私の恋活ストーリー? 課題は「恋愛PDCA」! 作:シン_クワちゃん
今日は水族館に四人で行く日。待ち合わせ場所に着くと、山崎君はすでに立っていた。
「あ、早田さん。おはよう」
「おはようございます、山崎君」
いつもの大学での挨拶と変わらないはずなのに、今日はなんだか少し気恥ずかしい。
これから二人で出かけるわけではない。加山君と紗弓ちゃんも一緒だし、そもそも私が提案したのは、みんなで水族館に行くことだった。
それなのに、待ち合わせ場所で山崎君と二人きりになっただけで、普段とは違う気持ちになるのはどうしてなのだろう。
「水族館、楽しみですね」
「うん。僕、水族館って久しぶりだな」
「そうなんですか。私はゴールデンウィークに高校の時の友達と一緒に。やよい、あ、悠木さんも一緒でした。」
「悠木さんかぁ、彼女も元気にやってるのかな?」
「ええ、一人暮らしが大変だけど楽しいって」
「そうなんだ、頑張っているんだね」
「みたいです」
「じゃあ、今日は案内役よろしくね。文化祭の時といい、早田さんには案内役になってもらうばかりだね」
「いえ、私も楽しみですから」
「うん、僕も楽しみだよ」
山崎君が自然に笑ってくれたので、私も笑顔を返した。こういう会話を、もっと自然にできるようになりたい。そう思っていると、少し離れたところから聞き慣れた声がした。
「お待たせー!」振り向くと、加山君と紗弓ちゃんが並んで歩いてきた。
「おはようございます。二人とも、早いね」
「いや、僕も今来たところだよ」
「あ、サオリン、そのワンピースかわいいね!」
紗弓ちゃんが私の服を見て、にっこり笑った。
「ありがとうございます。紗弓ちゃんも、今日もおしゃれですね」
「えへへ。今日はちょっと気合い入れちゃった」
そう言いながら、紗弓ちゃんは自分の髪を指先で整えた。
「いつもと少し雰囲気が違う気がするわ。目鼻立ちが、いつもよりくっきりしているような……」
「さすがサオリン。今日はお化粧もしっかり決めてきたんだよ」
「よく似合っていて、素敵ね」
「ありがと!」紗弓ちゃんは嬉しそうに笑った。
大学に入ってから、紗弓ちゃんはおしゃれにとても熱心だ。服装も髪型も、メイクも。毎日、少しずつ工夫しているように見える。
東京の女の子らしくなりたい。以前、そんなことを話していたのを思い出した。
紗弓ちゃんにとって、大学生活は勉強だけでなく、新しい自分になろうとする期間でもあるのだろう。
「じゃ、行こうか」
加山君が声をかけ、私たちは駅へ向かった。
電車の中では、加山君と山崎君がゲームの話をしていた。
「だから、あそこで回復アイテムを温存したのが失敗なんだよ。ボス戦の前に使っておけば、もっと楽に勝てたのに」
「いや、あれは次のエリアで必要になると思ったんだよ」
「目の前の敵に気を取られすぎ。長期戦を見越したリソース管理が大事なんだって」
「ゲームの話だよね?」
紗弓ちゃんが加山君をのぞき込む。
「もちろん」
加山君は真面目な顔でうなずいた。山崎君が小さく笑う。
二人はゲームの話になると、普段よりずっと会話が弾む。私はゲームに詳しくないので、細かいところまでは分からないけれど、加山君の説明を聞く山崎君は、いつもより楽しそうに見えた。
紗弓ちゃんも、そんな二人を見て笑っている。私たちは、こうして少しずつ仲良くなってきた。
大学に入ったばかりの頃は、友達ができるかどうかも分からなかった。それが今では、一緒に遊びに出かける友達がいる。それは、とても嬉しいことだと思う。
そして、できれば、この中でも山崎君とはもう少し仲良くなれたらいい。
そんなことを考えているうちに、電車は水族館の最寄り駅に着いた。
★☆★☆★☆
水族館の中に入ると、少し薄暗い空間に壁一面がガラスの水槽。青い光の中を、大小さまざまな魚が泳いでいる。
「うわ、すごいな」加山君が声を上げた。
最初の大きな水槽には、ジンベイザメが悠々と泳いでいた。
「大きいですね……」私も思わず見上げてしまう。
「ジンベイザメって、こんなに大きいんだね」紗弓ちゃんも目を丸くしている。
「こういう大きい魚って、見ているだけでテンション上がるよな」
加山君は水槽の前からなかなか動こうとしなかった。
山崎君もマンタが泳ぐ水槽ではしばらく足を止めていた。
「マンタって、飛んでいるみたいに泳ぐんですね」
「うん。ずっと見ていられそうだな」
山崎君がそう言うので、私も一緒に水槽を眺めた。
ゆったりと泳ぐマンタの姿は、たしかにいつまでも見ていたくなる。一方、私と紗弓ちゃんが足を止めたのは、色鮮やかな熱帯魚の水槽だった。
「見て、サオリン!この子、かわいい!」
「本当ですね。こっちの魚も、色がきれいです」
小さな魚たちが、サンゴの間をちょこちょこと泳いでいる。魚の名前を確認しながら、私たちはあれこれと話をした。
大きな魚に夢中になる男子二人と、かわいい魚に夢中になる女子二人。好みが分かれるのも面白かった。
その後も、クラゲの水槽を見たり、珍しい魚を探したりしながら、私たちは水族館を見て回った。
そして、最後に向かったのはイルカショーだった。
「せっかくだから、近くで見たいよね」紗弓ちゃんが言う。
「でも、水がかかる席もあるみたいですよ」
案内板を確認すると、前の方の席には水しぶきが飛ぶことがあると書いてあった。
「うーん、どうしようかな」
私が座席を見回していると、加山君が言った。
「ちょっと俺、借りてくる」
「借りてくるって、何を?」
「まあ、任せて」
そう言って、加山君は席を離れていった。
私たちは、どの辺りに座れば水がかからないかを相談しながら、空いている席を探した。
「この辺りなら、大丈夫そうですね」
「そうだね。あんまり後ろだと、イルカが見にくいし」
紗弓ちゃんと話していると、加山君が戻ってきた。
その手には、ポンチョが四つあった。
「はい、みんなこれ着て」
「えっ、これ、どうしたの?」紗弓ちゃんが驚いて尋ねる。
「売店で売ってた。これなら水がかかっても大丈夫だろ」
加山君はポンチョを一つずつ配った。
「鈴木さんと早田さんは、特に着ているものを濡らしたくないでしょ。今日は二人ともおしゃれしてきてるし」
「わ、ありがとう!」紗弓ちゃんは、ぱっと顔を明るくした。
「加山君、ありがとう。助かります」私もお礼を言った。
「なあに、これくらい。ガードアイテムがあれば、接近戦もオーケーだから」
「接近戦って、イルカと戦うわけじゃないんだから」山崎君が呆れたように言う。
「いやいや、相手の攻撃範囲を把握して装備を整えるのは、基本中の基本だよ」
「だから、ゲームの話じゃないんだって」
二人のやり取りに、私たちは笑った。
加山君は、こういうところがすごいと思う。私たちが何を気にしているのか、自然に気づいてくれる。そして、どうすればいいのかをすぐに考えて、行動してくれる。
私だったら、どうしていただろう。
水がかからない席を探すことばかり考えて、ポンチョを買ってくるという発想には、すぐにはたどり着かなかったかもしれない。
加山君は、特別なことをしたつもりもないのだろう。自分が思いついたから、買ってきただけ。でも、そういう何気ない気遣いができるのは、素敵なことだと思う。
ふと隣を見ると、山崎君はポンチョを手にしたまま、少し複雑そうな顔をしていた。
どうしたのだろう。加山君の冗談に、何か思うところでもあったのかな。尋ねようかと思ったけれど、その前にイルカショーが始まった。
イルカが勢いよく水面から飛び上がり、観客席から歓声が上がる。私たちも、いつの間にかショーに夢中になっていた。
★☆★☆★☆
イルカショーが終わると、僕たちは水族館の中にあるカフェに向かった。たくさん歩いたので、少し休憩したかった。飲み物を注文し、四人でテーブルを囲む。
楽しかった水族館の話をしているうちに、紗弓ちゃんと早田さんがトイレに立った。二人の姿が見えなくなると、加山が少し声を落とした。
「山崎、ちょっといい?」
「ん?何?」
「この後なんだけどさ、別行動にしない?」
「別行動?」
加山は、いつもの軽い調子で続けた。
「実は俺、この後、バイトのシフトを入れたんだよね」
「え、そうなの?」
「うん。店長に急に頼まれちゃってさ」加山は悪びれた様子もなく言った。
「だから、駅に着いたら俺と鈴木さんはバイトに行く。山崎と早田さんは、二人で好きに過ごしてくれればいいよ」
「いや、そんな急に言われても……」
「まあまあ。せっかく来たんだし、もう少し楽しんでいけば?」
加山はそう言って、飲み物を一口飲んだ。
僕は返事に困った。確かに、水族館は楽しかった。でも、この後、早田さんと二人で何をすればいいのだろう。そんなことを考えていると、女子二人が戻ってきた。
「お待たせー」
鈴木さんはいつもと変わらない笑顔だったが、早田さんは少し様子がおかしかった。落ち着かないように周囲を見たり、僕と目が合うと慌てて視線をそらしたりしている。
どうしたんだろう。僕が不思議に思っていると、加山が話し始めた。
「ごめん、実はこの後、俺たちバイトなんだよね」
「えっ、バイトなの?」早田さんが驚いたように言う。
「うん。店長に急に頼まれちゃってさ」
加山がそう答えると、鈴木さんも頷いた。
「そうなの。私もこの後、バイトなんだ」
急にシフトが入ったというのは、本当なのだろうか。
少し疑問には思ったけれど、二人ともそう言っているのだから、これ以上聞くのも変だろう。
水族館を出て、駅へ向かう。改札の前まで来ると、加山が手を上げた。
「じゃあ、俺たちはこっちだから。また大学でな」
「うん、またね」鈴木さんも笑顔で手を振った。
「二人とも、気をつけてね」早田さんがそう言うと、加山は軽く頷いた。
「そっちも楽しんで」
そして二人は、改札を通って行ってしまった。残されたのは、僕と早田さんの二人だけだった。
★☆★☆★☆
どうしてこうなったのだろう。
僕は改札の前で、早田さんと向かい合っていた。
「えっと……」
「ええと……」
二人同時に口を開き、同時に黙ってしまう。気まずい沈黙が流れた。
別に、早田さんと二人きりになるのが嫌なわけではない。むしろ、もう少し一緒にいたいと思っている。だけど、どうすればいいのか分からなかった。
「……どうしようか」
僕がそう言うと、早田さんは少し考えるような顔をした。
「ちょっと待ってください」
そう言って、スマホを取り出す。
何か調べているようだった。しばらく画面を見つめていた早田さんが、顔を上げた。
「あの、山崎君」
「うん?」
「もしよかったら、映画を観に行かない?」
「映画?」
「はい。近くの映画館で、ちょうどいい時間で始まる見たかった映画があるんです」
早田さんは、少し緊張したような表情で続けた。
「探偵ものの洋画なんですけど……。よかったら、一緒にどうでしょう?」
僕は一瞬、言葉に詰まった。早田さんから、二人で出かけようと誘われた。それが、思いがけないほど嬉しかった。
「うん。行こう」
「本当ですか?」
「もちろん。面白そうだね」
「よかったです」早田さんは、ほっとしたように笑った。
その笑顔を見て、僕も自然に笑っていた。
★☆★☆★☆
映画館は、電車で少し移動した先にあるアオンシネマ。チケットを買い、上映開始まで少し待ってから、僕たちは館内に入った。
映画は、殺人事件を追う探偵と、その助手である女性が活躍する物語だった。
序盤から謎が次々に提示され、二人は手がかりを追っていく。アクションシーンも迫力があったし、謎解きの仕掛けもよくできていた。
僕はすっかり物語に引き込まれていた。
途中、敵に捕まってしまった女性助手を探偵が助け出す場面があった。
そして、二人は抱き合い、そのままキスをした。
……。
僕は思わず、目を伏せてしまった。
いや、別にキスシーンくらい、映画では珍しくもない。それなのに、どうしてこんなに落ち着かないのだろう。ちらりと隣を見ると、早田さんも少しうつむいていた。
目が合いそうになり、僕は慌ててスクリーンに視線を戻した。
その後も映画は続いたけれど、さっきの場面が妙に頭に残っていた。
映画が終わり、明るくなった館内で、早田さんがこちらを向いた。
「面白かったですね」
「うん。謎解きのところが、よくできていたと思う」
「私もそう思います。最初に出てきたあの小さな手がかりが、最後につながるとは思わなかった」
「あれは僕も気づかなかったな」
二人で映画の感想を話しているうちに、少しずついつもの調子が戻ってきた。
早田さんがスマホで時間を確認する。
「あの、もしよかったら、この後、何か食べていかない?」
「うん、いいね」
映画館の別の階にはショッピングセンターがあり、フードコートもあった。僕たちはそこへ移動し、それぞれ食べたいものを注文した。食事をしながら、話題は自然と映画のことになった。
「私は、助手の女性がさらわれた時に探偵があの推理をするところがよかったわ」
「うん。あの場面は、前半の会話が伏線になっていたんだよね」
「そうなんです。あれがなかったら、きっと分からなかったと思います」
「でも、最後はきれいにまとまったよね」
「はい。少しお約束のハッピーエンドだったかもしれませんけど、やっぱりハッピーエンドがいいですね」
早田さんが微笑む。
「せっかく最後まで観たのに、悲しい結末だと、ちょっと寂しいから」
「分かるなあ」
映画の謎解きや、登場人物の行動について、僕たちはあれこれと話した。
気づけば、食事も終わりに近づいていた。
映画の途中にあったキスシーンについては、二人とも一度も触れなかった。
僕だけが気にしていたのだろうか。いや、早田さんも目を伏せていたように見えたけれど……。
そんなことを考えながら、僕は残っていた飲み物を口にした。早田さんと二人で過ごした時間は、思っていた以上に楽しかった。
映画を観て、その感想を話して、一緒に食事をする。特別なことをしたわけではない。それなのに、もっとこうしていたいと思った。
僕たちは食事を終えると、駅へ向かった。
「今日は、ありがとうございました」
早田さんが言った。
「いや、こちらこそ。映画、楽しかったよ」
「よかった。また、こういう機会があるといいね」
「うん……そうだね」
僕はそう答えた。
本当は、また一緒に出かけたいと思っていた。でも、次に何をすればいいのか、どう誘えばいいのか。
その場では、何も思いつかなかった。
僕が電車を降りたとき、早田さんはまた笑顔で手を振ってくれた。その姿を見送りながら、僕は少しだけ後悔していた。
せっかく二人きりになれたのに、次の約束をすることもできなかった。早田さんが誘ってくれたから、今日の時間が生まれた。でも、僕だって、もっと一緒にいたかったのに。
どうして僕は、自分から何も言えないのだろう。
★☆★☆★☆
家に帰って自分の部屋に入ると、スマホが震えた。紗弓ちゃんからメッセージが届いていた。
『サオリン、今日はどうだった?』
私はバッグを置いて、ベッドに腰掛けた。
今日は、楽しかった。水族館も楽しかったし、山崎君と二人で映画を観たことも、その後に食事をしたことも。そう返信しようとしたところで、もう一通メッセージが届いた。
『でね、でね、私たち付き合うことになったよ!』
『えっ!おめでとうございます!』
すぐに返信すると、紗弓ちゃんからも喜びいっぱいのメッセージが返ってきた。
『ありがとう!加山君から告白してくれたんだよ!』
画面を見つめながら、私は嬉しくなった。
紗弓ちゃんと加山君が付き合うことになった。
二人が仲良くしているのは知っていたけれど、こうして本当に恋人同士になったと聞くと、なんだか不思議な感じがする。
そして、少し羨ましくもあった。
『サオリンも、山崎君が気になってるなら、早く行動した方がいいよ!』
続けて届いたメッセージに、私は指を止めた。
気になっている。そうなのだろうか。
少なくとも、山崎君と一緒にいると楽しいし、もっと話したいと思う。今日だって、二人で映画を観て、食事をして、とても楽しかった。
だからこそ、私は返信した。
『実は、あの後、山崎君と二人で映画を観に行ったの』
『ええっ!サオリンから誘ったの?』
『うん。見たいのがちょうど近くで上映していたし』
『どうだった?何かあった?』
何かあった?私は少し考えてから、答えた。
『映画の謎解きが面白かったし、その後も映画の話をたくさんできて楽しかったよ』
すると、すぐに返事が来た。
『いや、映画の内容じゃなくて!山崎君から何かアクションはあった?』
アクション?私は首を傾げた。
アクションといえば、PDCAのA、つまりActionのことだろうか。
でも、今回の行動を起こしたのは私だ。
映画に誘ったのも私だし、食事に誘ったのも私。
『特に、何も』
そう返信すると、紗弓ちゃんから少し間を置いて返事が届いた。
『そっか。まあ、まだ一回目だもんね。焦らずいこう!』
私は、その言葉に小さく頷いた。
そうだ。まだ一回目だ。今回のことだけで、何かが分かるわけではない。
私はスマホを置き、今日のことを振り返ることにした。
さて、PDCAのCheckを始めましょう。
まず、今回のDo、つまり実行について。
加山君と紗弓ちゃんのおかげで、山崎君と二人きりで過ごす機会ができた。そして私は、映画に誘うことができた。
映画の後には食事にも誘い、二人でいろいろな話をすることができた。
これは、計画どおりと言っていいのではないだろうか。少なくとも、山崎君と二人で過ごすという目的は達成できた。
映画は楽しかったし、隣に山崎君がいることをずっと意識していたし、食事をしながら話した時間も楽しかった。また、こういう機会があればいいと思う。
ここまでは、間違いない。
問題は、その先だ。
私は、山崎君ともっと近い関係になりたいのだろうか。そもそも、もっと近い関係とは、どういうことなのだろう。
友達として、今よりも仲良くなりたいということなのか。それとも、それとは違う何かを求めているのか。
山崎君は、私と一緒にいて楽しかったのだろうか。映画に誘ったのも、食事に誘ったのも私からだった。
山崎君は、嫌ではなかったから付き合ってくれただけなのかもしれない。もちろん、誘いを断られたわけではないし、会話も弾んだと思う。
でも、それだけで、山崎君が私と同じ気持ちだと考えることはできない。
私は、しばらく考え込んでしまった。
材料はある。今日の出来事も、山崎君の反応も、思い出すことはできる。
それなのに、結論が出ない。
自分が何を求めているのかさえ、はっきり分からないのだから、当然なのかもしれない。
PDCAを回して、次のActionにつなげる。そのためには、Checkで何らかの結論を出さなければならない。けれど、今の私には、それができなかった。
「……難しいですね」思わず、独り言がこぼれた。
山崎君と一緒にいたい。また、二人で出かけたい。それは確かな気持ちなのに。
私はスマホを手に取り、今日撮った水族館の写真を眺めた。
大きな水槽を泳ぐジンベイザメ。色鮮やかな熱帯魚。イルカショーの写真。どれも楽しかった思い出だ。
でも、今日一番嬉しかったのは、山崎君と二人で映画を観て、食事をしながら話せたことだった。
それだけは、間違いない。
私はもう一度、今日のことを振り返ってみる。けれど、何度考えても、答えは見つからなかった。
恋愛感情というものは、もっと分かりやすいものだと思っていた。
誰かを好きになったら、その人と一緒にいたいと思う。その人に会いたくなる。そういう気持ちがあれば、自然に分かるものなのだと言った人がいる。
でも、実際には、一緒にいたいと思う気持ちが何を意味するのかさえ、私には分からない。
私はスマホを伏せて、ベッドに横になった。
PDCAの実行はできた。けれど、Checkはまだ終わらない。そして、次のActionも決められない。
……困りました。
★☆★☆★☆
早田さんと別れてから、僕はずっと考えていた。
加山と鈴木さんが、バイトに行くと言って別行動になったこと。あれは、本当に急に入ったシフトだったのだろうか。
確かに、アルバイトをしていれば、急に頼まれることもあるのかもしれない。でも、二人とも同じタイミングで、というのは少し不自然な気もする。そんなことを考えていると、スマホが震えた。
加山からメッセージが届いていた。
『今日はありがとな!おかげで鈴木さんに告白できた!』
……なるほど。
僕は思わず、画面を見つめた。そういうことだったのか。
加山は、今日鈴木さんに告白するつもりだったのだ。
だから、あらかじめ二人で過ごせるように段取りをつけていたのだろう。
僕たちを残したのも、別に僕と早田さんを二人にしようとしたわけではない。自分が鈴木さんと二人になるためだったのだ。
そう考えると、納得できた。加山らしいといえば、加山らしい。僕は「おめでとう」と返信して、スマホを置いた。
加山は、行動したんだな。鈴木さんを誘い、二人で過ごす時間を作り、告白した。そして、うまくいった。
僕には、そんなことができるだろうか。
映画の後に僕から食事誘うとか、もう少しどこかに行かないかと誘うこともできたはずだ。
せめて別れる前に、次に一緒に出かける約束くらい、できたかもしれない。
なのに、僕は……。
早田さんが誘ってくれたから、今日の時間が生まれた。もし、彼女が何も言わなかったら、僕たちはそのまま帰っていたのだろう。そう考えると、自分が情けなくなった。
やっぱり、僕には恋愛は難しいのかもしれない。
誰かと仲良くなりたいと思っても、どうすればいいのか分からない。相手が何を考えているのかも分からない。自分から誘えば、迷惑に思われるかもしれない。
変に意識していると思われたら、今までの関係さえ壊れてしまうかもしれない。
そんなことばかり考えて、結局、何もできなくなる。
でも……。
僕は、スマホを手に取った。
早田さんと、また一緒に出かけたい。今日みたいに、二人で映画を観たり、食事をしたり。
そんな時間が、またあればいいと思う。
だったら、次は僕から誘わないといけない。
早田さんが誘ってくれるのを、いつまでも待っているわけにはいかない。このままでは、進展するどころか、いつか疎遠になってしまうかもしれない。
そう思うと、少し焦る気持ちが出てきた。
でも、何に誘えばいいのだろう。
そもそも、早田さんはどんなところに行きたいのだろう。どんなことをすれば彼女は喜んでくれるだろう。
僕はしばらく考えたが、何も浮かばなかった。
「……どうすればいいんだろう」
誰に聞けばいいのかも分からない。
加山に相談するのは、何だか悔しい気がした。今日のことを考えると、僕と加山では、ずいぶん違う。
でも、何かヒントくらいは欲しい。僕はスマホを開き、検索画面を表示した。
「デートに誘う方法」
「大学生デートスポット」
「初デートおすすめ」
いくつか検索語を入力して、手を止めた。
こういうことを調べるのは、少し恥ずかしい。でも、何も分からないままでは、次も同じことを繰り返すだけだ。
僕は意を決して、Jiminiを立ち上げた。
早田さんを誘うなら、どんな場所がいいのだろう。できれば、二人で自然に話せるところがいい。
彼女が楽しめて、僕も一緒に楽しめるような場所。そんな場所が見つかれば、次こそは、自分から誘えるかもしれない。
次々と質問を入力して出てくる回答を読みながら、僕は考え続けた。
早田さんと、もう一度二人で出かけたい。その気持ちだけは、はっきりしていた。
ただ、その気持ちをどう行動に変えればいいのか。
Jiminiの回答がどんどん増えてくる。その中に僕の答えは見つかるだろうか。