エテリウスの塔~雲の果てまで到りし旅~ 作:Yuki_Mar12
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「ねぇ、父さん」
工房内、槌での鍛鉄作業の途中、だぶついたエプロン姿のアレクが手を止め、ゴドリックの方に向いて言った。かなとこの上には、赤々とした鉄の部品がのっていた。
ゴドリックは傍らで椅子に座り、テーブルの上の砥石と、油のしみ込んだ布で、仕事で使う常用のタガネを丹念に研いでいた。
窓の外では明るい陽光が注いでいた。
「クロスボウのトリガーを直して欲しいっていうお客さんの頼み、どうして断っちゃったのさ。報酬ははずむって言ってたよ。あれがあれば、今月はいい炭が買えたのになぁ」
「うちは鍵屋だ」、とゴドリック。「武器の類は取り扱っておらん。それより」
彼は研いでいるタガネに注いでいる目を上げ、十三歳の息子の方に転じた。
「部品の方は出来たのか?」
「いや」、とアレクは答え、話す間に冷えてしまった部品をやっとこで炉に突っ込んだ。
メラメラ燃える火によって、優しげに見えるアレクの垂れ目の顔が、赤く照らされた。
ゴドリックは、息子の注意が逸れたことに少しムスッとし、タガネの研磨を再開した。
カン、カン、カン、と槌の音がよく工房内に響いた。
その内、アレクの手と腕が、重いハンマーとかたい鉄の反発とにやられ、くたびれてきた。すでに手は、マメができたり、ところどころ皮が剥けたりしていた。
アレクは彼なりに必死に作業に取り組んだが、その成果である鉄の部品は、あまり洗練されておらず、デコボコだったり、バリが残っていたりし、無様だった。父の腕にはまるで及んでいなかった。彼は劣等感に苛まれ、悔しいと感じた。
少し休憩に行ってくるとアレクは言い残し、エプロンを脱ぐと、外に出ていった。
ゴドリックは元やっていたタガネより、別のタガネの研磨へと移っていたが、休憩に行く息子に返事せず、しばらくした後、静かになった工房で立ち上がり、かなとこに寄り、その上に放置された作品をしげしげ見てみた。
それは確かに拙劣であり、売り物として客に出せる品質に届いていなかった。だが、きちんとできているところはできており、見習いとしての彼の成長が窺われた。
ゴドリックはテーブルまで戻って椅子に座り、タガネを柄で持つと、再び油砥石で擦りだした。
――ゴドリックも、この工房のある町、グラウ・タールの住民の多くと同じく、篤信家で、土着の宗教の教義に温順に則って暮らしていた。
『天牢教界』と呼ばれるその宗教では、人間は生来的に有罪であるとされ、この世に閉じ込められているのだと説かれていた。輪状の鎖に囲まれた屈曲した稲妻が、天牢教界の聖印となっていた。
ゴドリックにとって、ひとというのは、努めて慎ましく暮らすべき、脆弱なのに傲慢になりやすい生き物であり、決してうぬぼれたり、横暴になったりしてはいけなかった。選択した仕事に専心し、極めるべきであり、争いごとなどもっての外だった。
だが、昨今、巷では、武具の開発、製造、売買が盛んであり、戦争の話がよく聞かれるようになった。政治家たちは、勢力争いのため、利権拡大のために血眼になり、目先の報酬にくらんだ兵士たちや、生まれ付きの暴漢が進んで戦役に臨んだ。
ゴドリックにとって現況は嘆かわしいものだった。彼はだんだん、町で頭のかたい頑固おやじと、主に若者たちからされ、悪し様にささやかれたり、嘲笑されたりした。まだ、彼のように信心深い者は――やっぱり年配の者が大半だったが――多く残っており、そういう者は、ゴドリックに共鳴し、教界の存在によって一つの集団に帰属していたが、その展望は、信者の漸減があり、明るくなかった。
だが、彼はあくまで、若者たちに揶揄されるように、頑固おやじとして、この宗教の信徒として、貫徹して生きるつもりだった。
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