嘘告(※ガチ恋)されたので、ネタばらしまで学園一の美少女との恋人生活を満喫します! 作:みずがめ
榛名結衣はどんな女子だろうか?
そう尋ねられたとしたら、俺は「優しい人」と答えるだろう。
女子に話しかけることですら恥ずかしがってしまう照れ屋な俺にとって、どんな人でも分け隔てなく笑顔であいさつしてくれる榛名さんは、もうそれだけで良い人認定してしまう。
授業で困っていれば助けてくれるし、忘れ物をした時は別のクラスの奴に借りてきてくれる。
それを、俺が何も言わなくてもしてくれるのだから、優しい人の極致と言っても過言ではないだろう。
「て、手汗とか大丈夫かな? 私けっこう汗っかきかもしれなくて……」
「全然。むしろスベスベしていてずっと握っていたいくらい」
「そ、そう? 浅間くんの手も、ちょっとごつごつしていて……私、好きだな」
そんな優しい榛名さんと、こうして手を繋いで歩く日が来るとは思わなかった。
だが、俺に優しいということは、誰にだって優しいはずだ。俺が特別なわけじゃない。
こんないかにも黒髪が美しい清楚系美少女に優しくされたら、大抵の男子は恋に落ちてしまうだろう。
たぶん、俺もそういった男子だと思われている。榛名さんと手を繋いだだけで有頂天になって、発情した情けない姿を晒すと思われているに違いない。
そう考えるとムカムカしてきた。くそ~、舐めやがって。もし嘲笑われたら榛名さんの手汗をベロベロ舐めてやる。
「いきなり二人きりで帰ってもよかったの? ほら、榛名さんって友達がいっぱいいるから、その人たちと帰らなくていいのかなって」
罰ゲームを仕掛けたメンバーについて探りを入れてみながら、周囲を確認することも忘れない。
学校では誰もいないと思わせて、学外でカメラを向けてくるかもしれない。そのパターンを想定して、榛名さんと手を繋いでも顔が緩まないように表情筋に力を入れている。
「うん。今日はどんな結果になったとしても放っておいてねって言ってあるの。もし告白を断られていたら一人になりたかったし……」
榛名さんは俺にNOを突きつけられた想像をしたのか、少しだけ顔に陰を落とす。
けれど握った手に力を込めながら、顔を上げた彼女の顔は眩しいほど輝く笑顔になっていた。
「告白を受けてもらえたら……浅間くんとこうやって二人きりになれるからね」
「そ、そっか」
うおおっ! なんという笑顔の破壊力だ。綺麗な人は表情の一つ一つがこっちの心を揺さぶってくる。
まるで本当に喜んでいるかのよう。罰ゲームだと知らなかったら絶対に騙されていた自信がある。
「あっ、カフェがあるよ。……寄ってく?」
恥ずかしそうに、でもどこか期待したような表情でのお誘い。
「もちろん。行きたいのは俺の方だしな」
「わ、私の方が行きたかったと思ってるよ。ずっと、浅間くんと放課後デートできたらなって思ってたもん……」
え、何この可愛い対抗心。
演技だとわかっていても顔が熱くなる。くっ、収まれ心臓!
「な、何してるの?」
「はっ!?」
無意識に空いた手で胸をドンドンと叩いていた。心臓の鼓動を抑えようとしていたらこんなことに……まるでゴリラのドラミングじゃないか。
これは嘘告の仕掛け人たちもニッコリしていることだろう。「あいつ緊張しすぎて変になっちまったよ」と大爆笑しているに違いない。
俺は後ろを振り返って、笑っている奴がいないかを確認した。
だが、そんな奴はいなかった。行き交う人は案外無関心なもので、俺の奇行にも素通りしていく。
い、いやー、嘘告を仕掛けてきた連中を見つける良い作戦だと思ったんだけどなー。せ、せっかく羞恥心に耐えて、あえて奇行に走ったのになー。
「浅間くん大丈夫? もしかして胸が痛いの?」
榛名さんは心配そうに俺の胸を摩ってきた。
え、こんなボディタッチされてもいいんですか? ここまでの役得があるのなら、嘘告の仕掛け人なんか一生見つからない方がいいや。
「心配させてごめん。榛名さんとこうして恋人になれたことが信じられなくて……今が夢かどうか確認してた」
「そ、そうだったの? もー、ちゃんと現実だよ」
クスクスと笑う榛名さん。まるで彼氏に向ける笑顔だ。可愛い。
「それに、そういう時に夢じゃないかって確認する方法は──」
榛名さんは手を繋いでいる方とは反対の手を、俺の顔に伸ばしてきた。
その手は俺の頬を掴み……優しく、むにっとつねられた。
「──こうやって、頬をつねるんじゃなかったっけ?」
彼女の手の感触……痛みとは全く違ったぽわぽわした何かが、頬から全身に広がっていく。
「あ、あはは……触っちゃった……」
そして、はにかみながら照れる彼女の表情は、俺の記憶に深く刻まれたのだった。
◇ ◇ ◇
「はっ!? あ、あれ……ここは?」
「徹の部屋。はぁ……やっと意識を取り戻してくれたよ」
気づけば俺の部屋にいて、いつも通り親友がそこにいた。
さっきまで榛名さんと手を繋いで、カフェに寄って……あれ、記憶が曖昧だ。
もしかして時間を飛ばされたのか? いや……ただの夢だったのか。
そ、そうだよな。嘘告とはいえ、あんなことまでするはずないし……。
そこまで考えると、頬に榛名さんの手の感触が蘇ってきた。
「なあ親友。これって夢じゃないよな?」
「これが何を指して言っているのかわからないけど、今は夢を見ているわけじゃないのは確かだね」
「そ、そっか」
「確証が持てないのなら、ほっぺでもつねってあげようか?」
「だ、ダメだ! 感触が上書きされたらどうしてくれる!」
「はあ? 感触?」
めちゃくちゃ怪訝そうな目を向けられてしまった。
「まあいいか。徹がおかしくなることは珍しいわけじゃないし」
「オイ親友。何気に酷い言いようだな」
「それと、その『親友』って呼び方はもういいよ。罰ゲームも飽きたから」
(そうか? 俺はむしろ気に入ってきたところだったんだがな)
「徹の感性っておかしいよね」
そう言って親友こと、
千鶴とは幼稚園の頃からの親友である。
髪が短めな割に寝癖がつきがちで、赤縁眼鏡がトレードマークの、一応女子だ。まあ付き合いが長すぎてお互い家族みたいなもんだと思っている。
ダウナー系というか、いつもだるそうでやる気なさげに見える。一見そう思えるってだけで、けっこう感情豊かな奴である。
そんな千鶴にゲームに負けた罰ゲームで「親友」と呼んでいたのだが、本人も気に入ったのか反応がいいもんだから俺も楽しくなっていたんだけどな。反応がいいって言っても、ほとんどの奴が気づかない程度の変化だけど。
「まあ丁度いいか。別の罰ゲームの標的にもなったわけだしな」
「は? どういうこと?」
「あ」
口を滑らせてしまった……。
「罰ゲームの標的? 徹が? 誰に? ……詳しく聞かせて」
「え、えーっと……そのー……」
「早く吐け」
眼鏡越しの眼力が強すぎる。いっつも眠たそうな目をしてるくせにっ。
「じ、実は、ですね……」
俺は千鶴の迫力に負けて、榛名さんにされた嘘告について話したのだった。