『宇宙世紀の拾い屋、未来のジャンクを解体する』 作:AI小説練習中
「……また爆発させやがった、あのアムロの野郎」
サイド7の第1ブロック、農耕区画を見下ろす物陰で、ダグは双眼鏡を握りしめながら盛大に舌を打った。
遠くで巻き起こる黒煙と炎。耳をつんざくような重低音が、人工大気を激しく震わせている。
前世の記憶――いや、『機動戦士ガンダム』という物語の知識を持つダグにとって、いま目の前で起きている惨劇は、あまりにも見覚えのある「第1話」の光景だった。
ジオン軍のザクⅡがコロニー内部に侵入し、民間人の少年が白いモビルスーツ――RX-78-2 ガンダムに乗り込む。そして、コクピットに乗ったままのザクのジェネレーターをビーム・サーベルで貫き、コロニー外壁に穴を空ける大爆発を起こすのだ。
「知識としては知ってたがよ……生で見る爆発音は心臓に悪いぜ、まったく」
ダグは深呼吸をし、薄汚れた作業着の袖で汗をぬぐった。
彼がこの世界に転生して三十年余り。サイド7の片隅で小さなジャンク屋「ダグ商会」を営みながら、彼は常に心に決めていたことがある。
ホワイトベースには絶対に近づかない。
ニュータイプ同士のドロドロした愛憎劇に関わらない。
ただモビルスーツのスクラップを拾い、平穏無事な老後を迎える。
それが、ガンダムオタクだった男が選び取った「完璧な生存戦略」のはずだった。
だが――。
「……待てよ」
ダグは双眼鏡の倍率を最大まで上げた。
煙が風に流され、足元に転がっている「もう一機のザク」の姿が露わになる。
デニム伍長のザクが爆発散華した一方で、直前にアムロのバルカンとビーム・サーベルによって頭部と腕部を破壊され、沈黙したジーンのザクⅡ。
その残骸は、爆心地から少し離れた区画に、ほとんど手つかずの状態で横たわっていた。
「……右腕のF型標準マニピュレーター、無傷じゃねえか。脚部の駆動系アクチュエーターも活きてる。それに……あのザク、型番からして最新の120mmドラムマガジンを二個も腰にマウントしたままだぞ」
ゴクリ、と喉が鳴った。
連邦軍の軍警はパニック状態でホワイトベースへの避難を開始している。ジオン軍の補給艦ファルメルはコロニー外で待機中。いま、あのアムロ・レイが放心状態でガンダムのコクピットに座り込んでいるであろう「空白の三十分間」――。
コロニー内部は、文字通りの無政府状態だ。
「……いかん。危険だ。関わるなダグ。これだからオタクの知識はロクなことにならないんだ」
自分に言い聞かせるように呟く。だが、脚はすでに動いていた。
ダグは背後に停めてあった大型の3軸作業用トレーラー『トータス号』のシートに飛び乗ると、セルモーターを勢いよく回した。
「クソッ、ジャンク屋の本能には勝てねえ……! あんな宝の山を放置して逃げたら、死んだ後で全国のモビルスーツ開発者に化けて出られるわ!」
激しい燃焼臭と、溶けた装甲材のツンとした化学臭が漂う現場は、まさに地獄絵図だった。
だがダグにとって、そこは「未開拓の鉱山」に他ならなかった。
トレーラーから飛び降りたダグは、防塵マスクを装着すると、迷うことなくジーン機の残骸へと駆け寄る。
「よし、ジェネレーターは無事だ。核融合炉の緊急停止シーケンスが作動してる……ジオンのメカニックもいい仕事するじゃねえか」
胸のパーツをこじ開け、慣れた手つきでメインコンソールへアクセスする。
狙いはパーツだけではない。ダグが最も欲しかったのは「データ」だ。
「あった……! ジオン軍の標準通信暗号コードと、サイド7侵入時の索敵ログデータ……!」
前世の知識があるとはいえ、現場の「生の情報」に優るものはない。このデータを闇市に流せば、それだけで一年は遊んで暮らせる価値がある。ダグは携帯型メモリドライブを接続し、高速でデータを吸い上げた。
『――おい! そこで何をしている!!』
突如、物陰から野太い声が響いた。
ダグが跳ね起きると、崩れたガレキの陰から、連邦軍の制服を着た男が拳銃を構えて姿を現した。左腕から血を流し、青ざめた顔をした少尉階級の男だ。避難し遅れた連邦のメカニックらしい。
「民間人か!? コロニー外壁が損壊している! すぐに避難作業に……」
「連邦の旦那、シビリアン・ミリタリーのジャンク回収規約第4条を知らんのか?」
ダグは手を挙げつつ、呆れたようにため息をついた。
「『戦時下において軍が放棄した兵器残骸は、二次被害防止および公衆衛生上の理由により、民間業者の即時回収・撤去が認められる』。あんたらの隊長機が爆発して穴が空いたんだ、いつ減圧が始まるか分からん。俺は危険物を撤去してやってるんだよ」
「な、なんだと……!? だがそれはジオンの兵器だぞ!」
「放置して誘爆したら、あんたらが守るはずだった民間人が吹き飛ぶんだよ! ほら、文句があるならこれを持って失せな!」
ダグは腰のホルダーから応急手当用のナノスプレーと、トレーラーの助手席から引っ張り出した高濃度酸素缶を投げてやった。
連邦の士官は慌ててそれを受け取ると、呆然とダグとザクの残骸を見比べた。
「……あんた、死にたくないなら右のブロックへ行くなよ。あっちにはジオンの補給部隊の残骸がある。連邦のホワイトなんとかって秘密戦艦が、じきに大暴れして全部焼き払うはずだ」
「なぜそれを……!?」
「ジャンク屋のカンだよ!」
ダグは士官を無視し、トレーラーの油圧クレーンを操作してザクの右腕と120mmザク・マシンガンを豪快に荷台へ釣り上げた。金属同士がぶつかり合い、重厚な破壊音が響く。
「よし、上物だ……! これだけの高純度超硬スチール合金があれば、俺の作業用MSのフレーム補強ができる!」
数十分後。
サイド7の宇宙港は、退避する民間人とホワイトベースへの物資搬入でごった返していた。
その喧騒から遠く離れた、コロニー底部の地下廃棄区画。ダグの隠れ家であるドックに、エンジン音を響かせて『トータス号』が滑り込んだ。
荷台に鎮座する、ジオンの緑色の装甲パーツ。
ダグは防塵マスクを外し、冷えた合成ビール缶のタブを引いた。喉を鳴らして飲み干すと、生き返ったような吐息をつく。
「はぁーっ……危ねえ橋を渡っちまった。だが、これで勝つる」
ドックの奥には、彼が数年かけて集めたジャンクの山と、建造途中の「一機のモビルスーツ」が聳え立っていた。
旧ザクの胴体に、連邦の作業用プチモビルスーツの全周囲モニターを無理やり移植し、キャタピラ脚を履かせた異形の機体。ダグが「デッドストック」と名付けた愛機だ。
「デニムとジーンがやられたってことは、次は少佐――シャア・アズナブルが直々に乗り込んでくる。その次はガルマ・ザビだ」
ダグは暗闇の中でデータ端末を開き、吸い上げたジオンの通信ログを眺めた。
原作の知識と、いま手に入れたリアルタイムの情報。
二つの「未来」を照らし合わせれば、これから地球圏でどこが激戦区になり、どこに「極上のスクラップ」が転がることになるか、完璧に予測できる。
「ホワイトベースの後を追いかける気はない。だが……奴らが駆け抜けた後の焼け野原には、誰も手をつけていない宝の山が残る」
ダグはニヤリと口角を上げた。
「ガンダムよ、せいぜい派手に暴れてくれ。お前が壊した歴史の屑は、この俺が全部高値で買い取ってやるからよ」
宇宙世紀0079年9月18日。
木馬が宇宙へ飛び立つ裏側で、一人のジャンク屋が歴史の隙間に足を踏み入れた。