私の恋活ストーリー? 課題は「恋愛PDCA」! 作:シン_クワちゃん
CCCの新歓コンパは、駅から少し歩いたところにある居酒屋で行われていた。
店の奥にある広間を貸し切りにしているらしく、畳の上には長テーブルが三列に並んでいる。新入生はテーブルの右側、上級生は向かい側に座るように言われ、僕と加山は一番奥のテーブルについた。
次々と人がやってきて、会場はだんだんにぎやかになっていく。
僕は入口に背を向けて座っていたので、誰が来ているのかよくわからなかった。向かい側には上級生らしい男女が座り、知り合い同士らしく、話をしている。
やがて、幹事らしい人が立ち上がって挨拶を始めた。
サークルの活動内容や、これからの予定などを流暢に説明している。さすが大学生、というか僕ももう大学生なのだけど、ああいうふうに大勢の前で話せるのはすごいと思う。
飲み物が配られ、乾杯の声が上がった。僕と加山は未成年なので、ウーロン茶だ。
「じゃあ、山崎君は何学部?」
向かいに座っていた女子の先輩から声をかけられた。
「あ、経済学部です」
「へえ、経済なんだ。学科は?」
「金融証券学科です」
「講義は難しい?」
「いえ、まだ始まったばかりなので……」
どうにか質問には答えられた。加山も横から自己紹介を始めている。
こういう場では、話しかけられたことに答えるだけなら何とかなる。問題は、そのあとだ。
しばらくすると、上級生たちが別のテーブルへ移動し始めた。あちこちで笑い声が上がり、会話が弾んでいる。
誰かに何か話さなきゃいけない。
そう思うのだけど、何を話せばいいのかがわからない。講義のことを聞けばいいのか、それともサークルのことを聞けばいいのか。そもそも、初対面の人と何を話せば会話が続くのだろう。
考えているうちに、加山はいつの間にか別のテーブルへ移動していた。
気がつけば、僕だけが取り残されている。
別に誰かが僕を避けているわけではない。僕が自分から動けない、話しかけられないだけだ。
わかってはいたことなんだけど、こういう場所に一人でいるのは居心地が悪い。
少し気分転換でもしよう。僕は席を立ち、トイレへ向かおうとした。
★☆★☆★☆
紗弓ちゃんと待ち合わせて新歓コンパの会場へ向かったのだけど、途中でお店の場所がわからなくなってしまった。
「こっちじゃないかな?」
「でも、地図だと……」
「うーん、一本向こうの道かも」
スマホを見ながら二人で行ったり来たりして、ようやくお店に着いたときには、ほとんど時間ぎりぎりだった。
「間に合ったね!」紗弓ちゃんはほっとしたように笑った。
案内された席は、入口に近いテーブルだった。少し落ち着かないけれど、その分、会場全体が見渡せる。すでに大勢の人が集まっていた。
「結構、人がいるね」
「そうですね……」
紗弓ちゃんは楽しそうだったけれど、私は早くも圧倒されていた。
大学に入ったのだから、こういう場にも慣れていかなければいけない。そう思って参加したのだけど、実際に大勢の人を前にすると、何をすればいいのかわからなくなる。
乾杯が終わると、上級生たちがテーブルを移動し始めた。
「初めまして。学部はどこ?」
「文学部です」
「へえ、文学部なんだ。じゃあ、本とか好きなの?」
「そうですね……」
質問には答えられる。でも、そこから話を広げられない。
別の先輩が来ても、また同じように自己紹介をして、よろしくお願いしますと頭を下げる。その繰り返しだった。
隣を見ると、紗弓ちゃんは私と反対側に座っている男の子から話しかけられていた。相手はたぶん新入生だと思う。二人で何か楽しそうに話している。
紗弓ちゃんは、こういうところでもちゃんと会話ができるんだ。
私は感心しながらも、目の前の先輩にどう返事をしようかと考えていた。
そのとき、奥のテーブルで、一人の男子が席を立ってこちらへ向かって歩いてくる。
あれ?見覚えのある顔。……山崎君?
思わず目を凝らした。間違いない。進学塾で一緒だった山崎信長君だ。
「山崎君!」気がつくと、私は声をかけていた。
彼は驚いたようにこちらを見た。
「……早田さん?」
「うん、そう!」
山崎君も私に気がつくと、少し表情が和らいだ。
「どうしてここに?」
「それはこっちのセリフだよ。山崎君もこのサークルに?」
「いや、まだ入ったわけじゃないけど。早田さんも?」
「私も。友達に誘われて来たの」
そう言って、私は隣の席を示した。
「よかったら、ここに座らない?」
「あ、うん。じゃあ……」
山崎君は私の隣に腰を下ろした。
「山崎君、何学部だったっけ?」
「経済学部。早田さんは?」
「文学部だよ」
「そうだったね」
「講義には慣れた?」
「まあ、少しずつ。早田さんは?」
「私も。高校と違って、教室を移動するのが大変だよね」
「それはあるね。あと、体育があるとは思わなかった」
「わかる!大学でも体育ってあるんだね」
そんな話をしているうちに、自然と会話が続いていった。さっきまで、何を話せばいいのかと困っていたのが嘘みたいだ。
「そういえば、悠木さんはどこに進学したの?」
「やよいさん?◆◆県の□□大学、彼女も文学部だよ」
「◆◆県?遠いね、じゃあ一人暮らしなのかな?」
「そうそう。家事とか結構大変みたいよ」
話題は次々に出てくる。塾で一緒だったころと同じように、特に頑張らなくても会話ができる。
メッセージを送ろうかどうか、あれほど悩んでいたのに。目の前に本人がいると、こんなにも普通に話せるものなのだろうか。
「ねえ、サオリン。その人は誰?」
向かい側から紗弓ちゃんの声がした。
「あ、ごめんね。紹介するね。山崎信長君。高校は違うんだけど、進学塾で同じ授業を受けていたの」
「初めまして。山崎です」
「鈴木紗弓です。よろしくね」
「それでね、山崎君は、私が塾でスマホを忘れたときに届けてくれたこともあるんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「それに、私の高校の文化祭にも来てくれたんだよね」
「ああ、うん。行ったね」
「あと、悠木さんっていう共通の友達もいて……」
話しているうちに、なんだか嬉しくなってきた。
久しぶりに会えたこともそうだけど、こうして知っている人がいるというのは心強い。
「おい、山崎」
そこへ別の男子がやってきた。
「何だよ、知り合いでもいたのか?」
「あ、うん。塾で一緒だった早田さん」
彼は私の顔を見ると、少し驚いたように目を見開いた。
「え、山崎、お前こんな美人さんと知り合いだったのか?しかも二人も」
「いや、そういうんじゃなくて……、こっちの鈴木さんは僕も今日が初対面だよ」
「初めまして、加山渉一です」
彼はすぐに私たちへ自己紹介をした。
「早田沙織です。よろしくお願いします」
「鈴木紗弓です。よろしくね」
「こちらこそ。ってことは、早田さんが山崎の知り合いって事?いやあ、山崎も隅に置けないな」
「だから、そういうんじゃないって」
山崎君が困ったように答える。
それがおかしくて、私は思わず笑ってしまった。
いつの間にか、四人で話すようになっていた。さっきまでの居心地の悪さが嘘のよう。
ところが、そんな雰囲気に水を差す人たちが現れた。
「おいおい、新入生同士で盛り上がってないで、上級生とも話そうよ」
顔を赤くした男子の先輩が二人、私たちのテーブルにやってきた。どうやら、お酒を飲んでいるらしい。
「特に女子はさ。先輩と仲良くなっておいたほうが、サークルのこともわかるだろ?」
「いえ、今はこの四人で話しているので」
紗弓ちゃんが、少し困ったように答えた。
「まあまあ、そう言わずに。こっちに来て話そうよ」
「いえ、大丈夫です」
断っているのに、先輩たちは引き下がらない。どうしようと思っていると、加山君が山崎君のほうを向いた。
「仕方ない。バトルモードに入るぞ」
「え?」
山崎君が戸惑っている間に、加山は先輩たちへ向き直った。
「すみません。今、僕たちは四人で楽しく話しているので、邪魔しないでもらえますか?」
さっきまでの軽い調子とは違う、はっきりした口調だった。
「なんだよ、後輩のくせに」
「いや、まだサークルに入ったわけじゃないので。先輩後輩とか関係ないですよね」
「女子の新入生には、俺たちがサークルのことを詳しく教えてやるんだよ。男は余計な口出しするな」
「それは、本人たちが聞きたいと思ったら聞けばいい話でしょう」
加山は一歩も引かなかった。周囲のテーブルからも、何事かと視線が集まり始めた。
「おい、お前ら、酔っぱらって変なことするなよ」
別の先輩が声をかけてきた。
「新入生が嫌がってるだろ」
「いや、俺たちは別に……」
二人の先輩は言い訳を始めたけれど、周りもざわつき始めている。
せっかく山崎君と会えて、楽しく話せていたのに。
「……早田さん」
山崎君が私を見た。
「ここにいても仕方ないから、出ましょう」
「そうね。そうましょう」私はすぐに頷いた。
「じゃあ、私も一緒に出るね」
紗弓ちゃんも立ち上がる。
「よし、撤退だな。俺一人でバトってもHPが足りないし、俺も出るわ」
加山君もそう言って席を立った。
私たちは、ざわつく会場を後にした。
★☆★☆★☆
店を出てしばらく歩いたところで、僕たちはようやく一息ついた。
「何だったんだろうね、あの人たち」
鈴木さんが呆れたように言った。
「酔っていたとはいえ、あれはないよな」加山も肩をすくめる。
「サークルの新歓って、どこもあんな感じなのかな?」
僕が尋ねると、加山は首を横に振った。
「さあ……。でも、あの人たちとはあまり関わりたくないな」
「だよね。私も、あの二人にはもう会いたくない」鈴木さんも同意する。
せっかく新しい友達を作ろうと思って参加したのに、あんな思いをするとは思わなかった。
「まあ、でも」
加山が三人を見回した。
「結果的には、こうして仲間ができたわけだ。クエストの目的は達成したってことでいいんじゃないか?」
「クエストって……なにそれ」僕は思わず苦笑した。
「いいじゃない。私たち、仲良くなれそうだし」鈴木さんが笑顔で言った。
「せっかくだし、まだ時間も早いし、もう少しどこか行かない?」鈴木さんが三人を見まわす。
「じゃあ、カラオケでも行くか?」加山が言う。
「いいね!」鈴木さんがすぐに賛成した。
「私も大丈夫」早田さんも頷いた。
ところが、歩き出そうとしたところで、鈴木さんのスマホが鳴った。
「あ、お母さんだ」
電話に出た鈴木さんは、何度か相づちを打ったあと、少し困った顔をした。
「うん、届いたんだね。わかった、今から帰るよ」
電話を切ると、申し訳なさそうに僕たちを見る。
「ごめんね。実家から送ってもらった食料が今日届いたんだけど、冷蔵庫に入れなきゃいけないものもあるから、帰って片づけたいんだ」
「そっか。それは仕方ないね」僕は頷いた。
「ごめんね、せっかくなのに」
「気にしないで。また今度行こうよ」
そう言うと、鈴木さんはほっとしたように笑った。
「うん。じゃあ、今日はここで。また大学でね!」
鈴木さんは手を振って、駅のほうへ歩いていった。
「さて、どうする?」加山が僕に話しかける。
「三人じゃなんだし、俺はバスで帰るから、ここで別れるわ。また大学でな」
加山は駅とは別の方向へ歩き出した。
気がつくと、早田さんと僕の二人だけになっていた。
「……じゃあ、僕たちも帰ろうか」
「そうね」
さっきまで四人で話していたときは、あんなに自然に会話ができたのに。二人になると、何を話せばいいのか、またわからなくなってしまう。駅へ向かって歩き始めたとき、早田さんがふと足を止めた。
「あの、山崎君」
「ん?」
「私、ゲームセンターって入ったことがないんだけど……。あそこ、よかったら、入ってみない?」
「ゲームセンター?」
「うん。ちょっと気になって」
早田さんは、通り沿いにあるゲームセンターを見ていた。
僕もそちらに目を向けた。
ゲームセンターに入ったことがないのか。いや、そういう人もいるだろう。僕だって、誰かと一緒でなければ入らない場所だし。
「……いいよ。入ってみようか」
「ありがとう」
店内に入ると、ゲーム機の音や音楽が一斉に耳に飛び込んできた。早田さんは少し驚いたように周囲を見回している。
「思ったより、にぎやかだね」
「そうだね」
僕たちは店内を歩いた。
すると、早田さんがクレーンゲームの前で立ち止まった。
「あ、あの子かわいい」
ガラスの向こうには、丸っこい猫のぬいぐるみが並んでいた。
「これって、あそこでつかんで取るの?」
早田さんはそう言うと、ゲーム機の前に立った。
「そうだよ、やってみるの?」
「うん。せっかく来たんだし」
彼女は財布から小銭を出し、ゲームを始めた。
アームを動かして、ぬいぐるみを狙う。慎重に位置を合わせたつもりだったようだけど、アームはぬいぐるみを少し持ち上げただけで、すぐに離してしまった。
「ああ、惜しい……」
早田さんは残念そうに画面を見つめた。
「もう一回やってみる」
二回、三回と挑戦したが、ぬいぐるみの場所が取り出し口に近づいただけだった。
「難しいのね、これ。一回で取れるとは思ってなかったけど、三回でも全然ダメ」
そう言って笑った。
その顔を見ていると、何となく自分もやってみたくなった。
「……僕も、一回やってみようかな」
「山崎君も?」
「うん。取れるかどうかわからないけど」
僕は小銭を入れて、アームを動かした。狙いを定めてボタンを押す。アームが下りて、ぬいぐるみをつかむと、うまく持ち上がった。そのままぬいぐるみが移動し、取り出し口へ落ちた。
「あっ!」早田さんが声を上げた。
「取れた!」自分でも少し驚いた。
「よかった。運がよかったみたいだね」
僕は取り出し口からぬいぐるみを拾い上げて横に下がっているビニール袋も手に取った。
そして、取れたぬいぐるみを早田さんに差し出した。
「はい。早田さんが欲しいって言ってたから」
「えっ、私に?」
「うん。僕が持っていても仕方ないし」
「わぁありがとう!」
早田さんは、嬉しそうにぬいぐるみを受け取った。
両手で抱えて、少し角度を変えながら眺めている。
「かわいい……」
その表情を見て、僕は何だか照れくさくなった。
ゲームセンターを出たあと、僕たちは駅へ向かった。
帰る方向は一緒で、僕の方が二駅手前。二人で電車に乗る。
車内は思ったより混雑していて、並んで立っているだけで精いっぱいだった。周囲の人の声や電車の走る音もあって、会話をするような雰囲気ではない。
でも、不思議と気まずくはなかった。むしろ、何か話さなければと考えなくて済むので、少しほっとした。早田さんは、ずっとぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
やがて、電車は僕が降りる駅に着いてスピードが落ちていく。
「じゃあ、僕はここで」
「えっ、駅ここなの?」
「うん。ここが最寄り駅なんだ」
「そうなんだ。私は二つ先よ」
「今日はありがとう」早田さんが僕を見て言う。
「え?何が?」
「この子を取ってくれたこと。それから、コンパのときも」
早田さんは、腕の中のぬいぐるみを見てから僕を見た。
「山崎君が声をかけてくれたから、あそこから出られたし」
「ああ……。いや、僕もあのままいたくなかったから」
僕は少し照れながら答えた。
「変なサークルだったけど、早田さんに会えたから、来てよかったと思う」
口にしてから、少し恥ずかしくなった。でも、これは本当のことだ。
「また大学で会ったら、よろしくね」
「うん。こちらこそ」
早田さんは笑顔で頷いた。
降りる人に紛れながらホームに出た僕は、そこで立ち止まる。
閉まったドアのガラス越しに早田さんが見えたので、軽く手を振る。
彼女も、小さく手を振ってくれた。
★☆★☆★☆
私は家に帰って部屋に入ってからも、今日のことを何度も思い出していた。
新歓コンパは、最初こそ居心地が悪かったけれど、山崎君に会えたことでずいぶん楽になった。
それに、ゲームセンターにも入れたし、カワイイ猫のぬいぐるみまで手に入った。
ぬいぐるみを手に取って、もう一度眺めてみる。丸い目と、ちょっとすましたような顔がかわいい。
私はこういうぬいぐるみが好きだ。欲しいと思ったものを手に入れられたのだから、嬉しいのは当然よね。そうだ、名前はサキちゃんにしよう。
山崎君が取ってくれたとき、私は思っていた以上に嬉しかった。しかも、電車を降りるときに「早田さんに会えたから、来てよかった」と言ってくれた。あれは、どういう意味だったのだろう。
もちろん、塾で一緒だった知り合いに会えてよかった、ということなのだと思う。私だって山崎君に会えて嬉しかった。でも、何だかそれだけでは説明しきれないような気もする。
答えは頭の中に出てこなかった。
こういうとき、私はどうすればいいのだろう。しばらく考えてから、スマホを手に取った。
そう、去年山崎君の事を相談した人がいた。小森こころさん。あの時も彼女の提案を試して上手くできたことを思い出す。
私はこころさんにメッセージを送った。
★☆★☆★☆
『こんばんは、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、今、大丈夫?』
沙織さんからメッセージが届いた。久しぶりのメッセージなのに聞きたいこと?
彼女の顔を思い浮かべながら、やっぱり結構せっかちだったよねと思い出す。
私は画面を見て、少し考えてから返信した。
『久しぶりですね。どうしたの?』
ほどなくして、沙織から電話がかかってきた。
「もしもし、こころさん?」
「うん。どうしたの?」
「あのね、ちょっと聞きたいことがあって……」
「いきなりなのね。とりあえず、元気?私は元気だよ」
「あ、ごめんなさい。ええ、私も元気。そっちの大学はどんな感じ?」
「何その取ってつけたような質問?もちろん順調にやってるよ」
「それは良かったわ……それでね」
沙織は、少し言いにくそうに話し始めた。
「男の子から何かをもらうって、どういう感じなのかな?」
「……は?男の子?何かもらう?」
思わず聞き返してしまった。
「えっと、どういう意味?」
「そのままの意味なんだけど……」
「何をもらったの?」
「うん。ぬいぐるみ」
「ぬいぐるみ?」
「そう。ゲームセンターで、欲しいなと思った猫のぬいぐるみがあって。それを取ってもらったの」
「誰に?」
「山崎君」
「……山崎君?」
私は一度、言葉を切った。
「もしかして、その人って去年「私から話しかけるにはどうしたらいい?」って無理難題を私に相談してきた……」
「そう、その人が山崎君」
「沙織さん、ゲームセンター以前に、なんで急にその山崎君?と会ってるの?」
「あ、そうね、経緯を話さないとわからないわよね」
「まぁ、そうしてもらえると……」
「えっと、大学が一緒なのね、山崎君とは」
「あ、そういう事ですか」
「それで、私が大学で出来た友達に誘われて、とあるサークルの新歓コンパに行ったのね」
「ほう、沙織さんが新歓コンパに行ったと」
「そしたら、そこに山崎君もいたので、お話ししたの」
「それで、二人でゲームセンターに行ったの?」
「うん。帰り道にあったから、私が入ってみたいって言ったの」
「へえ……」
沙織さんは、まだ何かを説明しようとしている。
「それでねそれでね、クレーンゲームっていうの?ぬいぐるみがあってね。それがカワイイ猫でね。私が取れずにいたら、山崎君が取ってくれたの」
なるほど。これは運命の再会だと盛り上がっているパターンかと思ったけど、口には出さない。
「取ってもらったとき、すごく嬉しかったんだけど……」
「うん」
「もちろん、欲しかったから嬉しいのは当たり前だと思うんだけど、何だかそれだけじゃないような気もして」
「……」
「でも、どうしてそう感じるのか、自分でもよくわからないの」
私は思わず、ため息をつきそうになった。
「二人は高校生カップルですか?」
「えっ?」
「いや、だって。二人でゲームセンターに行って、ぬいぐるみを取ってもらって、それを大事そうに抱えてウキウキと帰ってきたという事ですよね?」
「ち、違うから!えっと、抱えて帰ったのは違わないけど、違うから!」
「何がどう違うのか、私にはちょっと理解不能です」
「そんなんじゃないよ。山崎君とは、塾で一緒だったときみたいに、なるべく自然に話せる関係を作りたいだけなの」
「ふうん」
「本当だよ!」
「はいはい」
確かに心が動くのを感じているのに、それを自分で認める前に、まず理由を探そうとしてる。
最初に相談された去年は、カワイイなぁとも思ったけど、ポンコツ具合は健在みたい。
でも、それが沙織さんらしくって、相変わらずだなぁと思いつつ、電話は続いた。
★☆★☆★☆
部屋に戻った僕は、ベッドに腰を下ろした。
今日はいろいろなことがあった。何より、早田さんに再会できたのが嬉しかった。
大学に入ってから、一度も会っていなかった。メッセージを送ろうかと何度も考えたけれど、結局、送れずにいた。それが、まさか新歓コンパで会えるとは思わなかった。
高校の制服以外の早田さんを見るのは初めてだったけれど、やっぱり素敵な人だと思った。
隣に座って話しているときも、改めてそう感じた。
……まあ、僕とは釣り合わないよな。そんなことを考えてしまう。
一緒に来ていた鈴木さんも、ずいぶんおしゃれな人だった。類は友を呼ぶ、ということなのだろうか。
それにしてもクレーンゲームで、まさか一回でぬいぐるみが取れたのは幸運だった。
早田さんがぬいぐるみを抱えて嬉しそうにしていた姿を思い出す。
……かわいかったな。そう思った瞬間、何だか急に恥ずかしくなった。
いや、別に、そういう意味じゃない。ただ、普段の早田さんとは少し違う、年相応の女の子らしい表情を見た気がしたのだ。それだけで、今日はもう十分だった。
そういえば、加山に謝っておいたほうがいいだろう。僕はスマートフォンを取り出した。
『今日はごめん。せっかく誘ってくれたのに、変なことになって』
すぐに返信が来た。
『気にするな。俺もあの酔っぱらいとは関わりたくないし、あのサークルには入らないつもりだから』
続けて、もう一通届いた。
『それより、早田さんも鈴木さんも素敵じゃないか。お前も隅に置けないな』
……また、そういうことを言う。
『いや、鈴木さんは今日初めて会ったし、早田さんはたまたま塾で一緒だっただけだよ』
加山からすぐに返事が来た。
『まあ、どっちにしても、今度大学で四人で昼飯でも食おうぜ』
相変わらず、加山は気楽だ。
でも、そういうところに助けられているのも事実だった。
『そうだね。また連絡する』
返信を終え、スマホを置いた。
思いがけない形で、早田さんと再会することができた。そして、加山とも、鈴木さんとも知り合うことができた。これから大学で、どんなことが待っているのだろう。
明日からの大学は、今日よりは少し、楽しくなるかもしれないなんて思った。