ジョニィ・ジョースター、テラを往く 作:マイルドハイブリッド
第10話です。毎朝ブラシを掛けてきた二人が、とうとう馬に乗ります。ただし、片方はハルバードを手放せません。
『武器を手放した者は、一律解雇に処す』
BSW規定、第二十二条。バニラはこの一文を、朝の挨拶より先に暗唱できる。眠る時も柄を抱いたまま横になり、食堂の列にまで担いで並ぶ理由を、ジョニィが知ったのはこの朝のことだった。
テラに来て二十一日目。ロドスの艦は岩山の陰で脚を休め、上甲板の天蓋を左右へ畳んで、空をまるごと迎え入れていた。乾いた風が砂の匂いを運び、鉄板の床を白く光らせている。
貨物用の昇降機からスロー・ダンサーを引き出し、ジョニィは甲板の真ん中で手綱を止めた。その後ろに、ブラシを手にした二人が続く。長身のバニラと、その陰に半分隠れた小柄なジェシカ。
白い湖から戻った晩の約束どおり、二人は一日も欠かさず馬房へ通い、首から尻まで毛並みを整えてきた。
馬の隣では、ACT4が両腕を大きく広げて朝の風を浴びていた。久方ぶりの青空が、よほど嬉しいらしい。『ニョホ~』と間延びした声が、ジョニィの耳にだけ届く。
首筋に手を当てて指を滑らせると、艶の乗った毛が朝日を照り返す。白地に散った灰色の斑まで、洗い立てのように冴えていた。
「二人そろって九日間、一度も休まなかったな。レースの最中だって、ここまで手入れが行き届いたことはなかった」
「本当ですか!」
ぱたんと床を叩いたバニラの尾に呼応するように、スロー・ダンサーが首を巡らせ、ジェシカの肩口へ鼻先を押しつける。
「わっ……お、おはようございます」
馬に挨拶する先輩の横で、バニラがくすりと笑った。馬は二人の顔を交互に嗅ぎ、満足げに鼻息を吐く。
悪くない。背中を許してもいい、という顔つきだった。
二人がブラシを床に置くのを待ってから、ジョニィは本題を切り出した。
「今日、乗ってみるか」
一拍の沈黙の後、バニラの尾がもう一度、今度は勢いよく床を叩いた。
「本当ですか、ジョニィさん!」
「ひぇっ……き、今日、ですか?」
歓声と悲鳴の二重奏が、甲板じゅうに響き渡った。
跳ねるように駆け寄ったバニラが、長い脚で三歩のうちに間合いを詰める。その肩で、ハルバードの穂先が朝日をぎらりと弾いた。
途端にスロー・ダンサーの耳がぺたりと後ろへ伏せ、鼻孔を膨らませた馬体が、蹄を鳴らして二歩、三歩と後退する。
「あれ? どうしたんですか?」
首を軽く叩いて興奮を宥めながら、ジョニィは穂先を顎で示した。
「刃だ。頭の上で長い刃物が光ると、馬は怖がる。薄暗い馬房じゃ光らなかったが、ここは日が当たる。……そいつを置け」
バニラの顔面から、見る間に血色が失せた。
「お、置く……ですか」
「床に置くだけだ。手放すってほどのことじゃあない」
「でも、手から離れたら、手放したことになりませんか?」
真顔だった。理屈の上では、たしかにそうなる。規定の条文に言い返せる言葉など、元騎手の手持ちには一つもない。
「バ、バニラちゃん、それ、確か訓練中の人だけの決まりだって……」
おずおずと口を挟んだジェシカに、バニラは沈痛な面持ちで首を振った。
「はい。後から知りました。フランカさん、最初は教えてくれなかったんです。……訓練期間中の者だけ、だそうです。私、訓練生です」
「……あ」
しおしおと、ジェシカの耳が垂れた。援軍、あえなく撃沈である。
三人のあいだを、乾いた風が素通りしていく。ハルバードを抱きしめた長身の娘と、それを見上げる小柄な先輩と、額を押さえる馬の持ち主。騒ぎの当事者であるはずのスロー・ダンサーだけが、何の騒ぎだという顔で尾を振っていた。
「分かった。バニラは後だ。ジェシカ、手を出してみろ。鼻の前に、下からだ」
「わ、わたしですか」
「毎朝ブラシを掛けてたのは、きみも同じだろ」
震える指先を、ジェシカはそろそろと馬の鼻先へ伸ばした。スロー・ダンサーは首を下げてその小さな手のひらを入念に嗅ぎ、それから鼻面をぐいと押しつけた。
鼻息を浴びて、ジェシカの肩がぴくりと跳ねる。
「覚えてるんだ。毎朝、首を撫でてきた手を」
自分の手のひらと馬の顔を、ジェシカは何度も見比べた。伏せていた猫の耳がゆっくりと立ち上がり、まだ震える声とは裏腹に、小さな足が一歩前へ出た。
「テ、テストは、わたしの仕事ですから。……わたしが、先に乗ります」
「テスト?」
「あ、新しい装備は、いつもわたしが最初に試すんです。みんな、わたしが使うのを見てから使うので……」
鞍の革をぽんと叩いて、ジョニィは即答した。
「なら、こいつも新しい装備だな。最初のテストを頼む」
横で聞いていたバニラがぱっと顔を輝かせた。
「さすがです、ジェシカ先輩!」
ハルバードを抱えたまま拍手しかけたバニラの手元で穂先が揺れ、馬がまた耳を伏せた。
「バニラ」
「すみません!」
最初の難関は鐙だった。
ジョニィの脚に合わせた鐙は、ジェシカの胸の高さで揺れている。爪先を掛けるどころか、手で掴むのがやっとの位置だ。鞍の脇の革を外し、穴を三つ詰めて留め直してから、ジョニィは手順を一つずつ口にした。
「馬の左に立て。左足を鐙に掛けて、鞍の前を掴む。右脚を後ろから回して、そっと座る。尻から落ちるなよ。背中が驚く」
「ひ、左足、鞍の前、右脚……」
口の中で手順を復唱しながら、ジェシカは鐙に足を掛け、鞍の前を握り、体を引き上げようとして、宙で止まった。右脚がどうしても上がらない。
「ジェシカ先輩、失礼します」
穂先を背中側へ下げてハルバードを片手に提げたまま、バニラが空いた手で先輩のブーツの底を支え、ひょいと持ち上げた。竜の
拍子抜けするほどあっさりと、小柄な体が鞍の上に収まる。
「わ、わ、わぁっ……!」
目をぎゅっとつぶり、ジェシカは両手でたてがみに全身全霊でしがみついた。
「たてがみは離していい。背中を伸ばせ。下を見るな。馬の首じゃなくて、行く先を見るんだ」
「は、はいっ。……あ、あの、ジョニィさん。新しい銃のテストより、ずっと怖いです」
引き綱を握り直しながら、ジョニィは真顔で返した。
「銃は、きみを乗せて歩いたりしないからな」
「そ、そういう意味じゃなくて……!」
抗議しかけて、ジェシカはまた慌ててたてがみを掴み直した。背中を伸ばせと言われたのを思い出したのか、恐る恐る背筋を立てる。鞍の後ろで、猫の尾が旗竿のように直立していた。
ジョニィは馬と並んで歩き出した。鉄板を叩く蹄の、ゆったりとした並足の拍子。一定の揺れに合わせて、鞍上の強張りが少しずつほどけていく。
甲板の半ばまで来たところで、引き綱の反対側を随行していた桃色の装甲が、ぴたりと足を止めた。
鞍上のジェシカを眺めるなり、ACT4は首を左右に振った。
『チュミィ……チュミィ……』
いかにも不満げな声だった。
理由には即座に思い当たった。
勝利の女神は常に自分と一緒に馬に乗っているから、ほかの女を乗せると女神の機嫌を損ねる。旅の途中で出会った女の子を、ジャイロはその一点張りで、頑として自分の馬に乗せなかった。家訓でも唱えるような顔で。
故人の迷信を、この像はいったいどこで覚えてきたのか。
「……こいつはジャイロの馬じゃない。ぼくの馬だ」
小声のつもりだったが、鞍の上で猫の耳がぴくりと反応した。
「え……も、もしかして、あのピンクの子ですか?」
「いる。きみが乗ってるのが気に入らないらしい」
「え、えっ……わ、わたし、降りた方が……」
鞍の上で腰を浮かしかけたジェシカを、ジョニィは引き綱を引いて制した。
「降りるな。昔の相棒の迷信だ。こいつの鞍には、勝利の女神が先に座ってるんだと」
「め、女神さま、ですか……」
鞍の前を握りしめたまま、ジェシカは鞍の後ろの何もない所へ向かって、ぺこりと頭を下げた。
「す、すみません……少しだけ、お邪魔します……」
ACT4は返事の代わりに、鞍の後ろへ回りこんで陣取った。女神の席の番をするつもりらしい。
『……チュミ』
詫びは聞いてやる、という顔だった。
「と、止まる時は、どうすれば……」
「手綱を軽く引くだけでいい」
真剣な表情で頷いて、ジェシカはすうっと息を吸いこんだ。
「と……止まれっ!」
思いがけず張りのある号令だった。スロー・ダンサーがぴたりと止まる。手綱にはほとんど力が入っていなかった。
「……あ」
たてがみに額がつくほど身を縮め、ジェシカは馬の首へ謝りはじめた。
「ご、ごめんなさい! 話す時は力強く、ってフランカ先輩に言われてて、それで、つい……! びっくりしましたよね、本当にすみません……!」
謝罪の対象が、女神から馬へ移動しただけだった。
片耳だけを後ろへ向けて、スロー・ダンサーは気にした風もなくまた歩き出した。
「今の声なら、どんな暴れ馬でも止まる」
「ほ、褒めてます……?」
「褒めてる」
甲板を半周した頃、ジェシカがそっと目を開けた。
甲板の縁の向こうに、荒野がどこまでも広がっていた。赤茶けた岩山、乾いた谷、陽炎にかすむ地平。馬の背の高さから眺めるテラは、地面に立って見るより少しだけ広い。
「……高いです」
ぽつりとこぼしてから、ジェシカは言葉を継いだ。
「でも、遠くまで見えます」
小さな口元に、初めて笑みが浮かんでいた。何も言わずに、ジョニィは引き綱を少しだけ緩めた。
一周して戻ると、待ちきれない様子のバニラが、穂先を下げたまま全速力で駆け寄ってきた。
「すごいです、ジェシカ先輩! ちゃんと乗れてました!」
ジョニィの手を借りて滑り降りたジェシカは、膝をかくかくさせながら、照れくさそうにはにかんだ。
「バ、バニラちゃんの方が、きっとずっと上手に……。でも、うん。楽しかった」
次はバニラの番だった。
ハルバードを担いだまま一歩近づくと、日を弾いた穂先に、スロー・ダンサーはやはり耳を伏せて首を引く。立ち止まったバニラの、柄を握る手が小刻みに震えだした。
「……すみません。やっぱり、離せません」
か細い声だった。
「BSWは、私が初めて自分で選んだ場所なんです。故郷の砂漠を出て、右も左も分からなかった私を、拾ってくれた場所で。ここを追い出されたら、私……」
言葉を切って、バニラは穂先を見上げた。
「たかが規則だ、とは言わない。ぼくは、きみの規則のことを知らないからな」
少し考えてから、ジョニィは言い足した。
「無理に乗らなくていい。今日じゃなくても、こいつは待てる」
その時、ジェシカが一歩前へ出た。
足元に小さなブラシを置き、空いた両手を、まっすぐバニラへ差し出して。
「バニラちゃん」
一度も、つかえなかった。
「わたしが持ってる。わたし、BSWの正式なオペレーターだよ。BSWの人が預かってるなら、バニラちゃんは手放したことにはならない」
目を瞬かせるバニラを、ジェシカは手を引っこめずに、真下からまっすぐ見上げた。
「これは、手放すんじゃないよ。先輩に、預けるの」
甲板の上を、風が一つ渡っていった。
みるみる潤んだ目で唇を噛み、何度か瞬きをしてから、バニラは両手でハルバードを先輩の手に乗せた。
その重さに、ジェシカの膝ががくんと沈んだ。よろめきながらも石突きを床に突いて踏みとどまり、耳の先まで熱くして、小柄な先輩は穂先を下へ向けたままハルバードを胸に抱きしめた。
「せ、責任をもって、お預かりします……!」
「……はい。お願いします、ジェシカ先輩」
刃物が遠のくと、スロー・ダンサーの耳がすっと前を向いた。
「条文の読み合いは、ぼくの完敗だな」
ジョニィが白旗を掲げると、ジェシカは返事もできずに、耳を伏せて縮こまった。
詰めた穴を元に戻しても、鐙はバニラの長い脚にはまだ寸足らずだった。それでも鐙に足を掛けたバニラは、ほとんど重さを感じさせずに鞍へ収まった。背筋がすっと伸び、踵が自然に下がり、手綱を持つ拳は柔らかく浮いている。
誰に教わったのでもない、体に染みついた形だった。
甲板の隅で、桃色の装甲がまた首を振った。『チュミィ……』と、二人目への抗議である。
「乗り慣れてるな」
「故郷では、駄獣の背中が学校でした。歩くより先に、乗り方を覚えたんです。砂の上を何日も渡るのに、自分の足だけじゃ、とても足りませんから」
たてがみに、バニラは愛おしそうに手を置いた。
「この子は、駄獣よりずっと背中が柔らかいです。……揺れ方が、優しい」
「脚運びが柔らかいんだ。六千キロ乗って、背中の揺れで腰を痛めたことは一度もない。……それと、馬だ」
「はい。お馬さん、です」
訂正は受理されたらしい。半分だけ。
引き綱を外し、ジョニィは一歩下がった。
「好きに歩かせてみろ。速く行きたければ、踵で軽く押せ」
バニラが踵を寄せると、スロー・ダンサーは並足から速足へ移った。蹄の拍子が軽くなり、長身の体がその上下に吸いつくように弾む。甲板の端で方向を転じ、白い朝の光の中を、ゆったりと一周していく。
ハルバードを胸に、ジェシカはその背中を目で追っていた。羨望と誇らしさの入り混じった、くすぐったそうな顔だった。
「すごいなあ、バニラちゃん……」
独り言のような呟きが耳に届いた。実習の頃から一緒だった後輩が、自分より上手に、自分より高い所にいる。それを見上げる横顔に、妬む色はどこにもなかった。
「先に乗ったのは、きみだ」
隣に並びながら、ジョニィはそれだけ言った。
目を丸くしたジェシカが、ハルバードを抱く両腕にきゅっと力をこめる。
「……はい」
戻ってきたバニラが、鞍の上から先輩を見下ろす形になったのに気づいて、慌てて頭を低くする。
「ジェシカ先輩。私、ずっと言いたかったことがあるんです」
「え……な、なに?」
「実習の頃、私、自動ドアの前でいつも固まっていたじゃないですか。周りの人は笑ったけど、ジェシカ先輩だけは笑わずに隣に立って、一緒に通ってくれました。毎回です。……先輩がいたから、私、実習を続けられたんです」
ぱくぱくと動くジェシカの口から、言葉は出てこない。ハルバードの柄に顔を半分隠したまま、耳だけが赤く立っている。
「そ、そんなの……先輩なんだから、当たり前で……」
蚊の鳴くような声量だった。
それから、バニラの視線がジョニィの方へ向いた。
「ジョニィさんにも、そういう人がいたんですか」
返事が少し遅れた。
艦の奥の一室で、木の棺が眠っている。
「……いた。ぼくは昔、自分の脚じゃ鞍にも上がれなかった。上がった後、前へ進めたのは、隣を走る奴がいたからだ」
続きは口にしなかった。バニラも、ジェシカも、訊かなかった。
「あらあら~。いい先輩してるじゃない、ジェシカ」
昇降口の手すりに寄りかかり、湯気の立つカップを片手に、フランカがにやにやと笑っていた。狐の大きな尾も上機嫌に揺れている。
「フ、フランカ先輩!? い、いつから……!」
跳び上がった拍子に、ジェシカの腕の中でハルバードがぐらりと傾いた。日を弾いた穂先にスロー・ダンサーが耳を伏せ、鞍上のバニラが慌てて首を撫でる。
「あああっ! だ、第二十二条が!」
ジェシカが全身でしがみついて柄を立て直し、危機一髪の二人は、そろって肩で息をした。
「預けるのはセーフよ、バニラ。……あたしが規定を書いたわけじゃないけどね」
「ええ? フランカさん、そこははっきり言ってください!」
抗議を笑って受け流すと、フランカの目がジョニィへ移った。
「あなたも、いい先生してるじゃない」
「教えたのは鐙の穴の位置だけだ。あとは馬がやった」
「謙遜しちゃって。『止まれっ!』で上がってきたのよ。階段の下まで響いてたもの」
ハルバードを抱えたまま、ジェシカが甲板に崩れ落ちた。羞恥の致命傷である。フランカはふふ、と笑ってカップを傾け、ひらりと片手を振って昇降口の階段へ消えていった。
下馬したバニラの前で、ジェシカは両手でハルバードを差し出した。
「お、お返しします」
「確かに、受け取りました」
大真面目な引き渡しの儀が済むと、二人はブラシを拾い、片づけに馬房へ下りていった。甲板に残ったのは、ジョニィと馬だけだった。
――いや、もう一体。
甲板の隅で、ACT4がこちらへ背中を向けていた。腰の楕円の板が、拗ねたように揺れている。
「女神より、あいつらの方がブラシを掛けてくれる」
ジョニィが言っても、像はしばらく無言を貫いていた。
『……チュミィ』
それから、のそのそと馬に近づくと、空席の鞍にひょいと腰を下ろした。両手で見えない手綱を握り、前をきっと見据える。
勝利の女神の指定席はここだ、と主張したいらしい。
背中の客に、スロー・ダンサーはまるで気づいていない。一振りした尾の毛が像の板を払っても、気にも留めなかった。
「……おまえは乗るな」
『チュミッ!?』
抗議の声を上げはしたものの、像はしぶしぶ鞍から降り、名残惜しそうに鞍の革を一撫でした。
そこへ、昇降口から小走りの足音が戻ってきた。
「す、すみません、ブラシを忘れて……」
床に置き忘れた小さなブラシを拾い上げてから、ジェシカは鞍のそばに立つジョニィを見て、恐る恐る宙を指さした。
「あ、あの……女神さま、まだいらっしゃいますか」
「いる。今、鞍から降ろした」
「そ、そうなんですね」
ブラシを胸に抱え、ジェシカは誰もいない鞍の上へ向かって、もう一度ぺこりと頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました。……あの、女神さまにも、ブラシって掛けた方がいいんでしょうか」
「要らない。こいつには毛が生えてない」
言い終えるより早く、桃色の頭が横から割りこんできた。降ろされたばかりの像が、ジェシカのブラシの前へ、黙って頭のてっぺんを差し出している。
『チュミ』
「……生えてないって言ってるだろ」
第10話をお読みいただき、ありがとうございました。
第4話の「乗りたいなら、まず毎日ブラシを掛けろ」の続きでした。
・「武器を手放した者は解雇」というBSWの規定は、アークナイツの原作でバニラが信じているものです。本当は訓練期間中の者だけの決まりで、バニラはまさにその訓練生です。フランカが最初に教えなかったのも原作どおりです。
・ジャイロには、「勝利の女神が一緒に乗っているから、ほかの女性は馬に乗せない」という言い草があります。その迷信を、なぜかACT4が覚えています。
・ACT4の姿は、ふだんジェシカにもバニラにも見えません。ジェシカが「あのピンクの子」と呼ぶのは、白い湖で一度だけ見たからです。
女神さまへのブラシは、今のところ見送りです。