静寂の娘、オラリオで怪物(モンスター)を狩る   作:上杉絵梨衣

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第三章 初めての洗礼?!(後編)

ベルには迷っている時間はなかった。左側の戦影が横から斬りかかってきた。彼は短剣を斜め上に構え、刀背を相手の鉤爪の根元に滑り込ませて絡め取り、全体重をかけて押し下げ、漆黒の右腕を石壁に釘付けにした。

 

そして左手の肘をその腕の首絞めの隙間から押し込み、戦影の鏡面を貫通させた。

 

振り返った時、シャトはすでにあの二体を引き連れて走り去っていた。

 

これが彼女にとって初めての、複数の敵との正面対決だった。彼女は速く走り、黒ローブが魔物の群れの中で翻る。ダガーは右手と左手の間を絶え間なく行き来し、ブロックや突きのたびにフットワークで回避と突進を繋いでいく。体力はすでに限界に近いはずなのに、その足取りは全く乱れない。

 

(すごい……!)

 

ベルは心の中でそう叫び、歯を食いしばってあの狭い石壁の隙間へと飛び込んだ。

 

その後のことは、彼の記憶では断片的だった。

 

石壁の隙間を抜けた後、背後からダガーが黒い皮膚を破る鈍い音、鏡が割れる音、そしてシャトの低く抑えた呻き声が聞こえたことだけは覚えている。

 

彼は曲がりくねった通路を走った。天井の苔の光が頭の上でぼやけた緑の線を引き、足元でいくつもの骨か石の破片かを踏み砕いた。通路の果ては、第五層へと続く階段だった。

 

彼は最初の一段目を踏みしめた時、振り返って見た。

 

シャトが通路から走り出てきた。

 

彼女の黒ローブは今や黒と暗赤色の不規則な縞模様になり、左脚を負傷していた。皮のレガースはボロボロに破れ、右脚は普通に踏み出しているが、背後には少なくとも五体の戦影が追い迫っている。

 

「何見てるの!走って!」

 

彼女が吼えた声は大きくなかったが、この静まり返った迷宮の中で何度も反響した。

 

二人は前後して第五層へと続く階段を駆け上がった。

 

背後には執拗に追いすがる魔物。シャトは階段の入り口で振り返り、自分自身を通路の最も狭い位置に塞ぐように立ちはだかった。ダガーを身前に構え、一息で最前列の二体の戦影の鉤爪を弾き返す。

 

「ガキィン――ガキィン――」

 

二つの音が連続する。彼女はこの二回の防御の反動を利用して階段を三段後退し、さらに三体目の縦薙ぎを弾き返した。

 

そしてベルが彼女の背後から身を乗り出し、地面から拾った拳ほどの大きさの魔石の欠片を、最初の戦影の鏡面目がけて投げつけた。

 

ドンピシャだった。

 

運かどうかはさておき、その一撃で最初の戦影の顔が半秒ほど横に逸れた。その半秒でシャトはさらに四段、階段を上がることができた。追撃してくる敵の隊形に、この瞬間、隙間が生まれた。

 

「行くよ!」

 

二人は転がるように第五層へ、第四層へ、さらに第三層へ、そして第二層へと駆け上がった。戦影の追撃は第五層と第四層の境界で止まった。それより上の階層はヤツらの縄張りではなく、地下城がそれ以上上へ行くことを許さないのだ。

 

魔物は追ってこなくなった。

 

しかし、シャトとベルは止まらなかった。

 

一気に第一層まで走り、あの螺旋状に上へと続く巨大な竪坑が視界に飛び込んできた時、シャトはようやく安堵の息を吐き出した。まるで背骨を急に引き抜かれたかのように、彼女の体は前に倒れ込む。

 

ベルがすぐさま横から全身で彼女を支えた。

 

「――シャトさん!」

 

「叫ばないで、まだ死んでない……」

 

彼女は何度か息を吸い込み、手の甲で顎の血を拭った。声は三日間水を飲んでいないかのように掠れている。「ただ、膝がもう限界なだけ……」

 

「シャトさん……私が背負って上まで行きます」

 

「お前、自分の肋骨の傷からまだ血が滲んでるよ」

 

「でも……シャトさんの脚、もう歩けないじゃないですか」

 

「歩けるってば」

 

彼女は残った力で彼を押しのけ、自分で立とうとしたが、左脚はすぐに明らかにガクンと折れた。

 

「もう、無理しないでくださいよシャトさん。ほら、じゃあ二人で支え合って歩きましょう。一人が一人を背負って二人とも転げ落ちるよりはマシですよ」

 

そう言ったのはベルだった。

 

その深紅の瞳が、瞬きもせずにじっと彼女を見つめている。

 

シャトは彼を二秒ほど見つめ、それから左腕を彼の肩に回した。

 

「しょうがないな……行こう」

 

地下城の第一層からバベルの螺旋階段を抜けて外に出た時には、すでに深夜だった。

 

雨はいつの間にか上がっていた。

 

満月が再び雲の後ろから顔を出し、月光が雨に洗われて光る石畳に降り注ぐ。オラリオの夜空は異常なほど澄み渡り、空気には雨上がり特有の、湿った涼しい植物の香りが漂っていた。

 

バベルの門前には夜勤のギルド職員が二人立っていた。暗い階段の下から血まみれの少年少女が現れたのを見て、彼らは危うく警報を鳴らしかけた。シャトは彼らに手を振り、力なく「誰も死んでないから、慌てないで」と言うと、そのまま重心をベルの肩に預け、二人はよろめきながら塔の門をくぐった。

 

月光が彼女を照らす。黒ローブの血痕は深紅から黒褐色へと変わり、左の袖口には四本並んだ裂け目がある。左脚の皮のレガースは半分壊れ、第一層まで逃げた時に適当に巻いた足首の包帯は、滲み出た血で淡いピンク色に染まっていた。

 

ベルの方はもっと酷かった。普段着の右脇腹は完全に破れ、中の古い包帯が見えている。顔には鉤爪で引っ掻かれた浅い傷が三本。短い髪は魔物の粉塵と汗にまみれ、月光に照らされて白髪が銀灰色に変わっている。最も酷いのは右膝で、鋭い爪で引き裂かれたかのような三本の裂傷があった。この黒く汚れ、血が乾きかけている膝の傷は、全身の惨状の中でも最も重いものだった。

 

二人はバベルの広場の中央にある噴水の縁に、左右に分かれてへたり込んだ。

 

しばらく沈黙が流れた。

 

誰も話さなかった。噴水の水はまだ流れ続け、水面に砕けた月光が、まるで小さな銀貨の破片のように散らばっている。

 

やがてシャトが口を開いた。

 

「少しずつ成長していくのも、悪くないんじゃない?」

 

ベルが振り向く。そこには少女の淡い笑顔があった。

 

「お前が今日の昼、第四層でトカゲを狩った時、その場で即興の技を開発してたろ。半月前まで剣すら握ったことがなかったって言ってたのに。三ヶ月後には、もしかしたら一人で第六層を周回できるようになってるかもね?」

 

「シャトさん……」

 

「な、泣きそうな気色悪い顔しないでよ!別に慰めてるんじゃなくて、データの話をしてるんだよ!」

 

彼女は顔を背け、銀白色の髪が耳の後ろから滑り落ちて横顔を半分隠した。

 

「私は小さい頃からお母様に基礎戦闘をずっと教え込まれてきたのに、今はお前と大体同じ戦績なんだよ。お前はたった半月独学しただけなのに。だからお前の成長速度は多分私の――」

 

彼女は首を傾げて少し考え、計算を諦めた。「計算できなかった。でも、あのクソ狼人が言ったことなんて気にしなくていいよ。誰と並んで立つにふさわしいかは、あいつが決めることじゃない。『将来のお前』が決めることだよ。今お前があいつに勝てないのは今の話であって、お前が誰かの隣に立つに値するかどうかとは関係ないんだから!」

 

彼女は顔を元に戻し、月を見上げた。

 

「それに、お前は何も間違ってないでしょ。誰かを好きになることが、どうして笑い者にされなきゃいけないの?」

 

ベルは長い間黙っていた。そして、笑った。

 

「ありがとう、シャトさん」

 

「お礼なんていいよ。私が下まで追いかけたのは、明日お前がいないと第四層を掃除する効率がガクッと落ちるからだ。私たちはただの持ちつ持たれつの関係で、私はお前を仲間だなんて思ってないからね」

 

「はいはい」

 

「それと、明日は短剣を返してよ。さっきの新しいやつ、お前が壊したでしょ?見たよ、刃先が曲がってたもん」

 

「それ、魔石を掘る時に曲げたんだ……いやいや、さっき第五層から逃げる時、魔石やドロップアイテムを拾ってる暇なんてなかったでしょ!」

 

「じゃあ、なおさら返すべきでしょ」

 

「それ理不尽じゃないですか?!理不尽すぎません?!」

 

そこまで言い合ったところで、二人は同時に吹き出した。笑い声は深夜の噴水広場に広がり、水辺で水を飲んでいた数羽のスズメを驚かせた。

 

笑い終わると、シャトは噴水の縁に手をついて立ち上がった。左脚はまだ震えている。彼女は歯を食いしばって何か悪態をつき、それからベルに手を差し伸べた。

 

「行くよ」

 

「どこへ?」

 

「まずはお前をファミリアに送り届ける。その傷、消毒しないと感染するでしょ。そうなったらパーティーが組めなくなって、私の損失がもっと大きくなるからね」

 

「でも、シャトさんの脚が……」

 

「だから『互いに支え合う』って言ってるでしょ」

 

ベルは仕方なく立ち上がり、彼女の腕を再び肩に回し、滑らないように右手で腰のあたりを支えた。二人は月光の中、ゆっくりと北西区へと歩き出した。

 

背後には、雲を突き抜けるようにそびえ立つバベル。夜の雨に洗われた白い巨塔は、月光の下で冷たく青白い光を放っている。塔の先端は雲の中に突き刺さり、雲の縁が月光によって淡い虹の暈(かさ)を描いていた。

 

塔の底では、あの巨大な竪坑の入り口がまだ微かに苔の緑色の光を放っている。塔の門から広場の端へと移動していく二つの並んだ影は、長く、淡く、濡れた石畳の上を引きずられていく。まるで、非常にゆっくりとした速度で、一筆ずつ何かを書き記しているかのようだった。

 

シャトはしばらく歩いた後、突然尋ねた。

 

「ベル、今すごく強くなりたいって思ってるでしょ?」

 

ベルは一瞬固まった。

 

「シャトさん、どうして分かるんですか?」

 

「私も同じだから」

 

彼女は顔を上げ、塔の先端の雲の隙間から、いくつかの星がぼんやりと見えるのを眺めた。

 

今、彼女にははっきりと感じられた。彼女の背中に刻まれた【神聖文字】が灼熱しているのを。まるで胸腔の奥深くで火をつけられてからずっと消えない炭のように熱くて、どうしても足を止められなくさせる。

 

「帰ろう。この先も、まだ下に進まなきゃいけないんだから」

 

「はい」

 

二人の傷だらけの人間は、そうして互いに肩を支え合いながら、一歩一歩、月夜の下へ、オラリオの街路へと入っていった。




【作者より】
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

実は、前回までの序章~第2話ですが、私の不慣れな執筆スタイルにより、1話あたりの文字数が非常に長くなってしまいました(合計で約5万字)。スマホなどで読む際に、とても読みづらい思いをさせてしまったことをお詫び申し上げます。

そこで今回の第3話からは、日本のWeb小説のスタイルに合わせて、1話あたり3000~4000字程度に分割して更新するスタイルに変更いたしました。

あの超長文の序盤を読み切って、ここまで辿り着いてくださった読者様……本当に頭が下がります。あなたは私のヒーローです!
これからは読みやすいペースで更新していきますので、物語の続きをぜひお楽しみに。

※当作品は中国の新人作家によるもので、AI翻訳ツールを使用しています。日本語に不自然な箇所があるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマーク(お気に入り登録)や評価(★)をいただけると、新人の大きな励みになります!

これからも応援よろしくお願いします!
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