群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬を布教したい! 作:利根きぬ
「私、敷島榛名(しきしまはるな)は、群馬県の神さまだよっ!」
春風がそよそよと流れ込む新学期の教室。
みんなが苦笑いしている。
「ええと…… 神さまというのは?」
新しい担任の先生、信越倉子(しんえつくらこ)は怪訝そうに尋ねた。
「文字通りっ! 群馬県を司る神さまですっ!」
「質問が悪かったわ…… 具体的には何を?」
「群馬を知らぬ若造に、徹底的な布教活動をしておりますっ!」
「そ、そうなのね…… では次の人……」
あれ? もう私の番終わり?
ま、仕方ないよね。私の可愛さに圧倒されちゃったかな? ふふっ、
これは、私の幸せな高校時代の物語だよ。
数日後、黒磯福真(くろいそふくま)は、幼馴染の男の子と、教室で弁当を食べていた。
「ねえ、あの女神様、どう思う?」
卵焼きを飲み込んだ幼馴染、北茨大津(きたいばおおつ)は俺に問いかける。
「えっ、め、女神様っ⁉︎ それがどうしたっ」
俺は、慌てて返した。
「…… いや、ただ気になって何気なく聞いただけだよ……」
「あ、そう、そうか。いや別に俺も全然意識してない人について聞かれたから少し驚いただけで決して……」
「なんでそんな早口なの…… 黒磯、女神様好きだったの?」
「うっ……」
言えない。新学期始まってすぐ、女神様のキラキラした目と麗らかな桔梗色の髪。優しく元気な口調に一目惚れしてしまったなど。
「わかったよ、大丈夫。言わないからね。でも、彼女…… 難しいよね……」
もう、お見通しなんだろう。幼稚園からの付き合いだからな。お互いの恋心などすぐバレる。
「…… ああ…… わかる」
そう。彼女の恋人は群馬県なのだ。
新学期始まって、彼女には何人かの友達が出来ていた。楽しそうに話してはいる。
でも、群馬県について聞かれた途端、頬を赤らめてもじもじしながら惚気話を始める。
だから、彼女は群馬県の恋人なのだ。
「そもそも、神さまってなんなんだろう……」
北茨は弁当を完食し、レジ袋にしまう。
「わかる。それすら不明だよな」
そう。自己紹介の時に群馬県の神さまを自称し、群馬県に片想い中の敷島さん。
不明だ。不明すぎる。しかもなぜ群馬。
「まあ…… 頑張ってね」
「…… ああ」
成就する気がしないこの気持ち。果たして、どうなることやら。
授業が終わった後、俺は群馬県について勉強することにした。
まず、恋敵を知るところから勝負は始まる……
「なるほど…… 草津温泉にスキー場、山登り……」
やばい、なんかカッコいい。結構いいやつじゃん、群馬よ。
敷島さんは群馬の何に惹かれたのだろうか。
「あっ! 黒磯くんっ! こんにちは!」
「っ……⁉︎ し、敷島さんっ!」
「話すのは、初めて…… かな? 伊香保好きなの?」
敷島さんは、俺の机に広がる伊香保温泉のパンフレットを指差して言った。
「あ、ああ! もちろん! もちろん大好きだ!」
やばい、咄嗟に全肯定してしまった。不審だと思われないだろうか……
「そうなのっ⁉︎ 私も好きだよっ! 黒磯くん!」
「な……」
俺のことが…… す、好き?
そう一瞬思ったが、まあ…… 違うだろうな。
「伊香保の石段、もうカッコよくて仕方なくて…… 黒磯くんもそう思わない?」
ほらみろ、俺すごい。
桔梗色のロングヘアをなびかせて話す敷島さん。頬をほんのり赤く染めている。
「…… ああ、カッコいいよなあ……」
悔しい、悔しいよ、どんだけ群馬好きなんだよっ……
敷島さんと話せている喜びと、群馬嫉妬する俺。
すると、彼女から思いもよらない提案が。
「今週末、伊香保温泉行かない?」
大きなキラキラの目で俺をじーっと見つめる女神様。
俺と彼女が…… 一緒に旅行だと……!
「い、いいですよ! もちろん!」
「ほんと! やったあ! じゃ、私はこれで!」
そう言うと、彼女は教室から去っていった。
教室から出た敷島榛名は、緊張で手が震えていた。
「はああ…… 緊張したよう……!」
敷島は、実は黒磯のことが大好きだった。
特段カッコいいわけではないが、授業中の真面目さ、頭のよさ、そして何よりも群馬県に興味を持ってくれていることが……
すっごくカッコいいよ……
「黒磯くんと、群馬でデート……? できるなんて、夢かな、いや、現実だよっ!」
手に顔をうずめて、あまりの嬉しさから、しゃがみこむ。
最近は友達と群馬県について話していると、黒磯とのデートの風景を想像して、つい赤くなってしまう。
そんな可愛い女神様は、勇気を出してデートに誘ったのだった。
さあ、まずは好きな男の子に、群馬県を布教しなきゃね!