群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬を布教したい! 作:利根きぬ
「ついたー!」
バスを降りると、夜の県道を照らす、大きなショッピングモールが。
「さ、早く行こ?」
「ああ」
女神さまと、横断歩道を渡って古本屋へ向かう。
ショッピングモールの外には、見慣れた古本チェーンの看板が。
あのオレンジと青、すぐわかるよな……
女神さまに続いて階段を登ってゆく。
すると、見えてきた売り場は、想像の五倍くらいデカかった。
「ひゃあー、私も五百年くらい生きてて初めてだよ! おっきいねー」
「…… ああ」
栃木の店舗とかにはよく行くが、こんなおっきい店舗が群馬にあったとは。
「もう、幸せ…… 私はしあわせものだよお……」
女神さまは、たくさんの本に目がくらんでいるようだ。
「すごいな。参考書見てきていいか?」
ここなら、前々から欲しかったキャラ仕様の、日本史参考書が手に入るかも。
あ、ちなみに俺も女神さまも特別進学クラスだよ? 頭いいんだから。
高崎の私立に通って、日々学問に精進中です。
まだ二週間くらいだけど。
「さんこうしょ…… さんこう……」
追記。敷島さんは、学力以上に、深刻なジェネレーションギャップがあります。
「勉強本のこと。日本史のわかりやすい本があるといいな」
参考書コーナーに向かい何気なく言った黒磯だが、敷島ちゃんは、むう、と頬を膨らませて。
「わたしがおしえてあげるもん」
「……⁉︎ 女神さま直々のお告げを……?」
思わず声が出てしまった。やばい、俺のことやっぱり好きなんじゃない?
勉強に自分から誘うとか…… え、まじで……?
「もう、わたしは江戸っ子だよ? それくらい知ってるもん! 私の推しは吉良義央(きらよしなか)だよっ」
「そ、そうか…… まあ、でも……、あ! ほら。これ欲しかったんだよ!」
なんと、俺が栃木五店舗くらいを巡って無かった、かわいいキャラ仕様の日本史本が見つかった。
手にとって、女神さまにパラパラ見せる。
「ほら、このかわいい動物たちが解説してくれるんだ。これはこれでいいよね」
「…… かわいい。犬さんかわいい。狂ってない犬なら、大好き」
…… そうか、江戸時代は狂犬病があったからな。怖さもあるのだろう。
俺は、安心させるように声をかける。
「大丈夫だよ。現代の犬さんは大体ワクチン打ってあるから」
すると女神さまは、ぱあっと目を輝かせて、
「え! 現代の犬さん! 安全なのっ⁉︎ もふもふできるの⁉︎」
めっちゃ犬好きだな…… なら、
「うち飼ってるから、今度来るかい?」
迂闊だった。
迂闊だった。
やってしまった。
犬にまぎれて、家に誘ってしまった!
黙り込む女神さま。もじもじする女神さま。
静かな本棚の一角で、敷島榛名は悶えていた。
「そ、そ、そう…… ね! 犬見たいからね! そ、それよりっ! ほら、この年表よくない⁉︎」
「そ、そうだな、す、すごい年表だ!」
お互いに、真っ赤になって、動揺しまくっていたのだった。
しばらくして、会計を済ませ、もう一度前橋行きのバスに乗り込む。
はあ…… 一日が長すぎる。いい意味で……
憧れの女神さまと、群馬……でーと……?
本人はそう言ってた気がするが、実際どうなんだろう……?
…… というか、さっきの、めっちゃ恥ずかしい。
いきなり家誘うとか、俺最低じゃん。しかも無意識だ。
いやでも…… 今日の感じ、もしかしたら。
隣で、すやすや眠る女神さまに目をやる。
つい先日まで、憧れだった女神さま。その女神さまは、
群馬の神さまの敷島榛名は、
「もしかしたら、俺のことが好きかも知れない」
前橋行きのバスの中。ひとり静かに、つぶやいた。