嘘告(※ガチ恋)されたので、ネタばらしまで学園一の美少女との恋人生活を満喫します! 作:みずがめ
俺をはめるためだとわかっていても、女子の手作り弁当を食べられると思うだけで、午前中ずっとドキドキしっぱなしだった。
美少女と昼食を共にでき、しかもお弁当まで作ってもらえるとは……役得にもほどがある。
嘘告の仕掛け人たちに笑われていたとしても、全然おつりがくる。この調子なら、ラブコメのカップル定番イベントである「あーん♡」を要求したって、快く応じてくれるんじゃないだろうか。
四時間目の終了を告げるチャイムが鳴り、ついにその時がきた。
「浅間くん、行こっか」
「お、おう」
榛名さんはお弁当箱の包みを二つ持って、真っ直ぐ俺の席に来た。
そんな彼女に気づいたクラスメイトがざわりと色めき立つ。特に俺の友達は目をかっ開く勢いで驚いていた。
恋人関係が本物であれば、むしろ自慢したい場面なのだが、悲しいことにこれは罰ゲームの関係だ。後で辛いとわかっているので、できるだけ隠していきたい。
そそくさと教室を出る前に、いつも榛名さんと昼食を一緒にしている人たちに目を向ける。
(普通に考えれば、嘘告の仕掛け人はこいつらだよな……)
榛名さんを始めとした、クラス内でも外見、内面ともにキラキラしていて目立つ男女混合グループ。
いつも賑やかで、陽キャのノリを同じ教室にいるだけで感じる。別に悪い奴らだと思ったことはなかったが、もし今回の嘘告を罰ゲームと軽く考えているのだとすれば、ちょっと見方が変わってくる。
「結衣、頑張ってね」
そのグループの女子の一人が、榛名さんに手を振りながら小さく言葉をかける。
「頑張ってね」って……デレデレした俺の情けない表情を引き出すのを頑張れってことか?
榛名さんグループの全員が微笑んでいた。やたらと目が優しいような……いや、可哀想なものを見る目なのか?
後で酷い目に遭わされるとも知らずに……みたいに思われているのか? 同情するなら人を笑い者にするなよ。
そういえば、午前中の休み時間は榛名さんたちがやたらと盛り上がっていたな……特に女子。
浮かれて舞い上がっている俺の様子を報告して、みんなで「計画通り」とほくそ笑んでいたかもしれない。
「お昼は中庭のベンチでもいい?」
「うん、いいよ」
まあ、浮かれて舞い上がっているのは事実だけど。
俺は廊下を歩きながら千鶴にメッセージを送った。
それはそれとして、こっちも手を打たせてもらう。こういう時に信頼できるのは親友だけだ。
「あーっ、歩きスマホはいけないんだよ」
「ごめんごめん」
「本当に危ないんだからね。浅間くんが怪我したら大変でしょう?」
「……ごめんなさい」
思いのほかガチトーンで注意されてしまったので、素直に反省するしかなかった。
そんなわけで中庭に到着。いくつかのベンチが設置されており、日向と日陰のどちらも選べる親切設計である。
「浅間くん、どこに座る?」
「じゃあ、あの日陰のベンチで」
日差しがきついわけではなかったが、日陰のベンチの方が校舎から見られる可能性を減らせる。
食堂や教室で食べる生徒が多いのか、思っていたよりも中庭にいる人は少なかった。ただし、カップルの比率は高めだった。
榛名さんと一緒にベンチに座る。
……二人きりだ。
昨日も二人きりで放課後一緒に帰ったが、あの時は人の目がなかった。
今日は学校の中庭のベンチだ。男女二人きりでいれば、どうしたってカップルに見える。
それに榛名さんは人気者の美少女だ。そんな目立つ彼女がいれば、注目されることは必然……なんだか視線が痛い気がする。
「はい。これが浅間くんの分のお弁当だよ」
「あ、ありがとう……」
手渡しされたお弁当を凝視する。憧れていた彼女の手作りお弁当……ヤバイ、嘘だとわかっていても嬉しい。
「あ、開けてみて」
なぜか榛名さんも緊張しているように見える。
そっぽを向きたいのか、でも俺の反応も気になるのか、目線があっちを向いたりこっちを向いたりと忙しなかった。
これは、弁当の中身を見た俺がどんな反応をするのか期待しているのか?
嘘の関係とはいえ、せっかくお弁当を用意してくれたのだ。たとえ白米と梅干しだけだったとしても、感謝を込めて喜んだリアクションくらい提供してあげよう。
「おおっ……」
弁当箱の蓋を開けると、素で驚いてしまった。
男子が喜ぶ一口サイズのハンバーグに、肉巻き野菜。卵焼きに、ミニトマトやブロッコリーで彩りも豊かにしている。タコさんウインナーなんて手間暇かかるんじゃないの?
白米にふりかけがかかっていた。梅干しはどこにもない。俺が想像していたお弁当とは、良い意味で違いすぎていた。
「浅間くんの食べ物の好き嫌いを聞いてなくて……どうかな? 嫌いなものとかない?」
「いいや、全然。食べられないものなんて全くないよ。榛名さんが作ってくれたものなら、たとえ梅干しだけだったとしても美味しく食べるよ」
「さすがに漬物は作ったことないよー」
榛名さんはおかしそうにクスクスと笑う。
俺は本気で感動していた。まさか本当に榛名さんが手作りしてくれたのか?
「こんなにもおかずがあって嬉しいんだけど、作るの大変だったんじゃないか?」
「えへへ。久しぶりに早起きしちゃった。ちょっと大変だったけれど……浅間くんに喜んでもらえると思うと全然苦じゃなかったよ」
何この子、彼女の鑑すぎない?
いくらなんでもいい子すぎないか?
罰ゲームでここまでするとは……むしろここまでしなきゃいけない榛名さんの方が大変に思えてきたぞ。もうどっちが被害者かわかんねえな。
「ほら、食べて食べて。浅間くんの口に合うと嬉しいな」
「では、いただきます」
初めての彼女の(嘘)手作り弁当に箸を伸ばす。
ハンバーグを口に放り込むと、じゅわりとジューシーな味わいが広がった。
冷めていても美味しい。弁当のハンバーグなんて似たり寄ったりだと思っていたけど、これは手が込んでいるんじゃないかって伝わってくるほどの味だ。
「めちゃくちゃ美味しい……」
「本当? ふふっ、お口に合ったのならよかった」
はっ!? あまりの美味しさに正直な感想が漏れてしまっていた。
榛名さんの手作り弁当に浸るのはいいが、冷静にならなくては。デレデレした情けない顔をしていると、動画に残ってしまうと心得よ!
クールな自分を取り戻すために、今度はブロッコリーに箸を伸ばした。
これなら手を加えようがないだろう。たぶん冷凍のブロッコリーを電子レンジでチンして温めただけのはず……。
「うっまー! ブロッコリーに味付けしてる?」
「コンソメで茹でてみました。こういうの男の子が好きかなと思って」
榛名さんが嬉しそうに胸を張る。彼女のその反応を見れば、手作り弁当であることは疑いようがなかった。
野菜嫌いというわけではないが、ブロッコリーを美味しいと思ったのは初めてだ。
他のおかずも、俺の想像をことごとく超えていく。
料理に手抜きが一切感じられない。箸が止まらないほどの美味さだ。
「あ、あの……浅間くん」
「ん?」
「実は私、やってみたかったことがあるんだけど……いいかな?」
こんなにも美味しい弁当を作ってもらっておいて、彼女の頼みを断れるはずがない。
なんだろう? パシリにでもされるのかな? こんなにいい思いができたのだから全然かまわないけど。
「もちろん。榛名さんがしたいことは、俺が全部受け入れるよ」
快く頷くと、彼女に箸を取られてしまった。
それを疑問に思う前に、榛名さんは俺が手にしている弁当から卵焼きを取ると、俺の口元に差し出してきた。
「あ、あーん……」
え? お? あ?
「あ、あーん……」
パカっと口を開けると、卵焼きが口の中へ放り込まれた。
なぜだろう……卵焼きとは違った、別の甘さを感じる……。
「甘い……」
「え、甘すぎたかな?」
「あ、いや! 美味しすぎて脳がとろけちゃいそうになっただけ!」
「ふふっ。そうなんだ。浅間くんって面白い言い方するんだね」
上品に笑う榛名さん。女神かな?
「私ね、こういうことしてみたかったんだ……。好きな人に『あーん』をするの、実は憧れていたんだよね……ふふっ、浅間くんのおかげで夢が叶っちゃった」
え? 俺榛名さんの夢叶えちゃいました?
って、さっきからいい加減にしろ! いくらなんでも可愛すぎるだろ!
ダメだ……顔を緩ませちゃいけないってわかっているのに、ニヤニヤするのを止められない。
「浅間くん……もう少しだけ『あーん』してもいい?」
榛名さんもそれを察知したのか、いじらしくうかがうような目で、強烈な一撃を繰り出してきた。
息つく間がない激しい攻撃だ。こんなことお願いされたら、俺はもう……っ!
「ああ、もちろんだ。榛名さんが満足するまで食べさせてもらうよ」
俺は無意識にキメ顔を作り、イケメンボイスを意識した声で頷いていた。
「本当? 嬉しい♡」
榛名さんの花が咲いたような笑顔の攻撃! 効果は抜群だ! 浅間徹は死んだ……。
これはアカン……嘘告ドッキリ動画を撮影されているかもしれないのに……口元が緩むのを止められないよ~~っ!
俺はもうバカップルをバカにできる立場ではないのだと、そう思い知った昼休みの時間だった。