群馬県の女神ちゃんは、とにかく群馬を布教したい! 作:利根きぬ
「ふう、高崎に戻ってきたな」
「…… ふああ。うん」
眠そうな女神さまとともに、二人は高崎の有名なパスタ屋の前に来ていた。
二十時過ぎ、オシャレな人気店。綺麗なドアを開けると……
「いらっしゃいませー! 二名さまですか?」
優しそうな女の子が、元気に挨拶してくれた。
そのまま、空いている席へ案内してくれる。
「お決まりなりましたら、お声かけください。ごゆっくり」
「「ありがとうございます」」
お水をトン、と置いて少女はカウンターへ。
「さて、何を食べようかなあ」
前橋までの過酷な往復のおかげか、結構お腹は空いている。
「うーん、迷うね、黒磯くん」
「ああ…… お腹空いてるし、大盛にしようかな」
すると。神さまは急に、ちょっと心配そうな、苦笑いを浮かべる。
「あ、ああ…… 黒磯くん。量は一応普通にしておこ?」
「え、ああ…… いいけど。なぜ……」
「あ、ええと、ごめん。黒磯くん、もしかしてたくさん食べる子だった……?」
「…… まあ普通に一人前くらいだが」
「なら、並盛にしよ? たとえ、行けそうでも。いい?」
女神さまは、俺に人差し指を突きつけて、
「高崎パスタはね、とってもボリュームたっぷりなの……! すっごく美味しいけどね。神さま時代、よくあることだけど、大盛りに散った人を、たくさん見てきたから……。要注意ね?」
「…… 了解、ありがとう。じゃあ、俺は並盛りカルボナーラで」
「ふふ、ありがとう。すみませーん!」
女神さまは、カウンターでせっせと仕事をしていた少女を呼ぶ。
「はーい! お伺いします!」
すたすたと、メモ用紙を持って素早く来てくれた。
「ご注文お伺いします!」
女神さまは、お先にどうぞ、と俺にジェスチャー。
「じゃあ……俺からで。並盛りカルボナーラ一つ。単品で」
「並盛りカルボナーラ一つですね!」
ここで、女神さまが、衝撃の発言。
「大盛りナポリタン、一つください!」
な、なんだと…… あれだけ俺に並盛りを勧めておいて、自分は大盛りだと……?
「かしこまりました! ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい! 大丈夫です!」
「店長! 並カルボナーラと、大ナポリタン一つずつですー!」
だ、大丈夫か…… もう店長作り始めちゃったよ……
「ふふ、大丈夫だよ。黒磯くん?」
「え……?」
女神さまは、はにかんで、
「私ね、昔、村の野菜全部ひとりで食べちゃったから」
な…… なんというパワーワードだ。
「豊作だったから。村長にめっちゃ怒られて、最後には吉良さんに泣きついたなあ……」
群馬の江戸っ子、敷島榛名は恐ろしい「大食い女神さま」だった。
「お待たせしました! ご注文はお揃いですか?」
「はい! ありがとうございます!」
「ありがとうございます。ごゆっくり!」
店員さんを見送り、湯気がたちのぼるパスタに目をやる。
黄金に輝く麺に、魅力的なカルボナーラソース。とってもいい香りだ。
「…… おっきいな……」
まじで良かった。女神さまの言う通り、並盛りが世間一般の大盛りみたいだ。
では、高崎パスタの大盛りはどうなるか。
「わあ…… 美味しそう……!」
すごい。まじで…… あんなおっきいパスタ、初めてみた。
女神さまが頼んだナポリタンは、とっても美味しそうだ。とっても多いが。
じゃあ、手を合わせて。
「「いただきます!」」
銀のフォークを優しく握り、カルボナーラを口に運ぶ。
「美味しい…… 美味しい!」
「んー! これこれ! やっぱり最高だっ!」
もっちもちのパスタを、ただ無心で堪能する。
湯気で運ばれてくる香りもあいまって、より至高の逸品となっている。
「しかし、高崎パスタ。また来たいな」
「うん! 私も、また来たい! 何度でも!」
二人とも、美味しすぎて、多く思われた量も、ありがたいほどだった。
こんなに美味しいものをたくさん食べれる! まだあるよ! ってな。
「「ご馳走様でした!」」
いい経験だった。今度北茨にも教えてあげよう。
「お会計お願いしまーす!」
「はーい!」
店員の子が、パチパチレジを打つ。
「お会計、二千五百円になります!」
「現金で! ふふ、美味しかったですよ?」
「そうですか! ありがとうございますっ! ちょうど、お預かりしますね」
「また、来ます。この子も気に入ったみたいで」
「美味しかったです。また来たいです」
「ぜひ! ありがとうございました! またお越しくださいませっ!」
少女は、ペコっとお辞儀をして、俺たちを見送った。
「ふう、美味しかったねー!」
「ああ、最高だった」
もう、辺りは真っ暗だ。夜九時近いな……
「どうする? 家の近くまで送ってくか?」
俺は、当然の義務を果たそうと、女神さまに声をかけるが、
「あ、高崎駅までで大丈夫! 親と待ち合わせしてるからね!」
「そうか。ならよかった。じゃあ、駅まで行こっか」
「そう言う黒磯君こそ、足利に早く帰らないと。終電までにね」
「そ、そうだな。気遣いありがとう……」
「そんな、礼なんて。こちらこそです。今日一日、私の大好きな、大切な「ぐんま」を楽しんでくれて、一緒に遊んでくれて、過去を聞いてくれて、本当にありがとうございました!」
「こちらこそ、好きな子と、最高の旅行ができて幸せだったよ! 敷島さん!」
俺は、最大限の感謝を述べる。だって、こんな楽しい旅行、正直初めてだったから。
さて、高崎駅まで、すたすた行きますか。
横を歩く女神さま。なぜか、急に大人しくなった。
「…… 今、私のこと、『好き』って言った?」