エテリウスの塔~雲の果てまで到りし旅~ 作:Yuki_Mar12
***
ゴゴゴという唸り声がした。空からだった。程なく、パッと光が閃き、暗い空から地表までの空間が、いびつに屈折した、ギラついた光――雷によって、真っ二つに裂けた。空では、密度の高い暗雲が渦巻き、流れ、何とも陰険で、不吉で、恐るべきエネルギーが、一帯に漲っており、それは、はけ口がない、抑制のきかない状況で延々と暴発し、くすぶっているようだった。
そこは、
仮に、この谷に存在し、支配しているとされている崇高なる存在が神なのだとすれば、神は相当に獰猛であるに違いなかった。谷におわす神はまるで、世界を統べるに相応しいと人間どもに認めさせるために、闇雲に暴威の限りを尽くしているかのようだった。
人跡未踏の谷では、自然に存在する物質が、手付かずの状態であり、植生の乏しい、ほとんどはげ山に近い山々の間には、石ころがゴロゴロ転がっていた。
雷鳴が轟き、閃光で暗い空がパッと、一瞬だけ明るくなった。転がっている、うっすら青みがかった石は、光沢があり、稲光が、そこに反映して美しく煌めいた。
◇
切妻屋根の石造りのこぢんまりした一軒の家の煙突から、煙がモクモク青空まで昇っていた。二階建てのその家の一階は、工房になっており、職人が働いていた。
煤だらけの年季の入ったかなとこの上で、赤熱した鋼に振り下ろされるゴドリックの槌のカンカンという音が、熱っぽく響いていた。少し突き出た角張ったあごに、深い眉間のしわは、四十代半ばの彼によい渋味を与えていた。彼の広い肩幅と厚い胸板と丸太のように太い腕は、長年の肉体労働の産物だった。
ゴドリックは、切断しておいた木の板や、鋳造した歯車や、蝶番など、夥しい部品を組み合わせ、金庫を作り上げた。
腕組みする彼は、テーブルの上の自作を厳しい目で見つめ、満足が行くようであり、また行かないようであった。
領主から、より頑丈で破られにくい金庫が欲しいと、腕利きの職人である彼は以前請われた。従来の金庫は、タガネなどの硬い棒などで鍵穴が打ち込まれると、容易に蓋がこじ開けられ、中身が盗られてしまうのだった。ゴドリックが作った、一見堅牢に見える金庫も、その例に漏れず、弱点があった。
今度の作品に関して彼は、金属部品の焼き入れの時間を少し長くして、頑丈さを上げてみたのだが、金庫の鍵穴が上に向くようにして、タガネを打ち込んでみると、結局中が潰れて、密閉性が失われてしまった。
新しい、より性能のよい鋼鉄があればいいのだが、と彼は思ったが、それは想像上にしか、未だないのだった。
***