嘘告(※ガチ恋)されたので、ネタばらしまで学園一の美少女との恋人生活を満喫します! 作:みずがめ
榛名さんに嘘告された次の日。
「おはよう、浅間くん……」
いつも通り登校し、教室で自分の席に座っていると榛名さんにあいさつをされた。
これはそこまで珍しくない。誰にでも優しい榛名さんは、男女問わずあいさつを交わしているからだ。
清楚な黒髪の乙女でありながら、人懐っこい印象があるのは、そういった彼女のコミュ力の高さからだろう。
「おはよう、榛名さん」
「えへへ……なんか、緊張しちゃうね」
はにかむ榛名さんはいじらし可愛かった。美人で可愛いってずるくないか?
だが、この表情や態度が全て嘘なのだ。女とは恐ろしい生き物である。
「俺も緊張しっぱなしだ。未だに実感がないんだからさ。昨日のことは夢とか、ましてや嘘……なんかじゃないよね?」
初心な男子の態度を心がけながら、軽いジャブを打ってみる。
ここで軽い調子で「うん、嘘だよ♡」とネタばらししてくれれば、まだショックは少ないだろう。
教室という場所なのは悪いものの、今なら俺と榛名さんが付き合っているとクラスメイトに認知されていない。その状態でネタばらしされたところで、周りも大した反応ができないはずだ。
「うん……本当、だよ……。昨日の告白が……私の気持ち、です……」
榛名さんは教室の喧騒に消えてしまいそうな小さな声量で、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頷いた。
なるほど……すぐにネタばらしするパターンではないと。
嘘告で泳がせるにしても、いくつかパターンがあるらしいと動画で知った。
早ければ次の日、遅ければ一週間ほどは泳がされるようだ。最悪だと、その間も動画を撮られていたりする。
もちろん日数がかさむほど騙された人のダメージは大きい。それだけ幸福と絶望の落差が大きくなるということだからな。
単純接触効果だっけ? 繰り返し接触するほど好きになってしまうってやつ。それを狙って、俺をもっと好きにさせようって魂胆か。
(……てことは、榛名さんが俺をもっと好きにさせようと、アプローチしてくれるってことか?)
なるほど。それは悪くない話だ。
だって相手はあの榛名結衣。ラノベのヒロインとして登場してもおかしくないほどの美少女である。
教室に差し込む朝の陽光に照らされて、榛名さんの美しい黒髪がきらめいている。白い肌も輝かんばかりで、だからこそ頬や耳の赤さが人間味があって愛らしい。
端正な顔立ちは誰もが美少女と認めるほど。それでいて大きくてくっきりとした目は彼女の感情を表しており、近寄りがたいどころか愛嬌と親しみを感じさせるほどだ。
そして、思わず胸の膨らみに目を向けてしまう……。
制服越しでもわかってしまうほどの大きさ……それでいて腰はしっかりとくびれている。
脚も綺麗だし、スタイルの良さが破壊的だ。主にいたいけな男子の理性が破壊されるという意味で。
『せっかくだから榛名さんのおっぱいでも揉んでみれば?』
「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーっ!!」
「ちょっ、あ、浅間くん!?」
俺はものすごい勢いで机に頭を打ちつけた。
千鶴が昨日あんなこと言うから……俺の男の子の部分が、危うく反応しそうになったじゃないかっ!
額の痛みのおかげで理性を取り戻せた。そうだ、人間は理性の生き物……俺は人間だ。
「いきなりどうしたの? おでこ腫れてない? だ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。みんなも気にしないでくれい」
大きな音を立ててしまったせいで教室中の注目を浴びてしまった。しかし大したことではないと判断されたのか、クラスメイトたちは朝のおしゃべりへと戻っていった。……も、もう少しくらいは心配してもいいのよ?
まだ嘘告のネタばらしをされていないのに恥ずかしい思いをしてしまった……。ああ、穴があったら入りたい……。
顔を覆いたい気持ちになっている俺の額に、そっと温かく柔らかい感触がした。
「やっぱりちょっと腫れてるよ。保健室に行こ?」
気づけば、榛名さんが俺の額を優しく撫でていた。
「~~っ!?」
か、顔が近い!? ていうか手が……榛名さんの手が俺のおでこにっ!?
「は、はい……」
俺は榛名さんに促されるまま立ち上がった。
そして保健室へと連れて行かれる。腕を取られてしまったためか、距離が近い……。
「どうしてあんなことをしたの?」
「え?」
保健室に向かう道中、榛名さんが心配そうに尋ねてきた。
「ほら、机に頭をぶつけてたから」
冷静に思い返してみれば、かなりの奇行だった。
下手をすれば嘘告のネタばらしをされてショックを受けた反応をするよりも恥ずかしいことをしてしまった気がする……。これが異性に狂わされるということなのか。
「いやー……榛名さんと恋人になったのが夢じゃないのかって。確認してた……みたいな」
「もーっ。夢じゃないって昨日も言ったでしょ」
「す、すんません」
普通に怒られてしまった。怒られたっていうか叱られたみたいな……ちょっとお母さん味を感じる。
俺の腕を取っていた榛名さんの手が離れて、手を繋いできた。
突然のことで反応できなかった。昨日も手を繋いだはずなのに、胸のドキドキは収まる様子がない。
「私は浅間くんが好き……私の気持ちを信じてほしいな。これは夢なんかじゃなくて、現実で、本当のことだよ」
「わ、わかった」
学校の廊下で「好き」と言われてしまった……この廊下を通る度に榛名さんの声で「好き」って言葉がリフレインするかも。
彼女の言葉を聞いている人はいなかったようで、動揺したのは俺だけだった。
大丈夫だ、落ち着け。これも俺をもっと好きにさせようという作戦なのだろう。
「今日ね、浅間くんにお弁当を作ってきたんだよ」
「え?」
あの、もう少し落ち着く時間をもらえませんかね?
「ほら、浅間くん言っていたでしょ? 私にお弁当を作ってほしいって」
「あー……」
付き合ったら何ができるかと確認している時に、そんなことも言った気がする。
「だからね、昼休みは一緒にお弁当を食べようね」
榛名さんの華やいだ笑顔が、至近距離で放たれた。
まさかそこまでしてくれるとは……。笑顔が少し引きつる。
手を繋いで、放課後デートしてくれて驚いたが、やってくれたとしてもそこまでだろうとも思っていた。
嘘告ということを考えれば、榛名さんだって極力手間暇をかけることはしたくないはずだ。
ちょっと手を繋いで一緒に帰るならまだしも、お弁当作りはめんどくさすぎないか?
いや、そうか。昨日の晩飯の残り物を詰めたんだな。
それならあまり手間もかからないだろう。むしろ「この人気者で可愛い榛名様のお弁当なら、たとえご飯に梅干しを乗せただけでも最高級のディナーと錯覚するに違いないわ!」と、舐められているに決まっている。
俺の中の悪女が高笑いをする。それを榛名さんに当てはめて想像すると、全然似合っていないんだけども。
「うん、ありがとう。昼休みが楽しみだなぁ」
俺は笑顔を作り直して、彼女に頷いてみせた。
大丈夫だ。俺はほだされたりなんかしない。
それに、これはチャンスだ。
彼女の手作りお弁当を一緒に食べるイベントなんて、俺みたいな女子と縁のなさそうな男子なら、バカみたいに喜ぶと思われていることだろう。
嘘告を仕掛けた連中が特に見たい場面のはずだ。浮かれている俺を見て、嘲笑いたいに決まっている。
(千鶴だって、一番監視し甲斐がある場面だよな)
榛名さんに連れて行かれた保健室で、治療を受けた俺は千鶴にメッセージを送ったのだった。