群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬を布教したい!   作:利根きぬ

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いざ高崎へ……?

伊香保温泉に着いた。

 

 伝統ある、由緒正しき伊香保温泉に、俺は敷島さんと来た。

 

 神さまは、神さまじゃなかったんだ。

 

 先ほどの敷島さんの独白を、じっくりと噛み締める。

 

 辛い、辛い孤独に、何百年耐えた、孤独な女の子だったんだ。

 

 なら、俺が一緒にいてあげたい、と思うのは当然だろう。

 

 好きなのは、もちろん。でも、それ以上に、これ以上敷島さんを一人にしたくなかった。

 

 帰ったら、幼馴染の北茨にも、信越先生にも、みんなで、迎え入れたい。

 

「あの、敷島さん。さっきの話、俺の大切な人にも話してもいい? みんなで、敷島さんを迎え入れたいんだ」

 

 賑やかな温泉街を歩く敷島さんは、桔梗色のロングヘアを揺らし、振り返る、

 

「えっ…… え、え…… うそ……」

 

 ま、ま、まずかったか……?

 

 俺は、慌てて謝罪する。

 

「すまない! 言いふらすとか、そう言うんじゃなくて!」

 

 ただ、敷島さんは、

 

「いえ、それはどっちでも、むしろ勝手にしなさい。お気持ちはありがとうございます。それより、あなたの大切な人とは……?」

 

 女神さまは、切羽詰まったように、俺に聞く。

 

「ええと、幼馴染の北茨くんとか、信越先生だけど……」

 

 敷島さんは、疑ったような目で、

 

「本当ですね? 信用しますよ?」

 

「ああ…… 間違いはないが……」

 

「よろしい、今後とも発言には気をつけなさい」

 

「………… はい」

 

 何がまずかったのだろうか? ちっとも分からないが……

 

 

 敷島は、「大切な人」という言葉を聞き、どきっとした。

 

 うそ…… 私じゃない、別の人がいるの……?

 

 そう、黒磯が私のことを好きな確証など、ない。

 

 黒磯くんは、優しい男の子だ。とびきり人気、というわけではないが、野球が大好きで、成績優秀な真面目な子。

 

 彼女さんがいても、仕方ないかも……

 

 いや、弱気なんてだめっ!

 

 私は、神さまだよっ! リアル江戸っ子だよっ!

 

 武士の時代の女の子として、現代の可愛い子に、負けたくないっ!

 

 よし、徹底的に聞いてやる!

 

「黒磯くん…… 君には、大切な人はいるの……?」

 

「大切な人? ああ、親と親戚と友人かな」

 

 黒磯に聞いて、ひとまず安堵した敷島であった。

 

 

「敷島さん、次はどうしよっか?」

 

 黒磯くんが、私に聞いてくれた。

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた! 私が群馬に迷える子羊を導いてやろう!」

 

「…… お願いします神さま」

 

「なにその沈黙はっ! まあいい…… 次は、高崎に戻るわよ」

 

「え、戻っちゃうの? 温泉入ってないのに?」

 

 黒磯は、不思議そうな目で敷島を見つめる。

 

「あー、伊香保にいてもいいんだけどね…… 高崎パスタが食べたくなっちゃって」

 

 そう、高崎はパスタが有名なのだ。オシャレなお店もたくさんある。

 

 伊香保で和を楽しんだあとは、高崎で洋を楽しむってわけ。さすが世界の群馬!

 

「そう、ならいいけど…… うん、行こうか」

 

 

 

 黒磯は、内心ちょっと残念だった。

 

「敷島さんと、足湯入ったり、したかったなあ……」

 

 まあ、またの機会だな……

 

 

 上越線に乗って、二人がのそのそと高崎にやってきた頃、もう十五時を回っていた。

 

「たっかさきー、たっかさきー、ふふーん」

 

 めっちゃご機嫌な神さま。

 

 こんな可愛い、破壊的な笑顔を見せられたら、俺は目を逸らすしかない。

 

 改札内のコンビニを見つめるように、目を逸らしていると……

 

「なあに、黒磯くん、その新聞欲しいの?」

 

 敷島さんが不思議そうに尋ねてきた。

 

「あ、いや、えーっと」

 

 当然、笑顔が可愛くて目を逸らしていただけとは言えず、口籠る俺。

 

「いいよねー! その新聞、いかにも『ぐんまっ!』って感じ」

 

 なんだその例えは。栃木出身の俺には分からないな……

 

「私は毎日買ってるよー! 好きすぎて敷島公園の野球場行っちゃうくらい!」

 

 まったく分からない。地元の方ならわかるのだろうか。

 

「よし、じゃあ初デート記念に、二部買ってこ?」

 

 そういうと、敷島さんは新聞を引っこ抜き、さっさとレジへ行く。

 

 ほんと、行動力ある子だよな…… 江戸っ子だからかな?

 

 ふとそんなことを思った俺。しかし、すぐにフリーズしてしまった。

 

「で、っっで、デート⁉︎ 敷島さん、そんなつもりだったのかっ⁉︎」

 

 思わず声が出てしまった。え、俺のこと好きなの?

 

 そんな淡い期待を抱いてしまう俺。そこへ……

 

「お待たせー、釜めし買ってきたから、一緒に食べよ?」

 

 なぜか、女神さまが釜めしを買ってきた…………

 

 コンビニ近くの駅弁屋の袋をぶら下げて、はにかむ敷島さん。

 

「え、パスタじゃないの?」

 

 そう、高崎にはパスタを食べにきたはず。

 

「………… あ、ああ…… そ、そう、忘れてた……」

 

 あー、女神さま、やっちゃったね。

 

「まあ、公園でも行って、ベンチで食べるか」

 

「うん! ありがとう! この釜めし、歴史が詰まって、美味しいんだよっ!」

 

「そ、そうなのか…… まあ、行こうか」

 

 それから、ちょっと長く歩いて、公園にたどり着く。

 

 敷島さんが慣れた道のりと言わんばかりに、ずんずん進むので、必死に追いかけた。

 

 

 

 公園に着き、ちょっと古いベンチに腰掛けて、袋から釜めしを取り出す。

 

 そよ風が吹いて、気持ちがいい。おっきな公園だなあ……

 

 女神さまの横に並んで、手を合わせる。

 

「「いただきます!」」

 

 陶器みたいな容器の蓋を開けると、色とりどりの具材が盛りだくさんで、とっても美味しそう。良い香りがするし、華やかだ。

 

「んー! やっぱり美味しいなあ!」

 

「美味しい、美味しいなっ!」

 

 もう夕暮れどきの昼食、歩いた分も相まって、美味しさ抜群だ。

 

 二人は、静寂に包まれた。このおいしさは、人を泣く子も泣かない子も黙らせる旨さだ……

 

「「ご馳走様でした!」」

 

 袋にしまい、片付けていると、敷島さんが言った。

 

「うすいとうげ、の歴史、知ってる?」

 

「うーん、なんとなくね。今は無くなっちゃったけど、大人気だったんだろ?」

 

 そう、と敷島さんは、昔を語るような顔で話す。まるで、幼少期を思い出すかのように。

 

 俺は、桔梗色の髪を揺らす、神さまのお告げを待った。

 

「うすいとうげはね…… 世界の峠なの」

 

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