群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬を布教したい! 作:利根きぬ
「行ってきまーす」
秋風が吹く早朝の足利市。
俺は、両親に挨拶し、足利の駅へ向かう。
俺は、高崎にある高校まで、両毛線で通学している。
いつも通りの時間、いつも通りの始発列車。
でも、駅までの道を歩く俺は、昨日とは違う。
「めがみさま…… か」
昨日、群馬を縦横無尽に駆け巡った結果、大切な彼女ができた。
彼女の名は敷島榛名。江戸時代に生まれ、現世まで会いにきてくれた。
「俺、本当に…… ううっ」
ひんやりと頬に吹く冷たい風が、俺を現実に引き戻す。
「本当に、女神さまと付き合えたのか……?」
足利駅に着き、改札を通る。そして、始発列車を待つ。
「まあ…… 行きますか」
あんまり考えすぎると、うっかり転落してしまいそうだ。
ガタゴトと、音を立ててやってきた両毛線に乗り込み、高崎へ向かった。
女神さまのことが、頭から離れなかった。
「おはようございます。連絡は、特にありません。掃除は、Aグループの人、よろしくお願いします」
煩悩とともに、学校までやってきた俺。
担任の信越先生のホームルームは、いつもスピーディーだ。
「以上です。では、一限」
その合図とともに、生徒たちが一限の準備をしに、ロッカーへ。
「なあ、黒磯。昨日、あの子とデートできたの?」
北茨が、さっそく話しかけてきた。知ってたのか……
「…… うん。楽しかった」
すると北茨は、にこっと笑って。
「そうか、それはよかったな。実は、冬河さんから、聞いたんだ」
「ふ、冬河さん? ええと……」
「え、うちのクラスの委員長じゃないか。覚えてないのか?」
訝しげな目で、俺を見る北茨。
「な、お、覚えてるよ! ほら、あっちの席の……」
すると、俺はドキッとした。
え、あのショートヘア、あの柔らかい笑顔……
「昨日の店員さん……?」
「ああ、昨日彼女の実家の、パスタ屋に行ったんだってな」
そうか、パスタ屋の子はまさかの同じクラスだったのか!
パスタのお礼に、こんにゃくでも持ってくればよかった。
「実は、彼女とは同じ部活でね。聞いたぞ? 黒磯、カルボナーラに悶絶してたって」
な、は、恥ずかしい。でも、それくらい美味かった……
「あの子、すっごく優しく接客してくれて、かわいかったなあ……」
俺がそう言った瞬間、何者かに肩を掴まれる。
「こんにちは、北茨大津さん? わたくし、敷島榛名と申しますわ」
後ろから、女神さまが現れた。話を聞いていたのだろうか。
「ああ、こんにちは! いつも黒磯がお世話になってます」
「いえいえ、黒磯くんから、北茨さんのことは聞いています。なんでも、中学も同級生だったそうですね」
ふと見ると、うつろな目で北茨を見つめる女神さま。あれ…… なんか怒ってる?
「とんでもない、うちの黒磯がご迷惑をかけてすみませんね」
申し訳なさそうに言う北茨。え、なんか俺悪いことした?
「大丈夫ですよ。しっかり再教育しますから」
ふふ、と北茨に笑う女神さま。目は全然笑っていない。
俺は、教室の外に連れて行かれ、尋問が始まった。
「さ、なんで付き合った翌日に他の子をかわいいとかおっしゃるのでしょうかなぜでしょうかどうしてでしょうか説明してください黒磯」
うっ…… 聞かれてたのか……
「いや、それは違うからっ! ……ごめんなさい……」
「次言ったら、谷川岳を一人でハイキングの刑だよ?」
「勘弁してください…… せめて上毛高原で……」
「ま、無難に土合に禁錮かな、ふふ、冗談。私の彼氏さん」
「ぐっ…… かわいい……」
「ひゃっ…… あ、ありがと……」
ぷいっと顔を逸らす女神さま。
こうして、尋問は終了したのだった……。