嘘告(※ガチ恋)されたので、ネタばらしまで学園一の美少女との恋人生活を満喫します! 作:みずがめ
「榛名さんって、徹と同じ六組の榛名結衣だよね? ふーん……嘘告とか、そういうことするタイプの人だとは思わなかったな」
榛名さんにされた嘘告について正直に話すと、千鶴は若干信じられないといった様子を見せた。
同じクラスになったことのない千鶴でもこの評価なのだ。榛名さんの優しさオーラは、きっと遠くからでも感じ取れるに違いない。
「たぶん、みんなに『罰ゲーム』だからって言われて断れなかったんだろうよ。そういう空気に逆らうのって難しいからな」
「空気を読まない人がよく言うよ」
「俺って空気が読めない痛い奴扱いなの!?」
親友にそんな風に思われていたなんてショックなんですけど……俺みたいに大人しい奴がどれだけ周囲に気を配っているか知らないのか。
「徹は空気が読めないんじゃなくて、読まないの。あえて無視するでしょ」
「それってそんなに違いがあるか? どっちにしてもめんどくさい奴じゃん」
「そ。徹はめんどくさい奴なの」
なぜか今日一嬉しそうに笑う千鶴だった。俺がめんどくさい奴なのがそんなにも面白いか?
「……さてと。問題は、この嘘告を仕掛けた連中にどう落とし前をつけるかということ」
千鶴はさっきまでの緩い雰囲気を引っ込めて、凍てつくような声でそんなことを言った。
昨日、嘘告動画を観ていた時のことを思い出す。
千鶴に任せていたら大変なことになりそうだ。先生にチクるだけでも話が大きくなりそうなのに、放っておいたら訴えていたなんてことにもなりかねない。
ついこの間読んだラノベの某ラブコメ作品を思い出す。主人公をバカにしていたいけ好かないヘイト役が、様々な罪が暴かれて落ちぶれていくという展開だった。
読んでいてスカッとしたものだったが、目の前の現実として似たようなことが起ころうというのなら話は別だ。
たとえ榛名さんをはじめとした陽キャグループが悪かったとしても、停学や退学にでもなれば俺の心が持たない。逆に良心の呵責に苛まれそうだ。
「まあ落ち着け千鶴」
「徹は当事者なのに落ち着きすぎだぞ」
オイオイ、怒りが隠し切れてないぞ。
まあ気持ちはわからんでもない。これが逆の立場なら、千鶴に嘘告なんて仕掛けやがった胸糞な連中を許せそうにないからな。
「今のところ、これといった被害は出ていない。様子見をするのも手だと思うんだ」
「つまり、榛名結衣とまだまだ疑似恋愛を続けていたいと?」
「言い方……って、間違ってはないか」
客観的に考えて、俺が美人で人気者の榛名さんと釣り合うわけがない。
嘘告動画でも「私とあなたが釣り合ってるかどうか、少しでも考えればわかるでしょ?」なんて言って笑っていたな。状況的に俺が言われかねないので笑えない。
ただ、こんな悪戯でも仕掛けられない限り、確かに俺と榛名さんが付き合うなんてあり得なかった。
たとえ辛い思いをするとわかっていても、夢を見ていたいものだ。それが男という悲しい生き物である。
「はぁ~……徹って欲望に忠実だね。偽物の関係とわかっていても恋人が欲しかったなんて意外だよ」
心底呆れたようなため息が俺の部屋に響く。バカでかいため息が心に突き刺さるぜ。
「でも確かにそうだね。仕掛けてきたのは向こうなんだ。それなら徹もいい思いをしないと釣り合わない」
「俺の気持ちをわかってくれるのか?」
「うん。せっかくだから榛名さんのおっぱいでも揉んでみれば?」
「セクハラ!? いくらなんでもやりすぎだろ! こっちが逆に訴えられるわ!」
なんで女子のくせに男子の俺以上にセクハラ発言かましてんだよ! しかも表情が全然変わってないし。セクハラ発言するなら、せめて恥ずかしそうにしてくれよ。
「構わないって。だって彼氏なんだから、彼女のおっぱいくらい揉み放題できるでしょ。恋人になる目的なんて、エロいことする以外の理由がないんだし」
「千鶴の恋人に対する認識が歪みすぎて怖い……」
もしかしてこれまで身近にいたカップルをそういう目で見ていたのか?
現代の闇がここにもあったとは……。親友として、俺がしっかり教育しなければ。そう心に誓ったのだった。
「それはそうと、徹の考えはわかった。嘘告をネタばらしされるまでは美味しい思いをしようってことだね」
「へへっ、まあな」
「そこ照れるところじゃないから。そしてボクの考えは、徹が傷つけられるのは絶対に嫌ってこと。それもわかってほしい」
「別に最初から嘘告だとわかっていればダメージは少ないと思うけどな」
あの優しい榛名さんがいきなり豹変して、普段は想像できないような醜悪な顔で「これまでの恋人ごっこは楽しかった? プークスクス」なんて風に俺を嘲笑ったら、心にどれほどのダメージを負うかわからないが。
千鶴は眼鏡をくいっと持ち上げて、俺を真っ直ぐ見つめる。
「というわけで明日なんだけど、徹と榛名さんが一緒にいるところをボクがこっそりと観察するよ。運が良ければ、この嘘告を仕掛けてきた連中を見つけ出せるかもしれない」
「なるほど」
それはありがたい提案だ。
今日の放課後デートでは、覗き見しているであろう連中を見つけられなかった。
榛名さんに意識を持って行かれるせいで、周りを上手く確認できていないのかもしれない。これも一種のカモフラージュなのだとすれば、この嘘告を提案した奴は賢いぜ。
その点、千鶴が外から見てくれれば、感情を揺さぶられることなく周囲を観察してくれるだろう。
「徹もそれでいいよね?」
「異論はない」
「だけど、もし徹に対する悪戯が度を越していれば……ボクは榛名結衣を含めた、嘘告を仕掛けてきた奴らを、容赦なく潰すからね」
千鶴の目が座っていた。冗談の一切がなく、本気の目をしていた。
「その時は頼むわ。もしそうなったら、俺も千鶴を泣かせない程度には抵抗してみるよ」
「……誰も泣くとは言ってない」
「言葉の綾だって。とにかく一方的にやられないから安心してくれ」
頼りない抵抗でも、しないよりはマシだろう。
「それならいい。じゃあそういうことで」
「おう」
話が済んだので、俺たちはいつものだらけた雰囲気に戻った。
俺の隣で、千鶴はラノベを読んでいる。
(ちょっと軽く考えすぎだったな……)
嘘告の相手が榛名さんというのもあって楽観視していた。彼女ならネタばらししたとしても「ごめんね、告白は嘘だったの♡」と、軽い感じで白状すると勝手に思っていた。
しかし千鶴が心配するように、トラウマを植えつけるレベルで傷つけられるかもしれないのだ。我ながら迂闊すぎた。
(まっ、後は野となれ山となれってな。どうせすぐに結果が出るだろうし)
早ければ明日にでもネタばらしされるだろう。俺は心を強く持って、明日を迎えようと決めた。
◇ ◇ ◇
晩飯の時間になったので、千鶴が「そろそろ家に帰るよ」と言って立ち上がった。
千鶴を見送ろうと、一緒に階段を下りて玄関へと向かう。
「あっ、
「あっ……ち、千鶴ちゃん……」
階段を下りたところで、双子の弟の湊と出くわした。
丁度帰ってきたらしい。こんな遅くまでお疲れ様です。
「そしてさようならー」
「こ、こんばんは……あっと……さ、さよなら」
千鶴は湊の横を素通りして、手を振りながら玄関を出た。
「鍵魔法発動! うんたらかんたら……即興で詠唱とか思いつかないや」
千鶴を見送ってから玄関の鍵を閉める。
振り返ると、湊がぼーっとした様子で玄関のドアを見つめていた。
「湊、何見てんだ?」
ファンタジーラノベに影響されて呪文を唱えていた兄に呆れていた……というわけではないと信じたい。
「な、なんでもないっ!」
俺の声ではっと我に返った湊は、慌てて二階へと上がっていった。
「……なんだ?」
たまにおかしくなる奴だ。弟だから許すけど。
俺は一旦嘘告のことを忘れて、美味しい晩飯にありつくのだった。