嘘告(※ガチ恋)されたので、ネタばらしまで学園一の美少女との恋人生活を満喫します! 作:みずがめ
教室の自分の席で、どこぞの司令官のようなポーズで考え込む。
脳内の議題は、もちろん今朝下駄箱にあったラブレターのことだ。
ラブレターなんてラブコメ漫画ぐらいでしか見たことがない。
あまりにも古風。だからこそ怪しい……怪しすぎる!
「……」
俺はそっと、クラスメイトに気づかれないように教室を見渡す。
朝の教室はいつも通り賑やかなものだった。あちらこちらで仲の良いグループに分かれて談笑する光景が広がっている。
中でも目立っているのは、クラスの中心とも呼べる男女混合グループだ。
俺のような大人しい男子からすれば、平気で男女グループを作っているというだけで眩しすぎる陽キャである。
(一番怪しいのは、あのグループだよなぁ……)
このクラスは比較的大人しめの生徒が集まっている。「罰ゲームで嘘告しようぜ!」なんて言いそうなのは、俺の偏見込みで陽キャグループだけだろう。
(問題は、嘘告にどう対処したものか……)
スクールバッグの奥底に押し込んだラブレターのことを思い浮かべて、悩まずにはいられない。
ラブレターの内容自体は簡素なものだ。要約すれば「話があるから放課後に屋上に来て」という呼び出しだった。宛名を書いていないところが嘘告っぽい。
ハートマークで封がされていなければラブレターと気づかなかっただろうし、俺の名前が書かれていなければ「人違いか」と見なかったことにできただろう。
どうせ嘘告なんだからと、待ち合わせ場所に行かなければいいと思う人もいるかもしれない。
だが、それは危険だ。
もし呼び出しを無視すれば、徒党を組んだ女子から「○○ちゃんの呼び出しを無視するなんて最低!」と、取り囲まれて責められるに決まっている。
たとえ嘘告であったとしても、実際に告白されるまでは証拠がない。宛名すら書かれていないラブレターだけでは証拠品として不十分なのだ。
仮に先生に嘘告のことを訴えて、相手がラブレターを認めたとしても「本当だったのに……」と女優並みの涙を見せられてしまえば、悪者になるのは俺の方だ。
「くっ……なんて罠を仕掛けてきやがるんだ。女子ってほんと怖い」
「どしたん浅間? さっきから腹でも痛いのか?」
「友人Aよ。もし俺が晒し上げられたとしても、骨くらいは拾ってくれよな」
「友人Aってひでえな……マジで何言ってるかわからんぞ」
とりあえず、ラブレターの呼び出しに「行かない」という選択肢はない。
あとはどれだけ傷を抑えられるか。そこんとこは俺の立ち回り次第、か。
「デジタルタトゥーを刻まれるのだけは勘弁してほしいなぁ……。さすがにリスクを考えられる奴なら必要以上に追い詰めてこないはず……たぶん」
「おーい、浅間? 本当に大丈夫かー? 保健室行くかー?」
俺は休み時間だけではなく、授業中でさえも嘘告された時のために、何通りものパターンを考えながらイメージトレーニングしたのだった。
◇ ◇ ◇
そして、憂鬱な放課後を迎えた。
いつもは解放感のある放課後が、こんなに重たい気持ちになるなんて初めてだ。
せめて嘘告だと知らなければ浮かれていられたのにな。……それはそれで後のショックがでかすぎるか。
チラッと陽キャグループに目を向ける。
俺を観察している様子はない。「これから嘘告されるとも知らずに浮かれちゃって……プークスクス」と嘲笑っている様子も、今のところは見られない。
耳を澄まして会話を聞いてみれば、男子連中は部活がどうとか言っているみたいだ。
そういえば陽キャグループの男子って、運動部に入っている奴らばっかだもんな。放課後になれば部活に行かなきゃならない。
つまり男子たちは、放課後の嘘告に関与しないのか?
いやいや、まだわからん。これは俺を油断させるための嘘情報かもしれん。実は今日の部活は休みだったという可能性もあるからな。
「……っ」
さらにチラチラっと観察を続けると、一部女子と目が合った気がした。
気のせい……だと信じたい。俺を見ていたと見せかけて、実はその先にいた奴を見ていたとかな。よくある勘違いだ。
だけど、俺を標的にしている以上、実行犯は女子だ。
てことは、やっぱり……。
「……」
俺は平常心を意識しながら教室を出た。
どうしよう……親友にでも相談するか?
いや、あいつが首を突っ込んできたら本当に裁判沙汰になりかねない。実行力が無駄にある奴だからな。
俺はただ、植物のような平穏な日々を送っていたいだけなのにっ。どうしてこうなった?
俺はどでかいため息をついて、校舎を歩き回った。
……すぐに待ち合わせ場所に行く勇気が出なかったんですよ! 心を落ち着かせる時間くらいくれよ!
心の中で知らない誰かに文句をぶつけていたら落ち着いてきた。
まあ物は考えようだ。嘘告だとしても「女子に告白された」という実績が開放されると思えば悪くはない。
「よし」
部活に行く人や帰宅する人の波が落ち着いてから、俺はついに屋上に続く階段へと足をかけたのだった。
これからどんな目に遭うのだろうか……。一応スマホで録画でもしておくか? ポケットに入れているから映像は撮れないだろうけど、音声は拾えるだろ。
「すー……はー……」
屋上のドアの前で深呼吸をする。
緊張がほぐれるなんてことはない。ただ受け入れるのみである。
「あっ……良かった。ちゃんと来てくれた……」
ドアを開けると、そこには透明感のある長い黒髪をなびかせる女子がいた。
一瞬、息が止まる。
できれば、この人だけは嘘告なんてしてほしくなかった。
屋上に一人たたずんでいる彼女は
アイドルにいてもおかしくないほどの美貌を持ち、清楚で品があり、男女を問わず誰もが憧れる美少女だ。もちろんスタイルも抜群である。
クラスの中心にいる人気者……そんな人がまさか、罰ゲームとはいえこんなことをするなんてな。
「えっと……待った?」
「う、ううん。今来たところ」
何これ? 初々しい男女の初デートのやり取り?
それはそれで立場が逆な気がしたが、そんなことはどうでもいい。
「あの、下駄箱にあった手紙を読んで来たんだけど……」
「それ……うん……私が、書いたの……」
榛名さんはチラチラと俺をうかがいながら、もじもじしているように見える。
まるで緊張しているかのようだ。真実を知っていなければ「恥じらっているんだな、可愛い」などと勘違いして、ときめいていただろう。
「何か、話があるんだろ?」
「……うん」
まさに、今から告白しますよ、という空気。
榛名さんは祈るみたいに目をつぶり、大きく深呼吸をした。
「浅間くん」
ゆっくりと目を開いた彼女の瞳は、吸い込まれそうなほどの強さを帯びていた。
気圧されたわけではないけど、声が出なかったので頷きで応じる。
一瞬の静寂の後、榛名さんは噛みしめるように言葉を紡いだ。
「私は、浅間くんのことが……好きです」
普段聞かない真剣なトーンだったからか、嘘だとわかっていても顔が熱くなる。
こうして、俺への嘘告が実行されてしまったのだった。