掛け合わさった状態。
固体だけでなく液体にも変化できるが、固体に比べて変化までに時間がかかる上、持続時間も短い。ガス等の気体は対象外。
個性の発動には対象に直接触れる必要があるため、高温高熱や強酸性の物体に触れるのはリスクが高い。
一度に変化できるのは一つの物体のみ。例えば右手は金属、左手はゴムに変化させるといった、一度に複数の物体へ同時に変化することはできない。
同様に複数の物体の性質を混ぜ合わせた物体に変化する、といったこともできない。